成人のRSウイルスワクチンに関する見解

1.RSウイルス感染症と高齢者への影響

RSウイルス(RSV)感染症は乳幼児の感染症として知られますが、高齢者や慢性呼吸器疾患・慢性心疾患などの基礎疾患を有する成人でも重症化しやすいのです。近年の国内外の研究では、高齢者・基礎疾患を有する成人のRSV感染症の重症化リスクはインフルエンザと同程度であることが示されています。

日本では成人に対するRSV検査が十分に行われてこなかったため疫学データは限られていますが、60歳以上で年間約69.8万人が感染し、約6.3万人が入院すると推定されています。また高齢者施設や病院で集団感染が発生し、死亡例も報告されています。さらに慢性閉塞性肺疾患(COPD)・喘息・慢性心不全などを有する患者では、RSV感染による入院リスクが健常者より数倍高いことが報告されています。

 

2.日本で承認されている RSVワクチン

日本では現在接種可能なRSVワクチンとして、アレックスビー®とアブリスボ®の2種類があり、2025年にはmRNAワクチンで海外では既に発売されているエムレスビア®も承認され、今後使用可能になる予定です。

(1)アレックスビー筋注用®(グラクソ・スミスクライン株式会社)

・接種対象:60歳以上または50歳以上のハイリスク者

・有効率 初年度:約82.6%、3シーズン通算:約69.1%

60歳以上の併存疾患を1つ以上有する集団でのRSVウイルスによる下気道疾患に対する有効性は初年度94.6%、1回接種後の3シーズンでは季節を共変量に含めない事後解析結果で71.1%と良好な有効性を示しました。

・主な副反応

接種部位の疼痛 60.9%、倦怠感 33.6%、38℃以上の発熱 2.0%、ギラン・バレー症候群(GBS)0.00018%

(2)アブリスボ筋注用®(ファイザー株式会社)

・接種対象:60歳以上の成人、妊婦接種による母子免疫にも適応

・有効率 初年度:約85.7%、2シーズン通算:3つ以上の症状を有する下気道疾患で約81.5%、2つ以上の症状を有する下気道疾患で約58.5%、RSV関連入院の予防効果:約83.3%

・主な副反応

接種部位の疼痛 11%、倦怠感 16%、 38℃以上の発熱 1%、GBSの報告あり、ワクチン関連と評価された死亡例はなし

(3)エムレスビア筋注シリンジ®(モデルナ・ジャパン株式会社)

・対象:60歳以上

・有効率(3つ以上の症状/ 症候を有する下気道疾患) 初年度:約82.4%、18か月後:約49.9%

・臨床試験での主な副反応

接種部位の疼痛 56.3%、倦怠感 31.0%、38℃以上の発熱 2.8%、臨床試験ではワクチン関連死亡例や重篤な有害事象はなし

 

3.慢性心肺疾患患者ではRSV感染症の重症化リスク

慢性心肺疾患を有する患者はRSV感染症による重症化・入院リスクが高いことが報告されています。米国の研究では65歳以上のRSV入院率は1.37~2.56/1,000人でしたが、COPD患者では3.5~13.4倍、喘息患者では2.3~2.5倍、うっ血性心不全患者では5.9~7.6倍入院リスクが高かったです。また欧州の研究でも、COPD・喘息・虚血性心疾患患者ではRSV関連入院率が一般集団より1.5~5.9倍高いことが示されています。

 

4.RSV感染症とインフルエンザの比較

海外・国内の複数の研究において、RSV感染症はインフルエンザと同等またはそれ以上の重症度を示すことが報告されています。海外ではRSV感染症とインフルエンザの入院患者を比較した結果、入院期間や院内死亡率はほぼ同等で、一部ではRSV感染者の方が入院期間が長く、30日以内死亡率は同程度でした。国内でも、RSV感染症の発生割合や入院期間・院内死亡率はインフルエンザと同程度で、人口呼吸器を要する割合はRSVの方が高いという報告もあります。ただし、多くの研究ではインフルエンザワクチン接種者が含まれているため、インフルエンザの疾病負荷が実際より低く評価されている可能性があることに注意が必要です。

 

5.高齢者施設でのRSVの集団感染

高齢者施設ではRSVの集団感染が複数報告されています。高知県の老人保健施設では、入所者110人中49人が発熱、31人がRSV陽性で基礎疾患をもつ高齢者4人が死亡しました。富山県の介護老人保健施設でも、入所者・職員計49人の集団感染が確認されています。このためRSVは高齢者施設における重要な感染対策上の課題となっています。

 

6.海外の接種推奨状況

欧米を中心とした主要国では、予防接種機関(NITAGs)がRSVワクチンの接種を推奨しており、多くの国で接種費用の公的助成も導入・検討されています。

 

7.結論

RSV感染症は高齢者および慢性心肺疾患などの基礎疾患を有する成人において、インフルエンザと同程度の重症化リスクを持つ重要な感染症です。インフルエンザには抗ウイルス薬が存在しますが、RSVには成人向けの確立した抗ウイルス治療がなく、予防の重要性が高くなっています。現在承認されているRSVワクチンはいずれも高い有効性と良好な忍容性を示しています。日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会は、公衆衛生上の観点から高齢者および重症化リスクを有する成人へのRSVワクチン接種を推奨していて、今後は日本における死亡率や重症化に関する疫学データのさらなる蓄積が望まれます。

成人のRSウイルスワクチンに関する見解

2025年12月に日本感染症学会・日本呼吸器学会・日本ワクチン学会は合同でを作成されたものです。

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