著者紹介・はじめに
2022年2月25日初版の幻冬舎から発刊された本で、著者は佐藤俊彦氏です。佐藤氏は1960年生まれの福島県立医科大学を卒業されています。1997年に宇都宮セントラルクリニックを開院された、もともと放射線科の医師です。標準治療では救えない進行がんの患者さんを救うことを目的とした本です。
4症例提示され、手術を勧められた下咽頭癌に放射線化学療法をした症例、画像上膵癌であったが組織採取不能で、遺伝子検査でイブランスが有効と判明して保険外診療し、オンコサーミアと併用して腫瘍の進行が緩徐になった症例などです。
ステージ4でもあきらめない最新がん治療
内容
国立がん研究センターの調べでは2018年に新たに診断されたがんは98万856例、2019年がんで死亡した人は37万6425人です。がんのステージⅠの早期がんの多くは標準治療で9割は治りますが、ステージ4の進行がんの場合標準治療では2割の患者さんも救えないのが現状です。進行がんは周囲にどんどん広がったり別の臓器や組織に転移したりしやすく、がんの性質も変性しやすいという特徴があります。こうしたタチの悪いがんが一度発生してしまうと、叩いても叩いても身体のあちこちに転移し体内の免疫細胞に見つからないように巧妙に変性しながらしぶとく増殖し続けます。
従来の方法論にとらわれない4つのがん遺伝子検査と治療の新常識があります。
- 抗がん剤治療の前にがん遺伝子治療をすれば有効な治療選択肢の幅が広がる
進行がんで身体のあちこちに多発転移がある場合、転移したがんの遺伝子が最初の遺伝子から変異しているケースが多々あるので、最初に選択した抗がん剤が全く効果ないこともあります。転移した部位の遺伝子検査をする場合生検が必要ですが、脳などにある場合は出来ませんし、たくさんある場合はすべての転移巣から組織を採取することは困難です。こうした問題をクリアできるのがリキッドバイオプシーという、採血して血液中のがん遺伝子を解析する手法があります。がん遺伝子検査により遺伝子に基づいた豊富な情報を得ることができ、患者さんのがんに有効な分子標的薬や適した治療選択肢の有無を判定できます。分子標的薬とは標的分子に対して研究開発された治療薬を指し、がんに関わる遺伝子は500以上あるといわれていて、リキッドバイオプシーなら血液から網羅的に遺伝子解析できるので、ここの患者さんに合った分子標的薬の選択が生検することなく可能になります。
がん遺伝子検査が受けられる医療機関は全国にあり、厚生労働省が指定したがんゲノム医療拠点病院が12か所、がんゲノム医療拠点病院が33か所あり、全国に185か所のがんゲノム医療関連病院があります(2022年2月1日現在)。こうした医療機関で検査の適応となるかどうかはそこの担当医により判断され、適応の場合がん遺伝子パネル検査でたくさんの遺伝子を解析し、エキスパートパネルという複数の専門科メンバーによる委員会で検討され、患者さんに伝えられますが、8週間程度かかります。ガーダントヘルスのリキッドバイオプシーは保険適用外の自費診療で40万円前後かかりますが、2週間で結果が伝えられます。ただし早期がん、がんが安定している、血液悪性腫瘍、治療中の患者さんは検査結果が得られにくくリキッドバイオプシーには向いていません。
- 転移があるからこその放射線治療
放射線治療はがんの3大治療のひとつで、手術前に実施して腫瘍を縮小させて身体への負担を減らす、がんの病巣だけを攻撃できるので正常な組織を傷つけることなく治療できる、通院でも治療が可能、年齢を問わず受けることが可能、進行したがんの痛みや出血などの症状の緩和にも役立ちます。
サイバーナイフは3cm以下の早期癌であれば1度の照射で消滅させることもできる高精度な放射線治療機器です。360度可動領域を持つロボットアームがあり、がんだけを正確に狙い撃つことができます。呼吸追尾という機能があり、肺癌などの呼吸によって腫瘍が動く場合でも正常な細胞を傷つけないようにしながら動く腫瘍を狙うことができます。最初にできた場所にがんが再発した場合もサイバーナイフは勧められ、過去に放射線治療を受けていて原発巣以外の場所にがんが見つかった場合も適しています。サイバーナイフは照射する箇所の正確な位置を合わせてから治療を開始し、治療にかかる時間は30-60分ほどで、固定具に入って安静にしているだけで、照射された部位に痛みや熱さを感じることはなく、治療前後の食事や入浴などの制限もなく外来通院で治療できます。
最近はトモセラピーといわれる1回の治療で複数のがんに放射線を照射ができます。
放射線治療することで放射線照射をしていない箇所のがんも小さくなることがあり、これを放射線治療によるアブスコパル効果といいます。これは放射線照射されたがん細胞から免疫を刺激する作用のあるたんぱく質や癌抗原等の物質が放出され、それに反応した免疫細胞が活性化して、同じ性質をもった放射線照射していないがん細胞を攻撃するからです。
- がんの増殖を防ぐ最強のコンビネーション-放射線治療と免疫療法の併用
もともと人間には免疫が暴走しないように免疫チェックポイントがかかるようになっていますが、がん細胞はこの免疫チェックポイントを逆手にとって免疫から回避しようとします。がん細胞は表面にPD-L1という物質を作って、免疫細胞のT細胞からの攻撃をかわし、T細胞の表面にあるCTLA-4という物質を通じて免疫細胞の司令塔の役割をしている樹状細胞に対しても攻撃を止めるよう働きかけます。
免疫療法は自分の免疫細胞を採血によって体外に取り出し、培養・活性化して大量に増殖させ、点滴のよって体内に戻す方法なので、体にとてもやさしい治療法といえます。放射線治療は身体の免疫力との連携で治療効果が上がるので、放射線治療の後に自身の免疫細胞を増やして投与する免疫療法を行うことでさらに高い治療効果が望めます。
免疫療法の一つであるBAK療法は、体内に備わっている免疫細胞のガンマ・デルタ細胞とNK細胞を利用した治療法です。BAK療法は自分の免疫細胞を培養して増やし、再び体内に戻す治療法なので副作用もほとんどありません。まれに投与した当日に発熱する場合がありますが、一過性で数時間後には平熱に戻ります。通常がん細胞は免疫細胞から攻撃を免れるため約70%のがん情報を隠すため一般的な免疫療法ではうまくがんを攻撃できませんが、BAK療法ならがん細胞を認識する別の分子(NKG2D)を使用するので多くのがん細胞に対してアプローチでき微小ながん細胞に対する効果も期待できます。採血して2週間かけて培養したリンパ球を点滴で戻すサイクルを1クールとして12回行うのが基本です。複数回行うのは回数を重ねることで免疫細胞を強化できるからです。
免疫チェックポイント阻害剤に加えて抗腫瘍免疫を回復・増強する免疫療法を併用し、アブスコパル効果を組み合わせるとより高い治療効果が望めます。
- 進行がんには温熱療法や塞栓術なども取り入れる
がんを熱で死滅させる腫瘍温熱療法オンコサーミアは全ステージのあらゆる種類の固形癌に適した治療法です。ヒートショックプロテインが生成され、がんの増殖の抑制や免疫の活性も生じます。方法はラジオ波をがん細胞だけに照射し42度に加温する方法なので、やけどなどの副作用の心配もありません。オンコサーミアの治療時間は1時間ほどで、患部の近くに電極を当てて専用ベッドに横になっているだけです。個人差はありますが幹部にほのかな温かさを感じる程度で、基本は1クール12回で週3回の通院が必要で、費用は健康保険の適用外なので自費診療となります。
手術やオンコサーミアが不向きな進行がんの患者さんには塞栓術という方法があります。塞栓術はがん細胞が栄養を取り込むルートを一時的に防ぐことでがん細胞の成長を抑制しがん細胞を縮小させ最終的に死滅させる治療法です。局所麻酔して鼠径部の大動脈からカテーテルを入れ、そこに抗がん剤もしくは分子標的薬と動脈を塞ぐ薬を注入します。あまり長時間にわたって動脈を防いでしまうと体に悪影響があるので、治療時間は1時間ほどで終了します。治療後発熱や腹痛吐き気などの副作用が一時的に出ることがありますが、抗がん剤の副作用よりは身体的負担が比較的軽い治療といえます。
標準治療や免疫治療にて食欲低下などが起こった時に補完的に植物性のCBD(カンナビジオール)が勧められます。大麻に含まれる化合物カンナビノイドの一種ですが、マリファナとは主成分が異なります。
納得できる治療法を選択することは患者さんの権利ですから、ためらう必要はなく別の医療機関の医師に意見を求めるセカンドオピニオンをお勧めします。
感想
読んでいて放射線科医のがん診療という感じがしました。放射線はがんの局所制御やすぐに治療できるというメリットがあり私もよく放射線科医に照射治療をしていただきましたが、正常臓器にも照射され長期的な影響は結構あると思います。アブスコパル効果は理屈的には正しいですけど、実臨床でそこまで効果が期待できるのかなと思います。