日本呼吸器学会編集で、2018 年に第 5 版が発行されそれ以来の改訂です。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は長期間の喫煙に起因する生活習慣病で、 500 万人を超える患者がいると見積もられていますがいまだに認知度低い疾患です。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第6版 2022
定義
COPDの定義は第5版と同じく、「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することなどにより生ずる肺疾患であり、呼吸機能検査で気流閉塞を示す。気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変がさまざまな割合で複合的に関与し起こる。臨床的には徐々に進行する労作時の呼吸困難や慢性の咳・痰を示すが、これらの症状に乏しいこともある。」です。
疫学
非喫煙健常者の呼吸機能は23〜25歳をピークに経年的に低下し、非喫煙健常者の1秒量は男性で平均19.6mL/年、女性で17.6mL/年低下しますが、喫煙者は男性で38.2mL/年、女性で23.9mL/年と急速に低下します。適切な治療をすると経年変化は個体差が大きく、維持される症例から急速に低下する症例もあります。
喫煙以外に、低出生体重・小児時の肺炎などの肺へのダメージから発症するとの報告もあります。
2017年のCOPD患者数は20万人前後で、男女比は男性が女性の2.3倍となっています。
NICE studyの成績から、日本人の40歳以上の約530万人、70歳以上では約210万人がCOPD に罹患していると見積もられ、未診断COPD患者が多く潜在していることが示唆されます。
COPD患者の約90%に喫煙歴があり、COPDによる死亡率は喫煙者では非喫煙者に比べて約10倍高いです。高齢の喫煙者では約50%、60pack-years 以上の重喫煙者では約70%に COPDが認められています。禁煙はCOPDの進行を抑制し、1秒量の経年低下速度は減じて、30年以上の禁煙では非喫煙者との差はわずかとなります。
COPD発症率は喫煙者の15〜20%程度で、20 pack-years の喫煙者でCOPD発症率は19%と報告され、60 pack-years 以上でも約30%は呼吸機能が正常で、喫煙感受性を決定する遺伝子の存在が想定されています。
病態
COPDはタバコ煙などの有害物質吸入により肺胞腔にマクロファージと好中球が浸潤し、気道壁・肺胞壁・血管壁にはマクロファージとリンパ球の浸潤がみられ、一部の患者では好酸球の浸潤も認められる慢性炎症で、COPDのない喫煙者に比べて肺の炎症が高度で禁煙後も長期間持続します。長期間の炎症で気道壁のリモデリングや気腫性病変、肺血管病変の原因になると考えられています。
末梢気道病変部位では、炎症細胞浸潤による気道壁の炎症および壁の線維化と肥厚が生じ、喀痰などの内腔滲出物の貯留と相まって気流閉塞を来します。気腫性病変も気流閉塞の原因となります。換気不均等も出現し、肺毛細血管床の減少を招来し、血流の不均等分布が生じて低酸素血症が出現します。
軽症から中等症の COPD患者では、PaCO2は正常であることが多く、これはPaCO2が上昇傾向を示すと中枢性化学受容体が刺激され肺胞換気量が増加するためです。進行すると肺胞低換気が出現して高二酸化炭素血症が顕在化するようになります。
重度の換気障害を呈する COPD患者では、横隔膜などの呼吸筋疲労が生じ、その結果肺胞低換気となり、二酸化炭素の蓄積と低酸素血症が増悪します。高二酸化炭素血症は横隔膜の収縮力を障害し、重篤な低酸素血症は呼吸筋疲労を促進させて呼吸不全が進行すると考えられています。
タバコ煙などの有害物質から杯細胞の過形成と気管支粘膜下腺の増生が生じて粘液が過分泌され、慢性の咳、痰の原因になり、気流閉塞の原因となります。
COPD患者では毛細血管床の破壊による血管抵抗の増大が生じ、さらに肺胞低酸素が生じた患者では、小肺動脈の低酸素性血管収縮が肺動脈圧を上昇させます。肺高血圧症が進行すると、右室の拡張や壁肥厚(肺性心)が生じ、最終的には右心不全を生じます。重症肺高血圧症を伴うCOPD患者の生命予後は不良で、有効な薬物療法は存在せず酸素療法が行われます。
COPD は肺固有の疾患であると同時に全身性炎症性疾患でもあり、肺外の併存症には、栄養障害、骨格筋機能障害、心血管疾患、骨粗鬆症、不安・抑うつ、メタボリックシンドローム、糖尿病、GERD、SAS、貧血などが挙げられます。増悪期だけでなく安定期でも血中の IL-6 などの炎症性メディエーターやCRPが増加し、酸化ストレスの増加によってiNOSや NF-κB の発現が亢進し、筋蛋白合成の減少やアポトーシスが誘導されることが報告されています。サルコペニアは、COPD外来患者の約 15~21%、慢性心不全患者の約3割がCOPDを合併し、逆に安定期COPD患者の約3割に心不全が併存します。GERDの頻度が高い機序として、肺過膨張による横隔膜の低位が下部食道括約筋の機能を低下させることが示唆されています。糖尿病発症の相対危険率が1.5倍と報告され、糖尿病性神経障害が1.54倍増加すると報告されています。非気腫型 COPDでより相対危険率が高いです。
本邦のCOPD患者では、年齢、性、喫煙歴をマッチさせた対象群と比較して悪性疾患の発症リスクは2.3倍であったとの報告があり、なかでも肺がんが最も多く、次いで頸部、泌尿器がんの順でした。非 COPD 喫煙者と比較して、肺がんのリスクが約3倍高く、肺がんの年発症率は1.85~2.3%/年と報告されています。COPD合併間質性肺炎(CPFE)は重喫煙者の男性に多く、CPFEに占める喫煙率は97.5%、男性は90.4%との報告があります。閉塞性換気障害は比較的軽度ですがDLCO は顕著な低下を示します。呼吸機能の経年的変化をCOPD と比較するとFVC、DLCOの低下量は有意に大きく、1秒量は有意差ありませんでした。CPFE の中央生存期間は2.1~8.5年と報告により開きがあります。
診断・病期
安定期に施行したスパイロメトリーで、気管支拡張薬吸入後の FEV1/FVC が70%未満が COPD診断の必要条件です。気道可逆性の有無や程度は問いません。フロー・ボリューム曲線が下に凸であることが COPD の特徴とされます。
概ね10 ~ 20pack-years 以上の喫煙歴があり、40歳以上であればCOPDを疑い、50歳以上になるとより可能性が高くなります。
HRCT により気腫性病変が目立つ気腫型と、そうでない非気腫型に分類され、二者の区別を定量的に記述することは困難で本邦では気腫型が多いと考えられています。
病期の分類には予測 1 秒量に対する実測 1 秒量の比率を用います。80%以上をⅠ期、50%以上80%未満をⅡ期、30%以上50%未満をⅢ期、30%未満をⅣ期とします。
症状・身体所見
病初期では無症状のことが多く、医療機関への自発的な受診は中等症以上に多いです。咳と痰はCOPD早期から呼吸困難に先行して自覚することもあり、進行すると労作時の呼吸困難が明瞭となり、日常生活に支障を来しはじめます。さらに進行すると症状は持続性となり、呼吸困難の悪化とともに呼吸不全、右心不全、体重減少などがみられてきます。このように症状は進行性で、年単位でゆっくり進行・悪化するのが特徴と考えられてきましたが、近年の研究で長期にわたって状態が安定する症例もまれではないことが報告されています。
咳嗽は主要な症状で、最初は間欠的なものから毎日見られるようになり、日中持続することもあります。一般には痰を伴いますが乾性咳のこともあります。一方気流閉塞が顕著でも咳がない場合もあります。
呼吸困難の程度を評価する簡便な方法としてmMRCの質問票 がよく用いられ、mMRCは健康状態を評価する他の指標との相関性に優れ、将来の死亡の危険性を予測することもできます。
COPD による肺の過膨張のために、肋骨が水平となる樽型の胸郭となります。気流閉塞を反映して呼気の延長がみられ、強制呼出などで呼気延長が誘発・強調されることがあります。口すぼめ呼吸が自然にみられる場合があり、胸鎖乳突筋などの呼吸補助筋の利用が増強されて特徴的な肥大を呈します。吸気時には肋間や鎖骨上窩の陥入がみられ、最重症例では、横隔膜が極端に低位平担化すると吸気時に下部胸郭が拡張せず、逆に内側へ陥凹する奇異呼吸様の動きがみられるようになります(Hoover 徴候)。呼吸筋疲労で横隔膜運動が低下した場合にも奇異呼吸がみられます。ばち指はまれで、みられた場合肺がんや間質性肺炎の合併に注意します。頸静脈の怒張・肝腫大・下腿浮腫などがあれば右心不全や呼吸不全が疑われ、頸静脈の怒張と足首の圧痕浮腫は、肺性心を示唆する最も有用な臨床的徴候ですが、COPDでは胸腔内圧の変動が大きく頸静脈怒張が観察されないことがあります。
呼吸音、特に肺胞呼吸音の減弱もありますが、COPDに特徴的な所見ではないです。断続性ラ音でやや低調なcoarse cracklesや、連続性ラ音が聴取されることがあります。これらの副雑音は気道平滑筋の収縮、気道分泌物の増加などに起因します。連続性ラ音は細い気管支から生じる高調性のwheezeと太い気道から生じる低調性のrhonchusに分けられます。
検査所見
画像のみで COPDを診断できませんが特徴的な所見を呈することが多く、 COPDの病型を分類するなど、病態生理の理解にも役立ちます。胸部単純 X 線写真は気腫性病変および気道病変を評価し、他疾患を除外するのに有用で、正面像では①肺野の透過性の亢進、②肺野末梢の血管陰影の細小化、③横隔膜の平低化、④滴状心による CTR の減少、⑤肋間腔の開大などがみられます。側面像では①横隔膜の平低化、②胸骨後腔の拡大、③心臓後腔の拡大などがみられます。肺高血圧を来すと肺動脈が太く見えることがあります。診断にあたって最も信頼できる所見は横隔膜の平低化であるといわれています。
肺気腫は病理学的に汎細葉(小葉)型、細葉(小葉)中心型、遠位細葉(小葉)型(傍隔壁型)に分類され、汎細葉型肺気腫は細葉全体の構造が破壊され、CTでは肺野全体が 低吸収域を示します。本邦に最も多いのは細葉中心型肺気腫で、そのほとんどが喫煙によるものです。初期の細葉中心型肺気腫は正常肺野に囲まれた壁のない低吸収領域として細葉中心部にみられ、進行すると拡大・融合して大きな低吸収域を形成します。進行すると肺野は囊胞性変化で占められ、肺実質が胸膜下にわずかに残存し、囊胞性病変の間に血管が残るのみとなります。遠位細葉型肺気腫は胸膜直下の細葉に限局する肺気腫で、CT画像では胸膜直下に拡大した気腔が一層に並んだような形態を示しますが、細葉中心型肺気腫に合併していることが多いです。
強制オシレーション法は、安静換気下に一種の抵抗を測定する呼吸機能検査法であり、オシロメトリー法とも呼ばれます。COPD 患者における1秒量の変化はXrs の変化と相関し、 Rrs、Xrs の経年低下は増悪歴のある COPD患者で大きい結果でした。スパイロメトリーとの同時測定が望ましく、治療前後などの評価では1秒量の動きと連動するか否かを確認します。1秒量に変化がなく、強制オシレーション法 の値に変化がある場合には、わずかな気道径の変化があると判断します。
動脈血ガス分析でPaO2 >75Torrを一般的に正常と考え、PaO2 ≦55Torrは PaCO2 40Torr、pH7.4、体温37 ℃、Hb 15g/dLの条件で SpO2 ≦88 %に相当し、著しい低酸素血症とするのが一般的です。PaCO2 > 45Torrを高二酸化炭素血症とし、COPDの病期の進行や増悪でみられます。AaDO2 <10Torrを正常、AaDO2 >20Torrを異常な開大と考えます。換気血流比不均等、拡散障害などで AaDO2 は開大します。呼吸不全の診断基準は、室内気吸入時の PaO2 が60Torr 以下となる呼吸障害、またはそれに相当する呼吸障害を呈する異常状態です。PaCO2≦45Torrの場合はⅠ型呼吸不全、PaCO2>45Torrの場合がⅡ型呼吸不全です。慢性呼吸不全は呼吸不全の状態が 1 ヵ月以上持続する場合で、慢性の呼吸器疾患例に急速な症状、所見の悪化が生じて呼吸不全に陥る場合は増悪と呼ばれます。Ⅱ型の場合には CO2ナルコーシスのリスクをより強く意識する必要があります。
呼吸性アシドーシスは、PaCO2が一次的に正常上限の45Torrを超えて増加する病態で、有効換気量が低下するとみられ、急性期の場合pH < 7.35を呈しますが、慢性の場合代償性機構が働きpH値が是正されます。
運動耐容能は運動能力の客観的指標であり、運動負荷試験によって評価されます。その評価は、個々の症例の病態把握、重症度判定、呼吸リハビリテーションのプログラムおよび薬物療法の決定とそれらの効果判定、予後予測などに有用となり、6分間歩行試験とSWTがあります。
最大呼気位での口腔内圧をPImax、最大吸気位での口腔内圧をPEmaxといい、前者は全吸気筋力、後者は全呼気筋力の指標とされています。COPDでは病態の進行でともに低下しますが、前者の低下がより大きいのが一般的です。
睡眠の評価にパルスオキシメトリー検査、2016年から健康保険の適応となった慢性呼吸器疾患患者の経皮二酸化炭素分圧の連続測定、睡眠ポリグラフ検査があり、睡眠中の SpO2<90%が 5 分以上持続する場合や睡眠全体の10%以上である場合は、酸素投与やNPPVを用いた陽圧換気療法の導入やCPAPを考慮します。
心臓超音波検査は、肺高血圧症のスクリーニング検査として推奨され、左心疾患やシャント性疾患など他の肺高血圧症の原因疾患を鑑別することができます。推定肺動脈収縮期圧が算出されますが、重症肺疾患では右心カテーテルによる実測値との誤差が大きいとされます。胸部 CT における主肺動脈径 29mm 以上の場合や肺動脈主幹分岐部レベルの肺動脈径/大動脈径>1は、安静時肺高血圧症の存在を示唆します。右室肥大は1秒率が1L以下のCOPD患者の約 40%に観察され、1秒率が 0.6L以下の患者では 70%にみられます。COPD に伴う肺高血圧症の心拍出量は正常もしくは増加している場合が多いです。
日常生活を反映した疾患特有の QOLは質問票を用いて半定量評価ができます。CATは利便性・有用性が高く、呼吸機能などの臨床指標と相関し、悪化とその回復を反映します。
FeNO 高値(> 35ppb)は、喘息病態の合併を支持する客観的指標として広く用いられています。末梢血中の好酸球増加がなければICSを中止してもCOPDの増悪頻度は増加しないという成績も報告されています。
COPDでは健常者に比べ、1日総歩数は少なく、歩行時間・立位時間割合はいずれも低値であらゆる強度の活動時間も短縮しています 。身体活動量の低下した患者では有意に予後が不良で、今後活動時間の延長とともに座位・臥位時間の短縮も 健康寿命を延長していくために重要になると考えられます。
簡易栄養状態評価表(MNA Ⓡ-SF)が有用で、MNAスコアは増悪の予測因子にもなります。除脂肪体重(LBM)は体重よりも鋭敏に COPDの栄養障害を検出できる指標です。身体計測では%上腕筋囲(%AMC)が筋蛋白量、%上腕三頭筋部皮下脂肪厚(%TSF)が体脂肪量の指標として用いられます。全身の体成分の評価法としては、BIAやDXAが非侵襲的で精度の高い方法として推奨されます。血清アルブミンは栄養指標として汎用されていますが、COPDでは感度が低いです。握力はサルコペニアの評価として重要です。間接カロリメトリーによる 安静時エネルギー消費量(REE) は代謝状態を反映し、栄養療法のエネルギー量や組成を決定するうえで有用な指標です。COPD患者ではREEが増大しており、代謝亢進が栄養障害の一因となっています。
治療
禁煙を含めた原因物質曝露から回避することは、初期管理として必須かつ最優先の課題です。禁煙により1秒率の経年低下を抑制し、増悪を減少させ死亡率を減少させることが報告されています。
現在あるいは過去喫煙者で、気流閉塞がなくCOPDの診断基準にあてはまらない場合でも、症状や増悪がみられることがあります。症状のある患者のみならず、呼吸機能か正常で胸部 HRCTで気腫性病変などの異常所見が認められる場合、禁煙指導や身体活動などの生活指導とともに、呼吸機能検査や画像検査による経過観察および肺がんや生活習慣病などのチェックを定期的に行うことが奨められます。
薬物療法の中心は吸入療法です。積極的な薬物治療介入は疾患進行の抑制および生命予後の改善が期待できます。初期導入には LAMAを選択し、LAMAでコントロール不良または副作用(排尿障害を伴う前立腺肥大や閉塞隅角性緑内障)が懸念される場合にLABAへの変更を考慮します。それぞれの単独療法で増悪や症状のコントロールが得られない場合にはLAMA/LABA 配合薬に変更します。実臨床においては症状が強い(mMRC 2以上または CAT 20点以上)あるいは身体活動性が損なわれている場合は初期導入でLAMA/LABA 配合薬は許容されます。吸入困難な患者にはLABA貼付薬を考慮します。ICSは単独療法は推奨されず保険適用もなく、気管支拡張薬と併用します。すでに気管支拡張薬を投与されている患者で、増悪を繰り返すあるいは症状コントロールが不良な患者で、かつ末梢血好酸球増多がみられる場合、ICS追加は有用性が高いことが報告されています。末梢血中好酸球数が 300/µL 以上ではICSによる治療効果が期待でき、逆に 100/µL 以下では効果が期待できないとされています。LAMA/LABA/ICS 配合薬は、LAMA/LABA 配合薬に比較して、QOLや呼吸機能改善、増悪抑制や生命予後の改善が期待されています。LAMAが使用できない場合には、LABA/ICS 配合薬を用い、吸器感染症を繰り返す場合はICSの中止・減量あるいは変更を考慮します。
低用量テオフィリンは炎症の制御あるいは増悪抑制に期待されますが、血中濃度測定が必要で、気管支拡張作用に有効な血中濃度は5〜15μg/mLですが、ときに悪心や不整脈を認めます。低用量テオフィリン(5 μg/mL 程度)は気道炎症や酸化ストレスを低下させると報告されていますが長期的な抗炎症効果や疾患進行抑制効果のエビデンスはありません。
抗IL-5抗体などの生物学的製剤は保険適用がなく、コスト・ベネフィットの観点から推奨しません。
インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチン接種、栄養療法や運動療法は疾患早期から導入します。インフルエンザワクチンは増悪頻度と死亡率を低下させ、肺炎球菌ワクチンは非接種群と比べて肺炎の発症と増悪頻度の低下を認めたものの死亡率には差が認められませんでした。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)流行期には、ワクチン接種を考慮します。
包括的呼吸リハビリテーションは、有症状者に対して積極的に導入します。栄養療法や運動療法は在宅でも実施できるように、患者の行動変容を促すよう教育します。呼吸リハビリテーションが死亡率を低下させる可能性が示唆されていますが、一定の結論は出ていません。栄養療法が生命予後を改善するエビデンスはありません。
最大の気管支拡張反応は SAMAのほうが優れますが、効果発現までの時間はSABAの方が早いです。入浴時などの日常生活における呼吸困難の予防に有用と考えられます。LAMAは前立腺肥大症の患者では、まれに排尿困難症状が悪化する副作用はありますが、薬剤の使用を中止で速やかに症状は改善します。
喀痰調整薬には、気道杯細胞過形成抑制(気道分泌細胞正常化)作用、粘液溶解作用、粘液修復作用、粘液潤滑作用など作用や効果に違いがあり、喀痰の性状や病態に基づいて使い分けることが重要です。喀痰調整薬には、増悪抑制効果を有することが報告されており、軽度ながら QOLの改善効果も期待できます。
慢性気道感染を併存しているCOPDにはマクロライド系抗菌薬長期療法が推奨されています。マクロライド系抗菌薬のCOPD増悪抑制効果には、気道炎症や喀痰分泌の抑制、細菌病原性抑制、抗ウイルスなどの作用の関与が報告されています。エリスロマイシンやクラリスロマイシンの長期投与において、喀痰中のマクロライド系抗菌薬耐性菌の検出頻度に変化は認められていません。近年の非結核性抗酸菌症の増加を考えると、その治療薬であるクラリスロマイシンの使用に先行して、交叉耐性を生じないエリスロマイシンの使用を考慮します。
吸入デバイスには、pMDI製剤、SMI製剤と DPI製剤があります。pMDI製剤や SMI製剤の粒子径は比較的小さく、いずれもミスト状の薬剤が噴霧されるため、最大吸気流速が低下している患者に使用しやすいです。ただし、pMDI製剤は吸入に同調が必要なため、吸気のタイミングを合わせることが困難な場合があり、必要に応じて吸入スペーサーの併用を考慮します。SMI製剤は同調が不要で通常呼吸で吸入できる利点があります。DPI製剤は粒子径が比較的大きく、患者自身の吸入力によって薬剤がエアロゾル化し気道へ沈着します。DPI 製剤も SMI 製剤と同様に同調が不要ですが、pMDI製剤や SMI製剤と比較してより大きな吸気流速が必要とされます。薬剤師は薬剤服用歴管理指導料吸入薬指導加算が算定できるようになりました。文書による吸入薬使用の説明に加え、練習用吸入器を用いた実技指導を行い、その指導内容を医療機関に提供した場合の評価に対し、3 ヵ月に 1 回まで 30 点が加算されます。吸入指導は処方初回だけではなく、その後も継続して指導を行っていくことが有用で、指導を繰り返すことで手技エラーは有意に減少することが報告されています。
運動療法とセルフマネジメント教育が呼吸リハビリテーションの中核です。呼吸リハビリテーションはCOPD の国際ガイドラインでも非薬物療法の標準的治療と位置づけられ実施が強く推奨されています 。下肢の持久力トレーニングを含めた呼吸リハビリテーションは、呼吸困難の軽減・運動耐容能の改善・生活関連のQOL の改善効果を認めました 。このような効果は、症状を有するすべての病期において報告されています。呼吸リハビリテーションの効果は1~2年で減衰することが報告されていて、今後は効果が持続するメンテナンスプログラムを検討する必要があります。フィールド歩行試験としての 6MWTならびにSWTは、いずれも健康保険が適用されており、積極的な活用が奨められます。
増悪時のアクションプランを含むセルフマネジメント教育は、12 ヵ月間にわたり生活関連のQOL を改善させ、呼吸器に関連する入院リスクを少なくとも 1 回減少させるとを報告されました 。セルフマネジメント教育は、健康問題を持つ人が疾患に関連する知識を得るだけではなく、自身が多様な価値観に基づき達成目標や行動計画を医療者と協働しながら作成し、問題解決のスキルを高め、自信をつけることにより健康を増進・維持するための行動変容をもたらす介入です。
体重減少は気流閉塞とは独立したCOPDの予後因子で、本邦の外来受診患者の約30%で BMIが20kg/m2 未満の体重減少がみられ、Ⅲ期以上では約40%、Ⅳ期では約60%と高率な体重減少が認められました。気腫性病変の程度とBMI低下との相関が報告されています。
最近のメタ解析では COPDにおけるサルコペニア合併率は21.6%と報告されています。サルコペニアは、運動耐容能や身体活動性の低下および骨粗鬆症とも関連しており、栄養療法としてサルコペニア対策を重視する必要があります。COPDの栄養障害に対しては、基礎代謝量の 1.7倍程度の高エネルギー、体重あたり1.2~1.5gの高蛋白食の指導が基本となります。蛋白源としては筋蛋白合成促進作用を有するBCAAを多く含む食品の摂取が推奨されます。疫学的検討では果物、野菜、魚類、全粒穀物が豊富な食事や、抗炎症スコアの高い食事は COPDの発症・進展リスクを軽減します。食物繊維摂取が症状の軽減や進行抑制に有効であることも示唆されています。リン、カリウム、カルシウム、マグネシウムは呼吸筋の機能維持に必要で、特にリンの摂取が重視されます。骨粗鬆症の合併頻度が高いため、カルシウムの摂取も重要で、COPDでは血清ビタミンDの減少を高率に認め、身体能力などの低下と関連することが報告されているビタミンDの摂取も重要です。著しい換気不全がなければ組成にかかわらず十分なエネルギー投与を優先します。
蛋白同化作用と抗炎症作用の面から、栄養療法と低強度運動療法との併用が推奨され、BCAA、ω 3系脂肪酸、ホエイ蛋白やβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸含有栄養剤の有用性が示されていますが、十分なコンセンサスは得られておらず、今後さらなる検討が必要です。
PaO2 ≦ 55Torr を示す肺気腫、あるいは肺高血圧を有する、あるいは 55Torr < PaO2 ≦ 60Torr で運動時や夜間睡眠中にPaO2 ≦ 55Torrの重度の低酸素血症になる肺気腫患者を対象として行った調査では、在宅酸素実施症例において非実施症例に比べて有意に生命予後が良好であったこと、この効果は女性患者でより顕著であったことが示されました 。肺高血圧症を伴う場合には PaO2 の値にかかわらず適応となります。
安静時 PaO2 が56~65Torr の中等度の低酸素血症を示す COPDでの検討では、在宅酸素による生存率の改善効果は認められていません 。運動療法時に酸素吸入を行っても有意な運動能力・呼吸困難感・QOL の改善は認められないと結論しており 、運動時にのみ低酸素血症を示す COPD に対しては 在宅酸素の適応はありません。夜間のみ低酸素血症を示す患者にも在宅酸素は推奨されません。在宅酸素の多くは航空機による旅行の安全性に問題はありませんが、飛行中は酸素流量を1 ~2L/分増やすことが推奨され、機内では少なくとも PaO2が 50Torr 以上を維持する必要があることが示されています。吸入時間については、少なくとも 1 日 15 時間以上、可能な限り 1 日 18 時間以上が原則です。3L/分程度までの酸素流量では臨床的に問題となるような高二酸化炭素血症の増悪を来すことは少ないですが、動脈血ガス分析により確認しておく必要があります。高二酸化炭素血症自体は在宅酸素の禁忌とはなりません。
呼吸困難や起床時の頭痛、過度の眠気などの自覚症状や肺性心の徴候などがあり、高二酸化炭素血症(PaCO2≧ 55Torr)や夜間の低換気などの睡眠呼吸障害がある症例、あるいは増悪を繰り返す症例が NPPV の適応と考えられます。導入には動脈血ガス分析で PaCO2 を確認します。Ⅱ型呼吸不全の増悪で入院し、NPPV療法導入後に高二酸化炭素血症が持続する患者に対して、在宅 NPPV療法は通常療法群と比較して、増悪頻度を有意に抑制しましたが、死亡率や動脈血ガス結果に差はみられませんでした。
LVRSは1980年代以降重症肺気腫に対する外科的治療法として世界に広まり、本邦でも一時盛んに行われましたが、NETT試験で予後が改善する患者群が一部に限られることが明らかになって以降、実施数は限られたものとなりました。最大限の非外科治療がすでに行われているにもかかわらず、呼吸困難により日常生活が大きく障害されていることが適応の基本条件です。肺過膨張が十分にあり、形態的に切除のターゲットとなる部位が同定できることが条件で、1秒率は 1L 前後が目安となり、それ以下の場合にも手術が行われていることが多いです。気腫性病変が上葉優位に偏在し、かつ運動能力の低い患者についてはLVRS 群のほうが生命予後が良好とされ、気腫性病変が非上葉優位型で運動能力が高いと生命予後が不良です。
BLVR とは気腫領域に交通する気管支内腔に呼気時開放式の一方向弁、コイル、あるいはステントを挿入することにより末梢肺の過膨張を軽減させる、いわゆる気管支鏡下肺容量減量術です。ステントを用いる気道バイパス術の無作為前向き試験では、安全性と一時的な改善が示されたものの、長期に維持されるような効果は認められませんでした。
気管支鏡下に一方向弁を留置する治療の有効性についてはその後も検討が続けられ、CT上分葉の良好な症例においては、呼吸機能ならびに運動耐容能が治療前に比べ有意に改善することが示されましたが、気胸や肺炎に注意を払う必要があることも示唆されました。
本邦では肺移植適応年齢は両肺で 55 歳未満、片肺で60歳未満となっていて、COPD に対する肺移植は全体の約 6.5%(835 例中 54 例)です。適応は① BODE index ≧ 7、②% FEV1 < 15~20%、③ 1 年間で3回以上の急性増悪、④ 1 回の急性高二酸化炭素血症による急性増悪、⑤中等度または高度の肺高血圧です。国際登録における COPDに対する肺移植後の 5 年生存率は 55.9%で、肺移植全体の成績とほぼ同等です。
気管支拡張薬の吸入・呼吸リハビリテーションなどの標準的治療が完全に行われていても、呼吸困難が持続、悪化する場合には、症状緩和のための非薬物療法を上乗せします。終末期には、呼吸仕事量の増大や低栄養に伴う呼吸筋力低下、夜間低換気から終日低換気となり慢性Ⅱ型呼吸不全が進行します。NPPVは終末期にも呼吸仕事量の軽減、内因性PEEPの解除による症状緩和が可能です。さらにHFNC は侵襲性が低く、解剖学的死腔を洗い流し、より少ない一回換気量・呼吸数・呼吸仕事量で肺胞換気量とPaCO2 を維持できます。呼吸困難がさまざまな薬物療法や非薬物療法でも改善されない場合には、オピオイドやベンゾジアゼピン系抗不安薬の使用が考慮されます。オピオイドは低用量であれば一般に死亡リスクに影響しませんが、ベンゾジアゼピン系薬は用量依存性に死亡リスクを増大させるため注意が必要です。オピオイドを十分量使用しても効果がなければすみやかに中止します。
本邦で安静時呼吸困難を有する日本人COPD患者を対象にモルヒネ散1回 3mg、1日4 回(腎機能障害もしくは低体重患者では2mg、1日4回)の呼吸困難に対する有効性を検討する前後比較試験を行い、2日後の呼吸困難NRSがベースラインに比べて有意に低下しました。経口モルヒネの開始量は10mg/日以下が妥当と考えられています。
少数例の検討であるが鍼治療の効果や、L-メンソールが上気道の冷感刺激を介して呼吸困難を軽減することが報告され、非がん性呼吸器疾患における呼吸困難に対する非薬物治療の発展が期待されます。
増悪時について
増悪とは、「息切れの増加、咳や痰の増加、胸部不快感・違和感の出現あるいは増強などを認め、安定期の治療の変更が必要となる状態をいう。ただし、他疾患(肺炎、心不全、気胸、肺血栓塞栓症など)が先行する場合を除く。症状の出現は急激のみならず緩徐の場合もある」と定義します。増悪は患者のQOLや呼吸機能を低下させ、生命予後も悪化させます。
呼吸困難などの症状の増悪に加え、低酸素血症、末梢血好中球増加、CRP上昇が診断に有用です。胸部 X線写真による肺炎や気胸の除外、胸部 CTでは気管支肺炎などの微細な評価も可能となります。D-ダイマーあるいは造影 CTによる肺塞栓症の除外、心電図は右心肥大、不整脈、虚血性心疾患の診断に有用で、トロポニンやBNPの値による心疾患の除外が有用です。原因は呼吸器感染症と大気汚染が多いですが、約30%の症例では原因が特定できません。
軽度増悪(SABAのみで対応可能)、中等度増悪(SABA、抗菌薬あるいは全身性ステロイド薬投与が必要な場合)、重度増悪(入院あるいは救急外来受診を必要とする場合)の 3 つに分類します。
増悪の重症度判定に動脈血ガス分析による低酸素血症および高二酸化炭素血症の確認は不可欠で、酸素療法や換気補助療法の必要性や調整などに有用です。一般的には動脈血ガス分析より非侵襲的なパルスオキシメトリーが用いられますが、Ⅱ型呼吸不全の評価に動脈血ガス分析が重要です。呼吸機能検査の実施は増悪時には困難で推奨されません。
血液・生化学的検査などを行い、喀痰が膿性であれば喀痰塗抹・培養、薬剤感受性検査を行います。発熱が続き細菌感染症が疑われる場合は血液培養も必要となります。血液・生化学的検査により、出血、脱水や電解質異常(低ナトリウム血症や高カリウム血症など)、耐糖能異常、低栄養(低蛋白血症)などの増悪要因も明らかとなり、細菌感染から敗血症が疑われる場合は CRP のほか血中プロカルシトニン測定も有用です。
入院の適応については、安静時呼吸困難の増加、頻呼吸、低酸素血症の悪化、錯乱、傾眠などの精神症状などの著明な症状、急性呼吸不全、チアノーゼ、浮腫などの新規徴候の出現、初期治療に反応しない場合、重篤な併存症(左・右心不全、肺塞栓症、肺炎、気胸、胸水、治療を要する不整脈など)の存在などから総合的に判断します。
増悪時の第1選択薬は SABAの吸入で、症状に応じて1〜数時間ごとに反復投与します。気道攣縮が強く、心循環系の問題がなければ 30分から 60分ごとの投与も可能です。
SABAのみで効果不十分ならば、SAMA併用も可能ですが有効性は明らかではありません。LABA や LAMA については増悪時の有用性を示す臨床研究は現在のところないですが、安定期に受けていた維持治療はできる限り継続します。
重症例ではネブライザーの利便性が高く、入院例では吸入手技が容易なネブライザーが好まれます。気管支拡張薬の吸入で奏効しないときはキサンチン製剤(主にアミノフィリン持続静注)を併用することができますが、有用性は確立されていません。喀痰調整薬の投与に関するエビデンスは乏しいです。
安定期の気流閉塞が高度の患者や、入院を要する増悪時における短期間のステロイド薬の全身投与は、呼吸機能や低酸素血症をより早く改善させ、回復までの期間を短縮させ、早期再発リスクの低下、治療失敗頻度の減少、入院期間短縮も期待できます。外来治療可能な程度の増悪にもステロイド薬の全身投与は呼吸機能を改善させ、入院頻度も減らす傾向がみられますが、治療失敗率や死亡率の改善効果は確認されておらず、明らかな QOL の改善も証明されていません。プレドニゾロン換算で1日量30~40mg程度が使用され、投与期間は従来10~14日間行わましたが、5 日間程度の短期投与でも効果が変わらないことが近年明らかとなりました。14日を超える長期投与は副作用の懸念から推奨されません。経口と経静脈投与に効果の差はありません。末梢血好酸球が多い患者のほうが、よりステロイド薬の反応が期待でき、末梢血中の好酸球比率が 2 %未満の患者では増悪時の治療としての全身性ステロイド薬を投与せずとも、ステロイド薬投与群とその後の臨床経過は変わらないという成績が報告されています。
喀痰の膿性化があれば細菌感染の可能性が高く、抗菌薬の投与が推奨されます。CRP陰性例には抗菌薬を回避できる可能性もあります。挿管・非挿管での人工呼吸管理使用例では抗菌薬の投与が推奨されます。増悪時の起炎菌としてインフルエンザ菌、肺炎球菌、モラクセラ・カタラーリスなどの頻度が高いと報告されています。
ドキサプラムなどの呼吸中枢刺激薬の使用は推奨されません。
心不全併存例では非選択性β遮断薬よりも選択性β1 遮断薬のほうが好ましく、重症例では有用性が報告されています。入院患者では深部静脈血栓、肺血栓塞栓症のリスクが増加することが知られており、予防策を講じるべきです。
予後
欧米の調査では、COPDの死亡率は気流閉塞分類のⅠ期では対照者の1.2倍、Ⅱ期で1.6倍、Ⅲ期で2.7倍と病期の進行とともに増加することが示されています。低酸素血症のないCOPD患者では、3年間の死亡率は23%と報告されています。本邦の調査では、1993年までの在宅酸素登録患者の5年生存率は40%と報告されています。