本と著者紹介
2019年9月30日初版の光文社から発刊された新書で、著者は古川健司氏です。古川氏は1967年生まれで、慶応義塾大学理工学部を卒業されてから山梨医科大学医学部を卒業され、消化器外科が専門です。
ビタミンDとケトン食 最強のがん治療
内容
現代病にほぼ共通して決定的に不足している栄養素がビタミンDです。25-OHビタミンDは腎臓等で活性型に変換されて効力を発揮しますが、血中25-OHビタミンD濃度が体内で機能するビタミンDの量を正確に把握できるのでこれを測定します。正常範囲は30-100ng/mlで20ng/ml未満になると欠乏症と診断されます。がん患者の90%以上が欠乏症で、胃癌や膵臓癌はほぼ全員が欠乏症です。
ビタミンDはがん細胞の核内に取り込まれ増殖を抑制します。がんの血管新生を抑制します。がんのオートファジーを抑制して増殖を抑えます。ビタミンAとともにがんのアポトーシス(細胞死)を促進させます。またカルシウムの吸収を助ける働きがあり、大腸癌の予防になるとされています。
ビタミンAは合成に個人差があり、代謝されてレチノイン酸となります。ビタミンAの過剰摂取で腹痛・嘔吐・関節痛・脱毛などが起き、ビタミンAを合成するβ-カロチンのサプリメントを摂取した臨床試験では、肺癌の発症を増やしてしまいました。ビタミンAの合成能力の弱い人でも通常の食事で不足する人は少ないです。
大腸癌と乳癌はビタミンDの補充により発症リスクを減らす報告があります。
深夜勤務ががんの発症を高める要因として、抗酸化作用のある睡眠ホルモンのメラトニン分泌の減少が関わっているといわれています。
前立腺癌は遺伝的要素が強いですが、ビタミンD欠乏の因果関係も指摘され、その他膵臓癌や肺癌などのがんにも関連性が指摘されています。
厚労省の目安とする一般成人のビタミンD摂取量は1日5.5-100μgですが、食事だけでは困難です。米国老年医学会では100μgのビタミンD摂取を推奨していて、サプリメントからの摂取が有効な手段となります。がん患者での研究により、1日最低でも50μg、症状によっては100-150μgのビタミンDを摂取する必要があります。
経口ビタミンDには大別して3種類あります。肝臓と腎臓で代謝を受ける非活性型のビタミンD、肝臓で代謝待ちの活性型ビタミンD、肝臓と腎臓の代謝が不要の最終活性型ビタミンDで、活性型の2つは、骨粗鬆症などの治療で病院から処方される医薬品で、副甲状腺ホルモンの分泌を低下させて高カルシウム血症を招く可能性があります。サプリメントは非活性型ビタミンDで、ビタミンD過剰症や高カルシウム血症になりにくいです。
現代は日本のみならず世界的にビタミンDの不足している人が増えています。原因は日光をあまり浴びなくなったこと、生活環境の利便性・快適性がビタミンDの合成能力を低下させたこと、加齢による皮膚での合成能力の低下、ストレスによるビタミンDの体内合成の阻害が挙げられます。
ビタミンDはカルシウム・マグネシウム・リンの吸収促進作用などのほか、血圧上昇ホルモンの分泌調整、免疫担当細胞の調整、正常細胞やがん細胞のアポトーシスなどの働きもあり、不足によりアレルギー症状を増悪させます。
インスリンを分泌する膵臓のランゲルハンス島β細胞にはビタミンDの受容体があり、そこから合成されたビタミンDがカルシウム濃度を変化させることによりインスリン分泌を促します。インスリンの分泌はビタミンDを活性化させるので、共依存的な相互関係にあり、ビタミンDが糖尿病予防の一助になります。血管の内皮細胞にもビタミンDの受容体があり、動脈硬化を防ぎます。脳内にも広範囲にビタミンDの受容体があり、脳を酸化ストレスから保護する一方神経伝達物質の働きを改善させる作用があり、うつ病や認知症との関連があります。
脳は一般的にブドウ糖をエネルギー源としていますが、ブドウ糖エネルギーが枯渇すると体内の脂肪酸やアミノ酸の一部がケトン体を作り出し、ブドウ糖に代わるエネルギー源となり、ケトン食は認知症やアルツハイマー病の強力な予防策になりえます。
ケトン食は極端な糖質制限、タンパク質とω3脂肪酸の一種であるEPAの強化で、ケトン食によって生み出されるケトン体は、がんやてんかん発作を抑制する効果があることは多くの臨床研究で明らかになりました。ケトン食を実施していない人の血中ケトン体濃度は28-120μMで、がん治療では1000μMを目標にしていましたが、ビタミンDの強化でそこまで高くしなくてもがんが縮小するケースが目立ってきました。
免疫栄養ケトン食とは糖質制限によるカロリー不足を主に良質なたんぱく質を含む魚介類や大豆製品からの脂質で摂取し、さらにMCTオイルで補います。肥満やメタボリックシンドロームの予防に50%糖質制限が必要で、炭水化物1食40g以下1日80-130gで、MCTオイルは使用せず、この程度では血中ケトン体は増えません。がん予防や認知症予防には60%糖質制限が必要で、炭水化物1食30g以下1日90g以下で、MCTオイルを1日40g摂取します。こうなると500μM程度までケトン体は上昇します。早期がんの治療と再発予防には80%糖質制限が必要で、炭水化物1食20g以下1日60g以下でMCTオイル1日60gです。ステージⅣのがんの治療には95%糖質制限が必要で、炭水化物1食10g以下1日30g以下でMCTオイル1日80gです。
体内のケトン体が上昇するとケトーシスといいますが、インスリンの働きが正常である限り酸性化するケトアシドーシスになることはありません。ただし過度な糖質制限でグルコーススパイクが起こることがあり注意が必要です。グルコーススパイクとは食後の血糖値が急激に上昇する現象で、身体に悪影響を及ぼし大血管疾患の独立した危険因子です。なぜ起こるかというと、脂肪だけでなく血中のブドウ糖を筋グリコーゲンとして取り込む筋肉量が減少し、行き場を失ったブドウ糖が血液中に残されるからです。
極端な糖質制限は短期間の効果として体重減少、血糖値の改善、中性脂肪の改善、HDLコレステロールの改善等で、長期間の欠点として動脈硬化の進行、心血管死の増加、インスリン分泌能の低下が挙げられます。
グルコーススパイクを回避するためには、週に一度の意図的な炭水化物の摂取です。ただし前日の食事は軽めで炭水化物摂取の前後に15分程度の運動を可能な限り行ってもらいます。血糖値が極端に上がらない限り80gまで炭水化物を自由に摂取してもらいます。サラダなどの食物繊維を炭水化物より先に摂ってもらう工夫もします。
3年間のケトン食の継続により体のエネルギー代謝がブドウ糖依存型からケトン体依存型へ移行する傾向があり、その後は多少糖質制限を緩めてもケトン体エネルギーを使用することができるようになるのです。
感想
がんの改善を食事療法でやるとなるとやはり糖質制限が必須のようですね。早期がんの治療と再発予防には80%糖質制限、ステージⅣのがんの治療には95%糖質制限…3年間頑れば多少緩められても大変そうですね。