呼吸機能検査ハンドブック

2021年に日本呼吸器学会が編集した本で、2004年に呼吸機能検査ガイドライン発行からの改訂となります。

呼吸機能検査ハンドブック

スパイロメトリーからは閉塞性換気障害や拘束性換気障害の有無とその程度、動脈血ガス分析からはこれらの換気障害によるガス交換異常の有無とその程度を知ります。スクリーニング検査、経過観察が目的であればこれだけで十分ですが、さらに詳しく知るには二次検査を実施します。スパイロメトリーで閉塞性あるいは拘束性換気障害がみられれば、その原因が気道疾患によるのか、肺実質の破壊性病変によるのか、硬化性病変によるのかの鑑別には,気道抵抗の測定・肺の圧量曲線の測定・肺気量の測定・肺拡散能(DLCO)の測定が参考になります。疾患の病態・重症度の把握・症状の評価・スクリーニング検査・術前術後の検査・慢性疾患の経年変化および治療効果の評価などに使用されます。

スパイロメトリーとは呼吸機能検査の最も基本的な検査法で、口から出入りする気量の変化を時間-気量曲線として記録します。この記録された時間-気量曲線をスパイログラム、測定装置をスパイロメータといいます。スパイロメトリーから肺活量(VC)をはじめとする肺気量分画、努力肺活量(FVC)、1 秒量(FEV1)、1 秒率が得られます。スパイロメトリーでは残気量(RV)、機能的残気量(FRC)が求められず全肺気量(TLC)も測定できません。

VC はゆっくりとした呼吸での最大呼気位と最大吸気位の間の肺気量変化です。性別、年齢、身長から求めた基準値に対する割合を対標準肺活量(%VC)といいます。最大吸気位からできるだけ速く最大努力呼気をさせて得られるスパイログラムを努力呼気曲線(Tiff-eneau 曲線)と呼びます。この曲線の最大吸気位から最大呼気位間の肺気量変化をFVCといいます。

スパイロメータには直接換気量を測定する気量型と、気流量を積分して計算する気流型の 2 種類があります。

呼吸機能検査は被験者の努力に依存するため被験者の十分な理解と協力が不可欠です。

少なくとも3回以上の安定した安静呼吸をさせて安定した呼気位を確認し、安静呼吸と同じスピードで最大呼気位まで呼出させます。最大呼出のプラトーに達したら最大吸気位まで吸入させます。最大吸気のプラトーに達したら再び最大呼出させプラトーを確認して吸気させて測定終了とします。

最大のVCと 2 番目に大きいVCの差が0.15Lおよび最大VCの10%以下であれば再現性がありと判断します。VCが最大値を示したスパイログラムを採択します。最大8回まで実施しても再現性が得られない場合、妥当な測定結果のうち肺活量が最大のものを採択し、報告書に理由を記載します。

FVCの測定は安静呼吸の安定後に安静呼気位から最大吸気位まで迅速に吸気を行わせ、2秒以内に最大限の力で一気に努力呼気をさせて最大呼気位まで呼出させます。呼気終了後最大限の力で一気に努力吸気をさせて最大吸気位まで吸気させて測定を終了します。VCと同じ要領で再現性を確認します。

検査はVC測定を先に行い,次にFVC測定を行います。FVCがVCよりも5%を超えて大きい場合、VC測定の努力不足が考えられ再検査します。

2001年に日本呼吸器学会肺生理専門委員会から報告された予測式がじん肺法や身体障害者福祉法などに広く使用されています。2014年にLMS法による新しい予測式が報告され、スパイロメータに導入されるようになってきました。

換気機能障害の診断は%VCと1秒率を用いて診断されます。%VCは80%以上、FEV1は性別、年齢、身長に関係なく70%以上を正常とします。%VCが80%未満を拘束性換気障害、1秒率が70%未満を閉塞性換気障害と判定し、両方認められた場合は混合性換気障害と判定します。1秒率には通常FEV1/FVCを用いますが、FEV1/VCでも70%を基準値とします。

身体障害者障害程度等級表による呼吸器機能障害の程度判定には、指数として予測肺活量 1 秒率が使われます。

肺拡散能(DLCO)は肺胞腔から赤血球内のヘモグロビン分子までのガスの移動速度です。DLCOの単位がmL/min/Torrであるように、1 分あたり何mLのガスが肺で吸収できるかを求めて評価します。

肺拡散能(DLCO)を肺胞気量(VA)で除したDLCO/VAは、間質性肺炎や特に気腫優位型COPDの評価に用いられます。DLCOは肺胞面積に比例するため、手術等で肺胞面積が減ってもDLCO/VA は正常範囲に落ち着くことと理解されてきました。間質性肺炎では DLCO・DLCO/VAともに低下するのに対し、肺気腫ではDLCOの低下に比してDLCO/VAの低下が著しいです。

方法は被験者に0.3%CO、10%He、21%O2と窒素の4種混合ガスを最大呼気位から一気に吸入させ、10秒間の息こらえののち死腔の影響の多いはじめの750 mLを捨てて、 0.5~1 Lの肺胞気を採取して解析します。吸入気のCO濃度、He濃度および呼出肺胞気のCO濃度、He濃度を測定します。1回呼吸法は手技も容易で、動脈血採血も不要で測定時間が短いためほとんどの施設で用いられていますが、息こらえができない場合やVCが1 L未満になるとガスのサンプリングが難しくなります。運動や摂食直後は肺血流量の減少を招きDLCOに影響するため測定は避けるべき、少なくとも食後2時間以内は検査を控えます。喫煙直後はタバコ主流煙中のCOによる貧血効果により24時間前から禁煙が望ましいです。飲酒は4時間以上は空いていることが望ましく、貧血のある症例ではDLCOを補正する必要があるので、なるべく検査と近い日のヘモグロビン値が必要です。

DLCOを2回以上測定する場合は肺内のガスの洗い出しのため数回の深呼吸を指示し、5 分以上空けて被験者の呼吸が安定したあとに再測定します。肺内ガス不均等がある場合はさらに時間を空けるのが望ましいです。

検査の妥当性と採択基準は①吸気が4秒以内に終了していてVCあるいはFVCの90%以上を吸入していること、②息こらえが安定して回路から息漏れなどなく息こらえの時間が9~11秒の間であること、③ 4秒以内に呼出が終了してwashout volume・sampling volumeが適切であることです。上記を満たさない場合は時間をおいて再検査を行います。

一般的にDLCO・DLCO/VAとも予測値の80%以上を正常と判定します。

ヘモグロビン補正後のDLCOが低値で、動脈血液ガスで肺胞気動脈血酸素分圧較差(AaDO2)の開大があれば拡散障害を疑います。原因は間質性病変による肺胞壁厚の増加や、気腫性変化による肺胞面積の減少、肝肺症候群などでみられるような肺毛細血管床の弛緩による肺胞腔からヘモグロビンまでの距離の増多が考えられます。換気血流不均等でもAaDO2の開大とDLCOの低下を認めます。ヘモグロビン補正後のDLCOが低値で、動脈血液ガスでAaDO2の開大がなければVAの低下を考え、肺胞低換気などが原因となります。

機能的残気量(ガス希釈法)

既知濃度の指示ガスを含んだ既知容積の回路と肺を連絡して反復呼吸させ、両者の空間内のガスを十分に混合させれば指示ガスの濃度変化から機能的残気量を算出できます。指示ガスは肺で吸収されないヘリウムが用いられることが多いです。

拘束性肺疾患では肺の弾性収縮力増強により釣り合いの位置が変化するためFRCは減少します。TLCやRVも弾性収縮力増強のため同様に減少します。

閉塞性肺疾患では末梢気道閉塞による空気の捉え込みと気腫化に伴う肺コンプライアンス上昇を反映してFRCが増加します。肺気腫ではTLC・FRC・RVいずれも増加しますが、通常はRVの増加がTLC増加の程度を上回り、RV/TLCも増加を示します。ただし体プレチスモグラフ法と異なり、高度の気腫化や巨大ブラなど気道系と交通が乏しい部位を過小評価する可能性があります。神経筋疾患などに伴う呼吸筋力低下の場合、胸郭の弾性特性に変化が起こっていなければ FRCは変化しませんが、実際には経過が長期に及べば胸郭の特性も変化してFRCにもさまざまな変化が生じます。

ガス洗い出し法

指標ガスを肺から洗い出すことにより吸気の不均等分布を検出する呼吸機能検査です。指標ガスは通常窒素が用いられ、ガス洗い出し法といえば N2洗い出し法を指します。

まず最大呼気位まで呼出したのち、100%O2を最大吸気位まで深吸気します。次に息こらえをせずに呼気を開始し、0.5L/sec以下のゆっくりした流量で流量を一定に保ちながら最大呼気位まで呼出します。このときの呼気N2濃度をY軸に,呼気量をX軸にプロットすると単一呼出曲線が得られます。3回以上6回以下の検査を実施し、原則最低 3回の容認できるデータをとります。報告値はこの3回のデータの平均値とします。容認基準は①呼気流量が最初の500mL以降0.5L/sec以下で一定していること、②吸気VCと呼気VCの差が5%以下であること、③実施ごとのVCの差が10%を超えないこと、できれば 5 %程度に収まることです。

ΔN2 について数多くの報告がありますが、基準値は1.00±0.14%が一般に用いられます。

silent zoneの病変をスパイロメトリーのみで検出することはできないため、感度の高いΔN2やCVの測定が有効となります。呼気時に肺底部の末梢気道が閉塞する現象がクロージング現象で、その時点での肺気量をクロージングボリューム(CV)といいます。

CVにRVを加えたものがクロージングキャパシティ(CC)で、CCはFRCとの関係をみることが大切です。加齢とともに弾性収縮圧が低下しクロージング現象が生じやすくなり、60歳を過ぎる頃にはFRCレベルに近づきます。CCがFRCを上回る場合は安静換気時にもクロージング現象が生じるため、換気血流比不均等の増大から低酸素血症が発生します。肥満の場合には肺気量の減少に伴い肺底部の末梢気道が閉塞しやすく、この現象が生じやすいです。

体プレチスモグラフ法はBoyleの法則に基づき、呼吸による容積変化を体全体でとらえて測定しようというもので、体全体を収容できる箱(body box)を用意する必要があります。

被験者の入ったbody boxの扉を閉鎖し、被験者はマウスピースをくわえ、自らノーズクリップを鼻に装着し、検査中は自身の両手で頬を押さえてもらいます(チークサポート)。あえぎ様呼吸や小さく早い呼吸(panting)をする必要のある機器ではマイクを通じて指示します。

体プレチスモグラフ法によるFRCは、シャッターで閉じられた口腔から肺全体の空間の容積であるためthoracic gas volume(TGV)と呼ばれます。

body boxの扉を閉鎖してマウスピースをくわえ、ノーズクリップを装着しチークサポートを行います。気道抵抗(Raw)の測定も pantingでも安静呼吸でも可能です。

COPDにおける肺気量は、ガス希釈法よりも体プレチスモグラフ法を用いて測定された値の信頼性が高いですか、体プレチスモグラフ法に必要な body box は高価で、本邦での普及率は高くないです。

オシロメトリーは換気メカニクスの生理的評価法のひとつで、被験者の努力を要さず安静換気で非侵襲的に測定可能です。低肺機能者にも負担が少なく、協力を得にくい小児でも測定可能で、座位や臥位など異なる姿勢で測定も可能です。標準的な呼吸機能検査であるスパイロメトリーを補完する役割を果たすと考えられます。

オシロメトリーの名称が国際的標準になりつつあり、本邦の保険請求上の名称には広域周波オシレーション法を用います。ウーハー型のスピーカーなどで5~35 Hz程度の空気の振動(オシレーション)を機械的に発生させます。安静換気する被験者の口側からマウスピースを通じてこのオシレーション波を送り込みます。

圧センサーと空気の流量センサーを口側において、安静換気のうちに口腔気流量と口腔内圧を連続的に測定します。

代表的な指標は呼吸抵抗(Rrs),呼吸リアクタンス(Xrs),呼吸インピーダンス(Zrs)です。Xrsは呼吸器系と測定系内に存在する空気の弾性と慣性を反映しZrsは呼吸筋が作り出す力によってどれくらいの気流が得られるのかを示す指標となります。例えば5HzにおけるRrsの表記はR5と周波数を併記します。

健常成人ではオシレーションの周波数を変化させてもRrsはほぼ一定ですが、健常小児や成人の喫煙者・COPDの場合低い周波数でRrsが高く、周波数が高くなるほどRrsが低く周波数依存性がみられます。周波数依存性の指標としてR5とR20の差、R5−R20が用いられます。

Xrsでは健常例でも疾患例でも周波数依存性がみられます。X5は通常負の値でありゼロ水準とX5およびFresで囲む領域の面積はAxとして算出されます。

1万6千人以上のデータの報告からR5の最頻値は男性で1.79cmH2O/L/s、女性で2.84cmH2O/L/sで、男女のRrsの差は体格の差に基づく気道径の違いに加え、その他の性差に起因していました。また男女ともBMIが高いほどRrsは高く、女性では高齢ほどRrsが高くなる傾向がみられましたが、男性では年齢とRrsは無関係でした。

R5−R20は喫煙者・COPDでみられることが多く最も典型的とされます。軽症喘息では周波数依存性はみられませんが、重症になるほどRrsの周波数依存性が明らかに出現してきます。

喫煙者の一部でRrsやXrsに変化がみえることから、COPDの初期検知のツールあるいは禁煙外来の有用なツールとして有望と思われます。

正確な測定のために被験者が緊張しない状態で安静換気(1 回換気量約500mL,呼吸数約12回/分)を毎回正しく行うことが重要です。

R5高値はBMI高値・低身長・男性の喫煙歴・総IgE高値・血中好酸球増多と関連していました。

気道可逆性検査はオシロメトリーが最も有用と考えられ、モストグラフのパラメーターの変化率はFEV1の変化率より大きく、欧州呼吸器学会特別委員会報告では、R5の40%減少、X5の50%増加、ALXの80%減少をオシロメトリーによる気管支拡張薬反応性検査の陽性閾値として推奨しています。

気道過敏性の程度は一定の気道収縮を誘発するのに必要な刺激物質の量や濃度で表します。通常は非特異的な化学的刺激物質であるアセチルコリン・メタコリン・ヒスタミンなどが吸入で用いられます。

検査の適応は診断が難しい症例での喘息の診断・重症度の判定などです。

低肺機能患者、重篤な心血管疾患患者では禁忌です。検査前に気管支拡張薬などは一定期間休止する必要があります。

Dosimeter法は安静呼気位から深吸気位までの間に気道収縮物質を吸入することを5 回繰り返したあとFEV1を測定します。FEV1が20%以上低下するまで溶液濃度を増加させて継続します。

近年ではTidal Breathing法のほうが推奨され、安静換気下で気道収縮物質を吸入し,FEV1が20%以上低下するまで溶液濃度を増加させてゆく方法です。

日本アレルギー学会標準法でメタコリンを用いた場合、PC20>8 mg/mLが正常と報告され、

PC20=8 mg/mLでは,喘息の感度 66.7%、特異度.86.7 %でした。米国胸部学会と欧州呼吸器学会のガイドラインでは PC20>16mg/mL が正常、4~16mg/mLが境界域1~4mg/mLが軽度過敏性亢進、<1mg/mLが中等度~高度亢進とされています。アストグラフ法では、Dmin>50 mg/mLは正常、喘息患者の大部分は Dmin<10 mg/mLとされていますが、健常者でもDmin<10mg/mLとなることもあります。

このように喘息と健常者の境界域は広く、健常者の一部でも気道過敏性の亢進がみられますが、気道過敏性の存在は喘息診断の目安になります。一方気道過敏性が陰性の場合喘息はほぼ否定的と考えられます。さらに気道過敏性は喘息の重症度と相関することが報告されています。

気道可逆性は影響する薬剤を一定時間以上中止したあとFEV1測定を行います。気管支拡張薬として一般に短時間作用性β2刺激薬であるサルブタモール硫酸塩200〜400μg吸入または加圧式ネブライザーで0.3~0.5 mL(1.5〜2.5 mg)もしくはプロカテロール塩酸塩20 μg吸入または加圧式ネブライザーで0.3~0.5 mL(30〜50μg)を吸入し15~30分後に再びFEV1を測定します。FEV1が吸入前値に比べ12%以上かつ200 mL以上増加した場合可逆性ありと判定します。

呼吸筋力は呼気または吸気の最大口腔内圧を指標とします。PImaxは最大呼気位から最大吸気努力を行い、PEmaxは最大吸気位から最大呼気努力を行います。少なくとも1.5秒間は圧を維持し1秒間維持できた最大圧を用います。被験者を励ましながら少なくとも3回測定し、差が20%未満を示した3回の測定値の最大値を用います。通常マウスピースは円筒形のものを使用しますが、口輪筋力が低下した高齢者や呼吸筋力が著明に高い例などの場合、つば付のシリコン製マウスピースを選択してもいいのですが、シリコン製マウスピースを使用する場合円筒型と比較して測定値が低くなることに留意します(PImax80%,PEmax60%)。呼吸筋力検査は個人差が大きい検査で、基準範囲のPEmaxは100〜200cmH2O、PImaxは−100 cmH2O 程度です。

運動負荷試験には平地歩行負荷試験の6分間歩行試験(6MWT)、シャトルウォーク試験(SWT)、呼気ガス分析などの機器を用いた心肺運動負荷試験(CPEX)に大別され、試験目的や各医療機関の設備などによって運動負荷試験方法が選択されます。

開始前にウォーミングアップをする必要はなく、少なくとも10分間は安静にして、6分間にできるだけ長く歩くことが目的と説明します。呼吸困難と下肢疲労感はBorg CR-10 スケールで測定し、歩行中のSpO2の測定は義務づけられていませんが、本邦における特発性間質性肺炎の重症度は歩行時のSpO2 値で分類されるためSpO2測定が必要です。

6MWDとV4O2 maxとの相関係数は0.51〜0.90 と報告とされ、正確に運動耐容能を反映していません。COPDでは治療により6MWDが54m以上延長した場合治療が有効であったと判定されます。

SWTはCDからの発信音に合わせて歩行速度を決定し、漸増負荷SWT(ISWT)と一定負荷SWT(ESWT)があり、ISWTは10mのコースを1分ごとに12段階で速度を増加させる(0.50から2.37 m/sec)漸増負荷試験です。ESWTは10mのコースを16段階(1.78〜6.00m/sec)の一定速度で歩行し、ISWTで得られた最大酸素摂取量(V4O2 max)の85%に相当する速度で最大20分間にどれだけ長く歩けるか評価します。いずれのSWTも呼吸困難などで歩行が継続できなくなったとき、歩行速度が維持できなくなったとき(信号音が鳴ったときに標識から50cm以上離れているとき)やSpO2が85%以下になったときに中止します。煩雑であることから6MWTより普及していませんが、6MWTより正確に運動耐容能を予測することが可能で、ISWTは症候限界性トレッドミル漸増運動負荷試験と類似しており,最高酸素摂取量(peak V4O2)と高い相関関係を認めます。

CPEXには一定負荷試験と漸増負荷試験があり、漸増負荷試験の負荷法には、一定時間ごとに負荷量を増加させる多段階漸増負荷法と連続して直線的に負荷量を増加させる連続的漸増負荷法(ランプ負荷)があり、後者はエルゴメーターの使用時のみ施行することができます。一般的にトレッドミルより安全性が高く短時間で終了するエルゴメーターを用いた症候限界性漸増負荷試験が施行されています。

肺コンプライスの検査は、胸腔内圧変化を食道内圧変化で代用して測定し、肺圧量曲線から求めます。食道バルーンを0.2 mLの空気で膨らませ、食道・胃接合部から10 cm上部に固定します。シャッター付の気流計にフィルタとマウスピースを装着しノーズクリップをして測定します。最大吸気位からゆっくり呼出させ、200~500mL の呼出ごとにシャッターを閉じ,気流を停止させPesを測定し最大呼気位まで呼出させます。このときの肺気量とPtp(Pes と口腔内圧の差)の関係を X-Y座標にプロットし静肺圧量曲線を描き、この sig-moid 回帰した曲線上の安静呼気位とFRCから500mL 吸気した点の傾斜を 静肺コンプライアンス(Cst )として計測します。呼吸数を増加させて動肺コンプライアンス(Cdyn)も測定できます。COPDでは肺胞の破壊による肺弾性収縮力が著明に低下するために Cst は著明に増加し、肺線維症では線維化により肺弾性収縮圧は増加するため Cst は低下します。

 

換気応答検査は動脈血酸素分圧(PaO2)の低下に伴う換気の応答を低酸素換気応答(HVR)、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)の上昇に伴う換気の応答を高二酸化炭素換気応答(HCVR)といいます。

HVRは呼気終末二酸化炭素分圧(PETCO2)を一定に保ちながら吸入気酸素濃度をゆっくりと低下させ、分時換気量の増加程度で評価します。HVR は個人差が大きく基準値設定は難しく、臨床的には原発性肺胞低換気症候群では著明に低下し、低いHVRが喘息死や高地肺水腫(重症の高山病)のリスクファクターとなりうることも知られています。

HCVRはCO2 再呼吸法を用い、7%CO2と93%酸素の混合ガスを再呼吸させ、そのときのPETCO2の上昇に伴う分時換気量の増加程度で評価します。HCVRはHVRほど個人差は大きくなく、基準値は約 2±1 L/分/Torrで0.5 L/分/Torr は明らかに低値です。

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