著者紹介・はじめに
2023年7月25日初版の講談社から発刊された本で、監修者は井上雄一氏です。井上氏は1982年に東京医科大学医学部を卒業され、精神医学に従事され、東京医科大学睡眠学講座教授となられ、2011年から睡眠総合ケアクリニック代々木の理事長になられています。
質問に回答する形式で睡眠障害についてわかりやすく解説されています。病気のの治療については他の本と被る点もあり割愛したところもあります。
不眠睡眠障害治療大全
内容
不眠症とは睡眠のための時間があり寝室などの環境も適正に整っているにもかかわらず、睡眠の量・質に問題があり、これにより日中の活動に障害が出ている状態です。3か月未満は短期不眠障害といわれ、3か月以上続くとき慢性不眠障害といいます。様々な心理的背景・病気や生活習慣などが原因となり始まりますが、短期不眠障害は原因となるストレスが取り除かれると解消されることが多いものの約4割は慢性不眠障害になります。
布団に入って30分以上眠れない状態が慢性的に続く場合入眠困難と判断されます。年齢を問わず出現し、環境要因やストレスや人間関係や悩み事などが原因となることが多く、うつ病なども考慮され、意欲の低下や食欲不振などがないかチェックすることも大切です。まだ眠くないのに寝床に入ることやカフェイン・飲酒・ゲーム等が原因のこともあります。
夜寝ている途中に数回目が覚めることを中途覚醒といい、中年以降に多いです。環境的な要因や飲酒などの生活習慣、日中の活動性の低下や昼寝などで眠りが浅くなっていることもあります。睡眠時無呼吸症候群などの病気の可能性もあります。
自分が起きようと思っている時間よりも2時間以上早く目覚めそのあと眠れないときは早朝覚醒が疑われ、高齢者に多いです。老化につれて睡眠時間は短くなり、70代になってトータルの睡眠時間が6時間程度保たれ体調や日常の活動に異変がなければ深刻にとらえる必要性はありません。もう少し眠っていたいという人は少し遅く寝床に入りましょう。
普段通りの睡眠時間にかかわらず熟眠した感じが得られない状態が続いている場合は熟眠障害が疑われ、睡眠時無呼吸症候群も疑われます。こむら返りで眠りが妨げられる人は足首を直角に保つようにし、就寝前にアキレス腱やふくらはぎのストレッチを行うと効果的です。頻回の場合は病気が隠れている可能性もあります。
いびきがあり昼間に強い眠気に悩まされて日常生活に支障が出ている場合は睡眠時無呼吸症候群が疑われますので、検査を受けてみることです。歯ぎしりの場合、葉の摩耗、歯茎の損傷、顎関節症の原因となり、肩こりや頭痛を起こすこともあり、歯科か睡眠専門外来で治療を受けるのが効果的です。
悪夢が繰り返し起こることによって十分な睡眠がとれない状態を悪夢障害といい、子供に多いですが成人でも2-8%が頻回にみるといわれ、睡眠薬、パーキンソン病、高血圧、うつ病が関連している場合があります。PTSDで専門科での診療が必要の可能性もあります。
睡眠の持続時間は年齢とともに短くなる傾向があり、活動量や基礎代謝の低下するため休息を要する時間も減るからです。体内時計も変化して生体リズムが前倒しになります。日中の活動に影響がなければ問題ありません。
寝ている間に排尿のため目覚めることを夜間頻尿といい膀胱用量の減少、前立腺肥大や過活動膀胱などの病気、薬剤性、下肢に水分が溜まる影響、就寝前のアルコールやカフェインの摂取が原因となります。
睡眠の最も重要な役割は脳と体を休めることです。レム睡眠時は脳は高いレベルで活動して筋肉は弛緩して休み、ノンレム睡眠時には脳の活動も低下して自律神経の働きも代謝も抑えられます。睡眠前半のノンレム睡眠時に成長ホルモンが分泌され、特に深い眠りの時に最も大きくなり眠りの質が大きく影響します。NK細胞の活性化など免疫機能を高めて病気の予防や記憶を定着させる役割もあり、自律神経の働きを整えて疲労回復を促し、脳脊髄液の流れで脳細胞の老廃物を除去する役割もあります。
睡眠不足では食欲を増すグレリンというホルモンが増加して過食で肥満を助長します。血糖値を上昇させるコルチゾールというホルモンも増えて糖尿病のリスクが高くなります。交感神経活動が高まるため高血圧も招きます。夜勤がある交代勤務の人は前立腺がん、直腸がん、乳がんのリスクが高いという報告もあり、睡眠不足が続くとうつ病や認知症になりやすくなります。
体内時計は24時間15分くらいで、毎日少しずれが発生し、光の影響を大きく受けます。朝起きて太陽の光を浴びると体内時計が調整され、毎日同じ時間に眠くなって起きられるというリズムが保たれます。
レム睡眠とノンレム睡眠の2種類のサイクルで睡眠単位があり、1睡眠単位は90-120分で一晩に3-6単位現れるのが一般的です。ノンレム睡眠には眠りの深さによって1-3という3段階があります。ふつうは眠ってすぐに熟睡に入り段階3の深い眠りに入ります。
基本的には寝だめは出来ず、休日にたくさん寝てしまうのは日頃の睡眠が十分ではなくて身体が休息を必要としているだけです。休日にたっぷり寝ると休み明けがつらくなるのは、社会的時差ボケによる体内時計のリズムの乱れのせいです。それを防ぐには就寝時間と起床時間の真ん中の睡眠中央時刻をずらさないようにすることです。
不眠で悩んだらまずは内科で相談しましょう。かかりつけ医なら持病の有無や服用薬についても知っているので安心で、軽い不眠であれば睡眠薬も処方してもらって様子を見ることもできます。不眠の症状の悪化や薬で効果がない時は専門医に紹介してもらいましょう。日本睡眠学会認定ホームページで睡眠医療認定一覧から検索できます。歯ぎしりの場合は歯科医に相談して専用のマウスピースを装着し眠ってみて、改善なければ専門医の紹介です。1週間のうち3日以上の不眠があり、それにより日中の心身に不調のある状態が3か月以上続く慢性不眠障害の場合は受診が必要で、抑うつやイライラの症状があれば早めの治療が必要です。
睡眠障害とは一つの病名ではなく睡眠に関する様々な病気の総称で、睡眠障害国際分類では約60種類あり、大きく6つに分けられます。不眠症、睡眠時無呼吸などの睡眠関連呼吸障害、過眠症やナルコレプシーなどの中枢性過眠症群、交代勤務睡眠障害や時差障害などの概日リズム睡眠・覚醒障害群、夜驚症や悪夢障害や睡眠関連摂食障害などの睡眠時随伴症群、周期性四肢運動やむずむず脚症候群などの睡眠関連運動障害あります。
COPDや喘息発作などの呼吸器の病気、慢性心不全による循環器の病気、腎障害ではむずむず脚症候群や周期性四肢麻痺を発症しやすいこと、線維筋痛症は痛みで、アトピー性皮膚炎ではかゆみで、前立腺肥大や過活動性膀胱では夜間頻尿で睡眠が妨げられ、更年期障害やステロイドやインターフェロンやパーキンソン病の薬でも不眠になりやすくなります。頻度は低いですが、降圧薬のβ遮断薬やα2刺激薬やα1遮断薬、呼吸器疾患で使用するテオフィリンでも不眠が起こることがあります。
睡眠薬の種類にはベンゾジアゼピン受容体作動薬、ベンゾジアゼピン類、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬があり、効果の長さにより超短時間作用型(半減期2-6時間)、短時間作用型(半減期6-10時間)、中間/長時間作用型(半減期20時間以上が)に分けられます。抗うつ薬の種類によっては睡眠障害の改善に用いられることもあります。漢方薬にも保険適応となっている薬があり、自律神経を整える、精神安定作用により間接的に睡眠を促します。
高齢者では体の外に排出されるまでの時間がかかり、薬の影響が残ってふらつきや店頭のリスクがあります。ベンゾジアゼピン系睡眠剤では少量投与が推奨され、メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬はふらつきや転倒の危険性が少ないです。昔の睡眠薬は呼吸や循環機能を抑えて大量服用で死亡する例があり、依存性もあって長期間服用を続けるとやめられなくなることもありました。1990年代以降のベンゾジアゼピン受容体作動薬は服用量を少量にとどめれば、依存性があってクセになるとか服用をやめられなくなるという心配は少なくなってきています。多くの睡眠剤は服用後10-30分で眠気が生じるのでそれを見越して服用し、夜中のトイレや気象直後の行動には十分に注意しましょう。副作用はふらつきや転倒の他に、記憶障害・認知機能障害が服用中は認められることがあり、長期間服用しているうちに耐性ができて薬の効果が得にくくなります。アルコールと一緒に摂取すると薬の効果が高まるので飲酒は控えます。アルコールの代謝には4時間以上かかるので4時間は間隔を開けて摂取します。グレープフルーツジュースと一緒に飲むのもだめです。
睡眠薬をやめることは可能ですが、いきなり中止すると反跳性不眠といって以前よりも不眠が悪化することがあります。ベンゾジアゼピン類の超短時間型や短時間型の薬は反跳性不眠や不安、ふるえ、発汗などの離脱症状が起きやすく、2-4週かけて4分の1ずつ薬の量を減らします。中間作用型や長時間作用型は薬を服用しない日を設定して徐々に飲まない日を増やしていく方法をとります。短・長時間の両方服用しているときは短時間作用型から減量していくのが得策です。
市販の睡眠薬は主に抗ヒスタミン作用があり、風邪薬やアレルギー性鼻炎などの薬とほぼ同じで、医療機関で処方される薬とは成分も作用も異なります。あくまで一次的な不眠が対象で、昼間に眠気やけだるさがある場合はできるだけ早く医療機関を持続しましょう
薬以外の方法について、睡眠時間は一人一人個人差があり季節や年齢によって変動することを理解すること、基本的な生活習慣の改善、眠りにつきやすくするための習慣や行動を身に着ける認知行動療法や、概日リズム障害・覚醒障害には高照度光療法という強い光を浴びる治療法もあります。毎日決まった時間に20-30分以内の昼寝をする積極的昼寝も有効で、昼寝前にカフェインを飲むとスムーズに目が覚めます。
理想的な寝室の環境は布団の中の温度は33±1度、湿度は50-60%が適切とされています。エアコンや電気毛布や湯たんぽで調整しましょう。寝具に関しては個人の好みで構いません。敷布団やマットレスは硬さが重要で程よいものを選びます。布団の重さや枕はリラックスできるものを選びます。真っ暗の方がメラトニンが分泌されやすくなりますので、真っ暗が不安な人は寝入ったら自動的に消灯するようにタイマーをセットしておきましょう。アイマスクを使う方法もあります。光が差し込む場合は遮光カーテンを使用します。余計な音は眠りが浅くなるので、音楽を聴きながら寝るときはタイマーをセットしましょう。
寝返りを打つのは筋肉の疲労や血流が妨げたりするのを解消するための無意識の動作です。
夜の10時から午前2時が睡眠のゴールデンタイムと称されることもありますが間違いです。成長ホルモンの分泌時間は決まっておらず、寝てから最初の3時間ぐっすり眠れていればしっかりと分泌されます。
感想
不眠の原因や改善するための環境改善などについてわかりやすく書いてありました。睡眠薬についても言及されていて、ベンゾジアゼピン類薬をやめるときの方法についても具体的に言及されていました。