パン・豆類・ヨーグルト・リンゴを食べてはいけません

著者紹介・はじめに

2017年9月7日初版のさくら社から発刊された本で、著者は江田証氏です。江田氏は1971年生まれの医学博士で、消化器内科の専門医でもあります。

題名から栄養に関する本と思いましたが、この本はおなかの調子が良くなくて悩んでいる人のための本で、腸に関することなのでこのカテゴリーにしました。

パン・豆類・ヨーグルト・リンゴを食べてはいけません

内容

おなかの不調で悩んでいる人は日本人に多く14%もいます。腸の調子を整えるために食物繊維と発酵食品をとるようにとしていますが、これは腸に症状のない健康な人には適した食事ですが、おなかの調子の悪い人には改善させません。小腸の中には二つの糖質があり、一つは吸収のいい普通の糖質で、もう一つは非常に吸収の悪いFODMAPという糖質です。FODMAPを含んだ食物を食べすぎると、小腸の中で濃度が濃くなり、薄めようとする性質があるため血管の中から水分を引き込み、腸が刺激され運動が過剰となり痛みが出て下痢を起こします。FODMAPが大腸まで到達すると、大腸内の腸内細菌の餌となり発酵して過剰なガス(水素)が発生します。おならが起こるのは正常な現象で、健康な男性は1日14回、健康な女性は1日7回おならをします。

おなかの調子の悪い人がやるべきことはFODMAPを含んだ食事をなるべく避けた低FODMAP食を取り入れることです。FODMAPとは発酵性の物質、オリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオールの頭文字をとっています。

 

過敏性腸症候群のはっきりとした原因はまだわかっていませんが、腸神経系と呼ばれる複雑な神経系の調節がかかわっています。体が柔らかい人は腸の組織が膨張しやすい傾向でおなかの調子が悪い人が多いです。

食物繊維は過敏性腸症候群の人の症状を改善させませんし、逆に悪さをするものもあります。ヨーグルトや牛乳に含まれている乳糖は二糖類で吸収の悪いFODMAPに相当します。

腸の細胞と細胞のあいだにはタイトジャンクションと呼ばれる結合があり、この結合で細菌が腸の粘膜内侵入できないようにさせています。

腸内細菌叢が多様な女性ほどエストロゲン代謝物の濃度は高く、乳がん発症リスクは低いです。

腸内細菌はただ大腸に棲んでいるだけでなく腸の粘膜の健康維持に欠かすことのできない代謝産物を作っていて、代表的な代謝産物が4つあります。乳酸と酪酸と酢酸とプロピオン酸で、乳酸は腸の粘膜の細胞のエネルギー源となって腸の細胞が増えるのを助けます。酪酸は短鎖脂肪酸でエネルギー源だけでなく遺伝子発現に影響し免疫力を強くします。酢酸は短鎖脂肪酸で感染症の予防に関与しています。プロピオン酸も短鎖脂肪酸で、食欲をコントロールして体重増加等を抑えます。

過敏性腸症候群の人の腸内細菌を調べると腸内細菌が作る代謝産物が過剰で、ラクトバチラスとヴァイロネアという細菌が過剰に増えていました。短鎖脂肪酸が多すぎるとパーキンソン病の症状は悪化します。カプセル内視鏡で調べたら短鎖脂肪酸の増えすぎで酸度が高く大腸の動きが悪くなっていました。

炭水化物を食べる量が多く食時間が不規則の日本人ほど過敏性腸症候群の症状が出やすいことがわかってきました。

オリゴ糖やヨーグルトで便秘が良くなったという広告も目にしますが、もともと人間はガラクトオリゴ糖を分解する酵素を持ち合わせておらず、乳糖については日本人の7割以上は成人すると乳糖を分解するラクターゼを失い乳糖不耐症になるので、腸は下痢を起こして便秘が改善しているのかもしれません。

 

単糖類とは糖の最小単位であるブドウ糖や果糖などで、単糖が二個くっついたショ糖や乳糖などを二糖類といい、単糖類と二糖類をまとめて糖類といいます。オリゴ糖とは単糖が3-10個つながった糖で、小腸で消化吸収されにくく砂糖と比べるとカロリーは低めに計算されます。腸内ビフィズス菌の栄養源となるためトクホの指定を受けて販売されているものもあります。多糖類とは単糖が数百-数千つながったもので単糖とは異なる性質を示し、グルコマンナンやヒアルロン酸などがあります。人の消化酵素によって消化されない難消化成分はとくに食物繊維に分類されます。ポリオールとは糖アルコールと呼ばれるもので、糖の分子にアルコールの側鎖がくっついたものです。キシリトールなどが含まれます。糖質とは炭水化物から食物繊維を除いたものとなります。

 

2006年に過敏性腸症候群の人にフルクトースとフルクタン(フルクトースの重合体)を制限した低FODMAP食を実施したら85%の人で改善しました。

ヨーグルトや牛乳には乳糖が含まれ、大麦・小麦・大豆・アスパラガス・ごぼうにはオリゴ糖が豊富に含まれています。納豆やキムチの発酵食品も控えましょう。小麦・玉ねぎ・レンズ豆にはオリゴ糖が含まれます。絹ごし以外の豆腐やみそやしょうゆは低FODMAPになります。甘味料のキシリトールやソルビトールも控えます。果糖をたくさん含んだはちみつやリンゴや桃などの果物の摂取を減らします。

プリンや柔らかいチーズ(リコッタ、クリーム、カッテージ)は乳糖を含みますが、硬いチーズ(カマンベール、モッツァレラ、ブルー、パルメザン、チェダー)とバターは乳糖は含みません。乳糖不耐症があっても1食4gまでなら大丈夫のことが多いです。フルクトースはグルコースより少ないときは過剰でない限り問題ないので、果物すべてダメではなく、バナナ1本・みかん1個・キウイ2個程度なら大丈夫です。ポリオールは果物や野菜にも含まれており、プルーン・スイカ・カリフラワー・キノコ類・さやえんどうは控えたほうがいいです。玉ねぎは少量でも入っていたらだめです。

お茶のうち緑茶は大丈夫ですが、ウーロン茶にはフルクタンがたくさん含まれ、チャイ、カモミールティーにもフルクタンが含まれます。豆乳は大豆エキスからのものなら大丈夫です。

なお低FODMAP食とグルテンフリー食は違いますが共通する部分も多く、グルテンフリー食に玉ねぎ制限が低FODMAP食の概略です。

まずは3週間低FODMAP食にしてみます。そうするとだいぶ調子が良くなるので、その後高FODMAP食のグループを一つずつ開始し自分の体に耐性があるか確認していきます。低FODMAP食を始める前に、呼気中水素テストをしてフルクトースと乳糖に不耐症がないか調べることも勧められますが、再現性に乏しいともいわれており最近は行われなくなってきています。

低FODMAP食にしても改善しない場合、低FODMAP食になっていない可能性が高いですが、呑気症といってものを食べたり飲んだりするときに一緒に空気を飲みすぎているかもしれません。このような人は炭酸水を避け飲料を早く飲みすぎないようにしましょう。

 

現在日本で使える薬は下痢の多い人はイリボー、便秘や便秘と下痢を繰り返す人はコロネル、便秘の多い人はリンゼス、腹痛や違和感など知覚過敏な人はセレキノン、それ以外に漢方薬があります。

おなかの調子の悪い人はストレスをため込みやすいばかりか、ストレスになっていることに気付きにくくなっています。1日20分程度週3回、エッセイのように自分の人生においてストレスだと思ったエピソード、嫌だと感じた経験を紙に書きだすようにして、自己開示することでおなかの調子が良くなります。ネガティブなことを身体から出して、物事のとらえ方をポジティブに変えていく認知行動療法などを試していくといいでしょう。

睡眠ホルモンのメラトニンは胃腸の症状をよくしますので、十分な睡眠をとることが重要です。メラトニンを出すためにも朝起きたら日の光を目に当てましょう。メラトニンの材料となるトリプトファンを多く含むバナナ、メラトニンの分泌を促すオルニチンが含まれたシジミも摂りましょう。

 

腸の粘膜に憩室と呼ばれるくぼみができることがあり、腸管内の毒素が体内に侵入しやすい状態になるリーキーガット症候群の原因になるといわれていますが、憩室は高FODMAP食で腸に大量のガスで内圧が上昇して作られる可能性があります。

痩せた人と太った人の腸な細菌が違うこともわかってきました。赤ちゃんの腸内は母胎内にいるときは無菌で、正常分娩で生まれるとき産道の中で母親の腸内細菌を食べて生まれてくるので、母親の腸内細菌の影響を強く受けます。腸内細菌の種類を変えることで痩せる効果のある薬剤があり、コレステロールを下げるコレバインという薬です。

太っている人ではクロストリジウム・アリアケ菌という細菌が増えていることがわかり、このアリアケ菌は二次胆汁酸をつくり、これが肝臓で元凶となって肝臓がんをつくるのです。ウルソという薬はこの二次胆汁酸の排出を促進させます。米国肝臓学会のガイドラインでは非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に対する第一選択薬はビタミンEです。ビタミンEはナッツに含まれ、ピスタチオやカシューナッツは高FODMAP食でアーモンドも20粒までですが、ヘーゼルナッツやクルミを食べましょう。

腸内細菌のクロストリジウム属は短鎖脂肪酸という代謝産物を作りますが、加齢とともに減っていきバクテロイデス属が増えて、腸内では短鎖脂肪酸は減り多糖類が増え、アミノ酸量も増えます。アミノ酸は糖尿病・肥満・インスリン抵抗性に関連します。このため短鎖脂肪酸を増やしましょうと言われましたが、おなかの調子の悪い人ほど短鎖脂肪酸が多すぎて右側の大腸の動きが悪くなります。腸内細菌の種類が変化するのは小腸での消化吸収能力の低下が原因です。小腸には絨毛があるので若い人は余すことなく栄養分を吸収して大腸には残りかすしか届きませんが、年を取ると大腸にも栄養素が届くようになり、過剰な炭水化物・タンパク質・脂肪によって腸内細菌は大きく変わりので、若い時と同じものを食べていると大変なことになります。まずはカロリー制限で小腸の対応力低下に応えます。

肺炎などで抗生物質を使用すると腸の中に存在する良い細菌まで死んでしまい、クロストリジウム・ディフィシルという日和見菌だけ生き残り偽膜性腸炎という死に至る可能性のある病気になるかもしれません。そうなるとバンコマイシンという別の抗生物質を使うのですが、バンコマイシンの効かない耐性菌が増えてきました。このような問題に対して他人の糞便に含まれる腸内細菌を移植して腸内環境を正常化しようという治療が米国では実際行われています。

 

大腸がんはポリープがからできることが多いですが、中にはポリープを経ないで発症するデノボ経路があり、これは右側の大腸にできることが多く、検診の便潜血では早期発見しずらく進行も速いのが特徴です。

感想

下痢症状に対しては通常整腸剤を処方して食物繊維と発酵食品をとるようにしどうすることがおおいのですが、それではダメな人もいるのですね。FODMAP食というのがキーワードでグルテンフリーから玉ねぎを除いたものと分かりやすい表現もありました。腸の状態を評価してから食事や治療を考える必要がありますね。

 

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