その息切れはCOPDです

著者紹介・はじめに

2021年3月6日に初版となったさくら舎から発刊された本で著者は石本修氏です。石本氏は1995年に東北大学医学部を卒業され、呼吸器の診療に従事されました。2016年に仙台で開業されています。

COPD以外の肺疾患についても最後の肺の免疫力を上げるヒント以外はここでは取り上げていません。

 

その息切れはCOPDです

内容

COPDは40歳以上の日本人の有病率は8.6%で、実際にCOPDと診断されているのはそのうちのたったの9.4%で、それ以外の人は医師の診断を受けていないことになります。診断基準はいたってシンプルで肺機能検査でわかり、1秒率が70%未満であることです。1秒率とは1秒間に吐き出せる息の割合で、スパイロメーターという器械を使って測定します。スパイロメーターでは肺年齢がわかります。COPDでは空気の通り道の気道に炎症を起こしたり、酸素を取り込む肺胞が壊されたりします。その結果気管支の壁が分厚くなって空気の通り道が狭まり肺胞に空気が溜まって息を十分に吐き出せなくなるのです。その詰まりはきれいにできず、可逆性はなく元には戻りません。あんなにタバコと吸わなければ、あの時もっと気を付けていれば…は後悔先に立たず、なのです。
COPDは1999年にガイドラインが発表され、現在日本人男性の死因第8位に入っている深刻な病気なんですが、2020年12月に実施した認知度調査で、どんな病気か知っている、名前を聞いたことがあると答えた人は28%程度でした。それに対して2005年に診断基準が採用されたメタボリックシンドロームは約80%の認知度がありました。
COPDは息切れがサインになります。COPDの多くは喫煙経験者で、何年も前に禁煙した人でもリスクは高いです。長年タバコによって与え続けられてきた肺のダメージは修復するのは不可能なのです。タバコを吸ったことない人も受動喫煙も非常に危険のため、人が吸ったタバコの煙を吸いこむだけでも肺はダメージを受けます。タバコ以外にも大気汚染や排気ガス、化学物質、細菌、ウイルス、粉塵、花粉、なども肺内環境を悪化させます。

COPDを放っておくと風邪などをきっかけに症状が急に悪化する増悪がおこり、これを繰り返すとCOPDは重症化していきます。COPDにかかると様々な合併症を起こしやすくなります。肺癌になりやすく、肺炎が重症化しやすくなります。また全身に炎症を波及させるために、栄養障害から脂肪量の減少や、体重減少、骨粗鬆症、筋力が落ちてサルコペニアなども起こします。心筋梗塞、脳梗塞、不整脈、糖尿病、メタボリックシンドローム、胃潰瘍、などの病気を発症する危険性もあります。不安や抑うつや認知症などの精神症状とのかかわりも言われています。

COPDの診断を受けたら喫煙者であれば治療の第一歩は禁煙することです。そのうえで気管支を広げる吸入薬を使用します。増悪を予防するためにステロイド薬を吸入することもあります。ただしCOPDを根本的に治す薬はありません。苦しい症状を軽減し、増悪を予防し、肺機能低下のスピードを抑えることが目的になります。インフルエンザや肺炎球菌のワクチンを接種するとCOPDの増悪を防いで死亡率が低下することがわかっています。
鹿児島大学呼吸器内科の先生が作ったCOPD-Qもありまして、これが4点以上ならCOPDが疑われ、肺機能検査を受けるといいでしょう。

肺は空気を吸い込んで膨らみ空気を出すために縮んでいると思い込んでいる人も多いでしょうけど、正確には広がったり縮んだりさせられているのです。心臓には心筋がありますが、肺を動かすための筋肉はありません。横隔膜や肋間筋といった呼吸筋が動いて胸郭内の体積を増減させて呼吸を行っているのです。肺は肋骨などにガードされながら呼吸筋に動かされているのです。
肺は受け身の臓器で外と直接つながっていて危なっかしいうえに壊れたら再生できません。肺は移植も難しく人工肺もまだありません。スポーツをすると肺活量が多くなることもあるでしょうけど肺のそのものが鍛えられているかというと違います。ただし呼吸筋を鍛えて活性化させることはできて、肺をうまく使えることにもつながります。そのために腹式呼吸をして横隔膜を鍛える呼吸トレーニングはCOPDの人にお勧めしています。口すぼめ呼吸も効率よく息が吐き出せます。
日本のCOPDの患者さんは4.2-49.7%に喘息を合併していると報告されています。喘息の治療は吸入薬が中心となります。毎日吸入してもらうことが治療の基本となりますが、症状がなくなっても続けることが重要です。発作の時しか吸入しない人もいますが、炎症は慢性的に続いていて、喘息の治療は発作を抑えることが一番の目的ではなく原因になっている炎症を抑えることなのです。喘息は完治が難しく症状が出ない状態をどれだけ長く続けられるかというのがポイントになります。
COPDと肺がんの関係について、喫煙歴がなくてCOPDのない人の肺癌のリスクを1としたとき、COPDがあり禁煙歴なしのリスクは2.67、COPDあり喫煙歴ありは6.19,COPDなしで喫煙歴ありは1.97となっています。

運動をすると全身の筋肉の酸素の需要量が増加し、それに見合う酸素の供給をするために体は呼吸回数、心拍数、赤血球の濃度を調整します。もし肺機能が低下すると呼吸回数や心拍数を増やし、場合によっては赤血球も増やして酸素の需要に対応します。対応可能の範囲を超えて肺の機能が落ちてしまうと、息切れという症状となって現れるのです。安静にしているときに息切れを感じて、仕事や何らかの目的のために動いているときは息切れを感じない人は、肺の病気ではなく息切れを感じるセンサーに問題がある心因性のことが多いです。感染症の咳は3週間くらいでたいていは治まりますが、3週間を超える場合は感染症以外の疾患を考える必要があります。胸部CTなどでは肺がんやCOPDなどの鑑別をします。

肺の免疫力を上げるために、マスクをしましょう。サージカルマスクの目の大きさはおよそ5μmで、花粉やウイルスを含んだ飛沫は5μm以上の大きさがあるといわれ十分防御可能となります。しかしPM2.5や空中を浮遊するウイルス、結核菌などはサージカルマスクの目の大きさより小さく防御することは不可能なので、限界を知ったうえで正しく装着することが大切です。
鼻呼吸では鼻甲介の隙間を通る間に加湿加温され、空気中に含まれた大きな粒子は鼻毛や鼻甲介の粘膜に捕捉され空気だけが気管に送り込まれる一方、口呼吸ではこのステップがすべて省略されて気管や肺に不純物が紛れ込む可能性がありますので鼻呼吸をしましょう。寝ている間に口呼吸になる人はテープを張ったりマスクをしたり室温を加湿したりして対応しましょう。
夜寝ている間は唾液の分泌が減って起床時には口の中の細菌の数が多くなります。口呼吸の人は口腔とのどが乾燥するため細菌の数はより多くなります。口腔内を清潔に保つことは肺炎の予防にもつながり、夕食後~夜寝る前の歯磨きやうがいは就寝中の肺を守るために極めて重要です。
誤嚥しないように食事の時は一口の量を少なくして少し飲みこむようにします。みそ汁などの水分はむせやすいので要注意で、嚥下機能が落ちているときは水分にとろみをつけると誤嚥の予防になります。
風邪をひいたり発熱したりすると特に高齢者は脱水になりやすいので水分をしっかり摂って脱水にならないようにしましょう。
咳嗽は異物を気道外に排除する生体防御反応なので、薬などを使って無理やり止めるのは防御システムを自ら放棄していることになります。市販薬としても使用されるデキストロメトルファンやコデインリン酸塩は大量に内服するとモルヒネと同様の向精神作用があり、病気を見極めて病気に応じた治療を行い咳が出ないようにすることです。
アルコールの飲みすぎは肝臓に悪いだけでなく、肺炎の重症化や睡眠時無呼吸症候群の悪化にもつながります。アルコールによりのどの常在菌が影響を受けてグラム陰性菌が増え、咳反射や咽頭反射が鈍くなって誤嚥しやすくなるからです。飲酒で筋肉の弛緩がひどくなり、またアルコールには血管拡張作用があるため鼻毛細血管が拡張・鼻粘膜が腫れて鼻詰まりから口呼吸となり、無呼吸がひどくなります。

中国医学、インド医学、健康食品、ビタミン療法など科学的にまだ検証されていない医療のみを受けることを代替医療と呼んでいます。最近の研究では、がんに対して代替医療しか受けないと死亡リスクが2.5倍上昇するという報告があります。
インターネットで医療に対する情報が無料でたくさん得られるようになりました。それが正しいのかを自分で判断しないといけません。そのために新しい医学情報を見たらそれが論文になっている情報なのかを確認する癖をつけましょう。論文が複数あれば信頼度が高くなります。

感想

COPDの本というよりCOPD中心ですが呼吸器疾患全般についての本です。

 

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