特発性肺線維症の治療ガイドライン2023

日本呼吸器学会と厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「びまん性肺疾患に関する調査研究」班の監修した本で、2017年が初版で今回が改訂第2版となります。

特発性肺線維症の治療ガイドライン2023

まずは慢性期の治療について ステロイドについて、ステロイドに反応を示す非特異性間質性肺炎が含まれていたせいか、有効とされた時代があったものの、肺の線維化は慢性炎症自体に起因するものでなく、繰り返す肺胞上皮障害と異常な創傷治癒の結果として線維化が進行していくことが明らかとなったため、抗炎症作用よりも抗線維化薬の導入が必要と考えられるようになり、ステロイド単独療法は推奨されず、免疫抑制剤との併用も推奨されません。ただし非特異性間質性肺炎や分類不能型肺炎、膠原病の可能性が否定しきれない間質性肺炎の場合などはステロイド単剤および免疫抑制剤との併用が合理的となる場合もあります。

N-アセチルシステインの吸入療法は有用なデータは示されず使用は勧められません。

ピルフェニドンは増殖因子(TGF-β、bFGF、PDGF)の産生抑制と、線維芽細胞増殖とコラーゲン産生を抑制作用があり、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1、IL-6)の抑制と抗炎症性サイトカイン(IL-10)の産生を惹起する作用もある抗線維化薬で、同じく抗線維化薬の3種類の成長因子(VEGF、FGF、PDGF)を阻害するニンテダニブとともに投与は推奨されますが、どちらも高額の薬剤であり、難病医療費助成申請や軽症例では軽症高額制度が利用可能となっています。 N-アセチルシステインとピルフェニドンは有用性が明らかではなく併用は勧められず、ピルフェニドンとニンテダニブの併用について、安全性と忍容性は許容範囲内とされるが効果についてははっきりせず現時点では勧められません。

酸素吸入は生存率を向上させる根拠はありませんが、低酸素血症の人には酸素吸入が推奨され、労作時低酸素血症を伴う人へは運動耐用能の改善を示す報告があり、酸素吸入は勧められます。

呼吸リハビリテーションも勧められますが、%FVCの平均が60-80%と中等度の呼吸機能障害を有する症例を対象としており、軽症や重症の人への効果は不明です。

急性期の治療について 以前から高容量ステロイドによる治療が行われてきており、ステロイド療法を行わないプラセボ群を置いたRCTを実施することは倫理的に困難のため有効性を検証したRCTの報告はありません。このガイドラインではパルス療法を含めたステロイド治療を推奨しますが、一部の患者には合理的な選択肢でない可能性はあると判断しました。ステロイドパルス療法は1g/日を3日間、その後0.5-1mg/kgの維持療法がおこなわれ、状況に応じて2-4週ごとに5mgずつ減量されることが多いですが、高齢者・糖尿病患者などはステロイドの副作用に十分に注意を払う必要があり、ニューモシスチス肺炎予防のためのST合剤、消化性潰瘍予防のための制酸薬、骨粗鬆症予防薬などの併用が必要になります。また免疫抑制剤との併用は一部の患者には合理的な選択肢である可能性はあるものの投与しないことが勧められます。

好中球エラスターゼ阻害剤の使用は推奨されず、設備が必要になるポリミキシンB固定化カラムを用いた血液直接還流法(PMX-DHP)は、少数の患者にはこの治療が合理的な選択肢になることは考えられるものの、RCTが存在せず現時点は推奨されません。リコンビナントトロンボモジュリンは、観察研究では有用性を示す結果が複数報告されましたが、RCTでは有用性は認められず投与は推奨されません。

新たに抗線維化薬を投与することはデータが少なく現時点では推奨されません。

高流量鼻カニュラ(HFNC)と非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)は推奨されますが、現時点ではエビデンスに基づいた強い推奨は出来ない状況です。

合併肺癌について 間質性肺炎に肺がんを合併した場合、手術は推奨されますが有害事象のリスクはあり、そのリスクと手術のベネフィットを医療者・患者双方が理解することが重要です。手術後の急性増悪の予防投薬は推奨に足るだけのエビデンスは示されず、現時点では推奨されません。 細胞傷害性抗がん薬の投与は勧められますが、イリノテカンなどの投与禁忌である薬剤もあり、薬剤性肺障害の危険性が高く、PSや年齢に加え間質性肺炎の種類や重症度などを考慮して総合的な判断が必要になります。血管新生阻害に関与する分子標的薬の使用も間質性肺炎への影響は明らかではなく必要に応じて投与は推奨されます。ドライバー遺伝子変異に対する分子標的治療薬は、EGFR-TKI以外の分子標的薬はエビデンスが極めて乏しく、現時点では投与しないことが推奨されます。免疫チェックポイント阻害剤については投与しないことが推奨されますが、一部の患者には投与が合理的な選択肢である可能性があると判断されました。

間質性肺炎に合併した肺高血圧症に対して多くの肺血管拡張薬は有効性を示せておらず、現段階では肺血管拡張薬投与の積極的な推奨は出来ません。いくつかの薬剤では有望な結果もしてされており今後の結果次第ではありますが、保険適用はありません。

呼吸困難症状の緩和に対して保険適用にはなっていませんが、オピオイドは適応・効果判定・副作用対策を十分に留意したうえでの使用が勧められます。 経口モルヒネ速放製剤 2-3mg/回を1日3-4回、経口モルヒネ徐放製剤1回10mg 1日1回で最大30mg/日をこえない、モルヒネ注射剤持続注射0.25mg/hから開始、30-60分おきに0.25-0.5mg/hずつ増量。

絶対的禁忌がなく条件が整っていれば肺移植を検討することが推奨されます。現在ドナー不足の現状から脳死肺移植待機期間は約2年5か月と長期で待機中死亡率の最も高い疾患です。両肺移植の方が短期及び長期の生存率が高いですが、片肺移植でも生存期間の延長と呼吸困難などの症状が緩和されます。

2004年度から厚労省指定難病基準として独自の重症度分類がされてきました。安静時動脈血酸素分圧と6分間歩行試験後のSpO2最低値を組み合わせた分類です。重症度はⅠ~Ⅳ度で、動脈血酸素分圧が80toor以上をⅠ度で70torrまでⅡ度、60torrまでⅢ度でそれ未満がⅣ度ですが、歩行試験後のSpO2が90%未満になる場合Ⅰ度階級が上がります。下肢機能の低下や心不全などの他疾患の要素が排除できないことが問題と指摘されています。国際的には性別、年歴、%FVC、%DLcoから算出するポイントの合計で3つの病期に分類するGAPモデルが国際的な論文で広く用いられますが、北海道のコホート研究から日本人にはそぐわない点もあり、重症度を定期的に評価しなおすことも重要と考えられます。 我が国のIPFの死因は急性増悪40%、慢性呼吸不全24%、肺がん11%と言われています。FVCの経時的変化は重要な予後因子の一つで、抗線維化薬によるFVC低下の抑制で進行速度の減弱という治療目標を達成が期待されます。

もう一つの治療目標は日常生活の質の維持・向上で、薬物療法のみならず在宅酸素療法、呼吸リハビリテーション、栄養療法、緩和ケアなど多面的な戦略を展開していく必要があります。 予後不良因子があれば治療開始を検討し、治療開始しないのであれば進行速度を確認し、長期的に安定していれば経過観察し、緩徐進行の場合は抗線維化薬の治療を検討します。 急性増悪は年間5-15%発症し、死因として最も重要で、誘因は様々ありますがどれも同等の予後とされ、抗線維化薬により発症予防の報告もあります。

合併症として気胸・縦隔気腫がありIPFの予後不良因子であり、ステロイド使用で合併頻度が高くなります。OK-432による胸膜癒着術では急性増悪を起こす可能性もあり、自己血によるブラッドパッチが比較的安全とされます。

蜂巣肺にアスペルギルスや抗酸菌の感染、ステロイドや免疫抑制剤の使用による細菌性肺炎、ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス肺炎などのリスクが上がり、ニューモシスチス肺炎の予防としてST合剤・アトバコンの内服、ペンタミジンの吸入など予防投与が考慮されます。 肺高血圧症は気腫合併肺線維症で合併頻度が高く予後不良です。IPFに合併する肺高血圧症に対する確立された治療はなく、海外で吸入トリプロスチニルの改善効果が報告されましたが、アンブリセンタンやリオシグアトの使用は有害事象を増やすだけと報告され使用は推奨されません。

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