著者紹介
2021年5月26日初版の宝島社より発刊された本で著者は新井基洋氏です。新井氏は1989年に北里大学医学部を卒業され、耳鼻咽喉科に従事されて現在は赤十字病院平衡神経科部長をされています。
実際にリハビリについては写真入りで分かりやすくあります。
薬に頼らず自分で治す!めまい・ふらつき
内容
めまいは日本では薬物療法が第一選択ですが、アメリカではリハビリが標準治療となっています。女性は男性の3倍で、めまいの9割は耳に原因がありリハビリが大いに効果を発揮し、ふらつきの6割は耳、2-3割が筋量低下で、7割程度はリハビリでふらつき症状を改善できます。めまいは耳の不調だけでなく、ストレス・過労・加齢などでも起こります。リハビリ体操は身体機能の改善・向上と心を元気にすることが大きな柱となっています。
2009年に世界的なめまいの学会であるバラニー学会で3つのタイプに分かれることが決まりました。
・視界がぐるぐる回る回転性めまい
・歩いているとふわふわする浮動性めまい
・体がふらつき足元が定まらない不安定めまい
似て非なるものとして立ち眩みもありますが、主な原因は血流障害です。最近はフレイルを合併するめまいの患者さんも少なくありません。
回転性めまいは、数分から数時間続くものもあります。吐き気や嘔吐を伴います。右回りで左側に倒れそうな人は右耳が原因と考えられます。めまい発作が起きた場合、不調のある耳を上にして横になることで症状が軽減しやすくなります。
浮動性めまいは、きつい症状が出にくい一方で症状が長期化しがちになります。症状の持続で、精神的な不安や不快感をつのらせてしまう人も多く見られます。以前は脳疾患が原因とされていましたが、脳疾患との関連はさほど多くないことがわかりました。
不安定めまいは、病院でも原因不明として年のせい・気のせいで片付けられがちで、加齢などで筋力を含めたバランス機能全般が低下していることが原因として考えられます。運動器官のトレーニングで改善します。小脳に障害がある可能性もあります。
たちくらみは、リハビリ体操では改善せず、低血圧の人に多く発症しますが、睡眠不足、疲労、心・脳血管の疾患などの原因の場合があり、頻発するなら病院を受診しましょう。
めまいの9割は耳に原因があり主に内耳です。内耳のうち聴覚は蝸牛で平衡感覚は三半規管と耳石器です。耳石器の中には粘着性のある耳石膜があり、耳石という小さな粒が1万粒ほど付着しています。耳石が剥がれて三半規管に入り込んだり、三半規管内のリンパ液が過剰に増えて不具合を生じることがあります。これらにはリハビリ体操で体のバランスをコントロールする小脳を鍛えるしかありません。
バランスは目からの視覚情報、耳からのバランス情報、足裏からの位置情報を小脳でコントロールしています。大きなバランスの崩れがあると小脳でも補いきれません。フィギュアスケートの選手は高速スピンをしてもふらついたりしないのは、繰り返しの訓練の賜物です。一般の人でも小脳を鍛えてめまいやふらつきを解消出来ます。
リハビリ体操の前に、簡単なふり返りテストでどちらの耳が悪いかを調べます。ふり返りテストは右腕を体の正面に伸ばし親指を立てて、目線はまっすぐ親指の爪を見ます。目線を爪から動かさず頭を左へ30度回します。次に頭を右へ30度回しますが、左へ回した時に爪が見えにくい・ぶれて見えるときは左耳の機能が落ちている可能性があり、右に回した時になれば右耳の機能が落ちている可能性があります。
リハビリ体操を効果的にするため、大きな声を出して心を前向きにします。正しい姿勢で効果を高めます。基本の7つ一通りを1回として1日2回、1回5分を目安に行います。慣れたら1日3回7分ずつを目標にします。リハビリは朝と夕〜夜にします。爪に目印をつけるとやりやすくなります。基本の7つのリハビリは以下の7つです。①眼球だけを左右30度ずつ往復させます。これを10往復します。②顔だけを左右30度ずつ回します。これを10往復します。③顔だけを上下30度ずつ上げ下げします。これを10往復します。④顔だけを左右それぞれ30度傾けます。これを10往復します。⑤両手肩の高さまで上げて50歩足踏みします。慣れたら目を閉じて足踏みします。⑥介助者に両手を支えてもらい左右15秒ずつ片足立ちします。慣れたら壁などに指をあてて30秒キープします。⑦介助者に両手を支えてもらい踵を2秒上げ下ろします。これを10回2セットし、慣れたら壁に手を当てて1秒に1回のペースで3セットします。ふらつきがある場合左右のハーフターンや、良性発作性頭位めまい症の場合は寝返りや、頭を右(左)に傾けて右(左)側頭部を掌底で10回叩くヘッドチルトホッピングをします。
めまいやふらつきを本当に治そうと思ったらその不安や辛さから目を背けずに積極的にリハビリに取り組み続けることが必要になってきます。平衡機能は鍛え続けなければ衰えてしまいます。
前向けで強い心を手に入れるため具体的な方法として、「めまいに負けない」「めまいを治す」と唱えることも科学的に有効とわかっています。1日1つでいいので、その日にあった小さな幸せを手帳やノートに書いてみましょう。これでセロトニンが増えます。好きな景色を1日1分眺めてリフレッシュしましょう。仲の良い友達と会話したり、同じめまいをもつ人同士で悩みを打ち明けるなど情報交換もいいでしょう。感謝を伝えるありがとうという言葉もおすすめです。
激しいめまいやふらつき・吐き気などの症状がでた場合は一度リハビリを中止し、症状が治まるのを待ってからリハビリを再開しましょう。
めまいやふらつきを改善するにはその原因をきちんと理解することも大切です。
良性発作性頭位めまい症(BPPV)は耳に原因があるめまいの約45%を占める最も多い病気です。頭を上下に動かしたり、体を横にしたり起き上がったり、寝返りをうったときなどにめまいが起きます。多くは数秒から数分で治まります。吐き気や嘔吐を伴うことがありますが耳鳴りや難聴はありません。内耳の耳石が三半規管に入り込むのが原因で、頭を動かすリハビリ体操で三半規管から耳石を出すことが肝心です。骨密度が低下している人が再発しやすいので、カルシウム、ビタミンD、ビタミンKを摂りましょう。寝る姿勢をどちらか一方に決めない、高さのある枕を使用するなども大事なポイントです。1年後の再発率が20%と高いので注意が必要です。
慢性ふらつきのおもな原因は、持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)と加齢性平衡障害です。PPPDは浮動性または不安定性のめまい症状があり、少なくとも2日1度ふらつく、立位姿勢・体の動き・視覚刺激で増悪するなどの特徴があります。リハビリとともに認知療法、抗うつ剤治療が必要になります。加齢性平衡障害は耳石器障害のほか加齢による三半規管や小脳の機能が低下、筋力の低下なども原因となります。リハビリ体操で小脳を鍛えるとともに全身の平衡機能を高めましょう。
メニエール病はめまい全体の5-10%にすぎません。激しい回転性めまいが数十分から数時間にわたって続きます。耳鳴りや難聴がどんどん悪化し、繰り返しのめまいのほか自律神経の機能な乱れによる吐き気・嘔吐などさまざまな症状を伴います。内耳に内リンパ液が異常に増えて水ぶくれがおこり、主な原因はストレスです。早期に的確な診断を受けることが大切で、2019年に1回3分1日2回中耳に圧を加える中耳加圧療法が保険適応となり、めまい専門医のいる病院でうけられます。男性は1日1.5リットル、女性は1日1.2リットル程度の水を摂取すると有効です。リハビリはめまい症状が落ち着き始めてから行いましょう。ストレスが大きく関与しているため、心を元気にすることも必要です。
前庭性片頭痛という片頭痛が関係するめまいは、脈打つようにズキンズキンと激しい片頭痛は、15年ほど続くとめまいを伴うことがあります。メニエール病と誤診されることがあります。
前庭神経炎は内耳から脳へ情報をつたえる前庭神経に、何らかの原因で障害が起きて、突発的に激しいめまいが起こる病気です。数日〜1週間ほど続くことが多く、歩行は不可能です。吐き気・嘔吐・冷や汗を伴いますが、難聴や耳鳴りといった症状は現れません。めまいの発作が治まってからもリハビリを続けないと前庭神経炎後遺症を改善できません。薬による治療が中心です。急性期のめまいが治まったらリハビリを行いましょう。
突発性難聴はある日突然片方の耳が聞こえにくくなります。前ぶれもなく急に症状が現れるのが特徴です。耳鳴りや耳の詰まりを感じたり、激しい回転性めまいを伴うことも多くあります。メニエール病と初期は似ていますが、大きなめまいと聴力低下は一度しか起きません。その後もめまいやふらつきが起こることは多々あります。原因は明らかになっていません。時間との勝負なので、発症後2週間以内に耳鼻咽喉科を受診しましょう。3-4週放置すると聴力の回復が難しくなります。治療は薬物療法が主で、治療が一段落したらリハビリをスタートさせましょう。
めまい・ふらつきには共通する前兆があります。耳鳴り・耳の詰まった感じがいつも以上に強い、ふらつきやすい・乗り物に酔いやすい、吐き気や軽いむかつきがある、ストレスが過度にかかっている状態が続く、後頭部が重く感じる、首・肩の凝りがいつも以上にひどい、生あくびがとまらないなどで、人によって違い、自分のめまいのサインを知っておきましょう。
人混みは目をきょろきょろ動かしたり、頭を左右に動かす刺激で平衡感覚の不安定が助長されます。風邪などの体調不良のときは無理しないで体を休めることが第一です。気圧が変化すると内耳の気圧センサーが反応し、耳の詰まった感じがし始めます。基本的な対策は耳抜きでつばを飲む、飴を舐める、ガムを噛むことが有効です。睡眠をしっかりとることも大切です。精神的ストレスには気晴らしとなる楽しい会話がよく、ハーブティー、ココア、牛乳といった気持ちをリラックスさせる飲み物もおすすめです。セロトニンの原料となるトリプトファンを多く含む乳製品、赤身の肉や魚、ナッツ類、大豆製品の摂取もおすすめです。忙しい時もとにかく無理をせずしっかり睡眠をとることで、1日の疲れはその日のうちに解消するのが大原則です。女性ホルモンが乱れないように規則正しい生活を送り体を冷やさないように注意します。日中に眠気が起こらなければ適度な睡眠時間をとれていると判断できますが、昼寝は最大30分まで、夕食は就寝3-4時間前までに、就寝直前に入浴しない・カフェインをとらない、布団に入ったら寝ることに集中することです。アルコールには小脳の機能を抑制する働きがあるので飲みすぎないようにします。内耳に続く血管は髪の毛1本ほどの太さで、タバコに含まれるニコチンにより血流が妨げられ、同じくタバコに含まれる一酸化炭素により酸素の供給が減るので、喫煙は確実にめまいやふらつきを悪化させるといえ禁煙しましょう。
めまいの治療は薬物療法が中心ですが、なかなか治らないめまいの治療は薬だけでの治癒は望めません。薬の効き方は人それぞれで効く人もいれば全く効かない人もいます。薬だけでなくリハビリに取り組んでほしいです。めまいで処方される薬は問題となるような副作用のあるものではなく、長期間のみ続けても心配は無用です。
めまいは専門医にみてもらうのがいちばんで、日本めまい平衡医学会のホームページにめまい相談医一覧が掲載されていますので、探してみてください。近くにいない場合はまず耳鼻咽喉科を受診しましょう。めまいが起こる病気でいちばん多いのはメニエール病というような医師は知識が不足して信用できないと言っていいでしょう。
感想
めまいは投薬ではなかなか治らず繰り返すイメージでしたが、リハビリ体操で鍛えることにより、再発しにくくなるんですね。めまいになった経験はないですが、診察していても辛そうですので、このリハビリ体操で再発しなくなればいいと思いました。