頭痛の治し方

著者紹介

2022年5月2日初版の扶桑社から発刊された本で著者は丹羽潔氏です。丹羽氏は1987年東海大学医学部を卒業され、しんけいないかに従事され、2005年に開業され、2015年に頭痛専門クリニックを開設されました。

トリプタンや抗CGRP製剤の各種薬剤の性質や予防薬も具体的にありました。本の最後には緊張型頭痛に効くストレッチ&マッサージもありました。

頭痛の治し方

内容

日本では4000万人以上慢性頭痛があり、頭痛は国際頭痛分類で367種類あり、三大頭痛の片頭痛、緊張性頭痛、群発頭痛で90%を占めます。

片頭痛は片側の痛みが60%で両側が40%です。ズキズキ脈打つタイプが60%です。80%は緊張性頭痛を併発しているデータもあります。男女比1:4と女性に多いです。ポイントは動くと痛いかで、安静にしているとラクです。前兆の90%は視覚症状で閃輝暗点というジグザグ形が見えたり空が広がって視界がかけたりする現象で、通常は20-30分で回復します。片側の顔や舌などからチクチク感が全身に広がることや、言葉が出なくなる、呂律が回らないなどの症状が発作5-60分前に現れたりします。予兆は首から肩にかけての急激なコリや、生あくび・眠気、光や音に対する過敏性等が、発作の数時間-2日前から生じることがあります。MRIでは診断不可ですが、首の後ろの頭の付け根に圧痛点が95%の人で認められます。遺伝性が強く片親が片頭痛あれば50%以上、両親ともなら75%以上の確率で遺伝します。コーヒーで楽になる、ワインや雨・台風前に痛くなることもあります。チラミン、ヒスタミン、グルタミン酸ナトリウム、アスパルテーム等が誘因になります。三叉神経末端が刺激されてCGRPが分泌されて血管が拡張して炎症が起こり片頭痛を起こします。

緊張性頭痛の原因は肩コリではなく首コリで最たるものがスマホです。姿勢が良くなくても原因になります。マスクの着用で凝る筋肉もあります。片頭痛とは違い動くと楽になることです。ズキズキせず頭全体が重く圧迫されるようなもので、1週間くらい続き次第に消失します。入浴やアルコールで痛みが気にならなくなります。運動せずにデスクワークが中心の仕事の人は可能性が高いです。筋肉が収縮すると血管が圧迫されて循環不全が起こり、プロスタグランジンや乳酸やピルビン酸が発生して緊張型頭痛が生じます。筋力低下や血行不良や心的ストレスも一因になります。正しい姿勢を保ち、肩や首を温めて緊張をほぐしてやることが有効です。眼精疲労も首コリの原因となります。

群発頭痛は有病率0.07-0.09%で他の三大頭痛よりは頻度が低いです。20-30代男性に多く、一年のうち一定の期間中や連日一定の時間に表れる激しい痛みが15分-3時間続きます。年に1-2回、発症すると3-16週間続くことが多く、85%の人は寛解期がありますが、15%は寛解期のない慢性群発頭痛です。原因やメカニズムははっきりせず、内頚動脈の拡張と考えられています。必ず片側の同じ側にしか起こらないことも特徴です。あまりの痛さでジッとしていられず、就寝中でも目が覚めてしまいます。寛解期には大丈夫ですが、群発期には少量でもアルコールをとると頭痛が誘発され、サウナや刺激の強い食事や激しい運動も誘因になります。

後頭神経痛はスマホとテレワークにより増えている頭痛で、大後頭神経・小後頭神経、大耳介神経の末梢神経ダメージによる神経痛で、片側の首から後頭部・頭頂部にかけてチクチクピリピリした一瞬の激痛を繰り返し生じます。神経痛が起こると、首を動かすと痛みが生じます。アロディニアといって、ブラシで髪をとかしたり頭皮に触れただけで痛みが出ることもあります。雨が降る前日に症状が多く、降るとおさまります。1週間ほどで自然に治ります。首周りの筋肉の凝りが原因で、縦に動くような痛みが特徴です。短時間冷やしてみることです。症状が続く場合はカルバマゼピン服用や神経ブロックをします。

 

ピークのあと2-3週間症状が持続する場合、くも膜下出血の可能性があります。脳腫瘍でも緊張型頭痛に似た痛みを生じます。寝ている時に痛みが強くなります。頭部外傷後に1-数カ月後に硬膜下血腫を認めることがあり、ジワジワとした頭痛と物忘れや歩行障害が表れます。

 

片頭痛の薬にトリプタンがありますが、頭痛が始まってからでないと効果は期待できず、片頭痛が起こってから20-30分以内の早いタイミングの服用が望まれます。遅れてしまったらドンペリドン(商品名ナウゼリン)かメトクロプラミド(商品名プリンペラン)の併用で一気に脳内濃度が高まります。

片頭痛の急性期で使用される薬はアセトアミノフェン、NSAID、エルゴタミンがありますが、はるかに強い効果を示すトリプタンがあります。トリプタンはセロトニンを増やし、血管拡張を抑えて発作を抑える作用があります。薬によって水なしで服用できる錠剤や点鼻や自己注射薬もあり、内服は30分ですが、点鼻は15分、注射は5-10分で効果を認めます。効果が強く発作時間が長い薬剤や10時間以上効果が持続するものもあります。

トリプタン製剤の副作用はめまい、ふらつき、脱力とトリプタン感覚といわれるのどから胸にかけての上半身の圧迫感があります。狭心症や脳梗塞の持病がある人は使用が控えられます。それから薬価が高いです。10-30%はトリプタンが全く効きません。効かない人にはエルゴタミンが使用されていましたが、副作用が強くて効果発現が遅く依存性もあり、2022年5月にジタン系薬剤のラスミジタン(商品名レイボー)が登場し、脳心血管系の疾患がある人にも投与可能ですがめまいや眠気の副作用は高いです。発作が4時間以内服用で効果が出ます。

OTC錠は様々ありますが、ブロモバレリン尿素やアリルイソプロピルアセチル尿素が含有されているものは効果は高いものの眠気の誘発や依存性が高いため注意が必要です。一番効果が高い成分はロキソプロフェンで、それと遜色がないのがイブプロフェンです。アセトアミノフェンは効果は穏やかですが、服用後は30分で効果が認められ4-6時間効果が持続します。アセトアミノフェンは坐薬より内服薬の方が効果は早いです。

 

薬物乱用頭痛(MOH)という薬の使い過ぎによって誘発される頭痛があります。1種類以上の鎮痛薬を3か月続けての乱用で、1か月に15日以上の片頭痛と緊張型頭痛が混在した複雑なパターンの頭痛に見舞われます。乱用とは薬によって異なりますが、1か月に10日ないし15日以上服用していることです。気づかないまま薬を飲み続けると症状が悪化します。早朝や起き抜けに頭痛が起きることや、頭痛の回数が増えて薬も増えているものの効果が薄れて薬を毎日飲まずにいられるようだと注意が必要です。MOHから脱するには薬を一切飲まないことで、1-2週間はつらい期間が続きますので、頭痛専門医の最大限のサポートが必要になりますが、20%程度の人しか達成できないという報告もあります。

乱用について1種類の成分のみの薬なら1か月14日までは大丈夫ですが、市販薬の複数の成分が入っていると10日以上で症状が現れる可能性があります。飲んだ錠数よりも日数が大事です。薬をやめるにあたっては頭痛を引き起こすような生活習慣の改善も大事です。

 

予防の薬としてβ遮断薬、Caブロッカー、抗てんかん薬、抗うつ薬があります。近年抗CGRP製剤が使用可能となりました。効果は高く副作用も少ないですが高額です。

 

漢方薬では呉茱萸湯が吐き気を伴う片頭痛に有効です。桂枝人参湯は気圧変動に伴う片頭痛や体力のあまりない人の胃腸機能を高めます。釣藤散は筋弛緩作用もあり、比較的体力のある慢性頭痛・緊張型頭痛によく用いられます。葛根には筋弛緩作用があり、葛根湯は緊張型頭痛に処方されています。五苓散は天気の変動で引き起こされる頭痛に有効です。めまいを伴う片頭痛には苓桂朮甘湯が効果的で、六君子湯はオレキシンを増やし片頭痛にも有効です。MOHには千九茶趙さん川芎茶調散が効果を発揮して離脱の可能性を高めます。

 

ボツリヌス毒素が片頭痛や緊張型頭痛に有用ですが、日本では自費診療となります。顔面の11か所に合計25IU局注します。非侵襲的神経刺激療法のニューロモジュレーションも有効です。商品名CEFALYは三叉神経の第一枝に細かな電気刺激を与えて神経を錯覚させ、これを3か月間毎日20分間行って発作回数を減らすことができます。妊婦の使用も可能です。非侵襲的迷走神経刺激装置も急性期と予防療法に有用です。

認知行動療法も片頭痛の予防に有用です。

片頭痛のある人が低用量ピルを飲み続けると片頭痛のない人よりも脳卒中や心筋梗塞のリスクが約10倍になります。全長のある片頭痛の人は脳静脈洞血栓症のリスクが15倍になり、エストロゲンの含有量に比例して起こしやすくなっています。

妊娠中は卵巣ホルモンのエストロゲンが安定するため片頭痛が和らぐケースが多いですが、それ以外の重篤な頭痛が起こる可能性もあり、妊娠4-15週目は胎児の臓器ができる時期なのでできる限り薬の使用は控えましょう。16週以降も注意しながら服用する必要があります。妊娠期間はアセトアミノフェンだけを含む薬や吐き気止めはメトクロプラミドにしましょう(ドンペリドンは動物実験で催奇形性の報告があります)。

アルコールには血管を拡張させる作用とヒスタミンが含まれます。赤ワインにはフェニルエチルアミンが多く含まれ、室温のワインを飲むと吸収が早く急激に血管が拡張して片頭痛を引き起こしやすいです。キムチやチーズのような発酵食品にはチラミンという血管を一時的に収縮させる成分があり、リバウンドで拡張したときに片頭痛を引き起こしやすくなります。チョコレートやオリーブオイルやアスパルテームにも血管拡張作用があり注意が必要です。体内から消える目安は日本酒2合で6-7時間、3合では9-10時間、缶ビール2本でも7時間です。

うま味調味料のグルタミン酸ナトリウムや亜硝酸のトリウムにも血管拡張作用があります。糖分を摂りすぎると筋肉の緊張につながるため緊張型頭痛の人は過剰摂取は注意が必要です。酸化ストレスは摂取する油と関連があり、ω3・9脂肪酸はいいですが、ω6脂肪酸はよくありません。オリーブオイルはω9脂肪酸が多いもののポリフェノールで血管拡張作用があるためあまりいいとは言えません。

カフェインは片頭痛に有効ですが、過剰摂取のリバウンドで片頭痛の誘因にもなります。珈琲にはポリフェノールも含まれますが、カフェインの効果が強く痛みを軽減してくれます。アドレナリンが放出されると筋肉が緊張状態となり、それを緩和させるためにマグネシウムを消費するので、マグネシウム不足となり片頭痛を悪化させます。メープルシロップはショ糖が主成分で蜂蜜よりカロリーが低くカルシウムとカリウムの含有量が多く有効ですが、ポリフェノールも入っていて過剰摂取は禁物です。

片頭痛にはセロトニンが有用で、トリプトファンを含む食材の摂取が勧められますが、動物性タンパク質にはBCAAが含まれ脳内への取込みが抑制されますので植物性タンパク質が望ましく、ビタミンB6が脳内への取込みをアップさせます。抗炎症作用のある青魚に多く含まれるω3脂肪酸の摂取も効果的です。バナナやスイカも勧められ、柑橘系や梅干し・酢には筋肉疲労をとる効果があり緊張型頭痛には有効です。アーモンドにはマグネシウムが含まれ1日3粒食べましょう。

ハーブには鎮痛・鎮静作用もあり、片頭痛や筋肉の緊張をほぐすため緊張型頭痛にも有効です。

朝起きたときに太陽の光を浴びることでセロトニン、友人などと話をすることで出るオキシトシンも片頭痛に有効です。ガムをかむとセロトニンが増え、口にの筋肉や顎関節がおちつくので片頭痛や緊張型頭痛に有効です。

光刺激で頭痛が起きる場合浅緑色のサングラスが有効で、特に紫外線が多い10-14時にはサングラスの装着が望まれます。クラシック音楽でもβエンドルフィンなどが活性化して自律神経が安定しますが、片頭痛には交感神経、緊張型頭痛には副交感神経に働きかける曲が勧められます。

かき氷やアイスクリームなどの冷たいものを摂ったときの頭痛は三叉神経が刺激されて脳が痛みと勘違いして引き起こされます。激しい運動や性行為中もしくは直後に起きて、最大48時間持続で自然に治まる頭痛もあります。行為1-2時間前にインドメタシン50-200mg服用すると予防されます。地震発生48時間以内に大気のプラスイオンが増えるため脳内セロトニンが低下して頭痛発作が起きることもあります。ポニーテールでも束ねている根元で頭痛を認めることがあり、ポニーテールをやめれば1時間以内に消えます。

感想

動いた時の痛みで片頭痛と緊張型頭痛を鑑別されていて、ガイドラインには載っていないことも含んでいる臨床に即した本です。片頭痛もつらいですが、もっとつらいMOHにならないような指導や診療が必要お感じました。

 

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