過敏性肺炎診療指針2022

これまでに国際的に統一されたガイドラインがなく2020ATS/JRS/ALATガイドラインが発表され、2021年にCHESTからガイドラインが発表されました。これを踏まえて我が国の実情に合わせて本ガイドラインが日本呼吸器学会編集で発刊されました。

過敏性肺炎診療指針2022

過敏性肺炎は抗原の反復吸入により胞隔や細気管支にリンパ球浸潤を主体とした炎症を来すアレルギー・免疫性疾患です。以前はpneumonitisであるため過敏性肺臓炎としていた時もありましたが、肺炎は広い意味でつかわれることもあって過敏性肺炎となりました。

過敏性肺炎の歴史は急性過敏性肺炎から始まったため病理組織学的には肉芽腫の存在が重要視されていました。その後CTや外科的生検の進歩により、広範囲に肺線維化をきたし肉芽腫の観察されない慢性過敏性肺炎症例が認識されるようになりました。

慢性過敏性肺炎は潜在性に発症し進行すると、臨床像・病理像とも特発性肺線維症と類似すると報告されました。

2020ATS/JRS/ALATガイドラインでは急性・亜急性・慢性分類が採用されず、非線維性・線維性分類に準拠しています 。急性過敏性肺炎はすべて非線維性過敏性肺炎で、慢性過敏性肺炎は非線維性過敏性肺炎と線維性過敏性肺炎の両病型を取りうります。

2000~2009年全国調査の222例の内訳は60.4%が鳥飼病、14.9%が夏型過敏性肺炎、11.3%が住居関連過敏性肺炎、1.8%が農夫肺、1.4%がイソシアネート関連でした。線維性過敏性肺炎は、非線維性過敏性肺炎に比べより高齢、抗原が不明、低肺活量、低拡散能で、BAL液のリンパ球比率は低いと報告されています。BAL液のリンパ球分画は線維性過敏性肺炎では20%以上、非線維性過敏性肺炎では40%以上を目安としますが、それ以下でも否定はできません。原因抗原は300種以上知られ、年々増加傾向にあります。診断時に職業歴・生活環境を含め幅広い問診が必要です。鳥関連過敏性肺炎はハト飼育者の6~20%、インコ飼育者の0.5~7.5%で発症したと報告されています。

過敏性肺炎の過去のコホート研究において、原因抗原は30~50%で特定されていません。非線維性過敏性肺炎は抗原曝露による急性反応として咳嗽、発熱、炎症反応の上昇、すりガラス陰影の悪化などを伴うことが多く、特に職業環境に由来する過敏性肺炎は抗原量が多いため急性の病型が多く、就業中に症状が出現し環境に原因を求めやすく抗原を推定することは容易です。一方で線維性過敏性肺炎は、急性症状を伴わずに徐々に進行しうるために、抗原の推定は容易ではありません。特発性肺線維症診断46例を過敏性肺炎の可能性を再検討した報告で、抗原曝露に関する精査で43%が過敏性肺炎に診断変更となりました。抗原未特定は生存期間中央値は有意に悪く、抗原曝露の適切な回避で努力肺活量は非線維性過敏性肺炎で有意な改善があり、線維性過敏性肺炎でも改善傾向が示されました。

実臨床において病歴聴取で疑いのある抗原について精査し、続いて抗原特異的抗体検査、誘発試験、抗原回避、環境調査などもあわせて総合的に判断します。発生源は大まかに以下の4つ、水の汚染(換気装置、居住環境、職業性)、植物関連(農作業や食品加工、穀類、木材)、動物関連(鳥関連、鳥類以外の動物、食品加工)、工業における無機物(化学物質、金属、薬物)に分類できます。環境調査は自宅や職場に実際に赴いて、問診のみでは得られない環境曝露を評価でき、過敏性肺炎の診断と原因抗原の特定、環境からの微生物のサンプリング、環境改善策も提案できて有益と考えられますが、エビデンスは限られています。実臨床では抗原が未特定、増悪を繰り返す場合に環境調査は適応することになるでしょう。

本邦で2021年8月時点で商業化され特異抗体測定可能な抗原は、Trichosporon asahii、鳥抗原(ハト、セキセイインコ)の2種類のみです。ハト、セキセイインコ抗原の特異的IgG抗体のカットオフ値をハト24.6mgA/L、セキセイインコ8.7mgA/Lとし、いずれかまたは両者が陽性であった場合を陽性と判定した場合、抗原曝露と関連した急性症状を伴う過敏性肺炎では感度85%、特異度80%でしたが、慢性鳥関連過敏性肺炎では感度48%、特異度80%でした。そのため慢性では特異抗体陰性でも臨床経過や他の免疫学的検査を含めて総合的に評価する必要があります。頻度の高い原因抗原を対象に、エビデンスの構築と商業利用可能な検査法の確立が、今後の取り組むべき課題となっています。

血清KL-6は一部の無症候性農夫肺でも上昇するため、無症候性過敏性肺炎を検出できる可能性があります。夏型過敏性肺炎、きのこ栽培者肺、鳥関連過敏性肺炎など多くの過敏性肺炎で血清KL-6とSP-Dが上昇し、BAL液リンパ球数と血清KL-6とSP-Dは相関します。また血清SP-Dが高い線維性過敏性肺炎ほど予後が悪いとの報告もあり、病勢の評価に有用な可能性があります。血清KL-6の最大値と最小値の比が3.15倍以上の季節性変動がある場合、過敏性肺炎の可能性が高く、特に冬のKL-6最大値が夏の最大値の1.64倍以上季節性変動ある場合、鳥関連過敏性肺炎の可能性高いです。抗原回避による血清KL-6の低下は、診断補助、モニタリング、予後推定に有用です。2週間入院の抗原回避で、①肺活量が3%以上増加、②KL-6が13%以上減少、③白血球数が3%以上減少のいずれか2つ以上満たす場合、慢性過敏性肺炎の診断能は感度51.0%、特異度80.7%で、KL-6が10%未満しか低下しない場合は予後不良です。

2020ATS/JRS/ALATガイドラインでは、仰臥位かつ深吸気で撮影し、間隔を空けない1.25mm以下の薄切CTで全肺を表示することが推奨されています。小葉中心性分岐・粒状影、低吸収小葉を伴うモザイクパターン、three-density pattern、air trappingが該当します。小葉中心性分岐・粒状影は、周囲肺野との境界が不明瞭なすりガラス濃度の病変が主体です。コントラストの高い分岐状影や樹枝状影が主体の場合は、肺結核を含む抗酸菌感染症、非常に微細な淡い粒状影の場合呼吸細気管支炎が疑われます。モザイクパターンは肺野にすりガラス陰影が不均一に分布していることを示し、Three-density patternとは、2つのモザイクパターンの混在、すなわち正常な吸収値、すりガラス陰影にみえる領域、そして相対的に吸収値の低い過膨張な小葉という3段階の肺野濃度が同時に観察されるものを指します。この所見はIPFと線維性過敏性肺炎の鑑別において、線維性過敏性肺炎診断の特異度が高いことが示されています。線維性過敏性肺炎ではPPFEに類似した胸膜直下の硬化影が肺尖部~上肺野レベルを主体にみられることがあり、病変内部の囊胞状気腔拡張や牽引性気管支拡張が目立つことが多いです。典型的な小葉中心性粒状影が観察された場合、診断に対する価値は非常に高く、まれに強い炎症所見や虚脱がある場合は部分的にコンソリデーションを呈することもあります。潜在性発症型のHRCT所見の特徴は、再燃症状軽減型と比較するとすりガラス陰影がやや乏しく、明確な小葉中心性粒状影が認めづらくなることです。蜂巣肺や強い牽引性気管支拡張を伴いIPFとの診断が困難な症例も多いです。症例によって差があり、やや粒状影が目立つことや頭尾方向に比較的均一な所見分布があることからIPFよりも過敏性肺炎の可能性が高いと判断できる場合もありますが、それぞれ20%程度の症例にとどまります。

過敏性肺炎の病理像は、末梢気道ならびに肺胞領域の炎症細胞浸潤、肉芽腫形成、線維化の複合病変として観察されます。リンパ路の分布は上肺野と下肺野において異なり、上肺野ではより気管支血管束周囲に、下肺野では胸膜直下優位にリンパ流が発達するため、沈着物質を原因とする病変の分布も上肺野と下肺野で異なります。

TBLBは非線維性過敏性肺炎が疑われるときに推奨されますが、線維性過敏性肺炎では線維化の性状や分布を正確な把握は困難で、近年導入されてきた経気管支クライオ肺生検では、より広く細葉病変の採取可能で、線維性過敏性肺炎の診断にも活用可能です。診断率が高く出血や気胸などの合併症の発症率は同程度と報告されています。外科的肺生検との比較では、低い一致率を示す報告と高い一致率を示す両方の報告があります。

非線維性過敏性肺炎の典型例の病変は基本的には経気道性分布で、呼吸細気管支、肺胞管から肺胞にかけて病変が分布することが特徴的です。①細胞性間質性肺炎の存在、②細胞性慢性細気管支炎、③幼若な非壊死性肉芽腫の存在です。

典型的な線維性過敏性肺炎の組織所見は①慢性線維化性間質性肺炎、②気道中心性線維化、③幼若な非壊死性肉芽腫は非線維性過敏性肺炎と同様に線維化の軽い部分や線維化のない部分でみられることがあり、過敏性肺炎の組織診断の根拠となります。

UIPを呈する慢性過敏性肺炎とIPF/UIPの外科的肺生検の病理組織像を比較検討した報告では、細気管支炎、小葉中心性線維化、架橋線維化、腔内器質化、肉芽腫、巨細胞、限局性のリンパ球性胞隔炎、リンパ濾胞に有意差がみられ、細気管支周囲性(小葉中心性)線維化、架橋線維化がUIPパターンを示す線維性過敏性肺炎で高頻度に認められました。

線維性過敏性肺炎では細気管支周囲の細気管支上皮化生が多くみられ、一方、胚中心を持つリンパ濾胞、形質細胞浸潤は膠原病間質性肺炎で優位に認められましたが、線維性過敏性肺炎と膠原病が合併する場合もあります。

原因抗原の曝露による誘発試験があり、吸入誘発試験と環境誘発試験があります。誘発試験は日本がスペインやメキシコとならび世界を牽引してきた分野ですが、海外のガイドラインでは低評価です。ジェットネブライザーでは2~20分間、超音波ネブライザーでは15~30分間吸入を行い、吸入24時間後に明らかな反応を認めない場合は、同じ濃度で翌日再度吸入を行うか、吸入濃度を10~20倍高くして、24~48時間後に2回目の吸入誘発試験を施行してもいいです 。吸入開始から1時間おきに24時間後まで体温を測定することが多いです。努力肺活量や肺拡散能は、検査前と6・24時間後の2回測定し、採血は検査前と6~8時間後に1回目、24時間後に2回目を行います。白血球・白血球分画、赤沈、CRPなどを測定し、KL-6やSP-Dや抗ハトIgG抗体価は指標とはなりません。動脈血液ガス分析は検査前と6・24時間後に測定します。日本で行われた線維性過敏性肺炎に対する吸入誘発試験では%FVCの低下は0.5~2%で 、呼吸機能の閾値および判定寄与度に関してはさらなる検討が必要です。

環境誘発試験はいずれかの試料を小屋に置き単一の抗原に曝露させる方法と、単純に通常飼育行為や通常勤務をさせることもあります。曝露時間は症状出現を観察しながら10分間~8時間で、陽性判定基準は吸入誘発試験と同様の項目とします。

吸気中期 のsqueaks (またはchirping ralesやsquawks)、喫煙歴なし、閉塞性障害または混合性障害も過敏性肺炎診断の予測因子ですが有用性は限定的です。過敏性肺炎は主に抗原曝露の特定、胸部HRCTパターン、BAL液リンパ球/病理組織学的所見に基づいて診断されます。問題は、個々の所見は単独では過敏性肺炎の診断には十分ではなく必須でもないです。このため過敏性肺炎の診断には、異常所見の複数の組み合わせが発生する可能性があり、この診断アルゴリズムは線維性過敏性肺炎と非線維性過敏性肺炎の両方に適用しますが、両者にその特徴に根本的な差があります。

急性過敏性肺炎では抗原回避のみで改善がみられることが多いため、入院後に自然経過で画像所見や呼吸状態が改善すれば急性過敏性肺炎の診断を強く支持する根拠となります。線維性過敏性肺炎における抗原回避の診断的意義について検討した報告は少ないです。

抗原回避の効果を確認するために、一定の期間をおいて病勢を評価する必要がありますが、評価時期について統一された見解はなく、慢性過敏性肺炎の病状が改善するのには環境改善後3週間以上を要する報告や、鳥飼病においてKL-6とSP-Dが低下するには最低でも抗原回避後1か月かかる報告があります。

抗原回避は急性過敏性肺炎だけでなく線維性過敏性肺炎においても大きな治療的意義を有するといえます。

急性発症の非線維性過敏性肺炎に対して経験的にステロイドが第一選択として使用されてきましたが、急性期の短期的な症状改善効果はあるものの長期的な予後の改善は認められていません。

慢性過敏性肺炎へのアザチオプリンの後方視的検討では、12・24か月後のFVCは有意に改善し、肺拡散能に有意な変化は認めませんでした。リツキシマブは一部の症例にFVCや肺拡散能の改善を認めましたが感染症の死亡例も認めました。

抗線維化薬ニンテダニブは、FVC年間減少率を有意に抑制する結果が示されました。

急性過敏性肺炎を含む非線維性過敏性肺炎に対し、抗原回避ができないか呼吸不全を呈する場合ステロイド治療の適応です。プレドニゾロン0.5〜1.0mg/kg/日で、低酸素血症が高度な場合ステロイドパルス療法を開始し、その後プレドニゾロン0.5〜1.0mg/kg/日としますが、漸減方法・治療期間についてのコンセンサスはなく、約1か月間での治療終了を目標とします。

線維性過敏性肺炎に対しプレドニゾロン0.5〜1.0mg/kg/日で開始し、漸減方法・治療期間のコンセンサスはなく、臨床症状、呼吸機能、画像所見をみながらプレドニゾロン投与量を漸減します。病状の進行やステロイドの投与期間が長期になる場合、ミコフェノール酸モフェチルやアザチオプリンを併用してステロイドの漸減を図ります。ただし現時点では両薬物とも保険適応はありません。線維化を伴う場合にはニンテダニブの投与も考慮します。特に画像・病理所見でUIP様の場合には、ステロイドを減量し抗線維化薬治療を主体とします。

合併症としての肺がん発症はUIPと同等とする報告と発症率が低いという報告があります。

慢性鳥関連過敏性肺炎100例について検討した報告で、2年後の急性増悪の頻度は11.5%でした。

予後不良因子は線維化の存在、蜂巣肺などUIPパターンのHRCT所見、呼吸機能検査でベースラインの検査値が不良なことと経年的な呼吸機能の低下が大きいこと、BAL液リンパ球数の低値です。すりガラス陰影やモザイク状肺野濃度の存在、入院による抗原回避によってKL-6が10%以上低下した患者は良好な予後と関連します。

急性夏型過敏性肺炎の原因となるTrichosporonは気温25〜28℃、湿度80%の環境を好み、梅雨の木造家屋で繁殖しやすく、1980年代の全国調査で85.7%が6~9月に発症、ピークは7月でした。多くの症例は11月には自然軽快し、翌年以後の夏に38%再発しました。自宅の89.5%が木造家屋で、築年数は平均20.5年で多くは湿った部屋・日当たりの悪い部屋・風通しの悪い部屋でした。木造建築は最近減少していて発症率が減少傾向という報告もありますが、地球温暖化、住居の気密化、エアコン普及、喫煙率の低下などもあり今後の動向については興味が持たれます。発症年齢は40代がピークの2歳〜86歳で、女性は男性の2倍、39.8%が専業主婦で家族内発症は23.8%でした。ほとんどの症例で咳嗽を認め、約9割で労作時呼吸困難、約8割で発熱などの急性症状を認めます。胸部聴診で吸気時fine cracklesを聴取し、血液検査ではWBC増多(時に好酸球増多)・CRP上昇・低酸素血症、KL-6・SP-D上昇を認め、他の間質性肺疾患に比べ高値の傾向です。呼吸機能検査では拘束性換気障害・拡散障害が主体ですが、時に閉塞性障害を呈します。BAL液ではリンパ球増多を認め、CD4/CD8比は低い傾向です。HRCT所見ではびまん性の淡い小葉中心性粒状影やモザイクパターンが、病理所見では胞隔炎・肉芽腫・マッソン体などが特徴的です。夏型過敏性肺炎は海外のガイドラインでは抗トリコスポロン・アサヒ抗体陽性かつHRCTでtypicalなら気管支鏡なしに診断できるものもありますが、わが国では歴史的に特徴的な臨床像・発症環境に免疫・病理学的所見もしくは環境誘発症状を満たせば診断してきました。抗トリコスポロン・アサヒ抗体検査、入院後数日から数週間で症状軽快し帰宅後4〜8時間で症状が再燃する環境誘発試験、必須ではありませんが①落下真菌培養法による浮遊真菌検出、②電気掃除機からの粉塵採取、③居間・寝具・台所の木製床・浴室の壁や床・その他湿っぽい場所などのスワブ培養などでTrichosporonの検出が、特に原因抗原との関連性を示します。

慢性(線維性)夏型過敏性肺炎も報告され、診断は線維性過敏性肺炎の画像病理所見と、T. asahiiを主体とする原因抗原検索が必須ですが、診断困難な場合もあり、抗トリコスポロン・アサヒ抗体のカットオフ値は急性夏型過敏性肺炎症例で設定されたもので注意が必要です。

鳥関連過敏性肺炎は、多くの鳥が抗原になりうり、鳥飼育を含む直接の鳥への曝露以外に、鶏糞肥料の使用、羽毛布団やダウンジャケットなどの使用、鳥の剝製への曝露によっても発症することが報告されています。経過は他の慢性過敏性肺炎と著変なく、検査は血清特異抗体の他にリンパ球刺激試験や吸入誘発試験があります。治療は原因抗原からの回避で、一般的な薬物療法も検討されます。

住居関連過敏性肺炎は、主に家屋の浴槽や壁の真菌を吸入抗原し、狭義には夏型過敏性肺炎を除いたものを指します海外では近年報告数が増加しており、本邦でと気密の高い住居が増え増加が懸念されます。Aspergillus属、Penicillium属、Cladosporium属などの室内環境真菌によるもので、血清の抗トリコスポロン・アサヒ抗体が陽性例もあり、慢性タイプの住居関連過敏性肺炎の原因抗原を特定できない可能性や、いくつかの真菌が抗原となりうることも示しています。25例の検討では男性が64%と多く、発症年齢中央値は69歳、発熱32%、咳嗽64%、呼吸困難を64%に認め、fine cracklesが91%で聴取されました。診断には環境調査が必要になることがあり、治療はステロイドや免疫抑制剤が考慮されますが、予後は他の慢性過敏性肺炎と変わりない報告が多いです。

農夫肺は、かびの生えた牧草や干し草を扱う職業にみられ、北海道と東北地方に多いです。夏に刈り取って屋内で保管する間に湿気を好むかびが増殖し、秋〜翌年春に家畜の飼料として与える作業で曝露されて同じ季節に発症します。発症は急性型が多く一部は慢性型です。原因抗原を吸入して3〜6時間後から咳嗽、呼吸困難、発熱が生じ、抗原から隔離すると症状は自然軽快します。血清沈降抗体検査で原因菌抗原に対する抗体が陽性となります。BAL液では、総細胞数とリンパ球比率が増加しますがCD4/CD8比は増加することが多いです。診断確定に環境曝露試験が有用です。抗原回避が最善の対処法ですが、生活の糧を失うこともあり防塵マスク使用や環境改善で曝露を避け職業を続けることもありえます。治療としてステロイド投与は短期的には有効も長期的には効果なくなり、急性症状に短期間の使用を考慮します。

イソシアネートは自動車の塗装や吹きつけ作業で曝露されることが多く塗装工肺ともよばれます。イソシアネートの曝露を受けていた労働者の約1%弱が発症しうる頻度と報告され、喘息よりは低いとされています。使用開始2~5時間後に症状出現し、仕事のない休日に症状が軽快するかが重要な問診事項で、まれに長年の曝露で慢性の病型をとると診断が困難となります。急性期には他の非線維性過敏性肺炎と同様の画像所見を呈するのが基本ですが、夏型過敏性肺炎などと比較して陰影の分布が不均等で、粒状影は癒合傾向が強いためCOPで認められるようなコンソリデーションを肺野末梢に呈することがあると報告されています。環境誘発試験が一般的ですが、短期間の環境誘発試験では陽性を示さない報告例もあり、抗原吸入誘発試験もあります。イソシアネートとヒト血清アルブミンとが結合したハプテン担体形を抗原としたIgGやIgA抗体の特異抗体や、リンパ球刺激試験もあります。治療は抗原からの回避、有機ガス用・防毒用の吸収缶マスク着用をし、薬物療法はステロイドが中心です。

加湿器肺は咳嗽、呼吸困難、発熱などがみられ、冬場の乾燥する時期に多く発症します。背部で捻髪音や水泡音を聴取し、加湿器使用の中止で比較的短期に改善します。胸部HRCTで両肺のすりガラス病変やコンソリデーションの頻度が比較的高く、夏型過敏肺炎に非典型的な症例も少なくなく、抗原特異性やエンドトキシンの関与なども考えられ、治療は抗原からの回避とステロイド中心になります。

きのこ栽培者肺があり、きのこ栽培従事者はきのこ以外に、高温・多湿な環境の中で多くの真菌、細菌、有機物質に曝露され、これらいずれも原因となりうると考えられています。胞子が原因抗原となりますが、宿主因子として遺伝子も重要で、特定HLAも発症に関連している可能性が示唆されています。乾性咳嗽、息切れ、発熱などが抗原曝露4~8時間後に出現しで数時間持続します。中にはきのこ栽培に従事して10年以上経過してから診断される例も多く、抗原から離れると症状は改善する場合が多いものの長期に持続する症例もみられます。ぶなしめじ胞子のリンパ球刺激試験は偽陽性が多く注意が必要です。抗原からの回避が必要ですが、職業で困難な場合はN95マスク装着などもします。薬物療法はステロイドが中心となります。

hot tub lungの原因吸入抗原となる抗酸菌は、ほとんどがM. aviumで、自動車工場などではM. immunogenumが原因で機械工肺を発症します。症状は平均2か月ほど続く亜急性の経過を取ることが多く、74%の症例で喀痰の抗酸菌培養検査が陽性となります。BAL液中のCD4/CD8比が著増している非線維性過敏性肺炎を診断した際は、積極的にhot tub lungを疑うことが肝要です。標準治療は確立されておらず、ステロイドや抗菌薬やその併用ですが、概ね予後良好とされます。


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