日本臨床腫瘍学会編集で、2015年に初めて発刊され、2022年9月に第2版が発刊されました。
転移性骨腫瘍診療ガイドライン改訂第2版
骨転移は正しく診断され、適切な治療介入を受けることで生命予後の改善につながると考えられます。
転移性がんのがん種別骨転移の頻度は、前立腺がん88.7%、乳がん53.7%、腎がん38.7%、肺腺がん36.9%、婦人科がん36.0%、小細胞肺がん34.6%、食道がん8.0%、胃がん4.5%、膵がん3.8%、結腸がん1.2%と報告されています。
骨転移の部位は脊椎が最も多く、大腿骨、骨盤、肋骨の順です。脊椎では胸・腰椎に好発し、四肢末梢骨への転移は稀です。
組織像は溶骨型、造骨型、骨梁間型、混合型に分類され、排他的ではなく共存している場合もあり骨梁間型が最も多いです。溶骨型は多くのがん種でみられ、骨折を起こしやすいです。造骨型は前立腺がんに最も多いです。
組織採取時にはそのままでは薄切りできないため脱灰処理を要し、酸を用いるとタンパクやRNAに変性を生じるため遺伝子検査には不適で、免疫染色も一部の抗体には十分な染色が得られず、EDTAなどのキレート剤による脱灰が必要となります。
骨転移が成立するには破骨細胞が重要で、溶骨型だけでなく造骨型にも重要な役割を果たしています。骨基質には成長因子が含まれ、骨吸収により放出されてがん細胞に供給されて転移が進行すると考えられます。
骨転移の初回診察時は27-60%無症状と報告されています。症状としては痛みやしびれですが、他疾患と症状が類似して鑑別困難なこともあり、適切な画像診断が必要になります。
悪性腫瘍では約30%に高カルシウム血症を呈するといわれ、骨転移によりPTHrPを介するものや、局所性骨溶解性高カルシウム血症などのメカニズムのものもあります。がん患者に高カルシウム血症を認めたときは骨転移を念頭に置く必要があります。
主な骨形成のマーカーBSAP、オステオカルシン、PINP、PICPなどがあり、骨吸収性マーカーにNTx、CTx、ICTP、DPD、PYD、TRACP5bなどがあります。骨転移の診断には必須ではないですが、骨転移ではマーカーが上昇することがあります。乳がん、肺がん、前立腺がんであれば骨転移の診断のための件さとしてNTx、ICTP、DPD、TRACP5bが保険収載されています。ビスホスホネートやRANKLなどの骨修飾薬(BMA)は骨吸収を抑制するため、日常診療に推奨はされていませんが、骨代謝マーカーの有用性が検討されています。
骨転移の骨破壊はがん細胞の直接的浸潤ではなく、破骨細胞の骨融解によって間接的に引き起こされます。単純X線やCTでは局所の骨吸収あるいは骨形成を反映した異常陰影、骨梁構造の破壊像より診断されます。MRIは骨構造の破壊を描出しにくい欠点はありますが、検出感度は高く病変の進展程度も把握しやすいです。骨シンチグラフィーは骨の代謝反応を反映しているため、がん以外の骨代謝の更新した良性病変でも陽性となり、他の画像診断を併用して診断します。FDG-PET/CTは糖代謝を画像化して診断に役立てています。日本では未承認のFDG以外の物質を用いたPET検査もあります。
病的骨折、神経麻痺、脊髄不安定性が生じた場合あるいは切迫する状況となった場合は整形外科的手術が検討され、脊髄麻痺は発症から原則48時間以内の緊急手術、病的骨折も可及的速やかな手術が必要です。骨折リスクがありQOL維持のための長管骨の手術も推奨されますが、根治を目的とした手術は少ないものの腎がんや甲状腺がんのように進行の遅いがん種の単発転移では根治的切除がおこなわれることもあります。
骨折や脊髄圧迫のリスクが高いと考えられる場合装具の使用が検討されます。
四肢長管骨に対して腫瘍切除術および人工関節置換術はエビデンスは多くないものの長期予後が期待できる場合は推奨され、内固定にセメントを併用することで痛みと機能の改善が得られ、漏出したセメント塊で痛みが生じる可能性はあるものの推奨されます。
骨転移患者でロコモティブシンドロームの改善を期待して骨転移部位以外の骨関節手術は有用の可能性もありますが、静脈血栓塞栓症の合併症に注意する必要があります。
放射線治療は有痛性骨転移に対して、少ない有害事象、短期間で高確率に疼痛緩和が得られる能力を持ち非薬物療法の中心的役割をはたしています。初回照射後に疼痛が再燃した場合同一部位への再照射も検討に値します。脊髄圧迫に対しても放射線治療は適応があり、脊髄圧迫から麻痺症状が出現している場合来院後48時間以内程度の可及的早期に治療を開始することが望まれます。麻痺が出現から時間が経過していても治療適応がなくなるわけではありません。長管骨などの骨折リスクが高い場合には骨折予防を目的とした放射線治療も検討されますが、治療しても骨折を高率にきたすことは知られています。
放射線外照射は疼痛の緩和(61-62%)や消失(23-24%)が期待出来るため推奨されます。有効例では半数は3週間以内に、8週間以内には大部分に緩和が得られます。効果や効果発現時期に単回照射と分割照射に有意差はありません。30mmを超える大腿骨転移は骨折の頻度が高く、固定術をした後に外照射を行うことが望ましいです。
脊髄への線量を低減しつつ脊髄転移に高線量を照射する体幹部定位放射線照射は保険適応もされましたが、優位性は示されておらず、患者ごとに照射方法を選択することが推奨されました。照射しても効果が乏しい場合や再燃した場合の再照射は68%で緩和され20%で消失することから再照射は推奨されます。経皮的椎体形成術(セメント充填術)は疼痛緩和が70%で半数は1日で効果が得らえるため、適応や手技に習熟した医師のもとで行うことが勧められます。腫瘍に対するアブレーション療法は腫瘍を崩壊・壊死させる治療法で有効性も報告されていますが、治療後のセメント充填術が必要になり、既存のすべての治療法が無効な場合に考慮されます。
骨修飾薬(BMA)はビスホスホネート製剤とRANKLに対する抗体があり骨吸収を抑制します。静脈内投与されたビスホスホネート製剤はおよそ半分は選択的に骨に集積し、残りは代謝を受けずに腎臓から排泄されます。破骨細胞に取り込まれたビスホスホネート製剤は骨吸収を抑制するとともに破骨細胞のアポトーシスを誘導します。
デノスマブはRANKLを阻害するヒト型IgG2モノクローナル抗体で破骨細胞の形成と骨吸収を抑制します。皮下単回投与されたデノスマブは生体利用率は62%、血中最高濃度は投与後1-6週間後(中央値1-2週間後)に認められ、血中半減期は6-8週間です。
造骨型の骨関連事(SRE)予防のためのBMA投与はエビデンスに乏しく現時点での推奨度は弱いです。
肺癌の骨転移に対して症状の有無によらずBMAのゾレドロン酸またはデノスマブの投与は予後の延長ははっきりしませんが、SREの抑制に有効であり投与が推奨されます。
乳がんに対するBMAのパミドロン酸、ゾレドロン酸、デノスマブの投与は生命予後の延長は認めないもののSREを有意に抑制し効果はパミドロン酸<ゾレドロン酸<デノスマブであり、ゾレドロン酸4mgは4週毎と12週毎に差がないと報告されました。
前立腺がんは治療前の多くはホルモン感受性で内分泌療法が実施され奏功しますが、2年前後で治療が無効になる去勢抵抗性前立腺がんとなり、骨転移が増悪してSREが起きやすくなります。SRE抑制のためBMAのゾレドロン酸とデノスマブは有効でデノスマブの方が効果は高いものの生存期間に差は認めていません。また骨転移のあるホルモン感受性前立腺がんにBMAの投与は有効性が明らかではなく、抗がん剤や新規ホルモン薬の投与が推奨されます。
多発性骨髄腫においてパミドロン酸とゾレドロン酸はSREを減少させ、予後も延長させる結果が得られ、デノスマブもゾレドロン酸と同等の結果でした。標準療法のMP療法にボルデゾミブを追加すると、抗腫瘍効果に加えて溶骨型骨病変を改善させると考えられました。
肺がん、乳がん、前立腺がん以外の固形がんの骨転移に対して、エビデンスは高くないもののBMAの投与が提案されます。
BMA治療中にSREが発症した場合、BMA治療薬を変更すべきか明らかではありません。
BMAの有害事象は1-10%に顎骨壊死が生じ、ゾレドロン酸を12週にしても同等で、デノスマブも同等とされます。予防のため治療前から歯科の介入が望まれます。ゾレドロン酸は腎障害を認めることもあり、デノスマブでは少ないとされています。ゾレドロン酸のG-3以上の低カルシウム血症は1.0-4.7%で、デノスマブは1.7-10.8%となっています。デノスマブ投与時は商品名デノタスチュアブルの使用が必要ですが、腎機能障害がある場合活性型ビタミンDの使用が望ましいです。その他投与3日以内に発症する発熱やインフルエンザ様症状はゾレドロン酸17.7-22.0%、デノスマブ8.4-10.4%です。非常にまれなものとして非定型大腿骨骨折と外耳道骨壊死があり(1万人当たり数例)、BMA治療中に大腿部痛を訴えた場合画像検査を実施して外側骨皮質の肥厚といった所見を見ることが重要になります。また両側性に認めることもあります。治療は骨折の場合髄内釘固定術の手術で、疼痛がなく骨折線がみられないケースではビタミンD剤とカルシウム剤が選択肢になりますが、予防のため手術が選択されることも多いです。
ゾレドロン酸の12週毎の投与は、乳がん、前立腺がん、多発性骨髄腫では許容されると考えられました。
BMA治療に放射線治療を併用することは推奨され、放射線の効果は全身拡散強調MRIやFDG-PET/CTによる効果判定が提案されます。
ストロンチウム-89の内用療法は、現在日本では供給停止されていますが、米国では供給が再開されています。治療効果は高く、外照射と鎮痛効果は同等で、嘔気の副作用は少なく、外照射と併用で効果が上がるとの報告もあります。前立腺がんで最も効果が高く乳がんも同様に効果が高いとされています。非小細胞肺がんではゾレドロン酸との併用でSREの軽減と予後の延長が得られました。3か月の間隔で繰り返すことが可能で、繰り返していくと効果は低減します。有害事象は骨髄毒性が主で、血小板減少が15-50%発症するもののほとんどはG-2以下です。
去勢抵抗性前立腺がん骨転移にラジウムー223内用療法は有用で、副作用は軽度の骨髄毒性と消化器症状です。4週間隔で6回の投与を最大とします。
免疫チェックポイント阻害剤の骨転移の効果は明らかではありません。
骨転移による痛みの治療は安静時痛と体動時痛で適切な薬物療法が異なり、十分評価して治療することが重要です。安静時痛は非オピオイド鎮痛薬・オピオイド鎮痛薬を提示投与し対応し、体動時痛に対しては予防的なレスキュー薬の使用を推奨することもあります。脊髄圧迫症候群を回避することも重要で、痛みが最小限になる動作方法の工夫や装具の使用、環境調整などのリハビリテーションを組み合わせることです。
骨転移の疼痛に対する薬物療法はNSAIDとアセトアミノフェンの投与が推奨され、オピオイドも推奨されます。それでも効果が不十分の場合、抗けいれん薬や抗うつ薬の鎮痛補助薬の使用が推奨されます。
骨転移はステージⅣを意味しますが、その生命予後は改善してきており、最後まで生活を支援する必要があり治療する必要性も高くなっています。リハビリテーション医療では日常生活の再建が目的で、多面的なアプローチが必要になります。体動時痛で動かなくなると血流低下により骨格筋の硬結をきたし、新たな痛みを生じそれはオピオイド抵抗性です。その対応としてはトリガーポイントへのブロック注射を行い、疼痛を緩和させつつ身体運動による骨格筋の収縮を促し血流の再開を図ることです。
褥瘡は最短2時間で発生し、深部静脈血栓症は8時間程度で発生します。関節拘縮は2-3日、筋力低下は1種間で10-15%発生するといわれて意外と進行が速く、可及的早期の活動再開が必要でリハビリテーション医療の役割は大きいです。
骨転移患者では骨痛と筋肉量減少との関連が報告され、疼痛や運動機能障害などで日常生活動作の低下を招くことが予想されますが、実際高齢者ではサルコペニアと骨塩量減少との関連性も報告されています。
緊急な対応が必要な骨転移の病態に脊髄圧迫と高カルシウム血症があります。脊髄圧迫は発症後24時間以内に全脊椎MRIなどの画像検査を行い、24時間以内の治療開始が目安です。手術化放射線治療が考慮され、ステロイドはデキサメタゾン10-16mgから開始されることが多く、放射線治療開始後4-6mgとなります。高カルシウム血症は必ずしも骨転移を伴うわけではありません。初期症状は軽微で、進行すると筋力低下、精神症状などが認められます。補正カルシウム濃度が12mg/dlを超えると症状が出るようになり、14mg/dlを超えると中枢神経症状が出現します。16mg/dlを超えると意識障害と急性腎不全となり生命の危険が及びます。まずは生理食塩水の急速投与開始し尿量を確保し、利尿薬の投与は推奨されません。緊急時には即効性のあるカルシトニン投与を行い、持続する場合には効果発言に時間の要するゾレドロン酸の点滴静注をします。効果不十分の時はデノスマブを投与します。
全身単純X線はルーチンには推奨されませんが、安価で低被爆のため局所や骨折の評価に有用です。CTは溶骨型・造血型をとらえるため診断に有用ですが、骨梁間型などでは転移が検出できず(特異度95%、感度73%)被爆もあります。MRIは骨梁間型も検出しますが偽陽性も多く単独では注意が必要です(特異度92%、感度90%)。骨シンチグラフィーは感度46.8%、特異度88.3%ですが、SPECT撮像を追加すると感度81.5%、特異度99%となります。FDG-PET/CTはMRIよりも感度は劣りますが、特異度は高く骨外病変の診断にも有用です。
歩行機能やPSの維持はQOL維持に重要だけでなく生命予後を改善する可能性もあり、手術・放射線治療・リハビリテーションでの介入することを提案されます。
骨転移のある患者のリハビリテーションは、習熟した専門職かその管理により特に有害事象の発症はなく実施が推奨されます。病的骨折のある患者の外科的治療後にも習熟した専門職かその管理によるリハビリテーションが推奨されます。
痛みのある骨転移患者へのマッサージは症状の改善する可能性はあるものの、害の危険性もあり、どのようなマッサージが効果的で害が少ないかといった研究待ちであります。