著者紹介・はじめに
2021年4月5日初版のワニブックスから発刊された本で、著者は赤木純児氏です。赤木氏は九州大学文学部卒業後に宮崎医科大学医学部に入学され1983年に卒業されました。がんの研究や消化器外科に従事され、2020年2月よりくまもと免疫統合医療クリニックの院長をされています。
癌治療の「免疫革命」 がんと水素と「悪玉キラーT細胞」
がんには3大治療が標準治療ですが限界が生じています。3大治療はがんの成長を抑えていく作用を強く持っていますが免疫を著しく低下させてしまうためです。特に問題となるのが抗がん剤の使用量です。抗がん剤の基準となる使用量は人が死なないぎりぎりの最大量で決められ、抗がん剤をたくさん使うとがん細胞もたくさん死にますが、がん細胞を殺してくれる免疫細胞さえ叩いてしまうのです。放射線治療も免疫細胞に悪影響をもたらすので、サイバーナイフや四次元ピンポイント照射というがん細胞だけにあたるよう開発された放射線治療も出てきていますが、1台3億円とか5億円と大変に高価です。
標準治療の効果判定基準は4週間がんが小さくなっていることで、その後腫瘍が大きくなってもこの治療は効いたと判断されます。患者さんにとって重要なのは寿命をどのくらい伸ばすことができ普段通りの生活を送れるかではないでしょうか。
医師の大半は最後まで闘いたいとは思っていません。ガイドラインに準じて、頭の中では効くとは思っていない治療を患者さんに勧めていることもあります。ガイドラインが悪いというのではなく、標準治療には限界があるのです。抗がん剤は回数を重ねるほど効果が低下します。標準治療で治る人が稀にいるので、患者さんに効果を尋ねられても効いた人もいると答えられるのですが、そういった人はもともとの免疫力が相当に強いのだろうと思います。多くの人はそのうちもう治療方法がありませんので緩和ケアに移りませんかとなります。でもそういう人は本当に治る余地がないのでしょうか。食べることができているうちは回復する余地が十分あると考えています。腸は免疫の力の7割を作り出す臓器で、食べることで腸が刺激されれば免疫も刺激されます。噛むことで脳も刺激され、思考をポジティブに保てます。食べるという行為は免疫に重大な作用を複合的に起こしてくれるのです。
1988年に米国国立がん研究所が抗がん剤は強力な発がん物質で新たながんを発生させるといって抗がん剤要注意宣言をし、統合医療の有効性が重視され、それまで補完的だった代替医療が認められ、代替医療をまがいものと排除できなくなりました。アメリカでは鍼灸が日本以上に発展して漢方治療も盛んとなり、ヨガ、瞑想、温熱、断食、サプリメント、アロマテラピーなど医師の指示のもと積極的に行われています。
日本ではまだ患者さんの状態や性格からこの治療法が適していると指示を出せる専門機関はなく、患者さん自身がしっかりと調べ自分に適した治療法かを冷静に見定めることが必要です。
1990年代にがん抗原が発見されがんを治せると医療界は盛り上がりましたが、医師たちが期待するような効果は得られず、落胆も大きくなり免疫療法は効かないと不信感を強く持った医師が多かったのです。しかしオプジーボが登場し、やはりがん治療には免疫が重要との認識が医療の現場でも改めて広がりつつあります。がん免疫にはサイクルがあって、どこかに障害があると免疫サイクルは働かずにがん細胞は増殖し、再発したりすることになります。オプジーボは効かないという認識を持っている医師もいますが、これまで抗がん剤ばかり使っていた医師にとっては全く毛色の違う薬なのでなかなか使いこなせないのだと思います。オプジーボが効かないという問題はサイクルがうまく働かせると解決しし、保険適応がある癌腫は限られていますが、サイクルが正常に働けばすべてのがんに効きます。がん免疫サイクルの主役となるがキラーT細胞です。優れた殺傷能力を持つため、働きが過剰になると正常細胞まで傷つけてしまいます。そのためPD-1というたんぱく質がキラーT細胞の調整をしますが、がん細胞にはPD-L1たんぱく質が発現しキラーT細胞のPD-1とぴったりくっついてしまい、そうなると殺傷能力にブレーキがかかります。オプジーボはPD-1とPD-L1の結合を外してキラーT細胞にがんと闘う力を回復させます。
オプジーボを使っても免疫力が回復せずがんの成長が止められないケースも多くみられ、20-30%程度しか効かないと推計されています。キラーT細胞からPD-1が発現したままではがん細胞を倒す力にブレーキがかかったままになっているので、PD-1を引っ込ませてキラーT細胞が元気に働くようにしていく必要があります。それには水素ガス吸入が非常に優れた効果を上げることを突き止めました。
ミトコンドリアでエネルギーが産生される際に1-2%が活性酸素になります。活性酸素には善玉と悪玉があり、悪玉活性酸素は正常細胞の遺伝子を傷害して免疫力を低下させます。水素ガスの吸入は悪玉活性酸素に水素が結び付き悪玉活性酸素を消去させ、善玉活性酸素にはほとんど作用しません。その理由はよくわかっていません。ビタミンCも悪玉活性酸素を消しますが善玉も消し去ります。水素は分子が小さく水にも脂にも溶け込むため、細胞内外に行き届きます。水素は扱いが難しく危険というイメージがありますが、大気存在下で4-75.6%になれば発火する可能性はありますが、拡散速度が速く開放空間では水素が集まって爆発することはありません。治療で使用している水素吸入器は1分間に1200mlもの大量かつ高濃度の水素を発生する機械です。これを最初のうちは3時間以上吸ってもらいます。最初に水素吸入した乳がんの方は頸部のリンパ節が腫れていましたが、わずか2週間で腫れが引いて腫瘍マーカーも著減しました。それ以降積極的に使用して400例を超えましたが、末期・再発がんの方にしようして生存期間を2.3年延長させ、治療の成功率は約7割です。なぜ効果があるかというと、悪玉活性酸素の除去以外にミトコンドリアの活性化とキラーT細胞の活性化をさせるからです。そのためオプジーボと水素吸入を併用すると末期がんの患者さんが約70%も生存期間を延ばしています。動物実験においては高脂血症薬のベザフィブラートもPGC-1αを活性化してミトコンドリアを活性化させるためオプジーボの効果を増強させます。キラーT細胞も疲弊するとTim-3分子が発現して免疫にブレーキがかかりがん細胞を攻撃しなくなります。水素吸入をするとコエンザイムQ10の血中濃度が上がるため、これがミトコンドリアを活性化させていると考えられます。しかし2-3割の患者さんには効果がなく、大量の抗がん剤でキラーT細胞のミトコンドリアが著しく障害されて水素ガス吸入だけでは復活できない状態に陥っているか、がんになる以前から機能不全になるミトコンドリアが増えてしまっている人がいるということです。ストレスによって疲弊した悪玉キラーT細胞が多くなるのでそういったことが関与していると考えられます。水素ガス吸入には抗がん剤や放射線治療の副作用を軽減する効果もあります。
末期がんのための赤木メソッドはまずがん細胞を破壊するために抗がん剤を使用しますが、免疫ががん抗原を見つけやすくするだけでいいので通常の1/4から1/3の量で使用します。低用量で使用すると免疫細胞は障害を受けずむしろ活性化され、副作用もほとんど出ません。キラーT細胞がCTLA-4という分子で抑制されやすくなるため、イピリムマブ(商品名ヤーボイ)で免疫のブレーキを外すことも考慮されます。血流が悪化していると腫瘍まで免疫細胞が届かなくなるため、ハイパーサーミアで体温を上げます。ハイパーサーミアは8メガヘルツの電磁波で体の中心部を温めます。そうしてがんを攻撃するためにオプジーボと水素ガス免疫療法が功を奏します。この治療成績を海外雑誌に投稿したのですが、全がん患者で5年生存率は約20%で肺がんのⅣ期には5年生存率が約30%でした。この治療法を広めようとしていますが、保険制度に阻まれています。ガイドラインに沿った使用方法でないと、低用量の抗がん剤では保険が適用されないです。そのため自由診療となってしまい、低用量の抗がん剤でもむしろ割高になってしまいます。水素ガス吸入も保険が効かず1回1時間で2000円かかります。ですのでだいたい1か月60-70万円はかかってしまいます。3か月間は集中して治療すると2か月後くらいから免疫力が上がってくるので治療の頻度を減らしていきます。オプジーボにも副作用がありますが、少量で使用しているためか深刻な副作用が出たことはなく、発疹やのどがイガイガするくらいの軽いものですが、そういう副作用が出た人の方が効果が高い印象があります。
水素ガス吸入はがん治療だけでなくほかの疾患にも効果があることがわかり、中国では新型コロナに対して取り入れられています。認知症にもキラーT細胞の関与が疑われていて、軽度の認知障害に水素ガス吸入で予防や改善に役立つ可能性が示唆されています。パーキンソン病の方が水素ガス吸入をしたところ症状が改善したケースもあります。心肺蘇生後の体温管理療法と水素ガス吸入を比較したところ生存率に差はなく、慶応大学に先進療法として取り入れられています。現在では自宅で吸入できる装置も登場し、家庭で吸入できればがんや他の疾患で亡くなられる方も減るかもしれません。
SRLという検査会社に免疫力の高さを測定するシステムを構築し、血液検査でリンパ球を調べてキラーT細胞の善玉と悪玉の血中量を同時に調べることで免疫力を測定します。現在測定した結果を調べると、約半数が免疫力が高く半数が低いという結果が出て、半数はがんになりやすい状態と考えられます。
免疫を落とす理由はストレスの他には食事があります。腸内細菌は免疫に重要で、まごわやさしいということばがあり、これらの食材を取り入れて健康な食生活に役立ちます。便秘や下痢を侮らず、ファスティングも重要なので朝食を必ずしもとる必要はなく、ミトコンドリアの活性化させる還元型のコエンザイムQ10はイノシシやシカなどの肉に豊富で、鶏のハツや牛のレバーにも含まれ、豚肉、ハマチ、イワシ、ブロッコリーにも含まれていますが、牛は霜降り肉はだめで赤身肉は週2回くらいがいいでしょう。
最近は血中のコエンザイムQ10を測定できるようになりました。サプリで摂るなら酸化型でなく還元型を選びましょう。コエンザイムQ10は脂溶性のため油脂を含んだ食後に摂取すると体に吸収されやすいです。過剰摂取が問題になったこともありましたが、1日300mgまでなら重篤な副作用はないと報告されています。
筋肉量も免疫には大事で、大腿四頭筋が重要であり、毎日8000歩以上歩きましょう。
お風呂に全身浴で41度の湯に10分浸かると体温が1度くらい上がり免疫が30%くらい上がるので、ゆっくりお風呂につかりましょう。
睡眠をしっかりとり、心がウキウキするような趣味を持ち笑いましょう。
水素水について1時間吸入と同量の水素を得るには膨大な量を飲む必要がありますが、腸内細菌に対しては有用かもしれず効果はあるかもしれません。
感想
水素ガスの吸入と通常量の半分以下の免疫チェックポイント阻害剤の併用で、治療成績がよくなっていて、それが医療雑誌に投稿もされていて信憑性が高いと思われます。最近は非小細胞肺癌に対して、免疫チェックポイントを使用した標準治療でも5年生存率は20%を超えるようになってきています。ただ標準治療が終了した後の方は全身状態があまりよくなく、通常量の免疫チェックポイント阻害剤を使用すると副作用が懸念されますので、水素ガスの吸入と投与量を減らした免疫チェックポイント阻害剤が使用できるのは素晴らしく、臨床試験を組んで保険適応の治療法になればいいと思いました。