著者紹介・はじめに
2023年9月25日初版の丸善出版から発刊された本で、企画・編集・協力者が松本朋弘氏と小澤秀浩氏で、総監修者は山田悠史氏です。松本市は歯学部を卒業されてから医学部に入学され、2016年東海大学医学部を卒業されています。YouTubeチャンネル総合診療ブラザーズを小澤氏と立ち上げて現在は救急診療科総合診療部門に勤務されています。小澤氏は2017年に杏林大学医学部を卒業され、松本氏と同じ救急診療科総合診療部門に勤務されています。山田氏は2008年慶応義塾大学医学部を卒業され、米国の内科専門医、老年医学専門医となりニューヨークで勤務されています。
種々のケースでの具体的な対応方法が記載されていましたが、ここでは呼吸器・がんのみで、また最後にはコンビニや宅配での栄養についてもありました。種々の疾患に対しての急性期・慢性期の栄養についてありましたが、ここでは呼吸器疾患のみ紹介します。
臨床栄養講座
内容
2019年に低栄養の診断基準(GLIM基準)が定められ、一般的な診断基準として用いられています。血液検査が不要で現症と病因だけで使用できます。診断と重症度判定を行って病因別に4つのいずれかに分類されます。低栄養の病因を同定して介入することも重要です。総エネルギー量の計算はHarris-Benedictの式が用いられてきましたが最近は自動間接熱量計による基礎エネルギー消費量(BEE)の測定が推奨されています。間接熱量計がつかねない場合もあり次の式でエネルギーを算出する方法も推奨されています。
必要エネルギー量=BEE(体重×25)×活動係数(AF)×ストレス係数(SF)
AFとして寝たきりは1.0,寝たきりの覚醒状態は1.1,ベッド上安静1.2、ベッド上外活動1.3-1.4、一般職業従事者1.5-1.7,SFとして飢餓状態は0.6-0.9,手術は1.1-1.8、がん/COPD、腹膜炎/敗血症。重症感染症/多発外傷、熱傷、発熱は1.2-1.3です。
タンパク質量はおよそ0.8-2.0g/kg/日の範囲内で、腎不全や非代償性肝障害増悪期では窒素不可に伴う病態悪化を防ぐため0.6-0.8g/kg/日とします。牛肉や豚肉の赤い肉よりも鶏肉の白い肉、肉よりも魚や豆などのタンパク源が推奨されます。
脂質量は総エネルギー質量の20-30%(経静脈投与時は10%程度)とし、代謝合併症予防のために2.5kg/kgを越えないようにします。加工食品に含まれる飽和脂肪酸よりも魚に含まれる不飽和脂肪酸を多く摂ることが推奨され、肉好きな人でも週1-2回は脂ののった魚の摂取が推奨されています。
炭水化物は総エネルギーからタンパク質量と脂質量を減じた残りとなります。
塩分制限は有用ですが厳格な塩分制限・水分制限は心不全の治療効果は示されておらず、至適塩分量もはっきりしていません。水分量は50mg/kgが目安で脱水・溢水に注意して量を調整します。高カリウム血症は改善するまではカリウム摂取量をゼロにする必要があります。果物と野菜から食物繊維、乳製品(牛乳換算1日500ml程度)を摂ることも推奨されています。フォローアップには身体計測(体重、BMI、皮下脂肪厚、上腕周囲、上腕筋周囲)、血液検査(リンパ球、総タンパク質、アルブミン値など)
誤嚥性肺炎で入院された場合安易に絶飲食にはせずに正しくスクリーニングを行いできるだけ早く経口摂取を再開します。長期間絶食にすると死亡率が増加して嚥下機能低下にもつながります。ベッドサイドで行えるスクリーニング検査として、フードテスト、改訂水飲みテスト(3mlの水を口腔底に注ぐ方法ですが、ゼリーより難易度が高いです)、反復唾液嚥下テスト(唾液を嚥下してもらいますが、指示に従えないとできません)があります。フードテストは3-4g程度のゼリーを摂取して咽頭へ送る力、嚥下反射までの時間、むせの有無、口腔内や咽頭残留の有無の程度、残留部位を観察し、反復嚥下を2回行い、悪い方を評価点とします。むせずに嚥下して呼吸良好で口腔内残留がほぼなければ食事を開始しますが、できなければ言語聴覚士に介入を依頼します。
脳梗塞発症5日以内の摂食嚥下障害有病率は30-81%であり、2週間を経過すると10-20%と下がります。嚥下障害持続の危険因子はNIHSSスコアなどである程度予測可能です。脳梗塞発症直後は絶食として可能なら経管栄養を開始します。経管栄養不能なら2週間以内なら末梢で、それ以上なら中心静脈から投与します。経鼻胃管の長期留置は潰瘍性出血を引き起こす可能性があり、4週間以上になる場合は胃瘻造設を考慮します。筋萎縮性側索硬化症の場合、胃瘻造設で体重減少を10%未満にすると生存率が上昇することが報告されていますが、本人の意思に基づいて決定することを基本とします。
るい瘦著明のCOPD急性増悪に対してNPPV使用中の経腸栄養は死亡率や呼吸状態悪化の報告があり避けた方が無難で、NPPV離脱後早期に経腸栄養を開始します。頻呼吸があると誤嚥のリスクが上がり経口摂取開始は嚥下の評価が必要です。経静脈栄養については至適投与量や至適開始時期ははっきりしていません。安定期は30-45kcal/kgの高エネルギー摂取が推奨され、腎機能が悪くない限りタンパク質を1.2-1.5g/kg摂取してもらいます。脂質は呼吸商が少ないですが、高脂質食は有用の報告はあるものの推奨されていません。
るい瘦著明のCOPD回復期、慢性期について、栄養補給療法は体重および除脂肪体重の増加に有意であり、BMIが大きいほど1秒量の低下率が少ないと示されています。高エネルギー、高タンパク質食が基本で、体重を増加させるには安静時エネルギー消費の1.5倍以上が必要になり、COPDは呼吸筋酸素消費量が増大しているため、健常者の1.3倍エネルギー摂取が必要です。呼吸商は炭水化物が1でタンパク質が0.8で脂質が0.7で、低い呼吸商の方が呼吸負担の軽減から呼吸機能の改善につながる可能性が指摘されていますので、優先的に脂質摂取が望ましいかもしれませんが、日本のガイドラインでは著しい換気不全や高CO2血症がある時有用かもしれないとなっています。COPDでは肺が過膨張しているため少量の食事で腹部膨満感の自覚や食事中の呼吸困難のため食事前に休息をとることや1日4-6回の分食にする、消化管でガスの発生しやすい芋や豆や炭酸飲料は控えるなどの工夫が必要です。BCAAを含む経口的栄養補助の摂取も考慮されます。COPDの予後改善のエビデンスがあるのは禁煙と酸素療法のみですが、運動療法もQOLの改善に欠かすことができません。限界だと思う60-80%の強度な持久運動トレーニングが推奨されていて、LABAやLAMAといった気管支拡張剤を使用してのトレーニングが推奨されています。米国では最大運動強度の60%以上の高強度持久力トレーニングを1回あたり20-60分で週3-5回が挙げられています。
がん患者の多くは病状の進行とともに食欲不振や体重減少を経験し次第に不可逆的な栄養不良に陥ります。がん患者の半数は中等度以上の食欲不振があり、体重減少は30-80%に認められます。代謝動態が亢進するため、現状維持するだけでも健常者のエネルギー量1.1-1.3倍必要とします。悪液質の状態になるとエネルギー消費量は減少し、過剰な栄養投与を行うと病状の増悪を引き起こす可能性があります。進行がん患者の体重減少にはがん関連性体重減少とがん誘発性体重減少があり、前者は治療の副作用やがんの告知に伴う摂食不良などで、経腸栄養や静脈栄養で体重減少を抑制してQOLを維持することが期待できますが、後者はがんによって引き起こされた代謝異常に起因し、通常の栄養管理では栄養状態を維持・改善することはできません。どちらかを見極めることが大切で、例えば末期の状態でもオピオイドの副作用の嘔気で食事摂取ができないからかもしれません。余命数か月の終末期前期の時期では悪液質への移行を予防するため積極的に栄養療法を行いますが、余命数週間の終末期中期には栄養療法で状態改善が認められなくなります。終末期後期では経口摂取不可能であれば最低限の水分と電解質液のみとします。終末期がん患者さんにも減速できるだけ経口・経腸栄養としますが経口摂取困難の場合は短期間なら経鼻胃管、長期間なら胃瘻を考慮しますが、メリットとデメリットについて十分に話し合ったうえで患者や家族の希望に沿います。経静脈栄養にする場合は過剰摂取にならないように注意します。終末期がん患者の口渇に対して、氷片やアイスキャンディーや湿ったスポンジや人工唾液での対症療法で対応し、輸液投与は有効ではありません。
感想
臨床栄養のエビデンスについてはあまり知らずに、なんとなく指示を出していたと思いますが、こうしてエビデンスを提示してくれると安心して指示を出せます。