喘息診療実践ガイドライン2023

2023年に日本喘息学会が作成したガイドラインです。2年ぶりの改訂です。

 

 

喘息診療実践ガイドライン2023

病因アレルゲンが明確なアトピー型喘息と明確でない非アトピー型喘息があり、アトピー型は小児で大多数、成人でも過半数が占めます。病態は2型免疫反応が関与する慢性炎症で、リンパ球、マスト細胞、好酸球などが気道に集積します。炎症により気流制限、気道過敏性の亢進、気道構造改変(リモデリング)が生じます。 アトピー型の多くは家塵ダニへの感作で、ペットの感作もあり、特異的IgE抗体を介しマスト細胞を活性化します。また抗原提示細胞を介してTh2細胞を活性化します。Th2細胞から産生されるIL-4、IL-5、IL-13などが好酸球性炎症を調節します。Th2系免疫応答は基本的にはステロイド感受性を示します。夜間はコルチゾールとアドレナリンレベルが低下し、生活環境アレルゲンに暴露し続けることなどで症状は夜間から明け方に表現されやすくなっています。 非アトピー型では2型自然リンパ球などが関与し、TSLP・IL-33などの関与や、IL-5、IL-13を産生して好酸球性炎症を誘導します。TSLP・IL-33などによりステロイド抵抗性を獲得し、しばしば好中球性気道炎症も見られます。

喘息の診断は、問診と喘鳴などの診察と画像検査で器質的疾患を除外して、中用量以上の吸入ステロイド(ICS)/長時間作用性β2刺激薬(LABA)配合剤の反応性で反応が良好なら臨床診断が確実となります。症状が重症の場合は高容量ICS/LABAと経口ステロイド薬(プレドニゾロン換算10-30mg)を1週間程度併用します。補助診断としてICS/LABA開始前に末梢血好酸球数、呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)、前後での呼吸機能検査の測定が望ましいです。 アレルギー検査では最も関与するのはダニで主要アレルゲンはヤケヒョウダニです。ダニとハウスダストのIgEは95%以上の相同性があるため両者を同時にする必要はありません。単項目測定では保険診療では13項目まで測定可能で、ダニの他はスギ、カモガヤ、ブタクサ、ヨモギ、アスペルギルス、アルテルナリア、トリコフィトン、イヌ、ネコ、ゴキブリ、ガの測定が望まれます。多項目測定ではViewアレルギー39,MAST36の商品があります。T2喘息ではIL-4/IL-13からSTAT6を介した経路で気道上皮細胞に誘導型NO合成酵素が高発現して呼気中NO濃度が上昇します。22ppb以上で可能性高く、37ppb以上あれば確実に喘息と診断できると考えられています。 ピークフロー(PEF)は努力呼出時の最大呼気流量であり、気道閉塞を検出可能です。携帯型を用いて自宅で測定可能となり、PEF値の変動が20%以上あれば喘息診断の目安となります。 気道過敏性及び気道可逆性の存在は喘息診断の目安となります。短時間作用型β2刺激剤吸入前後でスパイロメトリーを実施して、1秒量が12%以上かつ200ml以上改善した場合に気道可逆性ありと判定されます。 気道過敏性は、メタコリンなどの気管支収縮薬を低濃度から吸入させ、少しずつ度を上げて複数回の検査を行うことで気道収縮を評価します。オシレーション法も参考とされます。

喘息コントロールの評価としてACT(4-11歳はC-ACT)という質問票があり、専門医による評価との間に高い相関が認められています。 喘息の管理目標は喘息症状をなくすことで、さらなる目標は臨床的寛解の達成を目指します。達成できなければ治療を再検討します。臨床的寛解とは時間外受診、入院治療、経口ステロイド薬の服用が1年ないことを言います。

治療は中用量ICS/LABAから開始し、症状が強い場合はICS/LABA/LAMAから開始することもあります。副作用として嗄声、口腔内カンジダ、動悸に注意します。 喘息のコントロールを4週間以上良好に維持した時の治療内容で重症度を判定します。

・低用量ICSもしくは低用量ICS/LABAでコントロール良好 → 軽症

・中用量ICS/LABAまたは低用量ICS/LABA+LAMAやロイコトリエン拮抗薬(LTRA)→ 中等症

・高容量ICS/LABAにLAMAやLTRAを複数併用してコントロールできてもできなくても重症

重症患者への対応は専門医による治療が望ましく、経口ステロイドの年2回以上必要としたり、日常的にコントロール不良の場合は、服薬アドヒアランスや吸入手技を確認し、2型炎症があれば生物学的製剤や望ましくないですが経口ステロイド、2型炎症がなければマクロライドの少量投与や気管支熱形成術が推奨されます。

2型炎症の存在については、末梢血好酸球数、可能なら喀痰好酸球数、FeNO、アレルゲン特異的IgEを測定します。 アレルギー免疫療法とは病因アレルゲンを徐々に増量して長期投与する治療法です。主たる治療標的は家塵ダニとスギ花粉です。ALK社製ダニSLIT製剤(商品名ミティキュア)はダニアレルギーの喘息に対する効果のエビデンスがあります。スギ花粉発散時期に喘息の悪化がある例ではスギアレルゲン免疫療法が有効性を示します。 保険適応の漢方薬もありますが、臨床効果が認められない場合には漠然とした長期処方は避けます。

増悪(発作)時の重症度は軽度、中等度、高度、重篤の4段階に分けます。苦しくて横になれないなら中等度、それより軽症なら軽度、会話や歩行不能の場合は高度、意識障害を伴う場合には重篤とします。軽度では外来治療、中等度は外来治療で改善得られなければ入院治療、高度・重篤では入院治療の場合が多いです。 以前のNSAIDs使用に関するデータがなければNSAIDs過敏喘息(アスピリン喘息)として対応します。軽症の場合はSABA吸入が中心です。中等度以上でSpO2 ≦93%の患者さんには酸素投与と気管支拡張薬を使用し、胸部X線をして肺炎、心不全、気胸、胸水などの鑑別をします。SABAは1-2吸入/回を反復します。頻脈や動悸や振戦などに注意します。20-30分おきに反復します。全身ステロイド薬の投与はアスピリン喘息の場合比較的安全なベタメタゾン4-8mgもしくはデキサメタゾン 6.6-9.9mg使用し、6時間ごとに投与します。アスピリン喘息が否定できる場合、ヒドロコルチゾン 200-500mgあるいはメチルプレドニゾロン40-125mgを1時間で投与します。追加投与はヒドロコルチゾン100-200mg、メチルプレドニゾロン40-80mgを4-6時間ごとに繰り返します。治療により気道狭窄が改善して1時間安定していれば帰宅可能で、帰宅後の再増悪に対してPSL 30mg(高齢者や低体重は20mgでも可)を3-5日間投与します。アスピリン喘息でも経口ステロイド薬は安全に使用できます。必要に応じてLTRA、アミノフィリン、抗菌薬(マクロライド系)、発熱時にはアセトアミノフェンを投与します。アスピリン喘息として対応する場合は発熱時チアラミド塩酸塩(商品名ソランタール)を使用します。アミノフィリンは125-250mgを補液薬200-500mlに入れて1時間程度で投与します。持続点滴は125-250mgを5-7時間で投与します。テオフィリンが投与されているケースでは125mg以下にします。急速静注は絶対にしてはいけません。去痰薬ブロムヘキシン塩酸塩吸入液(商品名ビソルボン)もアスピリン喘息には使用を控えます。 低酸素血症で気道狭窄が強ければアドレナリン0.1-0.3ml 皮下注なども併用します。アドレナリンは虚血性心疾患、緑内障、甲状腺機能亢進症では禁忌で、高血圧の存在下では血圧・心電図モニターを使用します。

合併症は喘息のコントロール・増悪・難治化に影響を与える要因です。治療中の喘息患者の67%にアレルギー性鼻炎が合併し、重症喘息のリスク因子です。好酸球性鼻炎はアスピリン喘息に伴うことが多いです。肥満、ストレス・不安・抑うつ、胃食道逆流症も難治化に影響します。喘息の20-30%にCOPDが併存します。リモデリングによりCOPD類似の病態を呈することもあります。 気道内への真菌の定着により粘液栓などを引き起こすアレルギー性気管支肺真菌症があり、成人喘息の2.5%に合併します。喘息が先行して数年以内に好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)を発症することがあり、小―中型血管の血管炎症状と好酸球浸潤による臓器障害を主体とした原因不明の全身性壊死性血管炎です。稀に腸管穿孔・重症不整脈などをきたすため早期発見・治療が求められます。

NSAIDs使用に伴い増悪するアスピリン喘息はIgE抗体を介したアレルギー機序ではなく、後天的に獲得する過敏体質で、シクロオキシゲナーゼ1(COX-1)阻害によりシステイニルロイコトリエン過剰産生されます。近年国際的にN-ERDという呼称が主流です。成人喘息の5-10%、男女比1:2で女性に多いです。嗅覚障害を呈することが特徴です。コハク酸エステル構造に過敏反応が出ることあり、ステロイド薬の点滴静注が必要の場合にはリン酸エステル型ステロイド製剤(商品名デカドロン、リンデロンなど)を1-2時間で使用することが望ましいです。リン酸エステル型でも添加物で気道症状を引き起こすこともあり注意が必要です。抗IL-4Rα抗体の有効性が報告されています。アセトアミノフェン500mg以上は危険で300mg以下や選択的COX-2阻害剤(商品名セレキシコブ)が比較的安全です。

運動誘発喘息はアスリートに認められ、種目別では冬季項目に多く、LTRAやクロモグリク酸ナトリウムの有効性が確認されています。運動前にSABAの使用が有効です。

妊娠中の喘息患者の約23%が増悪を経験し、喘息の増悪で胎児へ低酸素血症を引き起こして早産や低出生体重児・先天異常の発症率が高くなると報告されています。通常の容量ならICSは安全に使用できるとされ、LABAもおそらく安全に使用でき、LTRAも安全とされますが、リスクを指摘する報告もあり、LAMAは使用データが乏しいです。 

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