がん薬物療法に伴う血管外漏出に関するガイドライン2023

日本がん看護学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床腫瘍薬学会の合同によるガイドラインで2014年からの9年ぶりの改訂となります。

静脈内に投与されるべき薬剤が血管周囲の皮下組織などに漏れ出ることEV (extravasation)といいます。このガイドラインではがん薬物療法に伴う血管外漏出をEVとして扱います。

がん薬物療法に伴う血管外漏出に関するガイドライン2023

EVは一定の頻度で生じる可能性がある事象で、皮膚や周辺組織に障害を起こし、発赤・腫脹・疼痛・灼熱感・びらん・水疱形成から、潰瘍化・組織壊死等の外科的介入を必要とするような皮膚状態を引き起こす可能性があります。

がん薬物は皮膚組織壊死障害によって、壊死起因性(ベシカント)、炎症性(イリタント)、非壊死起因性(非ベシカント)に分類されます。壊死起因性はDNA結合型と非結合型に分類され、前者はドキソルビシンといったアントラサイクリン系で、血管外漏出すると隣接する正常細胞に取り込まれて長時間組織内に保持され、組織損傷が繰り返されるため時間の経過とともに範囲が広がり、深く痛みが増すとされています。後者はビンカアルカロイド系薬剤等で、漏出後直接的に損傷をもたらすとされています。最終的に組織で代謝され前者よりも容易に無毒化され、組織損傷は限局性となります。炎症性は漏出で炎症や疼痛を生じるものの組織壊死を引き起こす可能性は低いですが、一部の薬剤では大量に漏出すると潰瘍を生じる可能性はあります。非壊死起因性は注射部位に痛みを感じるかもしれない程度です。

 

がん薬物療法中にEVの症状・客観的な兆候(腫脹・痛み・発赤・水泡)が出た場合速やかに投与を中止し、EVの鑑別をして適宜ケアや治療を行います。遅発性を生じる場合もあり、気づいた時点で医療機関に連絡・受診することになります。EVに対する治療は投与した薬剤の分類、主観的症状、客観的兆候などで判断し、適時皮膚科医など専門家へコンサルテーションします。

EVのリスクは患者さんの因子として、細い血管・複数回の実施・出血傾向・高度の肥満・広範囲の皮膚疾患などです。

EVと類似する症状として静脈に沿って紅斑が出現するフレア反応、静脈炎、以前の影響を受けるリコール反応があります。

 

繰り返しがん薬物療法の投与を予定するがん患者に対して中心静脈デバイスを留置することは弱く推奨され、その中では中心静脈ポートが強く推奨されます。

穿刺エラーや当日採血した部位より末梢側での末梢静脈カテーテルの留置はしないほうがいいですが、どのくらい時間が経てば大丈夫かというエビデンスはありません。

以前は24時間以上経過した末梢静脈カテーテルは通常使用すべきないとしていましたが、入れ替えるデメリットを考慮すると入れ替えないことが弱く推奨されました。

輸液ポンプの使用と自然滴下について、後者のほうがEVが少ないという報告もありますが、ケースバイケースで対応することが推奨されました。

ホスアピレピタントについて、投与時に血管痛や注射部位反応が増加することが報告されていますが、EVのリスクを高めるという報告はなく、注射部位反応に注意しながら使用することが弱く推奨されました。

逆血確認してもEVを発症する可能性はありますが、確認することを弱く推奨します。

EV発症時原因薬剤の投与を直ちに中止して、留置針を抜去せず、針から残留薬液または血液を数ml(2-5ml)吸引して、漏出部の組織に残存している薬液をできるだけ吸引することが多く、海外ガイドラインでも実施すると言及されていますが、この処置の有効性を示す根拠は見つからず、推奨はありませんでした。

EVによる皮膚障害を防ぐため局所療法として冷罨法(冷却)や温罨法(加温)は推奨されるかについて、冷罨法単独での効果について評価不十分なものの侵襲性は低く、弱く推奨されましたが、温罨法はビノレルビンが漏出した際のヒアルロニターゼの皮下注との併用で有効性はあるものの、本邦ではヒアルロニターゼの投与不能のため、しないことが弱く推奨されました。

アントラサイクリン系のEVにデクスラゾキサン(商品名ザビーン)投与について、外科的処置を減少させる効果はあり、3日連続投与が必要で高額な薬剤ですが、弱く推奨されました。

EVに対してのステロイド局所注射は、回復までの期間を延長させる報告もあり、しないことが弱く推奨されましたが、ステロイド外用剤の塗布は、直接的なエビデンスはないものの、間接的なエビデンスは有効と判断し、行うことを弱く推奨されました。

EVによる壊死を伴わない損傷部位に対するデブリードメントはエビデンスが弱く、多くは保存的加療で治癒が得られており、行わないことが弱く推奨されました。


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