2023年改訂された、日本結核・非結核性抗酸菌症学会から2023年の学会誌に記載されたもので、インターネットでフリー閲覧可能ですのでそちらを参照頂けたらと思いますが、抜粋して記載します。
Kekkaku Vol. 98, No. 5, 2023
成人非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解
診断の確定は治療開始のための必要条件ですが、それが直ちに治療を開始する十分条件ではありません。2020年国際ガイドラインでは、喀痰抗酸菌塗抹陽性あるいは有空洞症例には治療を開始することを推奨しています。治療開始にあたり複数薬剤への忍容性を増すため1剤ずつ1-2週ごとに追加していく投与法も考慮されますが、マクロライド単剤治療となる期間をできる限り避けるように注意します。
自覚症状や画像所見の改善は治療反応の評価に有用ですが、原則的に喀痰培養検査により治療効果を判断します。一般的には4週間以上あけた喀痰培養で3回連続して培養陰性が確認された時点で陰性化が達成されたと判断し、初回の培養陰性喀痰検体が採取された日を培養陰性化日とします。治療開始された場合、6か月以内の培養陰性化達成は死亡率の低下に関連すると報告されています。
M.aviumとM.intracellulareの治療は、2020国際ガイドラインには重症を除く結節・気管支拡張型は週3日の間欠投与、空洞を伴う線維空洞型、空洞のある結節・気管支拡張型、あるいは重度の気管支拡張所見を伴う場合は連日投与とアミノグリコシド(AMKまたはSM)の併用が推奨されています。標準治療を6か月以上行っても排菌が陰性化しない場合には難治例と判断し、AMK吸入あるいはアミノグリコシド注射液の追加が推奨されています。
なお審査事例として2019年にAMKが、2020年AZMが保険審査上認められるようになり、難治例に限りAMK吸入が保険適応となっています。
連日投与 CAM 800mg+EB 10-15mg/kg(~750mg)+RFP 10mg/kg(~600mg)
週3日投与 CAM 1000mg or AZM 500mg+EB 20-25mg/kg(~1000mg)+RFP 600mg
重症例 連日投与+3-6か月下記を追加
SM 15mg/kg以下(~1000mg) 週2-3回 or AMK 15mg/kg連日か15-25mg/kg 週3回
50歳以上の場合 AMK 8-10mg/kg 週2-3回 最大500mg
難治例は 連日投与+AMK吸入 590mg連日 必要に応じて外科治療の併用を検討
RFPを除いた場合、低体重の方はCAMを400-600mgに減量する
CAMとAMKの薬剤感受性試験で、CAMのMIC≧32μg/ml、注射用AMKではMIC≧64μg/mlを耐性とし、吸入AMKはMIC≧128μg/mlの場合耐性とします。
菌陰性化達成から最低1年間で治療終了して経過観察となりますが、5年で40%が再燃及び再感染すると報告されています。菌陰性から15-18か月を確保すると再発率が低下するとの報告があります。
マクロライド耐性の場合、EB、RFP or RBTにアミノグリコシドを併用します。CFZやSTFXの使用も考慮されますが保険適応はありません。手術も考慮されます。
EBは使用前に眼科の診察を受け、投与中は定期的な経過観察が必要です。週3日治療の方が視神経障害の出現頻度が低く、連日投与の場合は12.5mg/kg以下への調整により副作用が軽減できると報告されています。
2020国際ガイドラインではCAMよりAZMを推奨し、有効性は同等でAZMの方が認容性高く、薬物相互作用が少なく、内服錠数が少なく、1日1回の投与でコストが低いことが挙げられています。
RFPはCAMの代謝を亢進し血中濃度を著しく低下させ、RFPがなくてもマクロライド耐性は増えないことが報告されています。
3か月以上アミノグリコシドを使用すると排菌陰性化率や治療成功率が高いことが示されているため、聴力障害などの副作用に留意しながら、可能なら3か月以上最長6か月までの使用を考慮します。
AMKはTDMを実施し投与量を調整します。連日投与の場合2020国際ガイドラインでは最高血中濃度35-45mg/Lを推奨していますが、副作用には十分注意します。両側対称的な耳鳴りが聴力障害の重要な初期症状で、高音域(4000-8000Hz)のみ障害されることが多いため、定期的な聴力検査をして早期発見に努めます。
AMK吸入の主な副作用は発声障害、咳嗽、呼吸困難が多く、高額のため高額療養費制度などを利用します。吸入器の組み立てなどもあり、手順の習得が必要です。
リファブチン(RBT)は保険適応もありRFPよりも抗菌力がやや強く、薬剤相互作用も少ないですが、使用開始2-5か月後にぶどう膜炎の眼症状が出現することがあります。CAMとの併用で血中濃度が1.5倍上昇するため150mgから開始し、半年以上副作用がなければ300mgに増量可能です。
EMが単独で投与されることもありますが、抗菌作用はなく免疫調整作用の期待であり、標準治療の代わりにはなりません。
M.kansasiiに対する標準療法はRFP10mg/kg 最大600mg+EB10-15mg/kg 最大750mg+CAM800mg(体重40kg未満は600mgを考慮)でRFP/EBは分1でCAMは分2を原則とします。RFPは結核菌に準じて薬剤感受性を評価します。空洞のない軽症例には週3回の間欠療法も考慮され、RFPに感受性があれば治療期間は12か月です。RFP耐性時や使用不能時はLVFXとなります。
M.abscessus speciesはマクロライド耐性機構の理解が必要で、迅速発育菌用の試薬を用いて感受性試験を実施します。M.abscessus species はerm遺伝子があるM.abscessusとerm遺伝子の欠失したM.massilienseがあり、erm遺伝子でマクロライド耐性となりますが、erm遺伝子が点変異してマクロライド感受性がある場合もあります。またどちらともrrl遺伝子でマクロライドの獲得耐性がありえます。注射薬のAMK・IPM・TGCと経口薬のAZM(またはCAM)、CFZ、LZDの中から3つ選択して強化療法で導入し、維持期はAZM(またはCAM)、CFZ、LZDおよび注射用AMK吸入のうち2剤以上の選択が推奨されます。マクロライド耐性の場合はマクロライドは含めずに4つの薬剤で導入し維持療法は2剤以上でします。
AMK点滴、IPM、AZM、CFZは審査事例として保険審上認められるようになりましたが、AMK吸入、TCG、LZD、STFXは保険承認されていません。
実際の治療はマクロライド(CAMよりAZMが推奨されています)とCFZに初期はAMKとIPM注射をして、維持期は重症例は週2-3回AMK点滴もします。CFZの忍容性が問題あるならSTFXなどを考慮します。FRPM、MINOは耐性を示すので、実質マクロライド単剤療法となるような治療レジメンは安易に選択してはいけません。
マクロライド耐性時は手術を含めた集学的治療可能な専門施設への紹介が望まれます。耐性時のマクロライド併用は免疫調整作用を期待することになります。実際感受性検査を見てSTFXやLZDを考慮します。
M.abscessus speciesにはM.bolletiiもありますが日本ではまれで、M.abscessusに準じて治療をします。
CFZは強化療法時からの使用が望まれ、マクロライドとAMKの相乗効果とAMK耐性化抑制の効果がありますが、皮膚の色調変化やQT延長などの副作用もあります。吸入AMKはM.abscessus speciesに保険適応はなく、LZDとTCGも忍容性に問題があります。
治療期間は排菌陰性化後1年とされています。