禁煙学

2019年に第4版として発刊された日本禁煙学会の編集の本です。

禁煙外来についてはここでは割愛しました。

禁煙学

内容

喫煙者本人がタバコ煙を口から吸うことを能動喫煙、環境中に滞留する呼出煙および副流煙に人体がさらされることを受動喫煙、副流煙や呼出煙が家の壁やほこりに吸着して有害成分を生成して再放散されたものを吸収することを三次喫煙(サードハンドスモーキングとも言います)といい、それらが人体に影響を及ぼします。

タバコには含まれるニコチンは、自律神経を興奮させ、副腎髄質に作用してアドレナリン放出を促し、様々な病気の原因となります。

ニコチンなどのアルカロイドがニトロソ化したものの総称をニトロソアミン類といい、これがタバコの粒子と煙に含まれ発がん物質となります。

粒子には複数のベンゼン環が縮合した物質の総称である多感芳香族炭化水素類(PAHs)が20種類以上含まれ、DNAと共有結合して発がんの発端となる遺伝子変異を起こします。

ガスには一酸化炭素が含まれ、心負荷を増大させ血液の粘性が増して血栓傾向となります。

タバコ会社はニコチンを効率的に脳へ届けるためアンモニアをタバコに添加し、アンモニアは主流煙より副流煙に多く含まれ、副流煙の方が粘膜刺激性が強いです。メンソールも添加されてタバコ本来の不快な影響である咳反射などを覆い隠し依存を増大させます。

有機化合物の不完全燃焼によりホルモアルデヒドなどのアルデヒド類が含まれ、これが依存形成を促進し、発がん物質としても作用します。

ニコチンは依存性が強く、離脱症状はアルコールより弱いものの中止するのは困難です。

加熱式タバコはタバコの葉に熱を加えてニコチンを含んだエアロゾルを発生させて吸引するもので、有害物質量は通常の紙巻きタバコよりは少ないものの、紙巻きタバコ1日1本の喫煙でもがんのリスクが上がることを考慮すると発がんリスクは高いと思われます。

日本人では喫煙により男性で8年、女性で10年寿命が短縮し、60歳以降の喫煙継続で健康寿命が4年短縮します。

喫煙にて肺癌をはじめ様々な癌を発症しやすくなり、循環器疾患、脳血管障害、COPD、間質性肺炎、糖尿病、アレルギー疾患、アルツハイマー型認知症の発症リスクを上げ、喫煙妊婦から肥満や糖尿病を発症しやすくなり、乳幼児突然死症候群の発症リスクを高めます。

受動喫煙により心臓病、脳卒中、がんによる死亡を20-30%増やします。海外では受動喫煙防止法により、急性冠症候群の減少が相次いで報告され、脳卒中や呼吸器疾患での入院も少なくなりました。

2017年の日本人の喫煙率は17.7%(男性29.4%、女性7.2%)で毎年低下し、北海道東北で喫煙歴が高いです。2016年世界では喫煙歴男性33.7%、女性で6.2%です。

2014年の厚生労働白書では我が国におけるリスク要因別関連死亡者数によれば、2007年1年間で喫煙による死亡者数が最も多く約13万人で、2位は高血圧の1万人、3位は運動不足の5万人、4位が高血糖の3万4千人で、健診では禁煙勧奨を指導に入れるべきです。

タバコを吸うとニコチンが脳内のニコチン性アセチルコリン受容体に直接作用してドーパミン放出を促進させ快感を得ます。これを繰り返すとドーパミン受容体が減って神経の反応が鈍くなり脳内報酬系が機能不全になり、より多くのニコチンを求めるようになります。タバコを吸っているとタバコによるストレスを抱えて防衛機構が働き、タバコによる害を否認して都合のいい理由をつけて合理化します。

禁煙には認知行動療法や動機づけ面接法などのカウンセリングと薬物療法が重要になります。薬物療法はニコチン製剤(日本ではガムとパッチ)、非ニコチン製剤のバレニクリンがあります。ニコチンガムは薬局で購入できますが、依存症になることがあります。パッチも薬局でも購入できますが、禁煙外来で処方されるものと若干異なります。

バレニクリンは6か月後の禁煙率がプラセボより2.2倍、ニコチン製剤と比して1.6倍高まると報告され、また24週にすると継続禁煙率を1.5倍高めることも示され、保険診療は12週間までのため自由診療にして12週以上継続することも検討されます。

タバコの禁煙には自らが決意することが最も大切で、薬物療法とカウンセリングが重要です。3か月経過すればニコチン離脱症状は消失しますが1本吸うと60-80%は再喫煙します。

 

妊婦は最大の禁煙チャンスであり、定期的に医療機関を受診するため禁煙の指導も多く取ることが可能になります。検尿があるため尿中ニコチン測定すれば禁煙できているか判定も可能です。日本では妊娠中と授乳中のニコチン置換療法は禁忌となっています。妊娠中のバレニクリンも禁忌ではないものの安全性も定かではなく避けた方がいいと思われます。また妊娠中に禁煙をしても60%は出産後か卒乳後に再喫煙してしまいますので、ニコチンの母乳への移行や赤ちゃんへの受動喫煙の影響を繰り返し説明することが必要です。

禁煙後1-6年の間に2-3kgの体重増加が約80%に認められ、特に最初の半年に増加します。13%は10kg以上示すとされます。ニコチンには食欲抑制作用とエネルギー消費を増加させるため、禁煙後は口寂しさも手伝って食欲亢進してエネルギー消費が減ることになります。砂糖と脂質は報酬系を刺激するため、禁煙後のニコチン欠乏をエネルギー密度の高い食品で代償している可能性もあります。禁煙後は最初の2週間は体重増加を2kg以内に抑える目標を立てます。禁煙と体重コントロールの同時治療で禁煙率を1.29倍に高めます。

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