著者紹介・はじめに
2023年6月19日初版の現代書林から発刊された本で著者は松吉秀武氏です。松吉氏は1997年に産業医科大学を卒業され、耳鼻咽喉科で勤務され2008年に松橋耳鼻咽喉科・内科クリニックを開業されました。
CPAP治療が必要なのに治療開始にしり込みする人、開始してもやめてしまう人も多く、10年後の継続率は5割から7割と報告され問題となっています。
CPAP機器から抽出されたデータの見方とその対応について、CPAP症例の提示があり、治療の経過中に心疾患に罹患されて循環器内科を紹介されて治療された例もあり、実際の診療の仕方もわかるようになっています。
CPAP治療がよくわかる本
内容
アメリカの疫学検査で1時間当たりの睡眠時無呼吸の数が20以上の方はそれ以下の人と比べて9年後の生存率が30%低いという結果が出ました。睡眠時無呼吸を持つ人の3割は生活習慣病を持っていて、生活習慣病のある人の3割は睡眠時無呼吸があります。
CPAP治療は睡眠中の気道を確保するための装置で、これを寝る前に適切に装着することによっていびきは起こらなくなり呼吸が止まることもなくなります。
CPAP治療は最初は抵抗はあるものの、慣れればぐっすり寝られる快適さの方が強くなり苦も無く続けられるようになりますので、医師はマスクの装着法、空気圧の強さなど調整して患者さんにアドバイスし、患者さんが不快に感じる部分に対してしっかり対応して解決しなくてはなりません。装置への記録だけでなく患者さんからのフィードバックを重要視してきめ細かく対応することが重要です。最近CPAP装着中のデータが詳しく記録できるようになり、心不全や脳卒中が起こりうる時に現れるチェーンストークス呼吸も一晩で何回・何時ごろに起こるかわかって対処できるケースも増えてきました。
睡眠時無呼吸症候群の約9割はいびきの延長で起こる閉塞性睡眠時無呼吸で、寝ているときに気道が大きな舌根や喉によって防がれることで起こります。気道がピッタリと防がれてしまうと物理的に空気が通過できずに無呼吸となります。この閉塞性以外では中枢神経からの指令が来なくなる中枢性のものがあります。この中枢性の中で重要なのがチェーンストークス呼吸かどうかです。チェーンストークス呼吸とは小さな呼吸から大きな呼吸となり再び小さくなりそして停止する呼吸を繰り返すもので、重症うっ血性心不全の患者さんの30-50%にこの呼吸が起きるとされています。
肥満がひどくて舌が大きい人でも日中は気道が塞がれることはありません。口蓋垂(のどちんこ)が長い人、アデノイドや扁桃の腫大がある人、肥満で咽頭部の体脂肪が多い人は気道が塞がりやすく、お酒によって筋肉が弛緩しても塞がりやすくなり、鼻からの呼吸が苦しくなって口呼吸になると舌根部はさらに下に沈んで気道は狭くなります。さらに口呼吸が続くと低呼吸となり、ついには無呼吸状態になります。慢性鼻炎などで鼻づまりがあって口呼吸が習慣になっていても睡眠時無呼吸を起こしやすいです。
睡眠時無呼吸は心臓に直接大きな負担をかけ、心房細動の発症率を2倍以上高くします。重症では4倍高かったと報告されています。睡眠時に呼吸がとまると低酸素状態で二酸化炭素がたまり自律神経がたかぶり交感神経が優位のままで、これが続くと心臓機能は疲弊し心不全の発生や悪化をおこします。睡眠中に呼吸が止まると胸腔内に過剰な陰圧が発生し、静脈から心臓に戻ってくる血液の量が増え心臓に負担がかかります。
無呼吸による酸素不足から逃れるために血流を増やそうとして急激に血圧を上げ、脳梗塞などを起こしやすい状況にもなり、睡眠時無呼吸の重症例では脳卒中・脳梗塞発症リスクが3.3倍になると報告されています。もともと生活習慣病がある人も多く動脈硬化が進んでいる可能性も示しています。睡眠時無呼吸は血圧の上昇や認知症やインスリンの抵抗性を高めると報告されています。
無呼吸は10秒以上呼吸停止が続いた状態で、低呼吸は呼吸で肺を出入りする空気量が正常より30%以上少なく血中酸素飽和度が正常より3%以上少ない状態が10秒以上続いた状態で、1時間当たり無呼吸と低呼吸が起こった回数をAHIといい、5以上の時睡眠時無呼吸といいます。中枢性の低呼吸が1時間に5回以上ある場合や全体の睡眠時無呼吸の半分以上が中枢性の無呼吸や低呼吸の場合中枢性睡眠時無呼吸と診断されます。JESSスコアで自分自身の日中眠気の程度を客観的にチェックできます。睡眠時無呼吸の疑いがあれば簡易無呼吸検査が行われ、携帯型の検査機器により自宅で検査できます。
二酸化炭素が増えると血流を増やすべく血管が拡張して脳細胞を圧迫するようになるため、早朝の頭痛を認めます。起きて呼吸をすれば拡張した血管は戻るため頭痛も収まります。
肥満が最大のリスクで、体重が10%増えると発症リスクが6倍になります。性別では男性が多く、女性ホルモンには上気道を拡張する作用があるからとされています。生まれつき顎が小さい人は上気道が狭く発症率は高いです。
閉塞性睡眠時無呼吸に現在最も効果がある治療法として普及しているのがCPAP治療です。終夜睡眠ポリグラフィーでAHIが20以上、簡易型無呼吸検査でAHIが40以上の場合は保険適用となり、現状3割負担で毎月5000円程度の費用で治療が行えます。無呼吸が大きな問題を引き起こす可能性があるため、睡眠中の呼吸を確保することを優先し、対症療法をできるだけ早くスタートさせます。その治療としてCPAPが最も有効です。CPAP治療で日中眠気が改善して死亡率を改善したデータもあります・
CPAP治療の原理は鼻から気道に空気を送ることによって無呼吸の原因となる舌根沈下などを防ぎ無呼吸を予防します。機械にはチューブがついていて先端はマスクになっていて、就寝時にマスクを鼻にあて眠ります。マスクからは空気が出てきます。その空気圧は医師が決めて設定します。マスクから出てくる風は気道が塞がらないように舌根部を持ち上げるために送られ、皆さんの想像以上に弱い風だと思います。最初は弱めに設定して適正に圧は調整されます。息は吸うときは楽になっても吐くときに邪魔になって苦しくなるのではと心配される方もいますが、息を吐くときはマスクのフィルターが作動して空気を逃がしてくれるので呼吸が苦しくなることはありません。マスクは3種類あり、鼻タイプのネーザルマスク、鼻腔タイプのネーザルピローマスク、口鼻タイプのフルフェイスマスクです。それぞれ一長一短ありますが、ネーザルマスクが一般的で、注意点はヘッドギアをきつく締めると鼻根部に跡が残り、適正なサイズにします。また口呼吸になってしまう場合は効果は上がりません。ネーザルピローマスクは接着面が少なく圧迫感や違和感は少なく皮膚に跡がつきませんが、睡眠中の体動でずれやすく口呼吸では効果は上がりません。フルフェイスマスクは口呼吸でも効果は出ますが、口内の乾燥や圧迫感があり、空気漏れも起こりやすいです。
CPAPの効果が表れるのは一晩で4時間以上装着したときです。4時間装着できないと効果は期待できず装着してもあまり意味がありません。離脱してしまう人を解析すると鼻閉などの鼻症状が最も多い理由でした。それを最も簡単にできる改善策は空気を加湿加温することです。冬は寒く乾燥するため、寝る部屋を暖め加湿することも大事となります。鼻閉は日帰りでできる改善手術で比較的簡便によくなります。粘膜が肥厚して鼻閉が強い人には下甲介粘膜焼灼術、それが無効の時や粘膜の肥厚があって鼻閉と鼻漏が多い場合鼻甲介切除術(高周波凝固法)、鼻茸があったときは内視鏡下鼻副鼻腔手術Ⅰ型を実施します。通年性鼻アレルギーに対しては炭酸ガスレーザーによる短期的な治療も有効です。市販されている睡眠改善薬ドリエルは鼻閉改善に即効性があり、眠気が表れやすく朝に眠気が残らないのが特徴で、前立腺肥大があると使用できませんがCPAP継続に併用しすい薬です。血管収縮剤とステロイドの合剤であるコールタイジン点鼻薬は鼻閉に即効性があり有効ですが、依存性があるので注意が必要です。メラトニン受容体作動薬もCPAP継続に有用だったと報告があります。
CPAPでは口呼吸になる人に対してはマウスピースを使用すると改善する場合があります。睡眠中に口が開かないようにするためのマウスピースがありCPAP装着時に使用しますが、鼻閉がある時は使用できません。口が開いてしまうときは市販の鼻呼吸テープもあります。絆創膏、サージカルテープ、マスキングテープなどでも代用できます。
舌トレーニングで睡眠時無呼吸を改善させる方法もありますが、トレーニング自体はいいもののそれだけで舌根沈下の改善効果を上げることは困難で、睡眠時無呼吸の改善には減量が必要です。ただし減量には数か月から1年程度かかるため、CPAP治療を開始して10%程度の減量を目指すべきと考えます。
快適な睡眠を得るためのコツとして、就寝時間と起床時間を決めてリズムを整える、朝食を決まった時間に摂取して体内時計と整える、朝起きたら30分ほど十分に光を浴びてセロトニンを増やす生活を心がける、日中は適度な疲労につながる様に活動する、散歩などの単純な繰り返し運動でセロトニンを増やす、就寝時間の3時間は飲食せずに臓器を休める、寝る前にアルコールは摂取しない、就寝前に光や感動などの強い刺激を受けない、就寝30分~1時間前にぬるま湯にゆっくり浸かり湯冷めを利用する、睡眠することを意識しすぎないことが挙げられます。
感想
実際CPAP治療が必要でもなかなか継続できない人はいます。その原因は鼻に関するものが多いとのことで、睡眠時無呼吸症候群は呼吸器科が診療することが多いのですが、耳鼻咽喉科とも連携をとることが必要と感じました。マウスピースが必要な時は歯科、減量が必要な人は栄養指導、循環器疾患併発が疑われるときは循環器科など、睡眠時無呼吸症候群は多くの診療科の関与が必要ですね。