日本がんサポーティブケア学会編集のガイドラインで2017年からの改訂となりました。ASCO 2020年アップデート版ガイドライン、ESMO-EONS-EANO 2020年版ガイドラインも土台にされています。
中枢神経障害についての項目もありましたが、重度のものは少なく、軽度の一過性のものが多く、実際化学療法の有害事象で難儀することが少ないため、割愛しました。
がん薬物療法に伴う末梢神経障害ガイドライン2023
化学療法誘発末梢神経障害をCIPNといいます。
固形癌で使用頻度の高い抗癌剤でCIPNを発症しやすいのはオキサリプラチンで、添付文書には96.6%に生じるとあります。他にはタキサン系抗がん剤でも頻度は多く、ビンカアルカロイド系や一部の分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤でも報告されています。
感覚障害はnumbnessと表記されるしびれや感覚鈍麻、tinglingと表記されるチクチク感やうずき感があり、手足末梢側に生じるためglove and stocking型と呼ばれ、最も頻度が高いです。
運動神経障害は四肢遠位部優位の筋萎縮と筋力低下、弛緩性麻痺を呈します。
自律神経障害は血圧・腸管運動・不随意筋に障害が発生し、排尿障害、発汗異常、起立性低血圧、便秘、麻痺性イレウスが見られることがありますが、この障害は頻度は低いです。
病理学的にはタキサン系等での軸索障害、オキサリプラチン等での神経細胞体障害、インターフェロン等での髄鞘障害に分類されます。
鑑別疾患として、糖尿病、尿毒症、膠原病(血管炎症候群も含む)、ビタミンB1欠乏、ギランバレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、傍腫瘍性神経症候群などがあります。
オキサリプラチンは急性障害と慢性障害があり、急性は寒冷刺激により増悪する四肢末端や口唇周囲の知覚異常を特徴とし、数日以内でほとんど消失します。慢性は数か月から数年継続することもあり、投与量が800mg/m2を超えると発症頻度が高まります。薬剤中止後も回復困難な場合もありますが、実際は80%の患者さんで回復し、40%の患者さんは8か月後には完全に回復します。
パクリタキセルは混合性多発神経障害で、四肢の知覚異常を主体とし、1回投与量と総投与量に相関します。しかしweeklyのほうがtri-weekly投与の方が症状が重篤化すると報告されています。神経障害性疼痛をきたすこともあり、感覚性運動障害や自律神経症症状を起こすこともあります。タキサン系にも投与2.3日後に体幹・上下肢などの筋肉や関節に疼痛を認め、5.6日以内に回復する現象があり、TAPSなどと呼ばれ、これが生じると慢性の神経障害に高率に移行するので急性の神経障害と考えられています。
症状としては、しびれ感から細かいものをつかめない、手に保持できず落としてしまう、ふらつき・つまずく等の歩行機能障害を起こします。
対処としてCTCAEのgrade2で被疑薬の減量、grade3で投与の延期または中止となります。
オキサリプラチンの急性障害は機序が不明で対処する薬もないため、投与後1週間は冷たい飲み物や氷を避け、低温時には皮膚の露出を避けるように指導し、多くは自然に回復すると説明します。
オキサリプラチンのCIPN予防として牛車腎気丸を投与しないことが推奨されます。
タキサン系のCIPN予防として、点滴終了前後に四肢を冷却することが提案され、圧迫に関しては効果不明で推奨はありません。
タキサン系へのCIPN予防としてアセチル-L-カルニチンを投与しないことが推奨されます。
CIPN予防としてのプレガバリン(商品名リリカ)は効果がはっきりせず、めまいや傾眠の不利益も予想されるため投与しないことが推奨されます。
CIPNの予防や治療として運動をすることは、効果の大きさは不確実ですが、有害事象なくCIPN予防以外の効果もあり、実施することを提案します。
鍼灸はCIPN予防としてしないことを提案しますが、治療について効果ありとの報告はあるものの推奨まではしません。
治療薬としはては日本では保険適応はありませんがデュロキセチンの投与が提案され、アミトリプチリン(商品名トリプタノール)は投与しないことが推奨され、プレガバリン、ミロガバリン(商品名タリージェ)、ビタミンB12(商品名メチコバール)、NSAIDs、オピオイド、それらの薬の併用は、効果ははっきりせず推奨はされません。
具体的な治療法としてはデュロキセチン(商品名サインバルタ)20mgを1日1回朝食後から開始し、1週間後40mgに増量します。60mgまで増量可能です。ワルファリンを併用しているとワルファリン濃度上昇させるため注意が必要です。