著者紹介・はじめに
2022年3月10日初版のKADOKAWAから発刊された本で、著者は和田洋巳氏です。和田氏は1970年に京都大学医学部を卒業され、同大学の呼吸器外科の教授をされた医師で、現在はからすま和田クリニックの院長をされています。
このアルカリ化療法による治療成績の報告を論文化もされていて、その論文の成績と実際劇的寛解された症例の提示もされています。
本の中ではがんの発生と転移の仕組みも詳しく述べられていましたが、ここでは簡潔なまとめにとどめています。
がん劇的寛解
内容
標準がん治療とは手術、放射線治療、抗がん剤治療の3大治療で、治癒の可能性が最も高いものが手術です。手術をしても一定数の人は再発してしまい、現在でも再発率は約3割とされています。最初にがんの告知を受けた時よりも再発の宣告を受けた時の方がショックははるかに大きいといわれます。標準治療では治癒が望めないⅣ期に至ったことを意味するからです。最初にⅣ期で見つかった場合はがん宣告と同時に手遅れ宣告を同時に受けることになります。このような状況で抗がん剤治療が追い打ちをかけていきます。抗がん剤には血液がんでは治ることはありますが、固形がんに対してはがんを治す力は基本的にはありませんので、がん治療医はⅣ期がんは治らないことを前提に治療を進めます。がん治療はガイドラインに沿って画一的に進められます。がん治療の計画シートはレジメンと呼ばれ、このレジメンを厳守する形で抗がん剤を投与します。最初のレジメンである程度の効果が出てもがんは次第に耐性を獲得して効かなくなっていきます。そうなるとその治療法をあきらめ別のレジメンに乗り換えて治療します。その後も同様なことを続けますが、がんは耐性を獲得するたびに狂暴化し、途中副作用で亡くなることもあり、使える抗がん剤が尽きた時、今後は緩和ケアを受けてくださいと紹介状とともに言い渡されます。
抗がん剤はマスタードガスを起源とする、がんを殲滅するという思想から開発されました。投与量について、臨床試験で副作用がギリギリ許容できて薬剤の効果を最大限ひきだせる容量が決定されますので、一定の副作用死はやむを得ないとする考え方から導きだされます。近年は分子標的薬も使用されていますが、投与量は最大使用量を求める方法で決められるため副作用にしばしば苦しめられます。免疫チェックポイント阻害剤も抗がん剤治療で効果が認められなかった患者に投与することが前提となっています。
殲滅思想は放射線治療も手術も一緒で、1881年にオーストラリア人のビルロートが胃がんの手術に成功した時の根こそぎ取って殲滅させる思想と100年以上何も変わっていません。
手術から5年たって再発がないと治ったと判定され、Ⅳ期で見つかった人は治らないと判定されますが、その間に位置する概念とは寛解というものです。寛解とは治癒には至らないものの病勢が進行せず安定した状態です。抗がん剤でも寛解になることもありますが、一時的なもので猛烈な勢いでリバウンドしてきます。しかし標準がん治療ではおよそ考えられない寛解状態が長く続くケースがあり、劇的寛解という造語を用い始めました。
実際に余命半年の肺がん患者さんが、その3年後に食事療法のみで元気な姿でいるのを目のあたりにしました。その劇的寛解から学び、がんの本質をめぐる解明へとウイングを広げ独自の治療ストラテジーを確立し、今もなお進化を続けていますが、がんの補完代替療法の一つなのかもしれません。
人はミトコンドリアにより高いエネルギー産生能力を得ました。人の細胞1つに100-2000個のミトコンドリアが小器官として存在してエネルギーを生成していますが、機能不全になったときはアポトーシスという自壊がおこります。悪い生活習慣などで血管の内皮が細くなると、細胞には栄養は運ばれますが酸素が運ばれなくなりアポトーシスが起こります。しかしその中から酸素が欠乏しても栄養をエネルギーに変えて生きていくことのできるがん細胞が出現するのです。がん細胞はミトコンドリアが崩壊しないようにもします。またミトコンドリアには少量の遺伝子があり、それが変異することでもがん化が起こるとされています。
がん細胞は正常細胞の40倍以上のブドウ糖輸送機でブドウ糖を取り込みエネルギーに変えています。正常細胞の10倍のナトリウム・プロトン交換機が発現し、細胞周囲の環境を酸性に傾けています。インスリンやIGF-Ⅰの働きでmTORが亢進しがん細胞の活動活性が上がります。白血球の鬱滞や細胞周囲の酸性化で自然免疫の好中球が働いて炎症を増強させ、がん細胞を増殖させています。
がんは悪い生活習慣の積み重ねによって自らが作り出した異形の自己で、生活習慣の中心は食生活です。がんを治すには食生活の徹底した見直しとした生活習慣の改善が不可欠です。がんを作り出した土壌を改善するための準備としての体の浄化、血管や臓器などの慢性炎症のレベルを下げる、アルカリ化食などによって体内環境をアルカリ性に保つ、がん細胞を攻撃する2次免疫を高める、そのうえで体に害を及ぼさない限りにおいて少量の抗がん剤による治療などのさまざまな抗悪性腫瘍手段を講じる、という治療となります。体の汚れているサインは血液検査のCRP値が高いこと、尿が酸性化していること、白血球中の好中球/リンパ球比率が高いことです。この値を改善させる前に腸の浄化をします。腸の浄化のために甘味類の摂取を控え、アップルペクチンなどの水溶性食物繊維を摂取します。ペクチンは水溶性と不溶性があり、水溶性ペクチンはリンゴなどの果実の果皮に多く含まれますので、これが含まれる特製ジュースを飲んでもらいます。この特製ジュースはリンゴ果汁を煮詰めたものとリンゴの皮や搾りかすを焙煎したものに、梅を加えリンゴ果汁で割ったものです。腸の浄化のために絶食を提案することもあります。体の浄化には便、尿、汗、呼吸がポイントになり、運動や大きな声を出したり笑ったりすることも大事です。
がんの特性を逆手にとった戦略で治療をします。必要量を超えたブドウ糖を摂取しない、アルカリ性を保つためにぶとう糖のみならず塩分の摂取を減らす、mTORを亢進させるインスリンやIGF-Ⅰを抑えるため血糖値を上げない、乳製品を控える、がん細胞に脂肪酸を合成させないためω6系脂肪酸を控える、2次免疫を高めるためきのこ類を摂取する、丸山ワクチンを接種する、慢性炎症を増悪させるNFκ―bを抑えるためハーブ類を摂取します。
治療目標は尿pHを7.5(できれば8)以上、CRPを0.05mg/dl以下、好中球/リンパ球比率を1.5以下、HbA1cを5.8以下、血清アルブミン値を4.0g/dl以上に維持することです。丸山ワクチンはキラーT細胞を誘導して副作用も少ないため積極的に使用し、4000人近くに使用しましたが、700人近く治癒または寛解が得られています。
経口では効果は認められないビタミンCを高用量で点滴治療もしています。
抗がん剤もアルカリ食をしっかり実践できれば通常用量の1/4でも十分な効果が得られ、副作用も減らせるのでその投与量で使用もします。抗がん剤使用時はビタミンCや丸山ワクチンで副作用の軽減も期待できるため積極的に併用も検討します。免疫チェックポイント阻害剤は丸山ワクチンを併用すれば1/10の用量でも十分な効果を発揮する報告もあります。
アルカリ化食について、食によりどれだけ尿pHに影響を与えるかを調べた研究があり、チーズ類が極端に酸性に傾け、肉類・魚類も酸性に傾けますが、青魚には健康成分の不飽和脂肪酸が多く含まれるため、動物性たんぱく質は青魚から摂取します。穀類やピーナッツは酸性化させ、野菜や果物は大きくアルカリ化させ、飲料ではワインやコーヒーがわずかにアルカリ化させます。
具体的には炭水化物は玄米や全粒粉パンなどから控えめに摂取します。尿中のカリウムの含有量をナトリウム含有量で割った数字が11以上になるとがん細胞の活動活性が低下することがわかっているので、塩分を控えてカリウム豊富なアボガド・ほうれん草・納豆・里芋・昆布などを摂取します。実際11以上にするのは困難で尿pH7.5以上が目標になります。それでも尿pHが上がらない人には重曹や尿アルカリ化剤(クエン酸ナトリウム・カリウム)などの処方も検討します。たんぱく質は大豆などの植物性たんぱく質からなるべく摂取します。これで血清アルブミンが下がるようなら鶏卵の摂取も考えられます。生卵玄米かけご飯は玄米のビオチンと卵のアビジンが化学反応を起こす可能性もあり推奨できません。野菜は生のまま皮ごと1日400gを目標にします。そのためにジューサーでジュースの摂取を推奨しています。ジュースは特にニンジンがおすすめです。きのこ類には2次免疫を高めるβグルカンが含まれるので摂取を勧めます。サラダにはω3系の油(荏胡麻油や亜麻仁油など)、加熱料理にはω9系の油(オリーブオイルや椿油)を使用します。乳製品はだめですがヨーグルトは腸内環境を整えます。優れた生理活性を有するトリテルペノイドは梅の皮と果肉に多く含まれ、ウメテルペンやミサトールWというサプリメントがあります。梅干しにも含まれますが塩分が多いため推奨できません。NFκ―bを抑えるためハーブ類として、パルテノライドが含まれて片頭痛にも効く夏白菊があり、夏白菊を煎じたフィーバーフュー茶があります。
感想
京大の呼吸器外科教授を務めた先生が免疫治療のクリニックに勤務されたときはびっくりしましたが、その後開業され統合医療をされていたのですね。この本は内容はわかりやすく論理的でなるほどと思いました。尿中pH7.5以上など目標が明快で指導もしやすいと思います。免疫チェックポイント阻害剤の認識はちょっと古いので今はその認識も変わっているとは思いますが、分子標的薬の認識は外科医的なものと感じました。実際に治療成績をまとめて投稿されているので、これをもとにどこかの医療グループと臨床試験をすすめるような動きが出てくればいいと思いました。