著者紹介
2023年6月30日初版の河出書房から発刊された本で著者は坂田英明氏です坂田氏は1988年埼玉医科大学を卒業され耳鼻咽喉科に従事され、2015年にクリニックを開業されています。
図解いちばんわかりやすいめまいの治し方
内容
めまいの場合脳や内耳などの平衡感覚に異常が起きている症状です。めまいを起こす背景因子の例として、ストレス・うつ、疲労・睡眠不足、体質、加齢、生活習慣病、薬物、騒音、事故があります。めまいを繰り返している場合、体の異常を伝える信号発信だと捉え、動脈硬化や心臓疾患、一過性脳虚血発作、耳鳴りや難聴、精神疾患も考えます。
めまいを起こすのは末梢前庭系(耳)や中枢神経系(脳)の障害が疑われます。耳の原因の場合命の危険性がないからと軽視されがちですが、精神的な苦痛、生活の支障は伴います。耳に関連する病気として良性発作性頭位めまい症、メニエール病、レルモワイエ症候群、めまいを伴う突発性難聴、前庭神経炎、外リンパ瘻、脳に関連する病気として一過性脳虚血発作、脳梗塞・出血、悪性発作性頭位めまい症があります。
めまいがあるとまっすぐ歩けない、立ち続けられないなどの運動障害を伴います。まためまいが起こるかもしれないという過剰意識が精神不安を招きうつ病などの精神疾患に発展することもあります。
めまいはグルグル回る回転性、フワフワする浮動性、クラッとする動揺性のほか、意識が喪失する眼前暗黒感、失神発作、一過性・反復性動揺視に分類されますが、疾患が急性期にあるか慢性期に移ったかの判定や背景因子を探しだすのに大いに役立ちますが病名を突き止めるのには役立ちません。
内耳は外耳・中耳のさらに奥にある器官で、聴覚を担当する蝸牛、平衡器である耳石器と三半規管で構成されます。耳石器と三半規管は迷路のような複雑な形をしており、二つ合わせて前庭迷路と呼ばれます。バランス感覚が維持できるのは前庭迷路や目や筋肉などの感覚器官から整然とした情報が脳に送られるからで、内耳や目や筋肉などから間違った情報が送られると小脳や脳幹が状況判断できなくなり大脳が混乱し、その状態で起こるのがめまいです。
耳石器は身体の傾きや直線運動を感じる器官で、三半規管は回転運動を感じる器官です。内耳の異常によるめまいは平衡機能が著しく低下しているためで、小脳や脳幹部の血行障害によるものも回転性のめまいが急激に起こります。腫瘍などの場合は進行が緩やかのためめまいが軽い傾向にあります。内耳の障害によっておこるめまいは大半は数分から数時間で症状が軽くなりますが、めまいを伴う突発性難聴や前庭神経炎、内耳炎などは約1週間続くものもあります。一過性なら疲労や睡眠不足のことも多々ありますが、期間をあけて繰り返す、頻繁に起きるなどすれば、耳・脳のいずれかで何らかの障害が発生していると考えられます。内耳に障害がある場合の大半は耳鳴りと難聴がセットで現れます。前庭迷路と蝸牛が隣り合って細い管で結ばれて影響を受けやすいからです。脳が関係しているものにおいては昏睡や呼吸障害や手足の麻痺などが現れることもあります。
良性発作性頭位めまい症は靴の紐を結ぶ、仰向けになるなどある方向に頭を向けたり、特定の姿勢をとると突然回転性のめまいと眼振が起こります。元の頭位に戻すとめまいと眼振が消えるのが特徴です。そのままの姿勢でも30秒ほどでおさまります。めまいを起こす頭位を繰り返すと症状が徐々に現れなくなります。耳鳴りや難聴は現れません。元の頭位に戻し安静にすることが大切で、治療は薬物療法やリハビリ療法が中心です。
耳石器に障害が起こるとめまいが起きますが、その原因として低血圧やアレルギ―体質であることがほとんどで、爆発音や頭部外傷、抗生物質などの薬物、慢性中耳炎で誘引されることもあります。
メニエール病は回転性のめまいが耳鳴りや片側の難聴に伴って突然現れることが特徴です。立てないほどの激しいものから軽症までさまざまで、激しい時は吐き気や嘔吐や顔面蒼白などの症状も生じます。めまいは数時間もすればおさまりますが繰り返すことがほとんどで、再発までの期間は体調も関係しており個人差が大きいです。内耳の内リンパ嚢が水膨れした状態で、初春や初秋の季節の変わり目で特に低気圧や前線の接近などで天候が不安定な早朝に生じやすいです。ストレスを抱えている人が多く、アレルギー体質や低血圧の傾向もあります。発作を繰り返すと平衡感覚と聴覚の機能は低下します。治療は薬物療法やステロイドなどの薬剤を内耳の局所に注入する処置を行い、手術しないといけないケースは稀です。
レルモワイエ症候群は先に耳鳴りと難聴が進行し、難聴が決定的になったと感じられる頃に突然激しいめまいが現れます。数時間後にめまいはおさまり聴覚も回復します。内耳動脈系の循環不全と内耳各機能の障害と考えられています。
突発性難聴は何の前触れもなく急に耳の聞こえが悪くなるものです。2週間以内に適切な治療をしない限り回復でなくなるといわれています。薬物中毒、内耳出血、内耳動脈血栓症・梗塞症、聴神経腫瘍の始まり、内耳梅毒などさまざまです。前下小脳動脈の塞栓で内耳動脈がつまるとめまいを伴います。フワフワと感じる浮動性のめまいが起き、やがてグルグルとした回転性のめまいに移行することもあります。血流が再開すると回転性から浮動性めまいの順におきます。治療は主に薬物療法やステロイドなどの薬剤を局所に注入する処置です。
前庭神経炎は風邪のような症状に続いて発症し、激しい回転性のめまいが起きます。耳鳴りや難聴を伴わず、吐き気や嘔吐を伴うことがあります。原因はウイルスとも考えられていますが不明で、治療は点滴や薬物療法が中心です。
外リンパ瘻は内耳の一部に穴が開くために起こり、水中ダイビングや飛行機の搭乗などで何らかの外力が働いたか、骨折などの外傷か、奇形に伴うものです。診断法は確立されています。内耳の穴は自然閉鎖する可能性もあるため、脳脊髄の圧を下げる姿勢で安静にします。その時に鼻をすすらないことが必要で、手術で穴を閉鎖するケースもあります。
一過性脳虚血発作は何のきっかけもなく激しいめまいを繰り返し、吐き気や嘔吐を伴い、一瞬意識がなくなります。めまいは2-15分でおさまり回復して障害の痕跡を残しません。耳鳴り、難聴、運動失調はなく、適切に治療すれば問題ないとされますが、重大な脳血管発作を招きかねないので注意が必要です。原因は血管のつまりで、内頚動脈系がつまると浮動性のめまいもしくは眼前暗黒感で、椎骨脳底動脈系では回転性のめまいになります。
脳出血の場合病変の部位でめまいのタイプが異なります。内頚動脈系は軽度の動揺性や浮動性のめまいですが、椎骨動脈系は平衡感覚をつかさどる部位を通るため激しい回転性めまいに襲われます。小脳や脳幹に脳しゅようがあり場合、回転性のめまいが起こります。
悪性発作性頭位めまい症は病巣が小脳虫部にあり腫瘍や出血が原因です。眼振は良性と異なり眼振は常に逆の耳の方に向かい、頭位を繰り返すたびに症状は現れます。
めまいの多くに自律神経が関与しており、自律神経に状をきたす大きな要因にストレスがあります。うつ病などの精神疾患がある場合も多く、心療内科での対応が必要になることも増えています。近年増加しているフワフワする浮動性めまいの人に精神疾患がある場合が少なくありません。
感覚器官の異常の場合もあり、目の病気や足底部の神経に異常がある場合も平衡感覚を狂わせます。更年期障害やホルモンバランスの乱れなども影響します。
乗り物酔いは前庭迷路から感じる揺れの加速度や周期がその人の限界を超えると自律神経が変調をきたし、めまいや吐き気の症状が現れます。目からの刺激が加わると錯覚からめまいをおこします。
ヘルペスウイルスや帯状疱疹ウイルスが原因でめまいが起こることもあります。疲れやストレスや風邪などで免疫力が低下したときに起きます。耳の奥で出現すると痛みが強くなり、めまいが2週間くらい続くこともあります。
近年持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)が増えていて浮動性のめまいです。慢性的に続いて身体的機能や認知機能を低下させてしまうこともあります。
病院に行くと医師は目の動きを見て眼振から障害のある場所が耳か脳かを特定します。次に問診でめまいの性状やいつからどのくらいあるのか、他の症状についてなどを聞きます。
めまいの検査でまずは耳の検査が欠かせず、聴覚、温度刺激による眼振、平衡検査や目に関わる特殊な検査をします。
治療は薬物療法として、血管拡張剤、血流促進剤、精神神経安定剤、自律神経調節剤、血圧昇圧剤や降圧剤などの薬剤を組み合わせます。めまいを克服するには第一に生活習慣の改善、第二に自己節制、三、四が薬で、第五にリハビリです。薬物は自己判断で中止しないことが大事です。
急性期の治療では眼振の向う側の耳に冷水を注入すると眼振は止まります。小脳や脳幹に障害がある場合は上下に振れる眼振を起こしており、下向きに振れるなら両耳に冷水を注入します。めまいが止まっている間に問診をします。メニエール病などでは中耳腔注入療法で水性ステロイド剤を使用することがあり、治療効果は良好で、1週間に1-2回を1セットとし、計3-4セットの治療を1クールとします。
生活習慣の改善と自己節制では食事と運動が大きなポイントで、ウォーキングを日課にしましょう。平衡感覚を鍛えるために軽い運動も取り入れます。血栓の形成を防ぐためこまめな水分補給が必要で、就寝前や入浴前には摂取しましょう。食事は栄養バランスを考えて摂取して自律神経を整えます。朝食はしっかりとるべきです。昼食は少なめで夜は身体を冷やす食材を選びます。入浴はぬるま湯にゆっくりと浸かり、長時間のテレビや、飲酒、喫煙は避けましょう。毛染め液がめまいを誘発することもあるため注意します。
感想
めまいは自律神経の関与が大きいため、第一は生活習慣の改善になるんですね。病院で治療するときは薬物療法が中心になってしまいますが、生活習慣の改善についても説明しないといけませんね。