内容
認知行動療法はうつ病や不安症(パニック症、社交不安症、全般不安症、限局性恐怖症)、強迫症、PTSD(心的外傷後ストレス症)、神経性過食症などの心の病に対して、薬物療法と並ぶ、疾患によっては薬物療法以上の有効性をもつ治療です。患者さんと治療者が一対一で面接をおこなう形が一般的です。認知行動療法の「認知」とは「考え」のことです。「考え」のバランスをとり、柔軟にするための知識とスキルが重要で。このスキルを身につけるトレーニングが認知療法で、バランスのとれた「行動」をとるスキルを身につけるトレーニングが行動療法で、考えを変えれば行動も変わり、行動を変えれば考えも変わるため、この2つを区別することはやめて認知行動療法と呼んでいます。
認知行動療法は精神療法の一種で、精神療法は治療者が受容、共感、傾聴で、患者さんの気持ちを受け止めながら治療をすすめますが、認知行動療法はその先にプラスアルファがあります。従来の方法よりもその後の対応が実践的で、問題に応じた具体的な解決策を一緒に探し、それを生活のなかに応用することを重視します。患者さんのありのままの気持ちを受け止め、患者さんの状態を変えて治療するという、2つを同時におこなう治療法で、「受容」「変化」は相反する要素を扱っているため、治療者にとっては難しい治療法です。認知療法と行動療法はそれぞれ独立した治療法として生まれ、認知療法は思考のパターンが極端に悲観的・否定的になっているときなどはその修正をはかり、治療は対話を中心に進められることが多いです。行動療法は行動面に働きかける治療法で、条件を段階的に変えることで行動を変化させます。条件と行動の間には必ず認知が介在します。
行動療法は1950年代に体系化されました。行動理論を基盤にしていますが、行動理論で有名なのはパブロフの犬の実験でしょう。この実験から行動と条件づけについて研究が進み、不安症の治療の手法などに発展しました。
認知療法は1970年代に体系化されました。認知療法は精神疾患が人間の認知のパターンによってどれほど影響されるか研究し、その研究から精神疾患治療の手法として発展しました。
認知行動療法は1980年代に、不安症、強迫症の認知療法と行動療法を統合・体系化し、イギリスではうつ病、不安症の治療法として国家的に実践されるようになりました。マインドフルネスやアクセプタンス&コミットメント・セラピーも認知行動療法のひとつです。
人間の脳には理性を生み出す大脳皮質と、感情を司る大脳辺縁系があり、どちらも正常に機能している状態が人間らしい姿です。認知行動療法には基本となる型があります。認知・感情・行動によって形作られる三角形です。その三要素を広く見渡すと、それらがバランスよく連関しているのか、悪循環を生じて問題を引き起こしているのかわかりますが、その視点が認知行動療法の基盤となります。認知行動療法では認知と感情を明確に区別します。認知が感情と行動にどのような影響を与えているのか、その流れを確認することで、理性(認知)と感情の両方に目が向くことになります。感情と行動はどちらも重視しますが、3つの要素のうち認知行動療法で変えられるのは認知と行動です。認知と行動が変わると感情も変わっていきます。
「認知」は「考え」で誰にでもクセはあります。認知は瞬間的に働くため自分のクセは分かりづらく、知らぬ間に支配され行動にまで至っていることに気づきます。なにげなく思い浮かぶ心の声を「自動思考」といい、根拠なく瞬間的に生み出されます。どうせまた嫌われるんだろう、どうせ頑張ってもダメだ、仕事はいつも完璧に仕上げなくてはならない、などは自動思考で、ものごとがうまくいかない可能性が高くなります。○○しなければ、という断定的な自動思考にとらわれている人は必要以上に不安を感じ、必要以上に消極的に行動します。自動思考が運悪く現実になると、根拠のない自動思考をますます確信してしまうという悪循環に陥ります。自動思考をとらえるためには、紙に書き出したり人と話して言語化することで、考え方を見直すきっかけになります。自動思考を掘り下げていくと自分の考え方のクセにたどりつきます。そのクセには核となる信念があり、その信念を「スキーマ」といいます。スキーマは考え方のクセをつくる設計図のようなもので、中核信念(コア・ビリーフ)などとも呼ばれます。そのスキーマに気づけば認知の全体像が見えてきます。自分の考え方というものは、自分で思っているほど正しく認識できていません。自動思考を自覚することは簡単ではなく、認知行動療法では心の表面の自動思考をとらえるトレーニングをし自動思考がとらえられるようになると心の奥にあるスキーマをとらえることもできるようになってきます。スキーマはいつも正しいわけではなく、むしろスキーマに問題があり症状を引き起こしていることに気づいたなら、スキーマをとらえ直して治療につながるとわかってくるでしょう。
海外では、認知行動療法の効果は薬物療法と比べ、うつ病では同等、不安症では同等以上とされ、効果の持続時間は薬物療法より長いことが認められています。日本でも不安症(社交不安症、パニック症)、強迫症などの精神療法では第一選択として挙げられています。うつ病で自殺願望が強かったり、十分な休養がとれないほど焦燥感が強い場合はまず薬を使います。症状の強さや種類に合わせて認知行動療法と薬物療法を使い分けるのが最善で、併用もします。同時スタートは、どちらの治療が患者さんに合ってるか判断しにくいので、あまりおこないません。また環境的な負担が発病のきっかけとなったと考えられる場合には、できるだけ考えられるの調整もおこないます。
セルフ・ヘルプ認知行動療法は、治療者の助けを借りずに、本やパソコンを活用して患者さん自身で進めます。最も強度が低いです。
アシストつきヘルプ・ヘルプ認知行動療法は、治療者の助けを借りながら、ワークシートなどを活用して進めます。
授業・講義形式の認知行動療法は、治療者が授業・講義形式で患者さんや家族などに伝えます。
集団認知行動療法は、患者さん数人と治療者が集まり、時間をかけて集団での対話を中心としたセッションなどをおこないます。
個人認知行動療法は、患者さんと治療者が2人で時間をかけて対話します。
もっとも本格的で強度が高い形式は個人認知行動療法で、週1回程度のセッションを合計16回程度おおこなうのが一般的です。
考え方の悪いクセは大きく3つに分けることができます。完璧主義の考え、自己否定的な考え、人間不信の考え、です。これらは誰でも少しはこれらの考えを持っていますが、多くの場合、ものごとを悪い方向に考えても、ひと晩寝れば切り替えられ、冷静になってみてそれほどひどないと思い直すことができます。問題は考え方が固くなって悪い方向にしか考えられない場合です。そのまま何も対策しないと悪循環がエスカレートしてうつや不安が強くなることもあります。悪いクセの考え方は考えることが結果に結びつかない非機能的な考え方です。それを機能的な考え方とバランスをとることが必要です。機能的な考え方とは、全か無かと両極端な考え方をしないで、その間でもよしとする中庸の考えと、自己肯定的な考えと、友好的な考えです。
自分で取り組む場合、本を利用して自分でノートなどに記入していくのもいいでしょう。書き込み式の認知行動療法の本も発行されています。書かなければと思うと負担になるので、書ければ書こうくらいの意識でおこないます。頭の中の考えは堂々巡りになるもので、書いて整理しましょう。それらしくなくてもまずは書き出してみてください。とにかく形にするのです。どうしても上手く取り組めないなら、専門知識をもった治療者の協力を得る形式や、ビデオ会議で治療者と会うオンライン治療もあります。うつ病などで医療機関にかかっている人は主治医に確認してから実践してください。
認知行動療法では感情をとらえることが重要で、ポジティブな感情として、なにかができて自分が誇らしいと感じる達成感、楽しいという感情、他人から受けた親切や思いやりへの感謝の感情があり、それらの感情をあらためてじんわりと感じることを習慣化しましょう。そのために毎日5分で、その日にあった小さなよいことを3つノートに書き出してみましょう。できたこと、楽しかったこと、感謝すること、を一つずつ書き出します。朝起きることができた、のような当たり前に起きている小さなことでいいのです。3つが無理なら一つだけでもよく、毎日同じよいことでもOKです。ポジティブな感情をとらえる練習積みましょう。
出来事と感情を結びつけるため、最近1週間で、悲しみ、不安、怒りを感じた出来事を挙げてみて、その時の一番強く感じた感情を書き出します。ここでは感情を考えと混ぜて書かないようにします。感情と考えを分けることが大切なのです。次に感情に点数をつけてみます。100点が最高に憂うつな気分や最高に不安な気持ちで、憂うつでも不安でもない普通の時が0点です。同じ出来事でも感情は日によって変わるので、その日の感情で点数をつけます。不快になった出来事とその時の感情を書くと、不快の感情が悲しみ、不安、怒りなどの感情からできていることがわかります。不快にな感情をもった出来事に対してなにか考えがあったはずなので、感情の欄に加えて考えを書いて確信度をつけます。確信度とはその考えをどのくらい信じているのかで、0-100%までの数値で書きます。普段感情と考えをあまり区別しないので、すぐには上手くいかないかもしれませんが、時間をかけて考えてみてください。怒りの感情は自分のルールを破られたという考えがあることが多いです。考えは模範的でなくてもいいので、自分の素直な考えを書きましょう。感情と考えの違いが認識出来ると、頭の中の整理が進み、自分の不快感がどのような考えから生まれるのか少しずつわかってきます。こうした作業で自動的に浮かぶネガティブな考えを自動思考といい、それをつかまえるのがたいせつなことなのです。考えを見直すため、先ほど書いた考えと正反対の考えを書いてみます。本当にそう思っていなくてもよいのです。肯定文なら否定文にしてみます。最初は書きにくいかもしれませんがまずは書いてみます。次に自分とは別の誰かになったつもりで別の考えを書いてみます。別人の視点を意識して書いてみます。そういった考えを書くうちに、最初に書いた考えが必ずしも妥当ではないとみえてくるでしょう。そうなれば意識はかなり変わってきます。ものごとはさまざまなとらえ方があり、出来事のよい面に気づくようになればさらに前進です。最後のまとめで、感情の点数と考えの確信度がどのように変化したか記入しましょう。これで思考変化記録表が完成です。ものごとを否定的にのみ捉えていると、その考えが固まり悪循環に陥りますが、別の考えをいつでも言葉に出来ると悪循環には陥りません。
思考変化記録表でバランスを身につけたら、いよいよ行動面の実践です。考えの見直しの作業で気づいたことに少しずつ取り組んでいきます。急激な変化はつよい不安を伴うこともあり、ゆっくりと慣らしていき、段階的に変えていくといいでしょう。なにから始めればよいかわからない人は、不安階層表を作ってみてください。そのなかで不安点数が低いものを選んで実践するとよいでしょう。
認知行動療法は効果を検証しながら実践していきます。行動の実践にとりくむだけでなく、その効果を確かめることも大切です。なんらかの行動を起こすことができたら、その結果生活がどう変わったかを確かめます。記録の内容や点数から客観的に把握できるので、効果があるようなら行動の実践を続けます。実践後にも、不安の点数をつけて、その点数の変化も注目します。ひとつの実践を続けて自信がついたら別の行動にステップアップしていきます。
悲しみの感情は大事なものを喪失したという考えとセットになっていて、喪失を避けるためにその時とった行動をしなくなるようになります
不安の感情は危険という考えとセットになっていて、危険を避けるために逃げる行動につながります。悲しみ・不安の感情はセロトニンとの関連が知られ、うつ病・不安症につながります。
怒りの感情は侵害という考えとセットになっていて、自分のルールを破った相手に向かって攻撃行動につながります。
思いやりの感情は絆・つながりという考えとセットで、癒やしたり慰めたり助けたりする行動につながり、愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンとの関連が想定されます。思いやりの感情が高まるとストレス反応も緩和されます。他人への思いやりだけでなく自分への思いやりという感情もあります。うつ病がなおりにくい人は自分への思いやりの感情をうまくもてないと考えられています。苦しんでる自分を批判したり鞭打ったりすることをやめて自分への思いやりの感情を意識することがうつ病の改善につながるわけです
喜びの感情は報酬を得たという考えとセットになっていて、報酬を得るためにおこなった行動を繰り返しおこなうようになり、ドーパミンの関連が知られています。うつ病や不安症の人は喜びを持てなくなっています。認知行動療法の行動活性化は活動の楽しさと達成感という報酬が得られるトレーニング法です。
解決に結びつかないのに、心配ごとや悩みなど同じことを繰り返し考えてしまうことがあり、考えることをやめられないことを反すうといいます。反すうは気分のさらなる落ち込みや、不安の高まり、不眠につながることもあります。繰り返し悩むことは解決策を決めかねて、堂々巡りとなることがあり、悩んでも状況は改善しないということに気づけるかどうかがポイントです。反すうをやめるため、しつこい悩みを書き出します。最悪の結果になった場合を想像して具体的に書きます。現実ではないので「」をつけて書くことがポイントです。反すうで生活に悪影響が出ていたらそのことを書きます。ここまで書くと反すうしてもよい影響がないことがみえてきます。最良の結果も想像して書いてみてください。最悪と最良の2つの結果をイメージできたら、それ以上悩んでも考えが広がることはなく、悩むことを終えて反すうをやめる決意するクセをつけましょう。気づいたらまた考えていたというような場合、考える時間をタイマーで設定し、時間になったら反すうをやめます。今考えずにあとまわしにすることもいいでしょう。それでも反すうをなかなあやめられないときは反すうそらしをおこないます。悩みに気をとられがちな場面で、ほかのことに注意をそらす方法がとれないか考えてみましょう。外界に注意をむけるか、自分の感覚や体に注意をむけるのか2通りあります。反すうしやすい場面と、その時に注意をそらす方法を書き出し、書き出した方法のなかからすぐにできそうなものを選び実践してみましょう。
個人認知行動療法は1回のセッションに30-50分ほど話し合うのが治療のおおまかな形です。導入と本題とまとめにおおよそ分けることができます。本題のテーマはセッションごとに話し合って決めます。個人認知行動療法の大きな流れは、問題を整理し、悪循環のパターンに気づいたら考えや行動を変えていく練習をおこないます。集団認知行動療法も進め方は同じで、自分と同じ悩みを抱える仲間と話もできます。
個人認知行動療法は患者さんと治療者の共同作業で、どちらも治療の主役です。患者さんは治療意欲をもつことが大切です。治療者は患者さんの意欲を高め、自己表現を上手に促し治療を進めます。各セッションの途中と最後にそれぞれのまとめの時間が必ず設けられているので、患者さんは気軽に質問や感想を述べることが出来ます。まとめは協力態勢を築くための情報共有の機会にします。最初は患者さんの話をよく聞き、傾聴し共感することにつとめます。治療者は患者さんを受け止め認めることをいつも意識します。人間は受容されなければ変わることができません。治療者は患者さんの情報を集めて整理し、病気の見立てをおこなうアセスメントをして、おおまかな治療のプランを立てます。テーマは患者さんと治療者が話し合って毎回最初に設定します。患者さんが話したいことがテーマになりますが、話すことが見つけられなくても、テーマを決めることから治療者が手伝ってくれます。テーマがいくつかある場合、いちばん気になることから話すようにします。患者さんは話したいことを話し、質問されたら答えますが、考えや感情をくわしく治療者に伝えることができ、感情を言葉にすることで自分の心をとらえて整理することができるのです。出来事、考え、感情、行動を分けてとらえるのは認知行動療法のたいせつな作業のひとつですが、考えと感情を分けることは難しいです。感情をあらわす言葉の基本を知っておくと感情と区別しやすくなります。強い感情をともなうものをホットな認知と呼び、治療のカギとなります。ホットな認知をとらえるのがひとつの目標です。さらにセッションを繰り返すうちにさまざまな問題に共通のスキーマがかかわっていることがみえてきます。スキーマに基づく認知にかたよりがあると、不適切な感情や行動を生み出し、それがかたよりをさらに強化していることにも気づきます。
治療者がよく用いる手法にソクラテス式問答があります。問答を重ねることで、話し相手を自発的な気づきへと導く対話法で、古代ギリシャのソクラテスが用いたことで知られています。治療者は相手を傷つけないような柔らかい言い方をするようにします。発見につながる質問をされると、患者さんははっとした気づきを得ることができます。
認知行動療法には病気ごとに検証された、治療理論に基づく型やモデルがあります。この型にあてはめ、推理して答えを出すことをケース・フォーミュレーションといい、症例の定式化とも呼ばれます。ケース・フォーミュレーションが完了すると、患者さんは自分の考えの型を具体的に理解できるようになります。悩みの背景がわかると問題が解消できるようになります。
認知行動療法では受容に加えて変化もたいせつする実践的な治療法です。悪循環のパターンが明らかになったらそこから抜け出す対策を始めます。特別なトレーニング法を用いて考えや行動を少しずつ変えていきますが、トレーニング法は変化の技法とも呼ばれます。トレーニング法はたくさんの種類が用意されていますが、治療者はもっとも適したトレーニング法をひとつ提案します。トレーニング法のホームワークを通じて患者さんはその方法を身につけ、考えや行動の変化が習慣になり、日々使っていけるようになることが目標です。
主なトレーニング法は、ケース・フォーミュレーション、認知再構成・コラム法、段階的曝露、アサーティブ・コミュニケーション、問題解決法、行動活性化、行動実験や、セッション前にリラクゼーション法をおこなうことがあります。
認知再構成などの具体的なトレーニングとしてもっともよく知られているのがコラム法です。コラムとはシートに書かれた欄のことで、3つのコラム法、5つのコラム法、7つのコラム法が一般的で、①できごと②感情③考え④別の考え⑤変化したこと⑥③の考えの根拠⑦③の考えの反証、です。①できごとには考えを書かずに事実ベースで書きます。
PTSD、うつ病、社交不安症、パニック症、強迫症などで、過去に非常につらい体験の記憶からできた強固な信念を再構成するために、記憶の書き直し(メモリー・リスクリプティング)というトレーニング法をも用いることがあります。ヒトは必ずしも事実を正しく覚えているわけではないという心理学の研究成果に基づいています。患者さんに過去に戻って、今ここで起こっているかのように現在進行形で語ってもらい、記憶の追体験し、その記憶の場面を今の自分が第三者としてみているように状況を語ります。記憶に介入し、過去の自分に思いやりや共感の気持ちを示したり、自分でその場をおさめるようにアドバイスをします。つらさを改善させたい患者さんが治療者と協力して取り組めば有効であると知られています。
強い不安にも段階的曝露により、一日一回不安と正面から向かい合っていると不安が減っていくことが知られています。毎週少しずつステップアップしながらとりくむことで、少しずつ慣れて不安が減って不安に関する病気が改善していきます
段階的曝露がうまくいかない場合、曝露反応妨害という方法をトレーニング法としておこなうことが一般的です。脅迫行為という反応を自分自身で妨害してやらないようにすることが不安を下げるために重要なのです。本人にも必要なことだから十分納得して取り組んでもらう必要があります。
言いたいことを上手に伝えるコミュニケーションをアサーティブ・コミュニケーションといいます。アサーティブ・コミュニケーションの練習は、英会話の発声練習のように声を出したり、ロールプレイをしたりしておこないましょう。実際にうまく自己主張できなかった場面を思い出して、自己否定して相手を肯定する言い方を書きます(受け身的コミュニケーションの欄)。次に自分を肯定して相手を否定した言い方を書きます(攻撃的コミュニケーションの欄)。自己肯定し相手も肯定した言い方を書きます(アサーティブ・コミュニケーションの欄)。このアサーティブ・コミュニケーションの欄に書いたセリフを声に出して繰り返し練習すると段々とうまく言えるようになります。
問題解決法は問題はなにかを明らかにし、解決案を2-3個挙げてみて、その解決案のメリットとデメリットを挙げて、メリットを+100点満点、デメリットを-100点満点で重みづけし、点数評価を参考に2-3個の解決案から一つを選び、くよくよ考えずに勇気をもって実行することです。
毎回の認知行動療法のセッションに、患者さんと治療者で話し合い。その日のテーマにそって、とりくんだトレーニング法についてのホームワーク(宿題)を決めます。1週間毎日続けてできそうなホームワークを一緒に決めますが、うまくできなくてもそれほどがっかりすることはなく、気づいたことを率直に次のセッションの冒頭で報告しましょう。うまくできないことにも大きな学びがあり、チャレンジした自分をほめ、誇りに思って認知行動療法を継続することが何より大切です。出来なかった原因を探り、原因が分かれば一歩前進です。
最後の締めくくりのセッションでは、再発予防のテーマでの話し合いをすることが一般的です。治療が終わってからも認知行動療法は継続し、かかりつけ医に適宜助言をもらったり、セルフ・ヘルプ認知行動療法を続け、セッションの対話を録音させてもらえた場合はそれを聞き直すこともいいでしょう。ホームワークの記入式シートや日記などを見て治療で学んだことを振り返り理解を深めたり、新しい問題が起きても自分でその状況をとらえて改善策を考えることもできるでしょう。
うつ病では否定的になっている認知のかたよりを修正する、認知再構成を中心とする認知療法が有名です。行動面でも楽しい活動が少なく、行動活性化というトレーニングをおこないます。
うつ病では自己否定、世界否定、将来否定の3つの認知が特徴です。心が健康な人は2-3日経つと考えが肯定の方向にふれて認知のバランスがとれるようになりますが、うつ病の患者さんは自然に回復せず、毎日毎日ずっと長く続き、2週間以上続く場合がうつ病です。うつ病には憂うつな気分と興味・喜びの消失があり、それらを二大症状と呼びます。完璧主義は症状を悪化させ、特に自分を責める自己批判的な完璧主義が問題となるため、完璧主義の考えに対して中庸の考えでバランスをとり、認知の修正のため認知再構成や思考変化記録表を用います。行動活性化の進め方は、起きてから寝るまでにどのような活動をしているかノートに記録します。その時間ごとの活動について楽しい感情が100点満点のうち何点か、達成感が100点満点で何点かを記録します。これは楽しい活動や達成感が得られる活動が激減していることに気づくのが狙いです。15分間行えば楽しくなる、達成感が得られたり気分がよくなる活動を5-10個書き出してみて、特によさそうな活動を1位から5位まで順位づけして、明日から毎日できそうなことを選んで書きます。順位が分からないときは続けられる自信を点数にしてみます。それで毎日15分の活動を5-6日間おこない、結果を表に記録してみます。できなくても自分を責めず、翌日おこないます。実践するものは途中で変更しても構いません。
不安症および関連する心の病気には、できそうなところから不安を少しずつ慣らしていく段階的曝露を中心とするトレーニング法を用いる行動療法が有名で、認知面でも破局的に誤解しているかたよりを修正することも組み合わせます。安全行動をやめる、注意を柔軟にするトレーニング法と組み合わせたりします。多様な心の病気は、マニュアルも用意されていて、パーソナリティ症は時間をかけて治療していきます。
全般不安症は不安症のひとつで、6ヶ月以上仕事のこと、健康のこと、家庭のことなど日常のさまざまな事柄について次から次へと過剰に心配したり不安になったりして日常生活に支障が出る心の病です。全般不安症という病気を知らずに心配性の性格だと誤解していることも多くあります。うつ病との合併も多く、気づかれないこともあります。全般不安症の認知のかたよりは、心配することが安心につながるから心配することをやめたら大変なことになるという破局的な誤解です。心配するは行動です。うつ病での反すうすることと同じ安全行動です。不安の病気が治らない元凶だと気づき、心配し続ける安全行動をやめようという考えに変えていきます。不安になる考えが頭にうかんでもなにもせず放っておきます。反すうへの対処も参考になります。心配してくよくよ考え続けている自分と、その自分を客観的に外から眺めて観察するもう1人の自分を想像してみましょう。ある考えをもっている自分を観察して認知することをメタ認知といいます。
パニック症の認知のかたよりは、不安になったときに自然に起こる正常な体の反応である動悸やめまいなどの身体感覚を、心筋梗塞や脳卒中のような突然死につながる重大な体の病気の危険なサインと考えてしまう身体感覚の破局的な誤解です。パニック症のトレーニングは、不安は生存に必要な感情でなにに対して不安を感じているか対象をはっきりさせること。なんでもないを0点、最大の不安を100点として不安の程度を点数化する習慣をつけること。脳が不安に感じると交感神経が優位になり動悸や息切れなどの身体反応が生理的に起こること。ヒトを含む動物は、恐怖条件づけというしくみで、一度恐怖を感じる体験をすると、本来怖くないものも恐怖の対象になってしまうことがあること。を理解して、恐怖条件づけされたものも段階的曝露で不安がやわらいで改善します。
社交不安症は、対人場面で他人から注目されること、見られることに強い不安を抱き、日常生活に支障をきたす心の病気です。以前は対人恐怖症と呼ばれていました。自分が他人からどうみられているか不安で、少しでも失敗して変なレッテルを貼られたら自分の人生はもう終わりと考えます。不安は人間的な弱さのあらわれという破局的な解釈が問題となります。患者さんと治療者で人との会話をロールプレイしてビデオ撮影します。ビデオを見る前に頭の中で自分がどのようにネガティブに映っているのか言葉にしたあと、客観的にビデオに映る自分を観察して、予想ほど自己イメージは悪くないことを確認します。安全行動をやる場面とやらない場面の比較もします。現実に人と会う際に安全行動をしないで注意を相手に向ける自分を客観的に観察します。予想と違って人前で不安な自分を見せても特に問題はないことを学習する実験です。
強迫症は、考えたくもないのに勝手に頭に浮かんでくる不安を引き起こす強迫観念と、強迫観念が現実にならないように、したくもないのに繰り返してやめられなくなる脅迫行為です。汚れがどんどん広がって大変なことになるという強迫観念と、手洗いや消毒がやめられない不潔恐怖症のタイプ、加害の強迫観念で確認がやめられないタイプなどがあります。健康な人にも強迫症のように一瞬勝手に頭に浮かんでくる考えがあり、侵入思考といいます。健康な人は侵入思考が浮かんでも何も反応しないでいられますが、強迫症の人は侵入思考が浮かぶと反応して脅迫行為をしてしまいます。認知のかたよりは過剰な責任感です。過剰な責任感から本来反応しなくてもよい侵入思考に反応し、脅迫行為を繰り返してしまうのです。段階的曝露を行い、反応妨害を組み合わせもします。
PTSDは心的外傷後ストレス症といい、心的外傷のあとにストレスの反応が心身にあらわれ、それが日常機能に支障をきたす不安に関連した心の病です。考えたくなくても過去の事故や事件がまるで目の前で起きているようにありありと一瞬でフラッシュバックして思い出してしまう症状があります。そのため過去の事故や事件につながるような活動、状況、人物を避ける回避の症状が生じます。ささいな物音に体が勝手にびくっと反応してしまう過覚醒や、楽しい感情が感じられなくなったり、一部の記憶がなくなったりする認知と感情の否定的変化の症状もあります。トラウマ的な出来事を経験しても1ヶ月程度で通常の生活に何とか戻れる人もいて、そういう人は、侵入記憶が頭に浮かんでもそこまで反応せず受け止め慣れて流すことができるようになります。PTSDの患者さんは侵入記憶が浮かんでくるとその考えから逃げようと過剰に反応していつまでも慣れることができません。段階的曝露をおこない、過去の自分と認知行動療法を知って成長した現在の自分は違うこと、現在の自分を生きることの重要性をあらためて認識し、侵入記憶に自分が立ち向かう事ができるという自信を取り戻します。過去のことは記憶にすぎず、恐れることはないと考えられるように認知を修正します。ばらばらになっていた事件の記憶をつないで、最初から最後まで順を追って話し、これが不安な記憶に慣れるように続ける持続曝露で、記憶のアップデートができます。セッションごとに繰り返しうちに記憶に怖がる必要はないとわかり自信がついてきます。記憶の書き直しトレーニングをおこなうこともあります。
神経性過食症や不眠症などの病気にも認知行動療法の型があります神経性過食症は3カ月にわたり週1回以上のむちゃ食いが自制できず、埋め合わせの代償行動として意図的な嘔吐や下痢ややせ薬の乱用したり絶食したりする行動をする病気です。ケース・フォーミュレーションで認知・感情・行動・身体反応の悪循環を探り、認知再構成と行動実験をしていき、食事記録のセルフモニタリングをするのがこの疾患の特徴です。体重にこだわりすぎてきいることに気づき、体重は週1回、同じ時間、服装、場所で測定して、それ以外は体重測定しないようにします。
不眠症は3カ月にわたり週3日以上寝つきが悪い、世中に途中で目が覚めて眠れない、朝早く目が覚めてしまうなどで、日中の生活にまで支障がでる病気です。不眠症の人は眠れないことへの不安の強さがあり、認知のかたよりとしてしっかりと眠らなければたいへんなことになるという破局的な誤解をもっています。睡眠に対する完璧主義的なこだわりともいえます。不眠症の認知行動療法は6-8回で、睡眠日誌をつけることが特徴です。実際にベットのう上にいた床上時間を分母、本当に寝ていた総睡眠時間を分子にして計算し、これを睡眠効率といい85%以上が望ましいとされます。
統合失調症は、誰もいないのに自分の悪口を話し合う声が聞こえる幻覚、自分の心を読まれて操られてしまうなどの妄想などがみられる心の病です。幻覚や妄想は抗精神病薬でやわらげるることができますが、悪化や再発を不安に感じている場合が多く、ケース・フォーミュレーションをして病気の悪化や再発を防ぎます。
パーソナリティ症のうちボーダーラインパーソナリティ症は、人間関係が不安定で傷つきやすく、情動も不安定で、自傷行為や過量服薬などの衝動的行為をしてしまうことが問題になる心の病です。治療者は患者さんとの治療同盟を築くのに苦労することがあります。ネグレクトや離別体験などで、世界には信頼できる人間がいて自分を無条件に愛してくれるという基本的信頼感がうまく形成されてなくわ見捨てられ不安が非常に強く、自分と関係のある人から見捨てられないように必死に努力します。そのため基本的信頼感を育て直すため、治療には時間をかけてじっくりと進めていきます。子どものころにつくられて自分を苦しめる早期不適応となるスキーマに対して、週1-2回、1回60-90分のセッションを1年以上おこないます。週1回の受容的な個人療法と週1回の変化を目指す集団療法での感情調整スキルトレーニングを併用します。
アルコールなどの依存症に対しても、快感や興奮のために衝動的に行動してしまう悪循環を見直します。
慢性疼痛などの身体症状にこだわってしまう病気に対して、身体症状がなくからないと人生終わりという破局的な誤解や不安、安全行動による悪循環を認知行動療法でみつけて改善させていきます。
神経発達症は子どものころから特性があり、多様性があり、健常から発達障害までのレベルが連続したスペクトラムです。ADHD(注意欠陥多動症)とASD(自閉スペクトラム症)を合併する人も多くいます。ADHDは不注意の特性と、多動性・衝動性の特性があり、ゲームなどの依存症のリスクを高めます。ADHDの患者さんには環境調整や心理社会的サポートがおこなわれ、さらに薬物療法の効果も知られています。認知行動療法では、最初に自分の不注意や衝動性の特性を十分に理解し、その特性を自分が受容できるようにします。自己否定的な考えが強い場合は、認知再構成で自己肯定のバランスをとります。配慮が必要な場合は周囲に自分の特性を適切に伝えることができるようにします。ASDにはコミュニケーションの質や対人交流が難しく、双方向ではなく一方的になる特性と、変化を好まず特定の興味をもった同じものやことにこだわる特性があります。ASDの人は社交不安症や全般不安症などを合併しやすいです。認知行動療法では、ADHDと同様にまず自分の特性を十分に理解します。すると自分の考えと他人の考えが違うことに気づくことができます。定型発達の子どもは人の顔に非常に注意を向けて育ち、相手の表情から感情や考えを推測します。ASDの子どもは人の顔だけでなく表情を認知したり相手の感情や考えをよんだりすることが苦手になると考えられています。
認知行動療法は子どもにも適応できます。考えや感情、行動をとらえて基本的な認知行動療法の流れを理解できるのはおおよそ小学校高学年からです。不安症と診断された中学生以上の子どもなら、大人の認知行動療法に近い進め方ができますが、保護者がいっしょに参加する形式にします。子どもが保護者の前で萎縮して話したいことを話せないときは、子どもと保護者と別々に時間をかけてセッションすることも考慮します。子どもに対しては、使用するワークブックもイラストが豊富なものを使ったり、集中力を考慮して大人よりも時間を短縮する場合もあります。