Newton別冊のニュートンムックの本で、2023年12月25日が初版です。
自律神経失調症は正式な病名ではないため、診断基準やガイドラインはございません。
自律神経についてわかりやすくまとまっていたので紹介します。
自律神経の取扱説明書
自律神経とは身体内部の恒常性を維持するための体の仕組みの一つで、血圧、心拍、体温などの生体内の環境を一定の範囲内に維持することです。自律神経は大きく交感神経系と副交感神経系に分かれます。
交感神経とはアクセル役の神経で、副交感神経とはブレーキ役の神経で、互いに作用を強めたり弱めたりすることでバランスよく調整されます。 交感神経の指令は脳の制御のもとで脊髄から発せられ、自律神経節を経て各器官に届きます。情報を受け取った各器官は反応し、副腎髄質からのアドレナリン分泌が増えます。
副交感神経の指令は脳幹と仙髄からだされ、交感神経とは異なるルートで自律神経節を経て各器官に伝えられますが、交感神経は自律神経節後複数の器官に枝分かれしてノルアドレナリンが広範囲に作用しますが、副交感神経は自律神経節後1つの器官にアセチルコリンが働きます。交感神経と副交感神経のリズムは心拍のゆらぎとして現れるため、その解析で自律神経の機能が落ちているかわかります。
自律神経の調節を受ける臓器の働きは神経細胞が分泌するアセチルコリンなどの神経伝達物質だけでなくホルモンによっても調節されています。 喜怒哀楽の感情をつかさどる脳の部位は大脳辺縁系で、自律神経はその影響を受けます。理性は大脳辺縁系を取り巻くように存在する大脳皮質がつかさどっていて感情にも影響を与えます。 ストレスがかかると交感神経を働かせてアドレナリンが放出されます。慢性的にストレスがかかると交感神経を介さない視床下部から内分泌系の反応がおこり、副腎皮質からコルチゾールが分泌され、体がストレスに耐えられる状況を作り出します。
交感神経の優位時には顆粒球と呼ばれる好中球・好酸球・好塩基球が活性化して増殖し、副交感神経優位時はリンパ球が活性化しますので、一定のバランスを保つことが免疫を高めることに重要です。ストレスが慢性化するとノルアドレナリンが放出されっぱなしの状態になり、顆粒球は活性化されますが、顆粒球以外の免疫細胞の働きを弱めてしまいます。 シフト勤務などで睡眠の時間が頻繁に変わる人は体内時計のリズムが狂い、このリズムに合わせて活動している自律神経も影響を受けます。そのほか気圧、気温、湿度、日照時間、降水量などの気象要素も自律神経に大きく影響を及ぼします。 現代は多くの他者と密着して通勤して、体を動かすことなくパソコンの明るい画面を見つめ、交感神経が興奮する場面が日常となっていて、また近くの画面を見ようとして目のレンズの厚みを調整する副交感神経の働きも高まった状態が続き、自律神経に大きな負荷をもたらします。ブルーライトの光で松果体への交感神経の働きかけを抑えるので不眠の原因になります。
内臓から始まって交感神経と副交感神経を沿って走り脊髄や脳幹を経て脳の視床下部などに連続する内臓求心性線維もあり、これも自律神経にあたり、胃腸からの情報が脳の神経に作用し、不安感を引き起こしたり頭痛や倦怠感などの症状をもたらすこともあります。胃腸による不安感に関しては、気持ちを安定させる効果を持つ神経伝達物質セロトニンの関与が考えられ、セロトニンの多くは小腸の粘膜にある細胞で作られます。セロトニンは自律神経の腸管神経系と内臓求心性線維を介して脳に作用します。
腸管神経系と内臓求心性線維の働きは腸内細菌の影響が大きいことがわかってきました。腸には約1000種、100兆個、重さ1-2kgの細菌が住み着いています。腸内細菌の作り出す短鎖脂肪酸の量で交感神経の働きが調整されることがわかってきました。腸内には免疫細胞の約7割が集まっており、腸は免疫機能にとっても重要な場で、自律神経のバランスが崩れると腸に炎症が見られ免疫が障害されます。 腸管神経系は消化管壁などに存在する神経ネットワークで、アウエルバッハ神経叢とマイスナー神経叢の二つの神経叢からなり、消化管の蠕動運動や粘膜における水や電解質の制御を交感・副交感神経と連携しながら中枢神経系を介さずに自律的に行うことができます。腸管神経系を構成する神経細胞は1億とも10億とも推定されていて、脊髄に存在する神経細胞の数に匹敵します。腸管神経系がセロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質を作る働きをしており、セロトニンが不足するとうつ病、ドーパミンの産生が少なくなるパーキンソン病などにも腸が大きく関わっている可能性があります。
交感神経と副交感神経の作用バランスが崩れると自律神経失調症と総称される体の不調が生じます。自律神経失調症は医学的に正式な病名ではなく、心身がつらい状態のことを言います。本能的欲求をつかさどる大脳辺縁系と理性をつかさどる大脳皮質が対立する状態が続くとひずみが生じ自律神経のバランスが崩れます。それ以外にも不規則な生活リズム、睡眠不足、生活環境、季節の変化、騒音、不安・悩みなどがバランスを崩す原因となります。ストレスの感じ方や影響は個人差が大きく、自律神経失調症を改善させるためには外的な要因と内的な要因を改善させることが考えられます。 自律神経失調症に似た症状を呈する病気はあるため、そういった病気の鑑別をすることが必要です。具体的には糖尿病、がん、鉄欠乏性貧血、膠原病、甲状腺機能低下症、不安障害、うつ病などが挙げられます。またパーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、糖尿病性ニューロパチー、ギランバレー症候群などに付随して 自律神経の機能障害を認めることもあります。
自律神経の機能を調べる検査として最近ではセンサーで心拍を測ってそれをコンピューターで解析する検査が開発されており、Upmind、CARTE、ヒロミルといったアプリでも自律神経の状態が測定できます。
自律神経失調症の治療はストレスの除去や生活習慣の改善を第一に行い、症状を緩和する薬物療法、カウンセリングや行動認知療法などの心理療法でストレスへの耐性を上げる治療、マッサージや鍼灸などを用いた物理療法などの治療法が行われます。 自律神経を整えるためにはまず1日の生活リズムを整えることが重要で、体内時計の周期は24時間と少しずれているため、朝日を浴びて体内時計をリセットし、朝日を浴びておよそ14時間後から睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンが分泌されるので眠くなります。インスリンも体内時計のリセットにかかわっているので、朝食を摂取して血糖値を上げてインスリンの分泌すさせることも大事です。日中は交感神経が活発になるので体を動かしましょう。昼食は20-30分程度確保してゆっくりよく噛んで食べましょう。カフェインには覚醒作用や交感神経を活発にさせるので、16時以降はカフェインの摂取は控えましょう。夕食は就寝の2-3時間以内だと睡眠のリズムに悪影響を及ぼします。ブルーライトやスマホ・パソコン・ゲームは自律神経に負担になるので22時以降は控えましょう。入浴も42度以上だと交感神経が活性化するため、40度くらいのお湯にのぼせない程度にゆったりつかりましょう。人間の五感のうち嗅覚だけが大脳辺縁系を直接刺激することができるので、好きな香りをかいで副交感神経を高めましょう。通常の呼吸では腹筋は使いませんが、息を吐き出すときに腹筋を意識して使うと深い呼吸ができて、セロトニンの分泌量が増えて体がリラックスしてストレスが軽減します。腹筋を使うと腹筋強化になり腰痛対策にもなります。
腸内環境をよくするために食物繊維と発酵食品がカギになります。前者は野菜、豆類、海藻、後者は味噌、納豆、ヨーグルト、キムチがあります。煙草に含まれるニコチンは交感神経を過剰に刺激する作用があります。煙草でイライラ解消するのは神経伝達物質のドーパミンが大量に放出されるためで、ニコチン依存となり、自律神経を乱す要因にもなります。睡眠前のアルコール摂取は睡眠中にアルコール濃度が低下し、脱水・低血糖などで覚醒することが増え、利尿作用による夜間尿の原因になり、睡眠の質が低下します。