非呼吸器科医にささげる呼吸器診療に恐怖を感じなくなる本

2018年4月20日初版の金芳堂より発刊された本で、著者は倉原優氏です。倉原氏は2006年滋賀医科大学卒業され、現在は国立病院機構近畿中央胸部疾患センター内課に勤務され、たくさんの執筆やYahooのコメントもされていて現役の呼吸器内科医では有名な先生です。他科のドクターのためにわかりやすく書いた導入本とのことです。

非呼吸器科医にささげる呼吸器診療に恐怖を感じなくなる本

内容

胸部画像編では胸部レントゲン写真の最も多い誤りは過剰診断で、肺動脈や気管支や肋骨や乳頭などを異常ととらえてしまいますが、所見の取りこぼしよりはいいと思います。写真からAbnormalなニオイを感じる、それだけのレベルで問題ありません。対応に困ったら胸部CTを撮りわからなければ放射線科医か呼吸器科医にコンサルとすればいいのです。

SpO2 90%以上を維持するというSpO2 90%神話は必要なく、88-96%維持の支持でも十分です。最近はオキシマスクという特殊なマスクがあり、CO2が抜けやすく酸素5L/分以下の低流量でもCO2がたまりにくいです。

去痰薬の種類は多いですが、一番効く去痰剤は量が多い痰にはカルボシステイン(商品名ムコダイン)、キレが悪い痰にはアンブロキソール(商品名ムコソルバン)と覚えれば大丈夫です。アンブロキソールにはLの付く1日1回のものもあります。

一番効く鎮咳薬は力価ではモルヒネで、モルヒネは激しい咳嗽発作における鎮咳という保険病名がありますが、麻薬施用者番号も必要で実際的ではなく、弱オピオイドのコデインリン酸塩(通称リンコデ)やデキストロメトルファン(商品名メジコン)を使うことが多いです。リンコデは粉薬なら麻薬ではなく錠剤にすると麻薬に変身する不思議な取り決めがあり、デキストロメトルファンはリンコデのような便秘・嘔気の副作用がありませんが、6錠分3くらいで使わないと鎮咳効果が出ないことが多いです。麦門冬湯などの漢方薬までは精通する必要はなく、それ以外にも鎮咳薬はありますがほとんどエビデンスはありません。

8週間以上続く慢性咳嗽に対しては、肺がんと肺結核を見逃さないように画像検査をして、聴診で気管支喘息の確認をして、肺機能検査で1秒率が下がっていないか見ます。異状なければリンコデやデキストロメトルファンでもいいと思いますが、吸入ステロイドと抗ヒスタミン薬を処方する作戦もありかと思います。

市中肺炎の抗菌薬はβラクタマーゼ配合ペニシリン系抗菌薬のアンピシリン/スルバクタム(商品名ユナシン)や第3世代セフェム薬のセフトリアキソン(商品名ロセフィン)が通常選ばれます。マクロライド系抗菌薬の併用は予後を改善させるといわれてきましたがそうでもないようです。

誤嚥性肺炎にはアンピシリン/スルバクタムが最も広く用いられ、メトロニダゾール(商品名アネメトロ)も有効ですが単独だと失敗例も多く併用が必要です。クリンダマイシン(商品名ダラシン)も使われますが、偽膜性腸炎のリスクがあり海外ではあまり使用されません。好気性グラム陰性菌をカバーする目的でピペラシリン/タゾバクタム(商品名ゾシン)も使われます。近年重症例に嫌気性菌カバーの抗菌薬が入院期間を延長させる可能性も報告されており、アンピシリン/スルバクタムは時代遅れになりつつあるかもしれません。

食事を誤嚥する人に対して、患者さんが誤嚥して死んでもいいと希望されても、誤嚥させるという汚れ役を病院がかってでることはありません。成人肺炎診療ガイドライン2017には終末期に抗菌薬を投与しないという選択肢に踏み込んだのは素晴らしいですが、それを大義名分に早々にあきらめるのも愚行中の愚行で、ケースバイケースで詳細に検討しなければいけないテーマです。

肺炎球菌ワクチンにはニューモバックスとプレベナーがありますが、学会からは免疫原性の高いプレベナーと広いカバーのニューモバックスの併用が提示されていますが、ニューモバックスは自治体から5の倍数がつく年齢の時に助成が出るので、それを優先してどちらからでも両方打った方がいいです。

肺結核は常に疑うべきですが、肺の上葉に空洞・気道散布影があるときには非呼吸器科医でも肺結核を考慮して喀痰検査は行うべきです。

喀痰から非結核性抗酸菌が出た場合、その時点で呼吸器科に紹介するのもありですが、超高齢者には治療を導入しないという選択肢を選ぶことがあり、寿命まで大きな悪さをしないなら手を出さないのです。治療しても副作用に難渋して結局治療ができませんでしたということも多いです。ボーダーラインは80歳あたりだと思ってください。治療はリファンピシン、エタンブトール、クラリスロマイシンの3剤併用療法をします。網膜・視神経疾患があるとエタンブトールの使用が憚られ、ストレプトマイシンやシタフロキサシン(商品名グレースビット)などを加えて治療することもあります。診断基準は喀痰から2回なので、できれば2回検出することを確認してから治療を開始してください。非結核性抗酸菌症のような影があるけど、喀痰検査では異常がない患者さんに対しては、無症状で落ち着いているのであれば1か月後・3か月後の画像検査で比較し、悪化していれば呼吸器内科へコンサルトで全く問題ありません。その間に喀痰検査を繰り返してもらえるとなおベターです。変化がなければ定期的な画像検査のみで全く問題ありません。

画像上肺結核が疑われたものの喀痰から菌が検出できなかった場合、呼吸器内科紹介でもいいですが、余力があれば胃液を採取してもらいたいです。

QFT検査とT-SPOTについて、前者の感度は80%、特異度79%、後者の感度は81%、特異度59%とあくまで補助診断です。高齢者だとさらに解釈が難しくなり、画像検査と喀痰検査が何倍も重要です。

QFT陽性の場合、結核菌を有していないと断言できないので、生物学的製剤を使用する際は潜在性結核としてイソニアジドを9週間内服してもらいます。開始3週間程度経過したら生物学的製剤を開始します。結核にかかっている場合、生物学的製剤を中止すると結核の初期悪化が誘発されるという意見もあります。非結核性抗酸菌症に対しての生物学的製剤の使用は酸素療法が必要な重度の肺病変があればダメでしょうが、落ち着いて元気な人ならOKだと思います。ちなみにMTXも非結核性抗酸菌症の予後を不良にするエビデンスはなく、悪化に注意しながら継続することは可能と思われます。

咳喘息は咳嗽が主症状で、聴診で異常がない疾患で治療は喘息とほぼ同じです。

喘息は診断の目安はありますが診断基準はなく、喘息として治療している3人に1人くらいは医学的に喘息といえないという研究結果があるほど過剰診断・治療されていますが、クリニックレベルでは聴診だけで診断してもいいと思います。高齢者の場合はCOPD増悪の場合もあるので、喫煙歴のある患者さんではCOPD増悪を疑ったほうがいいでしょう。

喘息治療のスタンダードは吸入ステロイド薬が主体で、ロイコトリエン拮抗薬も使いますが、テオフィリン・アミノフィリンは副作用の不利益のほうが多くあまり使われません。抗体医薬品も保険適応になっていますが重症例にのみ用いられます。

たばこを吸っている人に対してCOPDと決めつけて吸入薬を処方するのはやりすぎで、スパイロメトリーで確認しますが、胸部CTまでしていいと考えます。

COPDの治療はまずは禁煙で、次に重要なのが栄養と体重管理です。薬物療法は長時間作用性抗コリン薬(LAMA)、LABA/LAMAでICS/LABAは使われなくなりつつあります。

吸入薬は種々ありますが、カプセル充填型は手間がかかり、1日1回のエリプタが個人的にはオススメです。

肺がんは小細胞がんとそれ以外に分かれ、小細胞肺がんは10年前からさほど進歩しておらず、大部分の非小細胞肺がんの治療はプラチナ併用療法が標準でしたが、遺伝子異常がある場合は経口の抗がん剤で、免疫チェックポイント阻害剤も使われるようになりました。

免疫チェックポイント阻害剤による薬剤性肺障害は結構多く、重症例の場合はステロイドパルス療法を導入することが多いと思います。

肺をブドウに例えると間質とはブドウの皮やブドウの外のことで、間質に炎症が起こると間質性肺炎となります。間質性肺炎は7種類ありますが、特発性肺線維症(IPF)と特発性気質化肺炎(COP)の2つは覚えてください。IPFは蜂巣肺を呈する慢性の重症呼吸器疾患で、抗線維化薬が発売されていますが病状を食い止めるほど威力はなく以前予後不良の疾患です。COPはステロイドがよく効いて、細菌性肺炎と勘違いされることも多いです。

間質性肺炎の厳密な診断は難しいですが、管理は私見ではそんなに難しくないと思います。高齢者では微細な間質性肺炎はありふれており、非呼吸器科医が定期的に診ていく診療もアリだと思います。

間質性肺炎に対してのステロイド治療は、一度長期投与を開始するとやめられません。ダラダラと続けてしまい肺炎を起こし間質性肺炎の急性増悪との区別がつかず、ステロイド糖尿病などもおこし抜けられない泥沼に入り込んでしまうので、比較的亜急性経過のCOPや膠原病関連間質性肺疾患については異論申し上げませんが、蜂巣肺あるIPFに長期ステロイドはおそらく必要ありません。

MTX内服中の肺炎でもMTXによる肺障害とは限らず、コモンな疾患から考えましょう。

マクロライド系抗菌薬は、びまん性汎細気管支炎(DPB)の重症例には使用しますが、副鼻腔気管支症候群(SBS)・気管支拡張症については急性増悪を繰り返す例や、緑膿菌が定着して吸入抗菌薬が使えないようなときに限って使用します。クラリスロマイシン単剤治療はクラリスロマイシン耐性の非結核性抗酸菌症を発症する可能性があります。

胸水症例は呼吸器内科紹介でも悪くないですが、両側胸水なら呼吸器疾患の可能性はかなり低いです。また胸部レントゲンで胸水がわかるなら胸水穿刺はそれほど難しくありません。胸水が滲出性か漏出性かは総蛋白とLDHの測定があればOKです。

肺に影が出たら呼吸器内科紹介でも間違いありませんが、心原生肺水腫でも肺に影がでるので、心不全の可能性は調べてほしいです。心電図とBNP、心エコーなど望ましいです。

肺に影があった場合、5cmあれば気管支鏡で診断できる場合が高いですが、2cm以下だとちょっと自信がなくなる呼吸器科医が増え、1.5cm以下の結節だと専門家がたくさんいる病院ですら診断率62.5%です。1-3mmのような微小病変はまず診断をつけることはできません。そういう場合は3-4か月おきにCTを再検し、サイズ変化を見ます。

血痰・喀血のビッグ4は気管支拡張症、非結核性抗酸菌症、肺アスペルギルス症、特発性喀血症です。肺結核と肺がんの可能性もあり、喀痰抗酸菌検査は必須です。胸部CTはもちろん、血算、止血機能、抗好中球細胞質抗体(ANCA)、MAC抗体、QFT(T-SPOT)、腫瘍マーカーも見ておきたいです。喀血の場合は気道確保が優先され、N95マスクをして気管内挿し、気管支鏡で吸引しながらどちらの気管支から出血しているのか同定する必要があります。場合によっては片肺挿管を試みます。止血剤はカルバゾクロム(商品名アドナ)とトラネキサム酸(商品名トランサミン)です。ひどい喀血の場合気管支鏡下にアドレナリン(アドレナリン0.2ml+生食20mlで10万倍希釈として3-5ml注入)を振りかける方法もあり、どうしても止まらなかったら気管支動脈塞栓術というカテーテル治療が行われます。

感想

非呼吸器科医にも呼吸器診療ができるよう書いた本かと思って読みましたがちょっと違いました。仕方のないことですが、内容的に喘息や肺癌はちょっと古い感じです。呼吸器疾患の基本的な内容や現在の治療の状況がわかりやすく書いてあります。

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