特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022 改訂第4版

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日本呼吸器学会が編集したガイドラインです。

特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022 改訂第4版

特発性間質性肺炎(IIPs)はこれまで特発性肺線維症(IPF)、特発性非特異性間質性肺炎(iNSIP)、特発性気質化肺炎(COP)、急性間質性肺炎(AIP)、剥離性間質性肺炎(DIP)、呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患(RB-ILD)、特発性リンパ球性間質性肺炎(LIP)の7型に分類されていましたが、これに加えて上葉優位型間質性肺炎(PPFE)と分類不能型(unclassifiable)で合計9型となりました。

胸部X線や聴診で間質性肺炎が疑われたら、問診、身体所見、画像検査、採血検査、組織検査が有用です。膠原病の症状や過敏性肺炎の抗原暴露に特に注意します。HRCTの画像パターンで診断プロセスを進め、呼吸器科医、放射線科医、病理医、可能であれば膠原病科医の集学的検討(MDD: Multidisciplinary discussion)を行うと診断精度が高まります。画像所見でUIPパターンを認め明らかな原因が認められなければ多くの場合気管支鏡検査や外科的肺生検を行わなくてもIPFと診断可能です。画像所見でprobable UIPでも診断可能です。Indeterminate for IPFの場合は初期のIPFの可能性や他疾患の可能性もあり、気管支鏡検査や外科的生検を積極的に行います。Alternative diagnosisの場合IPF以外の可能性が高く、気管支鏡検査や外科的生検にて確定診断に努めます。

重症度は、安静時の動脈血酸素分圧値と歩行時の酸素飽和度低下の有無によりⅠ~Ⅳ度に分類されます。 発症経過は慢性(3か月以上)、亜急性(1-3か月)、急性(1か月以下)があります。 症状は乾性咳嗽と労作時呼吸困難です。咳嗽は初診時50-90%、労作時呼吸困難は80%認められます。身体所見で捻髪音は80-90%以上聴取され、ばち指は33-38%程度認められます。 検査は胸部X線とCTですが、HRCTは診断に必須で、1mm以下のスライス厚で撮影されたCT画像から空間分解能を重視したアルゴリズムで再構成を行って作成した画像を指します。CTの有用な所見は網状影、コンソリデーションとすりガラス影、モザイクパターン、蜂巣肺、牽引性気管支拡張 血液検査では肺胞上皮由来のバイオマーカーであるKL-6やSP-D、SP-Aは高い陽性率を示します。慢性過敏性肺炎ではKL-6とSP-DがIPFよりも高く鑑別の一助になります。KL-6は原発性肺癌で上がることもあり、KL-6、SP-D、SP-Aはニューモシスチス肺炎やサイトメガロ肺炎などの感染症や肺胞蛋白症でも上昇するので注意が必要です。抗核抗体やリウマチ因子は10-20%で陽性となりますが、抗体価が高い場合は膠原病も疑い膠原病疾患特異的自己抗体や抗CCP抗体を測定します。皮膚筋炎合併急速進行性間質性肺炎が認められるときは抗MDA-5抗体を速やかに測定し、血管炎症候群の鑑別が必要な場合にはMPO-ANCA、PR3-ANCAなどを検索します。

呼吸機能検査では通常拘束性肺障害、肺拡散能障害を認め、肺拡散能障害が先行して認められることもあります。閉塞性肺障害を認める場合には他疾患との鑑別やCOPDの合併を考慮します。FVC・VCと肺拡散能は予後予測因子となり、経時的な呼吸機能の変化も鋭敏な予後予測因子と考えられています。FVC・VCが3-6か月で5%以上の低下、6-12か月で10%以上の低下の時は死亡率が上昇します。

動脈血液ガスは早期には安静時低酸素血症はないか軽微ですが、早期から労作時低酸素血症は検出されます。

6分歩行検査で歩行距離が207あるいは250m未満、6か月で50m以上の短縮、最低SpO2値88%以下、歩行後心拍数の回復の遅れは予後予測因子です。

肺高血圧症を8.1-46.1%合併し、予後予測因子ともいわれ、新エコー検査でスクリーニングし、必要に応じ右心カテーテル検査で精査します。

BAL検査の有用性は低いとされてきましたが、最近は他疾患の除外診断のために有用とされています。TBLBはサイズが小さいですがCOPやAIPの診断可能な場合があります。経気管支クライオ肺生検はTBLBよりも気胸や出血のリスクは高いものの大きく挫滅の少ない検体が得られ外科的生検に近いUIPの診断が得られるとの報告もあります。外科的肺生検は胸腔鏡でされることが多いですが、胸膜癒着の存在、肥満の場合、呼吸不全が高度な場合は開胸肺生検が選択されます。 鑑別診断として、膠原病、過敏性肺炎、じん肺、薬剤性肺炎、慢性及び急性好酸球性肺炎、感染症、サルコイドーシスがあります。

家族性間質性肺炎もあり80%はIPFでIIPsより若く発症することが多いです。

IPFの予後は不良ですが自然経過は様々で予測困難です。進行する人、極めて安定している人、急性増悪を起こすことなど様々です。発症年齢は70歳前後で男性の発症リスクは2.7倍高いです。生存期間中央値は特定疾患登録時から35か月でした。経過中肺がん発生率は5年で15.4%、10年で54.7%と報告されています。喫煙者のリスクは1.6-2.9倍です。

UIPのCTパターンは胸膜下肺野優位で分布はしばしばheterogeneous、蜂巣肺±牽引性気管支・再気管支拡張、分布はしばしばびまん性で非対称のこともあり、軽微なすりガラス影、網状影、肺骨化です。蜂巣肺がないとprobable UIPとなります。

iNSIPは治療が奏功し可逆性の症例から線維化が進行する予後不良な症例まで多彩で、IPFのように急性増悪することもあり、経過中に膠原病が発症することも少なくありません。平均年齢は50歳前後で女性に多くIPFと比し非喫煙者が多いです。CT像は両肺下葉優位のすりガラス影、細かい網状影、牽引性気管支拡張で、均質に広がるのが特徴です。蜂巣肺も5-30%程度認められ、気管支血管周囲優位の分布も特徴的で、リンパ節腫脹もIPFより多く80%程度認められます。治療はステロイドが有効な場合が多く、プレドニゾロン0.5-1mg/kgで治療開始し、治療反応性を評価しつつ2-4週ごとに5mgずつ減量し、状況により免疫抑制剤を併用します。線維化を伴うものはIPFと同様ニンテダニブを使用します。

COPは組織学的に肺胞腔内の器質化病変を主体としステロイド治療によく反応する病態として提唱された病理学的疾患概念です。画像上市中肺炎様所見を示しますが、抗菌薬に反応せず再発性・遊走性病変となります。発症平均年齢は50歳代で男女差なく喫煙は関連ありません。急性~亜急性増悪で、CRPや好中球上昇を伴います。BALではリンパ球増加しCD4/8比の低下を認めます。画像の特徴は気管支血管束に沿うか胸膜か優位に分布します。隣接する正常領域との境界が陰影側に凹で容積減少を伴います。治療はステロイドが奏功し、80%は3か月以内に改善しますが一部NSIPパターンになる症例もあります。治療量はプレドニゾロン0.5-1mg/kgで4-8週間投与の後2-4週ごとに5mgずつ減量しますが、減量中や中止後30-40%で再燃します。しかし再燃してもステロイドは奏功します。ステロイドに反応不良の重症例には免疫抑制剤(シクロスポリンやリツキシマブ)の併用も報告されていますが、至適容量のエビデンスはありません。

AIPは予後不良で入院死亡率は50%以上で、急性期を乗り切っても発症後6か月以内に亡くなることが多いですが、早期治療で呼吸機能が完全に回復した症例もあります。炎症所見や肺胞上皮由来のバイオマーカーは上昇しばち指は認めず捻髪音は聴取されます。鑑別診断に感染症、肺胞出血、好酸球性肺炎、悪性疾患などあり、状況によりBALも考慮します。CTでは両側肺野びまん性にすりガラス状の濃度上昇域を認め、背側優位に濃厚な均等影が分布し、比較的正常に見える領域もありモザイクパターンを呈する場合が多いです。蜂巣肺は認めず、広範に気管支拡張を伴うと予後不良です。治療はステロイドや免疫抑制剤が使用されますが、確立したものはなく急性増悪時の治療に準じます。

DIPは組織所見がPAS陽性物質顆粒とマクロファージの肺胞内への浸出で、胸膜下から肺内側まで均一びまん性に分布し、喫煙に関連するものと非喫煙者に認められるものがあります。DIPとRB-ILDとランゲルハンス細胞組織球症をが喫煙に関連しオーバーラップする症例が認められ喫煙関連間質性肺炎と位置付けられています。全IIPsの3%未満で多くは30-40代の喫煙者です。捻髪音を60%聴取し、ばち指は26-46%です。BALでは褐色の粒子を貪食したマクロファージを認めます。CT所見はすりガラス影で下葉胸膜下優位が多いものの、びまん性やランダム分布のこともあります。治療は禁煙とステロイドで治療し10年後の生存率は70%と報告されています。

RB-ILDは喫煙と関連する疾患です。無症状のこともありますが、乾性咳嗽や労作時呼吸困難が多く、40-50代の喫煙者に発症します。捻髪音は聴取することもありますが通常ばち指は認めません。CT像では小葉中心性の淡いすりガラス影が主体で上肺野優位の分布を示すことが多いです。治療は禁煙で、禁煙しても増悪する場合ステロイドが投与され予後良好です。

LIPの多くはシェーグレン症候群に伴う二次性で特発性はまれとされています。女性に多く50歳代で診断されることが多いです。発症は緩徐で徐々に進行する咳や呼吸困難が3年以上に及び、捻髪音は病像の進行により聴取されます。CT所見では下肺野優位ですりガラス影が主体で時に蜂巣肺を呈し、嚢胞の存在が特徴的です。MALTリンパ腫も同様の画像所見をとるので、病変拡大するのであればリンパ腫の可能性を考慮すべきです。治療は症例が少ないが、一般的にはステロイドや免疫抑制剤が用いられ、50-60%は治療に反応します。診断から5年で30-50%死亡されるとされます。

PPFEは病変主座が両側上肺にあり、病理組織学的につぶれた肺胞に由来する胸膜下弾性線維の帯状あるいは楔状の集簇、肺胞隔壁を取り巻くように弾性線維が増生し肺胞内に膠原線維が充満している像、硝子化した膠原線維による胸膜の肥厚などの所見を呈する慢性線維化性間質性肺炎です。喫煙との関連は薄く、慢性経過のため画像所見はあっても症状がない期間が長いと想像されます。気胸が初発症状となることもあります。捻髪音は半数程度で聴取され、ばち指の報告は少ないです。肺胞上皮由来のバイオマーカーは上昇することもあります。CT像では両側肺尖部から上肺野レベルの胸膜直下を主体とした牽引性気管支・再気管支拡張を伴う、楔状~帯状のコンソリデーションが特徴です。下肺野に間質性肺炎を伴うものもあり、PPFEの進展とIPFやNSIPパターンの場合があります。肺尖部~上肺の陰影はapical cap fibrosisと同様で正常の人にも認めることがあるため、進行性のないものをPPFEと診断するのは早計です。治療としてステロイドや免疫抑制剤の使用は推奨されず、抗線維化薬の使用も現状否定的です。肺移植が現状最も有効的な治療ですが、高度の胸膜肥厚や胸郭変形に伴う胸腔の狭小化など肺移植を技術的に困難にしています。 分類不能型は不均一な疾患群のため、臨床所見、疾患挙動、鑑別すべき疾患の有無などに基づきステロイド薬、ステロイド+免疫抑制薬、抗線維化薬などによる薬物療法が考慮されますが、IPFと比較して予後良好ですが、NSIPより予後不良で、2年生生存率70-76%、5年生存率は46-70%と報告されました。予後不良因子として高齢、FVC低値、%DLco低値、画像で線維化所見・牽引性気管支拡張・肺動脈径などが報告されています。

気腫合併肺線維症について、重喫煙者で男性に多く発症し、肺活量と1秒率は正常範囲内の症例が多くDLcoが低下して、6分間歩行試験では歩行距離の低下やSpO2の低下を認め、進行すると肺癌や肺高血圧の合併頻度が高く、肺高血圧が予後不良因子となります。KL-6が急性増悪の予測因子になるという報告もあります。治療は禁煙が第一で、治療薬は気管支拡張薬、抗線維化薬、ステロイドなど考慮されますがエビデンスはありません。

一般的肺移植の適応として、従来の治療に反応しない慢性進行性肺疾患で、肺移植以外に患者の生命を救う有効な治療手段がないもので、臨床医学的に生命の危険が迫っているものです。レシピエントの年齢は原則として両肺移植は55歳未満、片肺移植は60歳未満で、レシピエント本人が精神的に安定しており、移植医療の必要性を認識し、家族及び患者を取り巻く環境に十分な協力体制が期待でき、移植術後定期的な検査とそれに基づく免疫抑制療法の必要性を理解でき、心理学的・身体的に十分耐えられることとされます。 本邦の脳死肺移植待機期間は臓器移植法改正後平均865日間で、間質性肺疾患患者の42-64%が待機中に死亡したと報告されました。肺移植後の生存期間中央値は日本で10.2年、米国で5.2年と長期生存が得られています。

画像所見や病理所見の詳細も記載されていましたがここでは割愛しました。またIPFと急性増悪の治療については治療ガイドラインがありますの割愛しました。

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