成人肺炎診療ガイドライン2024

日本呼吸器学会編集で、2017年以来の改訂です。前回と比べてウイルス性肺炎と誤嚥性肺炎の項目が増えましたが、COVID-19や高齢者の死因にもなりうる誤嚥性肺炎で重要だからだと思います。

院内肺炎と人工呼吸器関連肺炎については割愛しました。

成人肺炎診療ガイドライン2024

肺炎は「肺実質(肺胞領域)の、急性の、感染性の、炎症」と定義されます。

肺炎は原因菌の観点から細菌性肺炎と非定型肺炎に大別することができます。細菌性肺炎に対してはβラクタム系薬が有効に対して非定型肺炎では無効で、マクロライド系薬、ニューキノロン系薬、テトラサイクリン系薬が有効です。細菌性肺炎の血液検査所見では好中球優位の白血球増多、CRP・血沈・プロカルシトニンの上昇が認められます。胸部線検査では気管支透亮像を伴う浸潤影が所見です。発症の場や患者背景、病態の観点から市中肺炎(CAP)、院内肺炎(HAP)、医療・介護関連肺炎(NHCAP)に大別されます。

一般的にCAP患者は基礎疾患を有しておらず、耐性菌が原因菌となる頻度は少なく,予後は他の肺炎より良好です。HAPは何らかの基礎疾患を有していることに加えて耐性菌が原因菌となるリスクが高く、死亡率は3分類のなかで最も高いです。NHCAPは本邦では療養型病床に入院している人で、特徴は耐性菌リスクや予後の点でCAPとHAPの中間的位置付けですが、老衰や疾患末期に起こった肺炎など個人の意志を尊重して治療しないという選択肢もあることを提示するためということもありました。

最近の傾向は、肺炎の死亡数はやや減少して誤嚥性肺炎の死亡数は増加し、2021年の肺炎と誤嚥性肺炎をあわせた死亡数は全体の第4位でした。老衰にも肺炎が混在しているものと思われ、肺炎全体としては減少していないことが推測されます。死亡率はNHCAP15.5%,CAP6.3%でした。

肺炎の診断は問診、診察所見、血液検査所見、胸部X線所見より総合的に判断します。問診と診察所見から肺炎を疑った場合、血液検査・胸部 X 線検査を行い診断を確定します。

肺炎の診療においては原因菌の推定・同定がきわめて重要で、喀痰が得られる場合は喀痰のグラム染色・培養検査を行い、必要な場合には血液培養 2 セットも提出します。

迅速診断法として尿中抗原検査(肺炎球菌,レジオネラ・ニューモフィラ)、喀痰抗原検査(肺炎球菌)、咽頭ぬぐい液抗原検査(肺炎マイコプラズマ)も有用です。

 

誤嚥性肺炎を繰り返す症例や疾患末期の肺炎など、生活の質が低下し予後不良の終末期肺炎の像を呈する例では、侵襲性の高い治療より緩和的な治療を優先することも考慮するべきで、主治医および他の医療スタッフと患者本人や家族がよく相談した上で,個人の意思や QOLを考慮したケア・治療を優先して行うことを考慮します。

「この患者がこの先 1 年以内に死亡するとしたら驚くか?」と自問自答し、驚かないと判断される場合は患者・家族と方針を相談します。厚生労働省の『死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル』では,老衰の経過に肺炎が併発した場合、直接死因としての肺炎、その原因を老衰とする例が示されています。

はじめに適切な治療の場を決定することが重要で、全身管理が必要な敗血症性ショックの場合はICUまたはこれに準ずる全身管理が可能な病室へ入室させます。敗血症性ショックでなくてもA-DROPスコアの重症度評価で重症〜超重症の場合は敗血症性ショックと同様の管理を考慮します。重症度が中等症〜重症の場合は一般病棟への入院とし、軽症〜中等症の場合は外来治療も選択肢とします。原因菌検索により原因菌が同定または推定できた場合は標的治療、できない場合は治療の場に応じたエンピリック治療を行います。

Miller&Jonesの分類は喀痰の肉眼的評価で、唾液や完全な粘液性痰は検査に値しません。多数の好中球を含んでいるものは質が良く、口腔粘膜に由来する上皮細胞を多く認めると質が悪く検査に値しないと言えます。Gecklerの分類では1視野(100倍)あたりの好中球数が25個より多く上皮細胞が10個未満の場合が最も培養に適した検体と判定されます。

グラム染色は操作が簡便で迅速性に優れ、細菌の種類の推定が可能で、CAPの診断でグラム染色は有用性が高いと評価されています。培養結果を基準とした場合、喀痰のグラム染色の感度は良質の検体を用いていれば60~70%程度と報告されています。1種類の菌体が1視野に10個以上観察されるような良質の検体では約90%の感度で原因菌が推定される報告もあり、抗菌薬の選択にも有用です。菌種別では肺炎球菌で検出感度が高く、インフルエンザ菌は低い傾向ですが、精度は観察者の技術的レベルによっても大きく左右されます。好中球の多寡や貪食像の有無も重要な所見です。実際に菌を培養し、分離・同定することで原因菌の診断が可能となり、薬剤感受性検査を引き続き実施してその菌の各薬剤への感受性を評価可能となり、耐性の有無を確認することができますので。欠かせない検査と位置付けられます。血液培養検査は原因菌を特定する上で重要で、入院して治療する患者においては実施すべきです。

肺炎発症後数ヵ月かそれ以上にわたって尿中抗原が検出される症例が存在するため、他の微生物によって肺炎を発症していても、尿中抗原が陽性となる可能性もあります。肺炎球菌はストレプトコッカス・ミティスと共通の抗原を有しているため偽陽性の可能性があります。

肺炎球菌の検出能は尿中抗原が62%で喀痰抗原は89%で、喀痰抗原が尿中抗原より発症早期の感度が高いという結果が報告されました。喀痰抗原はラム染色よりも特異度が高く早期の治療効果を反映する可能性が報告されています。口腔内に常在する肺炎球菌の汚染により偽陽性となる可能性があり、唾液の混入がない状態で得られた良質な喀痰を検査に用いることが望まれます。

海外のガイドラインでは重症CAP患者において下気道検体を用いたレジオネラ遺伝子検査を実施するよう提案されています。

肺炎マイコプラズマ・クラミジア・ウイルス等は、血清抗体価による診断が利用されてきました。通常感染初期と2週間後のペア血清を用いて抗体価が4倍以上上昇していれば陽性と判定され検出微生物として診断されます。肺炎マイコプラズマについて特異的IgM抗体を検出する方法も利用可能ですが、その陽性率は低く偽陰性が多くなる可能性があります。

肺炎クラミジアは抗肺炎クラミジア抗体の測定によって診断される場合が多く、IgM、IgG、IgAの3種類の抗体価が測定可能で、カットオフインデックス値あるいはIgG、IgAでは抗体価の有意な上昇を参考に感染症の原因菌と判定されます。IgM抗体は発症2-3週後に上昇し始め4-5 週後にピークとなり3~5ヵ月後に陰性化します。またIgG抗体は30日後に上昇し3~4ヵ月後にピークとなり、時機を見て検査・判断します。既感染者が多く交差反応による擬陽性が指摘され、抗体価のみでの診断は難しく総合的な判断が必要となります。

 

ウイルス性肺炎は、呼吸器を主な標的とする気道ウイルスによる肺炎と、呼吸器以外の臓器や細胞も標的とする全身症候を来すウイルスによる合併症としての肺炎に大別されます。気道ウイルスの伝播経路は飛沫感染が多く、麻疹と水痘ウイルスは空気感染(飛沫核感染)が主で、サイトメガロウイルスは初感染後の潜伏感染の状態からのウイルスの再活性化です。実地医家ではウイルス単独よりも細菌感染を合併した肺炎が多く、純ウイルス性肺炎をみることは少ないです。2019年の新型コロナウイルス感染によるCOVID-19では純ウイルス性肺炎の頻度が細菌性肺炎よりも高率でした。肺炎においてウイルスの検出は24.5%と報告されていますが、ウイルス自体が肺炎の原因となったかは不明です。65歳以上ではインフルエンザウイルスや肺炎球菌の検出率が若年成人群の約5倍、ライノウイルスは10倍で、80歳以上ではRS ウイルス、パラインフルエンザウイルス、コロナウイルスの検出率は肺炎球菌と同等でした。ウイルス感染症の診断は分離培養、抗原検出、遺伝子検出、血清学的診断によります。ウイルスの分離は手技が煩雑で判定まで長時間を要し、血清学的診断はペア血清が必要で迅速性に乏しく、一般的に抗原を検出する迅速診断キットが広く使用されています。なかでも,インフルエンザウイルス、SARS-CoV-2、RSウイルス、アデノウイルス、ヒトメタニューモウイルス抗原検出キットは、感度・特異度ともに高く早期診断と治療方針決定に有用です。サイトメガロウイルスの診断は、血液でのアンチゲネミア法や、BAL液を用いたシェルバイアル法によるサイトメガロウイルス抗原陽性細胞の抗原検出肺組織診や、細胞診での核内封入体をもつ巨細胞の検出などにより行われます。ウイルス性肺炎に特異的な症状はありませんが、疾患初期は膿性痰は欠如し、白血球数が10,000/μL未満、CRP値が2mg/dL未満,プロカルシトニン値が0.1μ/L未満、異型リンパ球出現などの特徴がみられます。CT画像は個々のウイルスの病原性に関連して、重要なポイントは陰影は時相によって異なることです。気道ウイルスならば主に両側すりガラス影を呈することが多く、典型的な画像なら菌性肺炎と鑑別・推測することは可能で、マイコプラズマ肺炎とも鑑別が可能です。ウイルス性肺炎の抗ウイルス薬は、インフルエンザ、SARS-CoV-2、サイトメガロウイルスなどのヘルペス群です。

 

誤嚥性肺炎は、誤嚥のリスクがある宿主に生じる肺炎、と定義され、誤嚥のリスクは嚥下機能低下と胃食道機能不全に大別されます。誤嚥したものを十分に喀出する能力があれば肺炎に至らないことが推測され、誤嚥のリスクと喀出能を含めた気道クリアランスの低下や免疫能の低下等がリスクとなります。この多くは高齢・低栄養状態に伴う全身の衰弱が関連した全身の機能低下とそれに伴う嚥下機能障害によって生じてます。本邦の肺炎入院患者の前向き研究で市中肺炎の60.1%、院内肺炎の86.7%が誤嚥性肺炎でした。40代まではまれで、50代で20%超、さらに加齢に従い頻度が増加し90歳以上の約9割を占めていました。検出される菌は肺炎球菌やインフルエンザ菌の割合は低下し、口腔内レンサ球菌は31.0%と最も多く検出され嫌気性菌は6.0%でした。意識障害などの嚥下機能低下がある肺炎では、重力方向すなわち下葉や背側に分布することは示されていますが、嚥下機能が低下していない宿主の陰影と比較した研究はありません。治療は注射薬ならスルバクタム・アンピシリンが第一選択で、BLNARが原因となる場合は耐性が予想されセフトリアキソンなどの第三世代以上のセフェム系薬を使用します。MRSA は高頻度に検出さますがほとんどが定着で、抗 MRSA 薬を併用しても予後は改善しないことが示され、緑膿菌においても同様で抗緑膿菌活性を有する抗菌薬は予後を改善するエビデンスは示されていません。嫌気性菌をカバーした抗菌薬選択の有用性は示されず、使用は推奨されません。内服薬も高用量のペニシリン系薬を原則とし、無効の場合はレスピラトリーキノロンや第三世代セフェム系薬の高用量投与や注射薬への変更を検討します。ニューキノロン系薬の多くは結核菌に一定の効果を示すため結核診断の遅れが懸念されます。

誤嚥性肺炎は繰り返す病態で肺炎治療中でも誤嚥する危険性があります。そのため口腔内衛生、食事形態の変更、向精神薬やプロトンポンプ阻害薬の適正使用も同時に検討し、入院では身体的リハビリテーションのみならず、呼吸・嚥下リハビリテーションの必要性が提唱されています。

 

市中肺炎とは市中で生活している人に発症する肺炎です。問診では発症様式、職業、生活様式、最近の旅行、海外渡航歴、感染症患者との接触歴などを確認します。血液検査と画像検査で診断の妥当性を確認し微生物学的検査を実施します。臨床所見などから検出微生物を推定しエンピリック治療を開始します。検出微生物が確定できれば標的治療に移行します。

2015年の本邦15歳以上の市中肺炎患者数は年間188万人で、65歳以上が約7割を占め年間74,000例が病院で死亡と推定されました。

入院・外来を問わない市中肺炎では肺炎球菌が最も多く、インフルエンザ菌、肺炎マイコプラズマと続きました。入院症例のみでは肺炎球菌、インフルエンザ菌に続いて、黄色ブドウ球菌が3番目でMRSAは38.6%でした。重症例では黄色ブドウ球菌や緑膿菌の頻度が増加していました。肺炎病巣のBAL液での網羅的細菌叢解析では、口腔内レンサ球菌やプレボテラ属、フソバクテリウム属などの嫌気性菌の関与も多く、肺膿瘍 / 肺化膿症ではフソバクテリウム属などの嫌気性菌との混合感染が62.7%を占め、グラム陽性菌ではSt.anginosus群が15.3%と最も分離されました。

肺炎に伴う下気道症状(咳嗽、喀痰、呼吸困難、胸痛など)と全身症状(発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、精神症状、消化器症状など)の有無を問診によって確認しますが、上気道症状(咽頭痛、鼻汁・鼻閉など)のみ呈する症例も存在します。特に高齢者は典型的呼吸器症状を呈しにくく、食欲低下や活動性の低下など肺炎と直接関連のない症状が前面に出る場合があり、肺炎が疑わる症例には画像診断を実施すべきです。

65歳以上で胸部CTで肺炎と診断された9.4%、高齢者では28.4%は胸部 X 線で肺炎像を確認できなかったと報告されました。

最も信頼性の高い予後予測因子はPSIスコアですが、煩雑で外来での使用困難で、英国の CURB-65スコアを改良したA-DROPスコアによる評価を推奨します。またqSOFAで重症型の敗血症の有無を判断します。さらに臓器障害の評価を行ってSOFAスコアがベースラインから2点以上増加すれば敗血症と診断されます。

A Age:男性70歳以上,女性75歳以上

D Dehydration:BUN21mg/dL以上または脱水あり

R Respiration:SpO2 90%以下(PaO2 60Torr 以下)

O Orientation:意識変容あり

P Blood Pressure:血圧(収縮期)90mmHg 以下

全て満たさないものを軽症、3項目以上で重症、それ以外を中等症とします。

 

前のガイドラインで細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別をマイコプラズマ肺炎の鑑別に改め、その結果をもとに治療方針を決定することを推奨します。①年齢60歳未満②基礎疾患がないあるいは軽微③頑固な咳嗽がある④胸部聴診上所見が乏しい⑤迅速診断法で原因菌が証明されない⑥末梢血白血球数が10,000/μL未満、です。本邦の前向き研究で4項目以上合致で非定型肺炎の感度78%、特異度93%でした。

マイコプラズマ肺炎は免疫反応による間接的な細胞障害のため特徴があり、肺炎球菌性肺炎と有意差がある胸部CT所見は①気管支血管周囲間質肥厚②小葉中心性あるいは細葉中心性粒状影③すりガラス影の3つでした。

レジオネラは、頻度は高くないものの重症化率が高く不適切治療により死に至る症例があります。尿中抗原検査が汎用されていますが感度は高くありません。本邦と欧米のレジオネラ肺炎は異なり欧米の臨床的鑑別法は応用困難で、診断予測スコアを用いレジオネラ肺炎を拾い上げ治療方針を決定することを推奨します。①男性②咳嗽なし③呼吸困難感あり④CRP 値が 18 mg/dL 以上である⑤Na 値が 134 mmol/L 未満である⑥LDH 値が 260 U/L 以上である、参考所見に低リン血症があり、4点で特異度は高値になりますが、感度を重視し3 点以上でレジオネラ肺炎を疑うこととします。

外来治療で内服薬は、アモキシシリン・クラブラン酸またはスルタミシリン、(インフルエンザ菌 BLNAR を考慮する必要がある場合)セフジトレン ピボキシル高用量、レスピラトリーキノロンとなり、非定型肺炎が疑われる場合ミノサイクリン、クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン、レスピラトリーキノロンで、非定型肺炎と鑑別困難やレジオネラ肺炎疑いや慢性肺疾患がある場合レスピラトリーキノロンになります。注射薬はセフトリアキソンまたはラスクフロキサシンで、非定型肺炎が疑われる場合ラスクフロキサシン、アジスロマイシンとなります。一般病棟の入院治療ではスルバクタム・アンピシリン、セフトリアキソンまたはセフォタキシム、ラスクフロキサシンで、非定型肺炎が疑われる場合ミノサイクリン、アジスロマイシン、ラスクフロキサシンで、非定型肺炎との鑑別困難な場合ラスクフロキサシン、レボフロキサシンで、レジオネラ肺炎が疑われる場合レボフロキサシンまたはラスクフロキサシン、アジスロマイシンとなります。ICUの入院治療では、緑膿菌を考慮しない場合スルバクタム・アンピシリン、セフトリアキソンまたはセフォタキシムで、緑膿菌を考慮する場合タゾバクタム・ピペラシリン、カルバペネム系薬で、それらにアジスロマイシンあるいはラスクフロキサシンの併用や抗MRSA薬の併用となります。レスピラトリーキノロンは薬剤耐性誘導やトスフロキサシン以外結核菌へ抗菌作用があり、また各抗菌薬でレンサ球菌・嫌気性菌・肺炎マイコプラズマ・結核菌への効果が異なり、注意が必要です。

入院して初期に静注薬で開始した場合、可能なら早期に経口薬へとスイッチします。重症 肺炎においてβ-ラクタム系薬とアジスロマイシンの併用療法が予後を改善することが多数報告されてきましたが、マクロライド系薬の抗炎症作用や免疫賦活作用が臨床成績を良好にしている可能性があります。ただし重症~超重症でない場合β-ラクタム系薬にマクロライド系薬を上乗せする効果を認めません。

原因菌が確定された場合には標的治療を推奨します。原因菌の抗菌薬感受性および地域における薬剤感受性傾向を参考にしますが、危険因子がなく重症度が低い場合は狭域の抗菌薬を選択することを基本とします。

本邦の肺炎球菌はマクロライド耐性が8割以上を占め、 2016年の全国調査でニューキノロン耐性は3.3%検出され増加の傾向は認められていませんでした。

2016年の全国調査でインフルエンザ菌全体のBLNARの割合は28.2%、βラクタマーゼ産生株は14.1%と増加しています。BLNARは第一・二世代セフェム系薬に耐性ですがピペラシリンには感性でタゾバクタム・ピペラシリンが有効です。キノロン耐性の増加傾向はありません。

クレブシエラ属のESBL産生菌の割合は4.5%で、ESBL産生大腸菌の多くはキノロン耐性を同時に有しています。本邦ではカルバペネマーゼ産生株はきわめてまれです。

テトラサイクリン系薬は、小児の報告ではマクロライド耐性マイコプラズマ肺炎への除菌の高さと速さ、解熱までの時間もニューキノロン系薬より短いことが証明され、成人マイコプラズマ肺炎にはマクロライド系薬かテトラサイクリン系薬を使用し、レスピラトリーキノロンは第二選択となります。

レジオネラ属への臨床効果はニューキノロン系薬、アジスロマイシンの優越性が示され、両薬の併用効果を示唆する報告もあり、抗菌薬感受性の差はみられず臨床効果もほぼ同等です。

MSSA感染の場合はバンコマイシンと比較してセファゾリンで臨床効果が高いことが報告されています。MRSAは抗菌薬感受性に分離株間に差異が認められるので薬剤感受性を確認して薬剤を選択します。抗MRSA薬は薬物血中濃度モニタリングに基づいた治療計画が必要です。

レンサ球菌のストレプトコッカス・アンギノサス群は膿瘍形成性が強いことが特徴で、空洞形成がある場合は複数菌感染を考慮して広域抗菌薬の選択も考慮します。複数菌感染を疑う場合にはβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬を推奨します。ストレプトコッカス・ピオゲネスおよびストレプトコッカス・アガラクティエも肺炎の原因菌となり、前者はきわめて重篤な肺感染をもたらす可能性があります。ペニシリン耐性はほとんど認められず、マクロライド耐性が低頻度に認められ、ニューキノロン系薬は薬剤によって抗レンサ球菌活性に差があり、ラスクフロキサシン、ガレノキサシン、モキシフロキサシン、シタフロキサシンが比較的強い抗菌活性を有します。

モラクセラ・カタラーリスのほとんどがβラクタマーゼ産生株で、本邦ではマクロライド系薬おとニューキノロン系薬に対する耐性化は認められていません。

嫌気性菌の多くは口腔内に常在し、ペプトストレプトコッカス属、プレボテラ属、フソバクテリウム属などが関与し、βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬、ラスクフロキサシン、クリンダマイシン、メトロニダゾールに対する感受性を有しますが、プレボテラ属ではクリンダマイシン耐性が増加しています。

緑膿菌は慢性気道感染を有する患者で気道定着が認められ原因菌となりえ、抗菌薬の感受性について分離株間の差が認められるので、薬剤感受性試験の結果で抗菌薬を決定します。

 

軽症~中等症に対して全身性ステロイド薬を併用しないことを弱く推奨し、重症に対して全身性ステロイド薬を併用することを弱く推奨することとしました。ステロイド薬の標準投与量はヒドロコルチゾン200~300mg/日、プレドニゾロン20~50mg/日、メチルプレドニゾロン1mg/体重kg/日,デキサメタゾン5~6mg/日、投与期間は3~7日間で、できるだけ短期間にとどめることが望ましいです。

①呼吸器症状の改善②CRP<15 mg/dL③経口摂取の十分な改善④体温が少なくとも12時間以上38℃未満であることのすべてを満たした場合、もしくは①咳嗽および呼吸状態の改善②CRP<10mg/dL(初診時CRP<10 mg/dLならCRP減少)③白血球数が10,000/μL未満④体温が16時間以上37℃未満であることのすべてを満たした場合として提示されています。

治療期間は軽症~中等症で初期治療が奏効している場合5~7日間で終了できます。重症例や、劇症・難治化を来しうるレジオネラ属、MRSA、緑膿菌などや,肺外にも感染が広がっている場合には7~14日間以上の治療が必要となります。

初期治療の効果判定は治療開始後72時間を目安としたものが多く、欧米などから初期治療の不成功率は6~16%程度で、死亡率は治療不成功時で25~27%,成功時は2~4%程度と評価され、初期治療不成功の原因は感染性因子が40~60%、非感染性因子が15~25%となっています。非感染性で最も頻度が高いのは心不全で、薬剤性肺障害の報告も増加しています。感染性の病態は細菌側・宿主側の因子で頻度が高いのは耐性菌、誤嚥等を含む気道ドレナージの障害です。薬剤側・医療側の因子は、抗菌薬の投与量が必ずしも十分ではないケースがあり、抗菌薬の保険適用量は低めに設定されているため、可能な限り高用量の投与を心がけることが必要です。市中肺炎の膿胸合併率は0.7~1.3%程度ですが、初期治療失敗例では12~22%に関与したと報告され、胸部CTや気管支鏡検査も考慮します、

 

医療・介護関連肺炎の定義は①長期療養型病床群もしくは介護施設に入所している、②過去 90 日以内に病院を退院した、③介護を必要とする高齢者・身体障害者、④通院にて継続的に血管内治療を受けている、となっています。在宅医療患者や医療介護施設の入所者が最も多く、後期高齢者の割合が大きく多くは誤嚥性肺炎といわれています。分離された菌は肺炎球菌が12.4%で最も多く、肺炎桿菌、MRSA、緑膿菌、インフルエンザ菌、MSSA、ストレプトコッカス属、大腸菌、肺炎クラミジア、モラクセラ・カタラーリスの順でした。耐性菌の検出は院内肺炎よりも少ない結果で、標準市中肺炎治療の標的にならない耐性菌分離頻度は 7 ~ 15% で、広域抗菌薬の投与の必要性は高くありません。症状の訴えが乏しいことが多く、発熱があれば積極的に聴診を行い、crackleなどの所見やSpO2低下などがあれば、胸部 X 線で新たな浸潤影の有無を確認する必要があります。重症度評価はA-DROP スコアなどにより行うことを弱く推奨することとしました。重要な耐性菌リスク因子は以下の7つです。①挿管による人工呼吸器管理を要する②過去90日以内の抗菌薬使用歴③経腸栄養④低アルブミン血症⑤免疫抑制状態⑥過去90日以内の入院歴⑦過去1年間の耐性菌検出歴、です。重症度評価して軽症で外来治療時は市中肺炎に準じてエンピリック治療し、入院時は重症で耐性菌リスク1つ以上・非重症で耐性菌リスク3つ以上の時は広域抗菌薬とし、それ以外は狭域抗菌薬となります。広域抗菌薬の場合は培養検査の結果によりde-escalation 治療を行うことを考慮します。

 

65歳以上の人へ肺炎球菌ワクチンの効果は確立したものと考えられ、RSウイルスワクチンは海外では60歳以上または肺に基礎疾患を有する人では接種が強く推奨され、日本ではデータが乏しいものの接種可能となっています。

口腔内細菌の誤嚥で発症する肺炎は、口腔ケアで口腔内を清潔に保ち細菌数を減らすことで予防できます。本邦の高齢者施設入所者のRCTで、質の高い口腔ケアで肺炎の発症や死亡率を減少させることが報告されました。(義)歯には(義)歯ブラシを用い、舌などの粘膜は舌ブラシや粘膜ブラシなどで除去します。海外の研究の大半は高濃度のクロルヘキシジンの使用でしたが、本邦ではアナフィラキシーショックの懸念から高濃度のクロルヘキシジンは禁忌で、洗口液はポピドンヨードやベンゼトニウム塩化物などを使用することが多くなっています。口腔ケアは弱く推奨されました。


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