著者・監修者紹介
2023年4月25日初版の、総合科学出版から発刊された本で、著者は医療ジャーナリストの木下カオル氏で、監修者は佐野正行氏です。副題は専門医が勧めるがんを小さくする方法となっており、監修者の佐野氏は1995年名古屋大学医学部を卒業され、その後外科医としてがんセンター中央病院で勤務され、2011年に医療相談専門医として活動を開始されました。
最新の治療や現在はチーム医療として診療していることから、サプリメントのキシロフコ・グリクロナンについて、作用機序やうまく活用して生存した9症例ついても触れられています。
がんを治すための新常識
内容
がんは生活習慣病で、がんの発生、増殖、発症のすべてに生活習慣がかかわっているといっても過言ではないとわかってきました。生活習慣でまず大事なのは食事です。がん治療の補助としてのサプリメントも品質がいいものもあります。本書ではキシロフコ・グリクロナンを紹介します。
国立がんセンターなどの研究班による発表で、2004-2007年に日本国内の病院でがんと診断された約9万4千人の10年生存率は58.3%で、2000-2003年の54.2%を上回り、難治性といわれた膵臓癌や肺癌の生存率も右肩上がりで上昇しています。その理由として手術・抗がん剤、放射線治療をうまく組み合わせた集学的治療が大きな相乗効果を生み出し、患者さんのQOLを重視して治療をしていく方向になったことで、むしろ結果としてがんを退け、無理なく健康を取り戻している人が増えました。免疫チェックポイント阻害剤で免疫細胞の攻撃をかわしていたがんのブレーキを外し、免疫細胞が本来の力を発揮してがん細胞へ攻撃し始めることも大きいです。抗がん剤も中にはつらい治療もありますが、進歩と副作用への対策の充実で副作用に苦しめられることはだいぶ減って、入院治療の必要性が減って通院で点滴治療や自宅での飲み薬の服用などできるようになってきました。光免疫治療も頭頚部癌の一部に保険適用が通り、いずれはたくさんの癌腫にも適用が広がると期待されています。放射線治療に免疫療法の融合も注目され、放射線治療でがん細胞から漏れ出た組織が抗原となってがんを攻撃する免疫を活性化し、放射線を照射していない部位のがんにも反応するというわけです。この放射線治療に免疫チェックポイント阻害剤を併用することにより免疫細胞の攻撃はより強力になり、未治療のがんをやっつける可能性が高まったのです。しかし現在では使用できる施設や癌腫が限られており新たな展開が期待されます。
次世代シーケンサーを利用して遺伝子を調べてそれに合った薬を投与するゲノム治療もありますが、それに該当する人は1-2割程度ともいわれています。単純ヘルペスⅠ型というウイルスを使用して、がん細胞の中だけで増殖し正常な細胞では増えない遺伝情報を改変する治療で、このウイルスががん細胞に感染するとウイルスが増殖してがん細胞を破壊、さらにほかのがん細胞に感染して破壊を繰り返します。テセルパツレブ(商品名デリタクト)が悪性神経膠腫という脳腫瘍の治療薬として日本で承認されました。この治療は手術や放射線、化学療法など従来の治療法とも併用が可能で期待されていて、この治療法ではがん免疫が活性化しウイルスとは関係なくがんを攻撃する力が高まるという二次的な特徴もあります。患者さんの免疫細胞をパワーアップして体に戻してがんを攻撃するCAR-T療法も一部の血液がんの患者さんに治療適用となりました。
膵臓癌は抗がん剤が効きにくいと知られていますが、抗がん剤に耐性を持ったP糖タンパク質が増えやすい性質があり、本来P糖タンパク質は細胞毒性のある物質を排除して組織を守る働きをしますが、抗がん剤にも作用してその働きを弱めてしまいますので、抗がん剤治療前後にP糖タンパク質を阻害する薬を投与する治療法も考えられ、兵庫県西宮市にある明和病院の園田隆医師による治療がされています。
2000年に前立腺癌に対するロボット手術が承認され、現在癌腫の適用が拡大してきて、さらに今後は遠隔操作手術やAIの活用も取りざたされています。
さらに上記だけではなくエビデンスのあるサプリメントもでてきています。キシロフコ・グリクロナンという成分は、がん治療の効果に対する働きなど多方面から科学的検証を重ね、充実したエビデンスを備えています。キシロフコ・グリクロナンの原材料は北大西洋沿岸に生育するアスコフィラム・ノドサムで多糖体です。多糖体と言ってもデンプン以外は摂りすぎると肥満になることはなく、食物繊維も多糖体です。アスコフィラム・ノドサムは全長2メートルにもなり、寿命は5-16年と1-4年の昆布やワカメとは異なり、水温が0-4度という冷たい海に自生し、干潮時に水がなくなっても死なずに乾燥に耐え、荒れた海の激流にも耐えて生き抜くタフな性質を持っています。キシロフコ・グリクロナンは免疫賦活作用、血糖値の上昇抑制作用、腸内環境を整える採用、血液の凝固阻止作用、コレステロールの正常化作用など多岐に働きます。昆布・ワカメ・モズクに含まれるフコイダンと似ていますが、昆布と比較してカルシウムが2倍、鉄分5倍、ビタミンAは2倍以上、ビタミンEは15倍含まれます。キシロフコ・グリクロナンはがん細胞を使った動物実験でがんの増殖を抑える作用が確認されました。
病院でがん治療を受ける場合、一人ひとりの患者さんにたくさんの医療従事者が共同で携わるチーム医療が行われるようになっています。医者も多数の診療科があり、看護師、薬剤師、理学療法士、臨床心理士などがチーム医療の中心の患者さん本人を支える形になります。一人の医師の診断だけでなく他の医師の意見も聞いてみたいと思うのは当然で、その場合は言い出しにくくてもセカンドオピニオンを受けた方が納得して治療が受けられます。納得しているのといないのでは結果が違ってくるのではないでしょうか。相談したいことがあるようならがん相談支援センターにも相談できます。がん相談支援センターは全国のがん拠点病院などに設置されている癌の相談窓口です。本人ではなくても相談できますし、他の病院にかかっている人でも相談できます。がん専門相談員として研修を受けたスタッフが無料で中立的な立場で相談にのってくれます。
がんには痛みを伴うこともありますが、我慢することはありません。新しい薬が次々と開発されていますが、痛みは本人にしかわからないので、医療関係者に伝え痛みに応じた治療を受けましょう。通院治療が可能となってきていますので、あわてて仕事を辞める必要はありません。会社は病気を理由に社員に勝手に解雇することは出来ませんので、主治医や勤め先と相談して決めましょう。
がんサバイバーが増えたのは標準治療に加えて代替療法や食事療法などの補助的な方法をとりいれたり、自分に合ったサプリメントを選ぶなどいくつもの創意工夫を重ねておられました。がんを克服するためには患者さんの体調が最も重要です。バランスのとれた食事をしっかり食べ、十分な睡眠をとる、定期的に運動し趣味を楽しむ。人と関わりよくしゃべりよく笑う。体を清潔に保ち風邪などの感染症を防ぐ。そうした当たり前の生活が体調を良好に保ちがんを退けます。がんを防ぐ、がんを克服する免疫システムは極めてストレスに弱いことが知られています。ストレスが重なるとがん免疫を担う免疫細胞は数が減り不活発になり充分な働きができなくなります。
運動はがんの再発リスクを減らすことが明らかになってきましたが、最近の研究では筋肉から様々な物質が分泌され、その生理活性物資を総称してマイオカインと呼ばれます。そのうちのスパークはがん細胞・前癌細胞のアポトーシスを促し、大腸がんに対しては抗がん作用を示します。イリシンは乳がんを抑制し炎症を抑えるホルモンです。IL-6はNK細胞を活性化するサイトカインです。
眠りについて2-3時間たつと脳幹の脳下垂体から成長ホルモンが分泌され、免疫システムの調整も行われます。以前は夜10時までに睡眠するのが良いとされていましたが、何時であっても入眠2-3時間で分泌されることがわかってきました。睡眠にはメラトニンというホルモンもかかわっており、睡眠のリズムを作ってぐっすり眠れて成長ホルモンがたっぷり分泌させます。メラトニンは夜間睡眠中に分泌されますが、きっかけは朝の目覚めで、太陽の光を浴びて覚醒するとメラトニンの分泌が減り、それから14-15時間たつと再び分泌されるというリズムにのっとっています。睡眠時間と乳がんの発症リスクを調べると、6時間以下の人は7時間以上の人に対して1.6倍リスクが高かったと報告されました。
がんにおける漢方薬はそれ自体でがんを小さくしたり消滅させたりするものではなく、症状を緩和し体調を整えることを得意としており、がんの標準治療の補助的な目的で使用することが多いようです。中にはNK細胞を活性化することが確認された補中益気湯や、マクロファージを活性化する十全大補湯などがん免疫を高める漢方薬もあります。
欧米でも補完代替医療が盛んで統合医療という看板を掲げて治療にあたっています。欧米における統合療法は科学的検証を繰り返し、有効性を確かめられていてやみくもにサプリメントが使われたりしているわけではありません。これまでがんに効果があるとされたビタミンAが逆に要注意物質になったり、がんの血管新生を防ぐとされたサメ軟骨が効果なしにされるなど、ビタミン類は総じてがんに対して要注意の判定がおりつつあるようです。
サプリメントは人が口にするものなので中身は厳しくチェックされなければなりません。安全性、科学的根拠(エビデンス)、薬などの相互作用の問題、販売方法や広告に問題はないか、治療の妨げになっていないかです。具体的には免疫の弱体化を食い止めること、治療によって低下した免疫力を再び高めてがんに対する攻撃力を復活させることです。抗酸化物質は野菜や果物などの食品中に多く含まれ、細胞や組織の酸化を防ぐことからあらゆる種類のがんの発生を予防すると考えられていますが、がんになった人もこういった食品を食べることがよしとされていました。しかし抗酸化サプリメントはがん治療の妨げになる説が浮上し、アメリカでの検証によるビタミンA、ビタミンC、ビタミンEなどのサプリメントは否定されました。しかし一方で抗酸化物質は放射線や抗がん剤による正常な細胞や組織の傷害を予防する効果があり、治療後の傷ついた細胞の修復にとっても重要な働きもするため、抗酸化サプリメントのデメリットを避けるためなら治療前・治療中には摂取を控え、治療後に再開すればよいのではないでしょうか。
感想
サプリメントの紹介も多いですが、最新の治療やチーム医療についての言及など、実際に現場を知っている人が書いていて説得力ある内容で分かりやすかったです。キシロフコ・グリクロナンは存じ上げませんでしたが、良さそうなサプリメントであり、覚えておこうと思いました。