著者紹介
2018年12月19日初版の扶桑社から発刊されたこの本は1963年生まれで1989年に群馬大学医学部を卒業された大谷義夫氏が監修されています。同氏は2009年からクリニックを開院されています。
止まらない咳を治す
内容
咳は本来異物を体外に排出するための防御反応ですが、長引く咳、特に2週間以上続く咳は風邪ではなく、他のさまざまな病気の疑いがあります。原因別にそれぞれ対処法が異なりますから、風邪ではない病気の正体を突き止める必要があるのです。その中には重篤な病気が隠されている可能性もあります。
咳が出やすい時間や時期により病気がわかることもあります。
夜明け前なら気管支喘息・咳喘息、心不全(心臓喘息)など。
起床時~午前中ならアレルギー性鼻炎、後鼻漏など。
日中なら後鼻漏など。
就寝後なら気管支喘息・咳喘息、心不全(心臓喘息)、胃食道逆流症など。
場所や季節の変わり目なら心因性、気管支喘息・咳喘息など。
冷気吸入時や運動時なら気管支喘息・咳喘息など。
3週間未満で治まる急性の咳はインフルエンザや急性気管支炎などの感染症が原因の大半を占めます。ところが咳が長引くにしたがって原因が感染症の可能性が低くなり、3週以上8週未満続く遷延性の咳は咳喘息や副鼻腔炎、胃食道逆流症などの病気が考えられます。8週間以上続く慢性の咳は咳喘息や気管支喘息などの可能性が。急性でも激しい咳なら肺炎や咳喘息の初期かもしれません。咳は風邪だけでは2週間も続きません。風邪には特効薬はありませんが、2週間以上長引く咳では治療が必要になることも。
痰の色で原因がわかることも。
黄色・緑色・さび色は膿性で細菌と白血球と粘液が混ざり合っている肺炎などの感染症。
透明~白色の粘液性はCOPDや非細菌性感染症。
ピンク色の泡沫性は肺水腫。
透明~白色の漿液性は肺胞上皮がんや気管支喘息。
血痰は肺がん、気管支拡張症、肺結核症、肺真菌症、肺マック症、肺梗塞。
真っ赤な喀血は肺胞出血、肺がん、気管支拡張症、肺結核症、肺真菌症、肺マック症。
温度差・湯気・香りなどのさまざまな刺激により誘発される咳の場合、気道に炎症を起こしている場合がありこれを咳喘息といい、気道粘膜が過敏になり小さな刺激にも反応して咳が出てしまう状態で、行ってみれば気道の過敏症と呼べる病気です。この原因にはアレルギー体質が関与していて、花粉症、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーなどを持つ人は咳喘息を発症しやすいといえるでしょう。一方で風邪はインフルエンザなど呼吸器感染症を契機に発症することもありますので、誰もが咳喘息を発症しうるとも言えます。放置しておくと炎症が悪化して気管支喘息になる可能性があり、早期治療で完治させることが大切です。自然に治ることもありますが、再発する可能性もあるため吸入ステロイド薬などを使って治療しましょう。気管支喘息が完治する可能性は数%ですが、咳喘息の段階なら完治も見込めます。
体温が38度未満でただの風邪と間違われやすいインフルエンザがあり、隠れインフルエンザと言われます。高熱は出なくてもインフルエンザに変わりありませんから悪寒や頭痛、関節痛や筋肉痛、倦怠感、食欲不振などの症状はあり、もちろん咳も出ます。インフルエンザは治療が遅れて重症化する心配があるのと、治療が遅れてウイルスをまき散らしてしまうことがあります。肥満の人はインフルエンザが重症化しやすく、特に高齢者では死亡リスクが高くなることが報告され、ウイルスを排出期間が長くなるという結果もあります。
分泌された鼻汁がのどに流れ落ちて刺激となり咳が出てしまう症状を後鼻漏といいます。大元となる病気は副鼻腔炎で(以前は蓄膿症と言われていました)、アレルギー性鼻炎などでも起こります。副鼻腔炎を放置すると咳だけではなく、いびきをかいたり寝付けなかったりし、慢性化しやすいうえ重症になると手術が必要なることもあります。
咳が長引いて止まらない人の中に胃食道逆流症をおこしている人がいて、食道粘膜が炎症を起こしていれば逆流性食道炎ともいわれます。逆流性食道炎は命に係わる重篤な病気ではありませんが、胸やけがして食事を楽しめない、ぐっすり眠れない、口内炎が増える、集中力がなくなるなどがあります。また放置しておくと食道腺がんや誤嚥性肺炎のリスクも高まります。逆流性食道炎の人は左向きで寝るのが正解です。
喫煙者の15-20%が発症するCOPDはたばこ病とも呼ばれています。たばこ中の有害物質が気道や肺胞を傷つけ最終的には肺の中にある肺胞が溶けてしまうのです。COPDはすぐに肺胞が溶けるわけではなく、初期は咳や痰が続いて息苦しさを感じる程度です。COPDは一度発症すると元の健康な肺には戻らない病気です。早期に発見し禁煙だけでなく受動喫煙対策もとり、必要に応じて治療することで進行を食い止めることは可能です。
咳にもストレスからくる心因性の咳があります。最も有効な手立てはストレスの原因となるものから離れる事、それがかなわない場合は自分なりのストレス解消法をもって少しでもストレスの軽減に努めることが大切です。
肺マック症はマック菌という細菌による感染症で、咳や痰などの風邪に似た症状から始まり数十年かけてゆっくり進行する病です。マック菌はガーデニングの土や浴室、シャワーヘッドのぬめりなどに幅広く生息する非結核性抗酸菌です。人から人への感染はありません。肺マック症はやせ型の中高年女性に多い病気です。
誤嚥した飲食物や唾液に混ざっていた細菌が気管から肺に流れ込み炎症が起こる誤嚥性肺炎は発熱や咳、痰などの風邪に似た症状が出ます。誤嚥で注意したいのは飲食物よりも唾液です。飲食物は反射によりせき込んで肺の外に排出することができますが、唾液は就寝中など知らない間に誤嚥することがあるため、肺に細菌などが入りやすく繰り返しやすいです。飲み込む力が低下すると誤嚥しやすくなるのでトレーニングなどでのどの筋力を鍛えることが大切です。
咳もアレルギー症状の一つに挙げられ花粉症の人の中には喉にも違和感があり咳出る人も珍しくありません。このようなアレルギー性の咳から咳喘息に進行することもあります。アレルギー薬の服用だけでなく身の回りのアレルゲンを取り除くことが必須です。エアコンのカビなどによるアレルギー性肺炎では重症化することもあり、検査入院やステロイド内服治療が必要となることも。
喉を鍛えるトレーニングとして空嚥下と開口訓練。胸の柔軟トレーニングで首傾けストレッチ、首前後ストレッチ、開胸ストレッチ、ひざ倒しストレッチ、シルベスター法、タオルストレッチ。腹筋を鍛えるトレーニングとしてプランクがあります。
環境や生活習慣でケアするため、室内環境を整える、睡眠をしっかりとる、適度な運動をする、マスクをつける、手洗い&うがいをする、歯磨きをする、鼻呼吸を意識する。取り入れたい食べ物ではトマトジュース、はちみつ、コーヒー、ブロッコリースプラウト、青魚、ヨーグルト、玉ねぎやピーマン、葉物、フルーツで、注意したい食べ物に、酢、炭酸飲料、アルコール、香辛料の多いもの、熱い麺類、アイスクリーム、加工肉があります。
風邪予防に効果的なのはビタミンCよりビタミンD、インフルエンザ予防に効果的なのは帰宅直後のうがいよりこまめにお茶を飲む、インフルエンザの感染リスクが高いのは衣服よりもドアノブ、風邪の初期にすべきなのはひたすら寝込むより軽い運動、風邪をひいたとき入浴はする、咳を鎮める飲み物は生姜湯よりはちみつコーヒー、喉風に聞くスープは卵スープよりチキンスープスギ花粉症におすすめなのはスライストマトよりオニオンスライスです。
咳が止まらないときは呼吸器内科受診が理想ですが、のどに痛みがある場合は耳鼻咽喉科がおすすめです。吸入ステロイドは極めて少ない量で効果があり、副作用もほとんどないので子供や老人でも安心です。咳がひどいときは椅子に座り前傾姿勢をとると肺への負担が軽減します。枕やマットレスを利用して上半身を起こした姿勢も横隔膜が下がって呼吸面積が広がるため呼吸が楽になります。体温を挙げたら免疫力が高まるかは現時点では医学的根拠がまだありません。花粉症対策には玉ねぎハニーがおすすめです。
感想
実際の診療では咳の出やすい時や痰の性状から咳の原因を類推していきますので、実践的な内容だと思います。咳には放置していい咳とダメな咳がありますので、、この本を参考にしたら判断しやすいと思いました。