著者紹介・はじめに
2023年10月2日初版のKADOKAWAから発刊された本で著者は佐藤典弘氏です。佐藤氏は九州大学医学部卒業の外科医でがん治療認定医を取得されている産業医科大学第一外科の講師です。YouTube「がん情報チャンネル」を開設されその公式本ということです。64個の質問に答える形式となっていて、エビデンスのある情報を届けること目的です。
最強のがん克服大全
内容
がんは様々な原因で発症するため、単純明快なわかりやすすぎる治療は疑った方がいいです。日本ではがんは増えていますが世界でも増えており、その原因は高齢化だと思われます。治療の成績が向上しているため死亡率は減少しており、これも欧米と一緒です。がんになったらあっという間に死んでしまうイメージもありますが、がん細胞ができてから発見できる大きさに成長するまで10年間、最終的に死亡するまで約20年間かかる計算モデルもあります。最終的には悪液質(カヘキシア)、感染症、臓器不全、治療の影響、オンコロジーエマージェンシー(急速に症状が悪化する合併症)、その他の病気で亡くなることになります。しかし、がん=死という考えは間違っており、全体的にみると、がんと診断されてから5年後の生存している確率は6割を超えています。また鎮痛剤の進歩、オピオイドという医療用麻薬の使用でがんの痛みはほぼ完全にコントロールできるようになっています。がんになっても仕事を続けられる人が増えて、改正がん対策基本法で、会社ががんになっても雇用を継続できるように配慮するということが明記されました。がんを克服した患者さんは、受け入れ力、情報力、コミュニケーション力、体力、免疫力を持っていることに気づきました。
健診で腫瘍マーカーを測定することがありますが、前立腺がんのPSAを除き早期がんのスクリーニングには適していません。近年血小板の値ががんの発生と関係するとわかってきました。カナダの研究で、血小板の値が正常値から急に45万/μl以上に跳ね上がった人を追跡すると、2年以内に5.5%の人に固形がんが発症しました。通常の人の2.7倍リスクが高かったです。卵巣がんが7.1倍と最も高く、胃がん5.5倍、肺がん4.4倍などです。
がんの家族歴について40-69歳の日本人男女を対象とした検討で、がん家族歴がある方が11%がんになるリスクが高い結果が出ました。膀胱がんが6.1倍で肺がんは1.5倍でした。
がんには兆候があり、異常なほくろ、胸のしこり、閉経後の不正性器出血、排尿障害、血尿、排便習慣の変化、声のかすれ、倦怠感、腹痛、下腹部痛、体重減少の50%以上は発見時にステージⅣになっていないⅠ~Ⅲ期でしたので、この兆候が出たらすぐに医療機関を受診しましょう。ヘビースモーカーは1年に1回は胸部CT検査を受けた方がいいでしょう。家族に膵臓がんがいる、糖尿病がある、肥満・喫煙がある人は膵臓がんのリスクがあるので、定期的に腹部エコーを受けた方がいいでしょう。
がんと告知された場合、がんの部位と進行度、主治医に進める治療法とそれ以外の治療法、治療の目的(根治か延命か緩和か)、治療のリスク、治療がうまく以下なった場合の対応策について確認しておきましょう。長く主治医とかかわることになるため、直感的に信頼できるかどうかで判断し、信頼できないなら主治医を変えることや医療機関自体を変えた方がいいです。その病院や近隣のがん相談支援センターに相談することもできます。がんの費用は年間の平均は115万円ですが、高額療養費制度がありますのでそれを利用しましょう。また収入が減ることもあり負担が増えるかもしれません。セカンドオピニオンはどの時点でも求める権利はあり主治医に遠慮する必要はありませんが、目的を明確にして受けるようにしましょう。家族ががんになった場合は過保護となり仕事を奪うようなことや、勧められた健康法を安易に取り入れることや、自分を犠牲にして体調を崩したりしないようにしましょう。困ったら上述のがん相談支援センターなどに相談しましょう。手術をする場合、手術件数が多いところの方が少ないところより入院日数も短く死亡率も低いというエビデンスがあり、CalooというサイトでDPC登録病院の手術件数を調べることができます。サルコペニアという筋肉量が減って身体機能の低下が起こっている状態で手術をすると手術後の合併症が増えるため、プレハビリテーションで有酸素運動と筋トレ、たんぱく質を主とした栄養療法をすることにより術後の合併症を減らせます。ヨーグルトや納豆といったプロバイオティクスも手術後感染症などの合併症を減らす報告があります。
菓子・スナック類やチキンナゲットや調理済み冷凍食品などの超加工食と呼ばれる食品を多く摂取するとがんの発症リスクが20%増加し、特に乳がんのリスクが高まります。ウインナーなどに含まれる亜硝酸塩や硝酸塩の大量摂取は乳がんや前立腺がんの発症リスクを高めます。残留農薬は摂取が少ないとがんの死亡リスクは減るものの、多くてもがんの死亡リスクは増えないとの結果でした。卵は1日2個以上食べるとすべての死亡リスクが2倍に増えがんによる死亡リスクは3.2倍に増えていました。ナッツ類の摂取はがんによる死亡リスクを下げ、特にピスタチオやクルミの効果が高かったです。ダークチョコレートもがんの死亡リスクを減らしました。
野菜スープでがんの発症リスクが減るというデータはなく、大豆食品やみそ汁で乳がんになりにくく胃がんの死亡リスクを減らす結果はあります。フロレチンを含むリンゴや柑橘系フルーツの摂取は乳がんのリスクを減らしましたが、100%ジュースはむしろがんのリスクを増やしました。アボガドは男性の大腸がんや肺がんのリスクを減らしましたが、女性の乳がんを増やしました。オリーブオイルもがんのリスクを減らしました。腸内細菌の環境がいいと大腸のみならず肺がんのリスクも減らし、免疫チェックポイント阻害剤が効きやすくなるため、プロバイオティクスやオリゴ糖や食物繊維のプレバイオティクスを摂りましょう。水分の摂取でがんのリスクは減りますが摂りすぎるとむしろリスクは増えるようです。炭水化物の摂取割合が50-55%が最も死亡リスクが少なく、動物性たんぱく質を多く摂るとがんや心血管の病気を増やすことにつながります。
抗がん剤のリスクについて、抗がん剤に殺されるといった過激なタイトルの本もありましたが、実際は、多い報告では10%程度死亡しているものもあれば1%未満のものもあり、全身状態が悪いとリスクが高くなることが多いです。白血病やリンパ腫では抗がん剤だけで治ることもあります。副作用も必ずしも出るとは限らず、治療中も適度な運動をする方がいいです。食欲が低下したときはヨーグルト、豆腐、茶わん蒸し、牛乳・豆乳ゼリー、鶏のつみれ汁などが望ましいです。
アスピリンという薬はがんの死亡リスクを減らし、胃がんや大腸がんなどの死亡リスクを50%も減らしました。脂質異常症に使用されるスタチンという薬がありますが、がん患者さんが服用すると死亡リスクを減らし再発率も減らします。逆にACE阻害剤といわれる血圧の薬は肺がんのリスクを上げ、逆流性食道炎に使用されるPPIという薬は膵臓がんのリスクを高めました。
肺がんの術後にビタミンDを摂取すると生存期間が延長しました。大腸がんと診断後EPAを含むω3不飽和脂肪酸を多く摂取すると再発率や死亡率を下げました。ビタミンB12は乳がんの再発リスクを高めました。
がんを攻撃するNK細胞は喫煙、飲酒、ストレス、肥満、加齢で活性が低下し、適切な睡眠、運動、森林浴、音楽、笑いで活性が高まりました。
がんの倦怠感に対しては運動、(マインドフルネス)瞑想、ヨガが役立ちます。筋トレも有用ですがやりすぎてもよくなく、週30分(1日15分を週2回か30分を週3回)がちょうどいいです。痩せすぎも太りすぎもがんの死亡リスクを増やします。
がんが再発すると今まで努力してきたことが全く意味なかったと考えがちですが、今までの努力で再発の日が遅らせられた、一日一日感謝しながら生活を送ることができた、などと考えましょう。あきらめない人にこそチャンスが訪れます。余命について主治医から伝えられることもあるでしょうけど、あくまでそれは半分の患者さんが亡くなるまでの時間です。余命を聞いてもあきらめる必要はありません。
絶食模倣食といって5日間だけ1日300-600kcalに制限し、その後およそ20日間は通常通りの食事法があり、これと標準的な化学療法を組み合わせた試験がイタリアで行われ良好な成績を収めたようですが、今後この治療が標準的となるかはわかりません。
がんの治験を受けたい場合は主治医やがん支援相談センターに相談することや、臨床研究情報ポータルサイト等でご自身で検索することです。新しい治療法を受けられる可能性がある半面、限られた施設でしか実施されず思わぬ副作用に直面することもありえます。
テレビを長時間見ると大腸がんのリスクが上昇する結果がありますが、長時間すわってエネルギー消費量が減ることや運動不足などが問題だと思われます。
肺がんの予防にはブロッコリーやキャベツなどのアブラナ科植物に含まれるスルフォラファンの有効性が言われています。大豆食品も有効で、ヨーグルトと食物繊維の摂取もリスクが低下させました。
1日に4杯以上珈琲を飲むと大腸がんの再発率が低下し、死亡リスクが減りました。
膵臓がんでは糖質制限食が有効で、マグネシウムの摂取量が少ないとリスクが上がりました。
ヘリコバクターピロリ菌を除菌すると胃がんを30-50%減らしますが、食道がんは増やさないとされています。ただし除菌できても萎縮性胃炎があれば胃がんになるリスクがあるので定期的に胃カメラ検査を受けた方がいいです。
リコピンを含むトマトで肝臓がんのリスクが減ります。スイカにもリコピンは含まれます。
お酒を飲むと赤くなる人が飲酒を続けると食道がんになるリスクが高いです。
緑茶をたくさん(1日720ml以上)飲むと胆道がんや血液がんや腎臓がんを減らします。
支えてくれる家族がいてかつ自分が支えないといけない家族がいる方、あまりがんについて深刻に考えすぎず、無理をせずできるだけ普段通りの生活をして、仕事などで社会へのかかわりを持ち続けているような方は治療がうまくいくことが多い感じがあります。
これまで1000例を超える手術をした外科医として、患者さんが変わることが重要で、治療だけでなく生活習慣の改善が大事で、最終的には患者さんの力で治すことが重要だと気づきがありました。
感想
エビデンスに基づいたがんの情報が多数提示されており、わかりやすく記載されているため頭に入ってきやすかったです。エビデンスだけでなく、著者のがんに対する考え方や、具体的な対策や心の持ち方も記載されており、がんの人には有益な本だと思いました。