睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020

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はじめに・著者紹介

日本呼吸器学会が監修した睡眠時無呼吸症候群の診療ガイドラインで南江堂から発刊されています。先日2023年改訂版循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドラインが発刊されましたが、ここでは閉塞性睡眠時無呼吸症候群を中心に情報を発信したいと思います。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020

睡眠時無呼吸には無呼吸中に呼吸努力を伴い通常いびきが存在する閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と、呼吸努力が伴わない中枢性睡眠時無呼吸(CSA)があり、前者が多く、肥満・加齢・男性が発症関連要因と考えられ、最も重要な因子は肥満です。 睡眠中の10秒以上の気流停止を睡眠時無呼吸といい、10秒以上の30%以上の気流低下と基準値に対して3%以上の酸素飽和度低下あるいは覚醒反応を伴う場合低呼吸と判定されます。睡眠時間1時間当たりの無呼吸と低呼吸の総数を無呼吸低呼吸指数(AHI)といい、AHI 5以上の時OSAとし、日中の過度な眠気などの臨床場を伴い場合は閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)といわれ、症状がなくても高血圧などの疾患がある場合もOSASとの表現がとられます。5≦AHI<15を軽症、15≦AHI<30を中等症、30≦AHIを重症とされます。簡易モニターでの測定では呼吸障害指数(REI)、本邦ではRDIと表現されますが、これがAHIとなっています。 中等症以上のOSASの頻度は50代の女性・男性で10%弱・10-20%、70歳以上では女性が10%を超え、男性で20%を超えるとされ、30-40歳くらいは女性5%弱、男性10%程度との報告があります。 OSASの人は健常に比較して解剖学的上気道径が小さいが、肥満による上気道周囲の軟部組織沈着、顎顔面形態、舌容積、扁桃肥大が原因となっている。オトガイ舌筋を中心とした上気道開大筋群が不十分だと上気道は閉塞するため、近年オトガイ舌筋を支配する舌下神経を刺激する治療機器が開発され有効性が示されています。また延髄呼吸中枢からの換気ドライブの不安定性も併せ持つことが明らかにされました。 OSAは睡眠中交感神経活性が亢進することから心機能の悪化や心不全の発症・増悪に関連します。また酸素飽和度が50%を切るような場合は、酸化ストレスや炎症反応が亢進し、血管内非機能障害が惹起され、動脈硬化が起こりやすくなっているといわれています。 OSAの症状・所見としてはいびき、無呼吸の指摘、日中の過度の眠気、朝の頭痛などもあり、最も信頼の高い症状は睡眠中の窒息感や喘ぎ呼吸の存在ですが、自他覚症状だけでOSAとは診断できません。OSAの診断には終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)が標準で、AHIが正確に算出できます。パルスオキシメーターでSpO2の測定、温度・鼻圧センサーで呼吸停止・気流の低下を検出し、閉塞性・中枢性・混合性の判断に必要な呼吸努力は胸腹部に巻いた呼吸インダクタンスプレチスモグラフでわかります。 簡易モニターは在宅で行えますが、睡眠時間が測定できないため、AHIの分母が睡眠時間でなく総記録時間になることと、覚醒反応が判定できず低呼吸数が少なくなるため、AHIを過小評価する可能性があります。 OSAの治療は何らかの方法で睡眠時に気道確保することで、CPAP治療は陽圧で、OA療法は下顎を前方に移動させ、手術は咽頭の構造を変えることです。OSAに対して睡眠薬のみ使用すると重症例では悪化します。CPAPを4時間以上装着すると日中の眠気の改善、高血圧と心血管イベントの改善も報告され、交通事故リスクも減ります。CPAPを中断するとOSAが再発するので継続が必要です。鼻閉がある人には加湿器や点鼻薬の使用で改善することがあります。CPAPと睡眠薬の併用はCPAP使用をしやすくさせることもあります。 マウスピースなどのOA療法はCPAPに比べて効果は劣るものの、使用時間は長いことが多く有効とされています。BMI35kg/m2以上の肥満症で、6ヵ月以上の内科的治療を行っても十分な効果が得られない場合、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術の保険適用となります。 側臥位ではAHIが半分以下になる体位依存性OSAは重症度が低く若年かつBMIが低い患者が多いですが、体位療法に用いるデバイスは標準化されていないため治療法は確立していません。 OSAは高血圧の合併率が高く、CPAP治療により高血圧発症リスクが減少できると考えられ、また血圧を低下させます。OSAはインスリン抵抗性を助長する可能性が高く糖尿病になりやすいですが、CPAP治療で血糖コントロールが改善するかははっきりわかっていません。OSAと脂質異常症、CPAP治療についてははっきりしたエビデンスはありません。内臓脂肪型肥満じゃOSAの重要な要因ですが、CPAP治療で内臓脂肪は減少しません。 OSAのCPAP治療で心血管イベントが低下することが報告されていて、副作用としてはマスクの違和感、鼻咽頭の乾燥、皮膚や目の違和感など軽微なものです。 OA治療につきましては比較的軽症のOSAに用いられ、心血管疾患危険因子を改善させQOLも改善することが期待できます。副作用は唾液方もしくは減少、歯や歯肉の疼痛や違和感、起床時の咬合異常、菌やあご関節の違和感で、時間とともに消失しますが、長期的な副作用として歯の移動とそれに伴う咬合異常が出ることもあります。 減量療法はOSAの無呼吸を軽減させQOLを改善させる可能性があり、心血管疾患危険因子も改善させる可能性があります。 主に側臥位で寝る体位療法で無呼吸が軽減されることはあり、海外でそのデバイスの開発が進んでいて、CPAP療法の代替となる可能性はありますが、長期的な効果など検証されていないことが多く先行きは不透明です。 酸素療法の有用性ははっきりとしていません。 口蓋扁桃肥大があり軟口蓋所見に異常がない人に対しての口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)がOSAを改善させた報告があり、適応患者では舌手術や鼻手術が有用と報告されていますが、UPPPの合併症として、咽頭違和感や嚥下への影響や味覚異常もあります。 CPAPやOAが使用できない症例で、上下顎骨前方移動術と舌骨上筋群牽引手術が米国においてOSA治療の一つの柱となっていて、この術式で口腔内容積が拡大し、顎骨に付着する軟組織が牽引され上気道が拡大します。手術の副作用として顔面知覚異常や咬合異常があります。効果に関しては欧米ではRCTがされたが日本ではされてなく研究が待たれます。

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