はじめに
日本臨床腫瘍学会編集の発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドラインは2012年に初版が発行され、2017年に改訂第2版が出版されそれ以来の改訂です。
発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン
内容
FNとは腋窩温37.5度以上で、好中球500/μl、または1000/μで48時間以内に500/μlになると予想される状況です。
感染巣がないか問診・診療を実施し血算・白血球分画・生化学、血液培養2セット、必要に応じて胸部X線や検尿などをして診療を進めていきます。リスク評価をして入院治療するか決定します。
原因微生物の同定は40-50%で、血液培養陽性率は10-20%ですが菌が得られた時の治療的意義が大きいためルーティーンに血液培養を実施します。中心静脈カテーテル留置症例の場合、1セットはそこから採取します。真菌感染(アスペルギルスなど)が疑われる場合は、β-Dグルカンやアスペルギルスガラクトマンナン抗原を測定します。
重症化するリスクの低いFN患者を同定するための評価方法としてMASCCスコアが2000年に発表され、現在最も信頼されているリスク評価方法です。このスコアで低リスクだった人も10%が死亡を含む重大な合併症を発症しています。そのため固形腫瘍患者のみを対象としたCISNEスコアも発表されましたが評価はまだ定まっていません。
患者の心理・社会的リスクも考慮され、以下をすべてを満たす場合を低リスクとします。
・外来治療について同意がある
・服薬アドヒアランスが良好である
・患者と医師や看護者との意思疎通が良好で、体調など自らの状況を適切に伝えることができる
・患者と同居する看護者がおり、患者の病状を24時間にわたり把握できる
・患者あるいは看護者がFNおよびその治療に関する説明を理解できる
・療養場所から当該治療施設までの所要時間が来るまで概ね60分以内である
・電話ならびに受診のための交通手段が24時間確保されている
・頻繁となる外来診療の指示に従うことができる
緑膿菌での死亡率が高いため、初期治療はCFPM、TAZ/PIPC、カルバペネム系薬剤となっています。初期治療としてアミノグリコシド系や抗MRSA薬の併用は推奨されません。
低リスクのFN患者さんはあ外来治療も可能で、治療はCPFX+CV/AMPC(またはLVFX)が推奨され、治療開始後も注意深い観察が必要です。
解熱したときに好中球数が500/μl以上に回復していれば抗菌薬は中止可能で、500/μl以上に回復していなくても48時間解熱して72時間状態が安定していれば抗菌薬は中止可能ですが、中止後24時間ごとのアセスメントが必要です。
治療開始後解熱までは5日程度要することが多く、治療開始3-4日後発熱が持続していても抗菌薬の変更の必要性は高くないです。ただし全身状態が不安定な場合、より広域なβ-ラクタム薬への変更、多剤耐性グラム陰性桿菌を疑う場合はアミノグリコシド系抗菌薬の併用、カテーテル関連血流感染症や軟部組織感染症などのグラム陽性球菌感染を疑う場合には抗MRSA薬の併用、β-ラクタム薬の長時間投与(MEPM4時間投与など)を検討します。
FNを発症した患者に対して、G-CSFの治療的投与を一律に行わないことを推奨し、重症化リスクがある人のみ使用を考慮します。ここでの重症化リスクがある人とは、好中球100/μlが10日以上続く、65歳を超える、原疾患のコントロール不良、肺炎など臨床的に確認された感染症の合併、低血圧、敗血症による多臓器不全、深在性真菌症、FNの既往がある場合です。
中心静脈カテーテルの挿入されている人の場合、速やかな抜去が望まれます。
好中球数100/μl未満が7日超えて続くと予想される場合、LVFXの予防投与が推奨されますが、7日未満の場合は耐性菌の問題もあり投与は推奨されません。
FN発症が20%以上予想される場合、10-20%でFNリスクを有する人は、G-CSF製剤の予防投与が推奨されます。FNリスクとは65歳以上、がん薬物療法歴、放射線治療歴、持続する好中球減少症、骨髄への浸潤、直近の手術、Bil >2.0、Ccr<50です。FN発症リスクは日本癌治療学会「G-CSF適正使用ガイドライン」2022年10月改訂第2版が参考になります。
全例でB型肝炎のスクリーニングを行うことを推奨し、治療前にHBs抗原、HBc抗体、HBs抗体を測定し、HBc抗体、HBs抗体陽性の時HBV DNAを測定し、HBV DNA 20IU/mlの時は核酸アナログの予防投与し、HBV DNA量のモニタリングを行うことを推奨します。
結核の問診と胸部X線で結核のスクリーニングを実施し、2年以内の結核患者との接触や胸部X線で陳旧性結核を疑う場合、IGRA(QFTまたはT-SPOT)を実施し、陽性なら潜在性結核感染症として抗結核薬の予防投与(INH 6 or 9か月、INH+RFP 3-4か月、RFP 4か月内服)をします。
50歳を超える人には帯状疱疹ワクチンの2回接種が推奨され、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種も推奨されます。