はじめに
結核・非結核性抗酸菌症学会の編集で、2018年から6年ぶりの改訂です。
結核診療ガイドライン2024
結核は様々な対策により近年著しく減少し、2022年には罹患率が人口10万人対8.2人となりましたが、80歳以上の高齢者の罹患率は依然として高いです。
結核の感染様式はほとんどが飛沫感染(空気感染)です。結核菌に初めて感染することを初感染といいますが、一部の結核菌は肺内のリンパ節に運ばれ増殖し、抗原提示されT細胞を主とする強い細胞性免疫が誘導されます。病巣があれば初期変化群といいますが、多くの感染者は免疫により発症を免れ、10%程度の人は3か月から2年の潜伏期間を経て一次結核症を発病します。免疫により一次結核症を免れても一部は分裂を停止した状態で生存すると考えられ、一次結核症の潜伏期も含め潜在性結核感染症といわれます。インターフェロンγ遊離試験(IGRA)で診断され治療の対象ともなっています。高齢者にみられる肺結核の大部分は初感染から一定期間以上経過し、細胞性免疫が獲得された後に発症する二次結核症です。感染者の5-10%が発症すると推測され、80-90%は生涯発病しないと考えられています。
高齢者の発症が多い影響か、結核が有症状で発見される割合は54.9%まで低下し、症状の出現から受診までに時間がかかるケースが増えてきています。症状は微熱で進行すると高熱になり、盗汗、全身倦怠感、体重減少と肺結核では呼吸器症状が見られます。肺結核ではCTでの質的診断が重要で、一次結核症では全肺野に均等に発生しうり、二次結核症では両肺上葉S1.2.1+2か下葉S6を好発部位で始まることが多いです。
血液検査のIGRAは過去の感染でも陽性となり感度も100%ではなく、抗酸菌抗体は特異度も感度も低いです。胸水が貯留する結核性胸膜炎ではリンパ球優位の滲出性胸水でADAが40U/ml以上であることが多いので、この基準を満たす場合は結核性胸膜炎を疑います。胸水からの結核菌陽性率は低く胸膜生検を行うとことも推奨されます。
血液透析、糖尿病、HIV感染などの細胞性免疫機能が低下する病態は結核発病のリスクが高いです。HIV合併肺結核は空洞形成が見られず浸潤性病変が主体となります。関節リウマチなどで使用する生物学的製剤の一部でも結核発病リスクが上昇するため投与開始前に潜在性結核感染の診断検査をします。
2022年の統計では、肺外結核は結核性胸膜炎が最も多く、次いでリンパ節結核、粟粒結核、結核性腹膜炎の順でした。結核性胸膜炎による胸水が膿性になる結核性慢性膿胸が長時間持続すると、悪性リンパ腫を発生することがあり、EBウイルス感染との関連が示唆されています。粟粒性結核は喀痰の菌陽性率77%と比較的高いですが、尿培養でも60%検出されます。骨髄生検や肝生検も考慮されます。
結核菌は環境中に存在しないため、患者の病巣から検出されれば直ちに結核症と診断されますので、まず喀痰検査を適切に行うのが重要です。喀痰は一般的には起床時に出やすいです。痰の喀出が困難の場合、3%程度の濃い食塩水をネブライザー吸入させて採痰を試みます。2016年に呼吸運動訓練装置(ラングフルート®)、2020年にラングフルートECOを用いた排痰誘発法が保険収載されました。診断時は3日間喀痰検査を行うことが推奨されています。初回の検査で塗抹2+以上の時は3回の検査は必要ありません。保険診療上同一検体で統一月に複数回の核酸増幅法検査は認められていません。喀痰が採取できない場合は早朝空腹時の胃液を採取して検査をします。塗抹検査と菌種の同定や薬剤感受性検査に必要な培養検査も欠かせません。小川培地では1-2か月程度必要でしたが、液体培養のMGITが迅速性と検出感度にすぐれています。MGITは汚染率が高い傾向があり、小川培地のみで検出できるケースもあり菌量の定量ができる安価な小川培地も必要です。薬剤感受性検査も重要で、MGITでの迅速な検査も可能となっています。
結核は二類感染症に分類され、結核と診断したときは直ちに最寄りの保健所に届け出が必要です。直ちにとは当日中を意味します。死亡後でも届け出が必要です。届け出がないと罰則(50万円以下の罰金)付きの義務規定となっています。潜在性結核感染症で抗結核薬の投与が必要と判断された場合もこれに該当します。治療が必要と判断した場合は発生届を最寄りの保健所に提出しますが、潜在性結核感染症と診断しても治療が不要と判断した場合は届け出は不要です。
入院基準は結核予防法の時代は喀痰塗抹陽性患者でしたが、感染症法になってからは喀痰塗抹陽性が基本となりますが、喀痰塗抹陰性でも胃液や気管支鏡検体の塗抹が陽性で感染防止のための入院が必要な呼吸器などの症状がある場合、外来治療中に排菌量の増加がみられた場合、不規則治療や治療中断により再発している場合も入院勧告の対象となります。退院は異なる日に採取された喀痰培養が連続3回陰性の場合で、2週間治療後症状が焼失し異なる日に採取された喀痰塗抹か培養が連続3回陰性で患者さんが病気について理解している場合も退院可能となっています。勧告に基づく入院治療は感染症法第37条により全額公費負担となります(高額所得者は一部負担あり)。入院以外は感染症法第37条の2で、最終的な自己負担が総額の5%になる様に公費負担されます。申請の遅れが問題となることがあり、公費負担は保健所の受理日以降が対象となります。
DOTSとは1995年にWHOが提唱したもので、不規則治療・早期中断予防のため直接服薬確認療法を主軸とする包括的な結核対策を指します。
結核は化学療法で治癒可能な病気となりましたが最短でも6か月要します。治療の中断や不規則な服用は薬剤耐性菌が増加します。標準治療は2か月間RFPとINHとPZAにEBまたはSMの4剤で、以降RFPとINHになり、再治療例・重症例・排菌陰性化遅延例・免疫低下を伴う例などは、3か月間治療を延長することができます。具体的にはHIV陽性、糖尿病、珪肺を含む塵肺症、臓器移植後、血液透析、生物学的製剤、悪性腫瘍合併時は3か月延長して治療継続することが弱く推奨されます。結核性脊髄炎・髄膜炎は3か月延長が弱く推奨されますが、腸結核・腹部結核・リンパ節結核やそれ以外の肺外結核は3か月延長しないことが弱く推奨されます。EBもしくはSMは、RFPとINHの感受性良好なら原則中止しますが、感受性検査の結果が判明するまでは治療を継続し、菌陰性の場合は臨床的改善が得られていたら2か月で中止します。PZAは肝障害がある場合(肝不全・肝硬変、肝酵素が正常値の3倍以上)、妊婦以外はできるだけ使用します。80歳以上の人でも使用は弱く推奨されます。EBとSMの選択は、SMの方が抗菌力で勝りますが、耐性率はEBの方が低く、通常は経口のEBを使用します。視神経障害や内服困難のある場合はSMを使用します。服用回数はアドヒアランスの観点から1日1回での服用が勧められます。標準治療できれば再発率は4-7%前後です。
RFP・INHは10mg/kg・5mg/kg、1日最大600mg・300mgで腎不全でも減量はしません。
INHは末梢神経障害を起こすことがあり、ビタミンB6 100-200mg/日投与で改善します。
PZAは1.5gで腎不全時は減量もしくは隔日投与などとします。EBは15mg/kg、1日最大750mgで腎不全時は減量もしくは隔日投与などとします。
SMは20mg/kg、1日最大1000mgを2か月間、で3か月以降は 15mg/kg、1日最大750mgか20mg/kg、1日最大1000mgを週2.3回とし、Ccr<30時の使用は勧めません。
LVFXは500mgで腎不全時は減量もしくは隔日投与などとします。
多剤耐性肺結核にはデラマニド(DLM)やベダギリン(BDQ)も使用されます。
PZAを含む標準治療を2か月中断なく実施してRFPとINH感受性が確認できれば、週3回の間欠療法も考慮され、RFPは同量、INHは倍の10mg/kg、1日最大900mgとします。
妊婦にはPZAを使用せず、2か月RFP+INH+EB、7か月RFP+INHとします。
肝障害時はPZAとINHは慎重に使用すべきで重症の場合はRFPも投与困難で、EBとSMとLVFXによる治療を考慮します。
標準治療時肝障害出現の可能性は20-30%程度で、自覚症状がなければ肝酵素正常の5倍未満まで、自覚症状あれば肝酵素正常の3倍未満はそのまま継続とします。総ビリルビン 2mg/dl以上となった場合は中止します。中止後肝障害が落ち着いたらSM+EB+LVFXで再開し、安定したら1剤ずつRFP・INHの順に開始します。
アレルギー反応がRFPやEBで起こることがあり、5-25mgから開始して3日ごとに倍量にする減感作療法が用いられていましたが、急速経口減感作療法で3日間に通常量方法もあり、ただしエピネフリンなどの緊急対応の準備も必要です。
白血球は2000/μl(好中球は1000/μl)、血小板は5万/μlまで継続可能です。下回れば一旦中止しますが、血小板はRFPの可能性高いもののどの薬剤でも起こりえます。
RFPの効果を減弱する薬として、副腎皮質ステロイド、テオフィリン、ワルファリン、イトラコナゾール、経口避妊薬、フェノバルビタール、フェニトイン、シクロスポリンなどがあります。
INHはフェニトインやカルバマゼピンの代謝を阻害して中毒症状を起こしやすいです。
INHが使用できないときはRFPとPZAを含む3剤を6か月以上・RFPを含む2剤を合計9か月以上かつ菌陰性後6か月以上治療します。PZAも使用不可ならRFP+EB+SM+LVFXを6か月・RFP+EBを合計12か月以上かつ菌陰性後9か月以上治療をします。
RFPが使用できないときはINHとPZAを含む4剤を6か月以上・INHを含む2剤を菌陰性後18か月以上治療します。PZAも使用不可ならINH+EB+SM+LVFXを6か月・INH+EB+LVFXを12か月以上かつ菌陰性後18か月以上治療をします。
多剤耐性結核はRFPとINHに耐性を持っている結核で、LVFXとBDQもしくはLZDに耐性があれば超多剤耐性結核となります。その場合はクロファジミン(CFZ)の使用も考慮されます。
肺結核にステロイドの併用は推奨されませんが、結核性髄膜炎には死亡率と後遺症発生率を改善させるエビデンスがあり併用が強く推奨されます。具体的にはデキサメサゾン 16mgや0.3-0.4mg/kgで開始して漸減し6-8週で終了します。結核性心膜炎とリンパ節結核にも使用は弱く推奨され、プレドニゾロン0.75-1mg/kgで開始して漸減します。結核性胸膜炎、粟粒結核、気管支結核、その他の結核には使用しないことが弱く推奨されます。
多剤耐性肺結核で主病巣が原拠していれば外科的も考慮されます。大量喀血を繰り返す場合や、結核性慢性膿胸で膿瘍形成や脊髄結核では手術も考慮されます。
潜在性結核感染症はHIV/AIDS、臓器移植、珪肺、慢性腎不全による血液透析、2年以内の結核感染、胸部X線で未治療の陳旧性結核、生物学的製剤使用の場合に、積極的スクリーニングをして治療を検討します。ステロイドはプレドニゾロン換算で15mg/日以上1か月以上するときに検討します。治療前の胸部CTは被ばくと費用の問題はあるが、RFP使用時には発病見落としの影響が大きく実施することが望まれます。
診断はツベルクリン反応とIGRAがありますが、BCGや非結核性抗酸菌感染の影響をほぼ受けないIGRAが一般的で、IFNγをELISAで測定するQFTと、IFNγが産生する単核球数を測定するT-SPOTがあり、診断特性に大きな違いはなくどちらでも構いません。IGRAの感度は一般的に90%程度で、高齢者や免疫抑制状態で低下し、HIV/AIDS患者では健常人と同じように解釈しないことが弱く推奨され、非血液透析の糖尿病患者、担癌患者、高齢者は健常人と同様の解釈が弱く推奨されます。結核菌曝露後から陽性になるまで2.-3か月程度要します。
結核患者の接触者の場合BCG接種者は発病して胸部X線で陰影が認められるのは感染後4か月以降が大部分です。
治療はINHの6か月ないし9か月の内服です。INHとRFP併用3か月投与レジメンも推奨されています。RFP4か月もありますが、耐性誘導の懸念から代替レジメンとなっています。