著者紹介
2019年9月18日初版の現代書林から刊行された本で、著者は山口祐司氏です山口氏は1979年に自治医科大学を卒業され、2000年から睡眠医療に従事されています。
睡眠障害の診断と治療
内容
睡眠障害は症状から4つに分けられます。
① 不眠症②過眠症③睡眠時随伴症④概日リズム睡眠障害
睡眠とは身体と脳の活動を低下させ休ませるためのシステムで、体内の温度を積極的に下げることで発動します。千数百個のニューロンからなる脳を休息させて、修理・回復させます。日本は世界的にも見て睡眠不足の国になっており、生活が夜型にシフトした影響もありますが、睡眠に対する意識の低さもあると思います。
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、レム睡眠中に夢を見るといわれてきましたが、近年の研究でノンレム睡眠中にも夢を見ることがわかってきましたが、レム睡眠中の方が長くストーリー性があり感情の動きが大きいと考えられています。
年齢とともに睡眠効率は低下していきますが、睡眠ホルモンのメラトニンの分泌量が低下することと日中の活動性が低下するためです。体内時計は加齢によって位相が前に動きやすく、高齢者は夜早くに体温が下がり始めるため若者より眠りにつく時間が早くなりますが、夜間の体温があまり下がらないため眠りは浅くなります。
朝の光を浴びて体内時計はリセットされメラトニンは分泌が止まります。脳だけでなく肝臓や腎臓などにも時計遺伝子はあり、朝食でリセットされます。スマホなどのブルーライトを浴びるとメラトニンの分泌が低下します。睡眠中は大人でも成長ホルモンが分泌され、疲労回復や組織の修復に関わっていますが、男性では1日にでる成長ホルモンの2/3が、女性では1/2が分泌され性別で異なっています。コルチゾールも分泌され抗ストレス作用などがあり、ストレスに作用できずにうつ症状が現れることもあります。女性の場合は睡眠中にプロラクチンというホルモンも分泌され、乳汁の産生・分泌を調整するので、妊婦さんが睡眠不足になると妊娠の維持が困難になってしまいます。バゾプレッシンというホルモンが出るため、寝ている間には尿の量が減ってトイレに行かなくても済みますが、睡眠不足になると脱水になるリスクが上がります。
睡眠不足は生活習慣病とも関連があり、高血圧・肥満・糖尿病や精神疾患や認知症の発症率を上げます。適切な睡眠時間は7時間で7-8時間が理想ですが、個人差があり、休日の睡眠時間が普段より2時間以上長い人は睡眠が足りていないということになります。
睡眠障害の診断には主観的と客観的な検査があります。主観的検査では睡眠日誌で睡眠の量や睡眠の時間帯を検討できます。昼間の眠気を評価するためのエップワース眠気尺度やスタンフォード眠気尺度があり、睡眠の質を評価するためのピッツバーグ睡眠質問票があります。不眠の重症度にアテネ不眠尺度、うつ状態を評価するベック抑うつ質問票があります。
客観的評価は腕時計くらいの体動感知センサーを腕に装着して睡眠習慣や睡眠・覚醒リズムの日差変動などを把握するもので、睡眠日誌と照らし合わせます。検査室外睡眠検査はいくつかタイプがあり、主流なタイプは脳波の測定できないもので、AHIは測定できませんが代わりにREIを用います。睡眠ポリグラフ検査は睡眠時無呼吸症候群などの標準的な検査で1泊入院が必要です。反復睡眠潜時検査は客観的に昼間の眠気の強さを調べ、ナルコレプシーの診断を確定するために使用されます。覚醒維持検査もあります。
不眠症とは、睡眠環境が良好であるにもかかわらず、入眠困難・途中覚醒・睡眠時間短縮・熟眠感欠如・睡眠の質の低下などの症状が持続的に出現し、日中に様々な障害出現することです。入眠困難な原因がむずむず足症候群の場合もあり、布団に入ったときに足がムズムズしてジンジンしないか確認します。稀に頭部爆発音症候群という病気があり、布団に入ったときゴーンと大きな音がして眠れなくなります。布団に入ったとき顔がムズムズする、頭が動くため眠れない場合は睡眠関連律動性運動障害の可能性があります。うつ病の可能性もあり、気持ちがふさぎ込むことがありますか?食欲はありますか?も聞きます。
入眠するまで30分から1時間以上かかりそれが苦痛と感じる場合に入眠困難とします。
慢性不眠症の治療は睡眠衛生指導と薬物療法となります。就寝前4時間のカフェイン摂取は避けるとありますが、カフェインの半減期は8時間で個人差もあるためカフェインを控えるだけで寝つきが良くなり人もいます。寝る1時間くらい前に38-40℃のぬるめの入浴も推奨されます。運動は寝る4-5時間前が望ましいです。
ベンゾジアゼピン系は作用時間により超短時間作用型、短時間作用型、中間作用型、長時間作用型に分けられます。中止するときは漸減して中止しますが、やめられずに少量継続される方もいます。
メラトニン受容体作動薬はベンゾジアゼピン系よりも催眠効果は弱いです。アメリカではメラトニンのサプリメントがありますが日本では発売されていません。
オレキシン受容体拮抗薬があり、オレキシンの働きをブロックして覚醒中枢の活動性を下げて睡眠を誘発します。
むずむず脚症候群は治療できないなら足を切断したいという切実な訴えもあるような病気で、なんの病気もなく起こる一次性と、鉄欠乏性貧血や関節リウマチやパーキンソン病や向精神薬の使用などによる二次性のものがあり、80%は一次性です。原因はドーパミンの神経伝達が悪くなるためで、治療はドーパミン作動薬で7割くらいの人はよくなりますが、クロナゼパムやほかの抗けいれん薬を使用する場合もあり、原疾患があればその治療もします。
正常な睡眠がとれているにもかかわらず眠れないと過度に不安視する睡眠状態誤認もあります。睡眠の状態を客観的にみるために睡眠ポリグラフ検査をする場合がありますが、昼間眠たいですか?と質問しても眠くないと答えられます。検査の結果説明だけで安心して改善する場合もありますが、重症例には認知行動療法などがされる場合もあります。
頭部爆発音症候群と睡眠関連律動性運動障害にはクロナゼパムを使用します。
うつ病には入眠障害と中途覚醒があり精神科や心療内科の受診が望まれます。
中途覚醒の原因は睡眠時無呼吸が多いですが、慢性不眠の場合もあり、その時は入眠困難と同様には睡眠衛生指導と薬物療法となりますが、睡眠剤は短時間作用型を選びます。
周期性四肢運動異常症が原因になることもあり、夜間睡眠時ミオクローヌスともいわれます。筋肉がぴくぴく痙攣し下肢に多いのですが上肢の場合もあります。むずむず脚症候群と同様ドーパミンの障害ですが合併することもあります。睡眠ポリグラフ検査で診断します。治療はクロナゼパムとドーパミン作動薬です。
飲酒で中途覚醒を訴えられる人がいますが、アルコールは肝臓で分解されてアセトアルデヒドになりそれが脳を覚醒させることや、睡眠時無呼吸の場合もあります。寝る前の飲酒をやめてもらうことにします。
いやな夢を見て覚醒して正常な覚醒状態になる場合は悪夢障害で、SSRIなどの抗うつ薬による治療をします。PTSDが原因となる場合もあり、精神科や心療内科の受診が必要です。
睡眠状態で起きだして食物を食べる睡眠関連摂食障害は症状を記憶していないこともありますが、食べた形跡を見て気が付きます。トピラマートやSSRIを処方します。
ナルコレプシーは日中に耐えがたい眠気を生じ普段は眠らない状況下でも寝てしまう疾患で、14歳が後発年齢で、25歳以下が70-80%を占めます。日中の睡眠発作や、強い情動が引き金となり筋肉の力がぬける情動脱力発作(カタレプシー)や入眠時や起床時に筋肉が動かせない睡眠麻痺や入眠時幻覚が特徴とされます。睡眠ポリグラフ検査と反復睡眠潜時検査で診断し、治療はモダフィニールです。原因はオレキシンの伝達低下と考えられていて、遺伝子治療も検討されていますが、2-3割は自然に治ります。
特発性過眠症という昼間の眠気があり、睡眠ポリグラフ検査と反復睡眠潜時検査で睡眠時無呼吸とナルコレプシーが除外された場合に診断されます。10-20代に多く原因は不明で、ペモリンを処方しますが、モダフィニールが保険適応になるかもしれません。
頭部外傷後過眠となることがあり日中の眠気を訴えられます。ぺモリンを処方しますが症状が持続する場合があります。
多くは10代に発症する稀な疾患の反復性過眠症(クライン・レヴィン症候群)がありますが、強い眠気の傾眠期が3日から3週間続き、その時は食事と排泄は自力でしまうが1日中寝ています。傾眠期が始まる前に頭重・倦怠感・離人感が2-3日続き、傾眠期が終わると完全に無症状です。傾眠期に過食・性欲亢進・攻撃性などの精神疾患が併発するときはクライン・レヴィン症候群で男性の多いです。治療はぺモリンで眠気を改善します。
睡眠中に異常行動を起こすことがありますが、ノンレム睡眠中の異常行動は主に子供にみられ、自然に治ることが多いですが、一晩に何回も起こるようなら前頭葉てんかんを疑う必要もあります。大人では睡眠時無呼吸症候群の症状の場合や、高齢者が半減期の短いゾルピデム(商品名マイスリー)を服用して起こす場合があります。
レム睡眠中の異常行動は、行動中に指摘されるとパッと目が覚めることが特徴のレム睡眠行動異常症があります。60%が特発性で、40%は神経変性疾患に伴っていて、レヴィ―小体型認知症やパーキンソン病になる方が多いといわれています。嗅覚異常を合併することもあり問診で聞いています。治療はクロナゼパムでメラトニン受容体作動薬を追加することもあります。
反復性孤発性睡眠麻痺はいわゆる金縛りで、ナルコレプシーの睡眠麻痺症状のみが出る病気で、他疾患が否定でされればクロミプロミンを処方します。
睡眠相の昼夜逆転(概日リズム睡眠障害)とは時差ぼけや夜更かしや不規則な生活リズムでの睡眠相後退、夜勤シフトでの交代勤務などで発症します。人は寝だめができません。平日と休日の就寝時間の差をなくすことが必要で、起床時間も2時間以上ずらさないことが重要です。必要に応じてメラトニン受容体作動薬や高照度光療法をします。
感想
睡眠障害を起こすまれな疾患も含めてわかりやすく、治療についても記載があり、疾患によるものから生活が原因のもまでさまざまありました。