著者紹介
2017年6月1日初版の飛鳥新社から発刊された本で、著者は西山耕一郎氏です。西山氏は1957年生まれの北里大学医学部を卒業された耳鼻咽喉科・頭頸部外科医で、30年で約1万人の嚥下治療患者の診療をされ、2004年から開業されています。
トレーニングについては本の中にはわかりやすく記載されています。
肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい
内容
人間はのどから衰える生き物と思っています。飲み込むタイミングがズレるとムセや咳込みますが、ムセることが多くなると飲み込み力が低下した証拠です。このサインを無視し続けると、窒息や誤嚥で命を失うリスクがぐっと高まります。誤嚥とは飲食物や唾液が気管や肺に入ることを指します。気管に入りかけた場合誤嚥とは呼ばず喉頭流入と呼びます。この段階でムセたり咳込めば大きなトラブルにはつながりませんが、しょっちゅうなら老化のサインです。誤嚥しても量やその人の抵抗力により誤嚥性肺炎になるかならないか決まるので、若い人では肺炎にならないことがほとんどです。高齢者ではムセたり咳込みする咳反射がおこらないことがあり、慢性的に誤嚥を繰り返すとムセることがなくなるとされます。近年80、90代まで生きる人が多くなって飲み込み力が低い人が増え、誤嚥性肺炎になる人が増えたということです。
飲み込み力が弱くなるとのど仏の位置が下がってきます。のど仏は正式には甲状軟骨の喉頭隆起で、男性は出っ張った突起がありますが男女ともにあります。喉頭は空気と食べ物を仕分けする役割があり、気管と食道の分岐点に喉頭蓋というのどのフタがあり、食事時にはフタをして食べ物が気管に入らないようにしていますが、のどのフタを塞ぐ際に喉頭は上前方にせり上がり、これは喉頭挙上筋群により引っ張りあげられます。歳をとると筋肉が衰え喉頭を上げる力が下がり喉頭の位置も全体に下がっています。喉頭の位置が下がるとのどのフタが閉まりにくくなり誤嚥しやすくなります。反射の衰えや喉頭知覚の低下もありますが、のど仏の筋肉の衰えは最も誤嚥を進ませやすい要因と言って差し支えありません。
私たちの体を動かす骨角筋は30代以降年1%の割合で量が減るとされています。内蔵を動かす喉頭挙上筋群の平滑筋は衰えにくいのですが、まったく衰えないことはないです。咽頭はアゴから宙吊りされているような構造で、喉頭挙上筋群がわずかでも衰えると引力に負けて下がりやすくなります。のど仏の位置は60代以後ガクンと下がりますが、40代から下がり始めます。喉の筋肉もトレーニングで鍛えれば、のど仏の位置を下げずに高い位置をキープし、将来の誤嚥や肺炎のリスクを効果的に減らすことができるのです。あらゆる筋肉はどんなに歳をとっても鍛えることはできます。一般的に筋肉をつくるのに要する時間はだいたい6週間で、喉の筋肉も同じです。40代50代以降飲み込み力低下のサインがでたら、できるだけ早い段階で飲み込み力をあげるトレーニングを始めるほうがいいのです。食べ物を飲み込めなくなったのをきっかけに認知症になる人、寝たきりになってしまう人もいて、ガクンと衰える人は少なくありません。
喉には食べ物を飲み込みエネルギーを取り込む嚥下、空気を出し入れする呼吸、声を出す発声の3つの機能を担っています。飲み込み力を鍛えていくにはの3つの機能を総合的に向上させていくことが大事になります。嚥下とは、口で食べ物を咀嚼し飲み込みやすい形にし、口を閉じ、食べ物が口から喉に送られ食べ物を飲み込むことです。この動きを0.8秒で行っています。その間の0.5秒に口と鼻と気管への通路が塞がれ食道へのルートだけ開くのです。繊細かつ巧妙な動きで成り立っていますが、これを日々の食事で無意識に行っています。歳を取るとこの連携のタイミングにズレが出て、のど仏の位置が下がり、反射神経が落ち、喉頭挙上筋群の筋力が落ちるとタイミングよく通路の開け閉めができなくなり、気管への通路に隙間が開いて誤嚥しやすい状態になります。こうしたトラブルを防ぐには喉頭挙上筋群の筋肉を鍛えることがカギとなります。嚥下は反射運動で無意識で自動的に遂行されるシステムですが、嚥下する際は意識するクセをつけるほうが良いでしょう。ちょっと意識するだけでより確実性が増します。肺炎は治療が遅れると回復が難しくなり、知らず知らずのうちに炎症が広がり肺の呼吸機能が低下し嚥下機能も低下する負のスパイラルに陥る可能性もあります。飲み込み力には呼吸の良し悪しが非常に関係しています。食べ物を飲み込む際息を止めます。飲み込んだ後に呼吸を再開しますが、飲み込んだ後は息を吐き出すほうがいいです。呼吸が浅い人、呼吸器が弱い人、肺活量が落ちてる人は飲み込んだ直後に息を吸ってしまうことが多く、それで誤嚥になるケースが少なくありません。1分間に20回以上呼吸する人は誤嚥しやすいと言われています。鼻詰まりの人も飲み込んだ後に息を吸って誤嚥しやすくなります。口呼吸する人も無意識に息を吸ってしまうようになり誤嚥の可能性が高くなります。大きな声や高い声を出すと喉頭の筋肉が効果的に刺激され、飲み込み力を鍛えることにつながり、カラオケ、おしゃべり、笑いをおすすめしています。ただし食事中のおしゃべりはあまりおすすめできません。声がかすれてしまう人は誤嚥性肺炎を一度疑ってみたほうがいいかもしれません。飲み込み力は全身の体力と相関しています。体力の目安となるものに握力があり、誤嚥する人は握力が低い結果が出ました。体力をキープするために適度な運動を習慣にしてほしいものです。飲み込み力の維持・向上のため有酸素運動が適していて、おすすめはウォーキングです。少し汗ばむ程度の早歩きがベストで、長く続けることが大切です。
飲み込み力をつけるトレーニングは喉、呼吸、発声の3つの大きな柱があります。トレーニングはハードルが低く、40代50代60代の方は少し物足りなく感じるかもしれません。長く続けることが最もいい結果につながります。
わたしたちは1日に約600回は飲み込みます。その時に誤嚥しないために食事中に気を付けたい9か条があります。
ながら食いは厳禁で食事に集中しましょう。刺激物を摂りすぎると喉や気管の粘膜が弱って炎症を起こすようになるので、激辛の食べ物、熱い食べ物や飲み物、強いアルコールはほどほどにしましょう。液体は最も誤嚥しやすい食形態で、柔らかくまとまりがありベタベタしない中華料理の形態が誤嚥しにくく、水物は最初を避けて慣らしてから摂りましょう。サラサラはムセやすく、モチモチは詰まりやすく、ベタベタはくっつきやすく、ボロボロはばらけやすく、ペラペラは貼り付きやすく、パサパサはぱさつきやすいので、それを覚えて気をつけましょう。スプーン1杯より少ない一口量にし、ちょうどいい食事時間は30分程度です。よく噛めばムセないは間違いで、適度なまとまりができたら飲み込みましょう。早食いはだめで、麺類をすするのが難しいときは麺は短く切り汁にトロミをつけましょう。上を向いて食べるのは危険で、軽くお辞儀する頭をやや前に倒して食べるのが誤嚥しにくいです。小骨が刺さった時にご飯を丸呑みするのはNGで、ムセている人の背中をトントン叩いたり水やお茶を飲ませる行為も間違った応急処置で、上半身を前方へ水平にして吐き出しやすい状態で咳をさせるのが正解です。
痰が溜まりやすいのは喉が弱いからでなく気管や肺が弱い可能性があり、早めに呼吸器科を受診しましょう。冷たい空気を吸うと咳き込むのはのどの粘膜が弱って少しの刺激でも反応するからです。タバコを吸うとのどが痛くなるのは、数々含まれる有害物質が喉や肺の粘膜を傷つけるからです。逆流性食道炎も誤嚥する可能性があり、上半身を少し上げて寝るのが予防におすすめです。男性が女性と比べてのど仏が下がりやすいのはおしゃべりが関係しているかもしれず、定年後も会話を減らさないよう気をつけましょう。のど飴にはスーッとする成分がたいていはいってますが、治るかは少々疑問で、痛みが長引くなら耳鼻咽喉科を受診しましょう。うがい薬は喉の粘膜に刺激が強すぎで、口腔内の正常な細菌バランスを壊すことも指摘され水で十分です。しゃっくりは横隔膜のけいれんで喉は全く関係ありません。喉の粘膜のため乾燥対策は重要で、加湿器は有用ですがこまめな掃除が大切です。睡眠時無呼吸症候群はのどの上気道が塞がることが原因で、悩みの方は速やかに専門医を受診しましょう。誤嚥性肺炎を防ぐため口腔ケアは重要です。のどを詰まらせたときの対応は電気掃除機で吸引する方法もありますが、舌を吸わないように口の中にノズルを入れた後にスイッチを入れましょう。 ハイムリック法といい胸骨とおはその間で手をつなぎ、グッと断続的に両手で横隔膜を刺激する方法もあります。
胃ろうを作り口ではないところから栄養を送ることで延命し続ける場合もあります。誤嚥性肺炎を起こすリスクはぐっと減少しますが、費用や生きる尊厳の問題があります。
嚥下機能を回復させたことによって元気を取り戻した患者さんはたくさんいます。口から食べる行為が脳や体に大きな刺激をもたらしているからかもしれません。
感想
誤嚥性肺炎が増えてきて、ちょうどいいタイミングで発売されてベストセラーになった記憶がある本です。肺炎は一度発症すると繰り返す人が多く、こういったトレーニングで鍛えて肺炎にならずに年を取っていくのが望ましいです。