はじめに・著者紹介
かざひの文庫からは発刊された2022年11月20日初版の本です。副題に命を延ばす電磁波温療法(ハイパーサーミア)とあり、ハイパーサーミアというがん治療についての本です。著者は中村仁信氏で1946年生まれ、1971年大阪大学医学部を卒業され、1995年から大阪大学医学部放射線医学講座の教授となり、現在は友紘会彩都病院の院長をされ電磁波ハイパーサーミアに従事されておられます。
副作用のないがん治療
内容
がん細胞は正常細胞と比べて特別に熱に弱いことはありませんが、正常細胞では毛細血管が拡張して血流が増え、血管がラジエーターの働きをして温度が上がりにくく、がんの血管は未熟で拡張できず血流が増やせないため温度が上がりやすい性質を利用しています。
具体的にどう治療するかというと、台の上で横になり照射部位の上下を電極ではさみ、ボーラスという水の袋で隙間ができないように皮膚に密着させ、電極間に電流を流して、電子レンジと同じ原理で熱を発生させます。8MHzの高周波で深さ10cmまで発熱させられます。頭蓋骨内だけは加温できません。心臓ペースメーカーの人は禁忌で、胸にシリコンバッグを入れている人はシリコンへの直接照射は不可で、ステントの既往があっても最近のステントなら大丈夫で、ストーマも気を付けて照射すれば実施可能です。
1回の治療時間は40分で、熱耐性があるため週1回の治療が基本で、最大でも週2回となります。8回を1クールとして、実費で9万円、表在・浅在性なら6万円で、保険がきくので患者さんはその1-3割の負担となります。
熱感、痛みを感じることもありますが、回数を重ねるとβエンドルフィンがでて気持ちよく受けられるようになります。脂肪組織が過度に加温され、皮下脂肪に硬結を生じ、痛みを訴えることもありますが、1-2週間で消失し後遺症も残りません。
ハイパーサーミアをすると熱ショック蛋白(HSP)が出現し、細胞が保護され、がんの抗原提示が増強されて免疫細胞ががん細胞を攻撃しやすくなり、生まれつき持っている自然免疫の NK(ナチュラルキラー)細胞活性も増加させます。
ハイパーサーミアと抗がん剤との併用について、加温によりがんの血管は拡張できませんが周囲の血流が増えて、がん細胞内への薬剤の取り込みが増えると考えられ、抗がん剤の効果も増強するとされています。
ハイパーサーミアはもともと放射線治療の増感作用を期待して開発されましたが、放射線治療の併用について、放射線治療は低酸素状態のがんには効きにくく、ハイパーサーミアが低酸素状態を改善させるので、放射線の治療効果が増強されます。
ハイパーサーミアにて免疫チェックポイント分子が強く現れるため、免疫チェックポイント阻害剤が効きやすく、免疫反応が強くなるため併用により抗腫瘍効果の向上が期待できます。
科学的には証明されていませんが、ハイパーサーミアは再発予防に有効と考えられます。前述の免疫活性が上がるのと、電磁波照射中のみならず基礎体温が上がるので、ミトコンドリアを活性させてアポトーシスを促進させます。また転移に必要な上皮間葉移行(EMT)を抑制させると考えられるので、転移や浸潤を防いでいることも示唆されます。
低量から微量の放射線が体にいいことを放射線ホルミシスといい、少し放射線でも体に蓄積されていつまでも影響が残るという定説は捏造された根拠のない説であります。
普段体に大きな影響を与えている放射線は、野菜や果物に含まれるカリウム40で、カリウム全体の0.012%のみで、この量では放射線が不足しています。秋田県にある玉川温泉や各地にあるラドン吸入施設に行くといいかもしれません。
癌に対して点滴療法・免疫療法・栄養療法をされている田中善先生に話を伺いました。ビタミンCはブドウ糖と構造式が似ているのでがん細胞に取り込まれやすく、がん細胞内で過酸化水素を発生させてがん細胞を死滅させます。正常細胞には過酸化水素を中和するカタラーゼという酵素がかるので副作用はありません。癌に対して効果の期待できるサプリメントして、タヒボ、低分子フコイダンがあり、糖尿病の治療薬のメトホルミンも抗癌やアンチエイジングにも有望といわれています。
増感放射線治療(KORTUC コータック)とは高知大学名誉教授の小川恭弘先生が考案された方法で、オキシドール+ヒアルロン酸を腫瘍内に注入し放射線治療の効果を高めた治療で現在のところ保険適用はありません。
癌にならないため再発しないために、糖質を控え、腸内環境を保つ(食物繊維や発酵食品を多く摂るなど)食事が大事で、間欠的ファスティング(断食)を勧めます。週に1-2回16時間食事せずオートファジー効果を働かせ、インスリンを出させないことがいいかもしれません。オートファジーとは細胞内の古くなったタンパク質やミトコンドリアを分解し、新しく生まれ変わらせるための仕組みの一つで、生体の恒常性維持性に関与していますが、すでにがんを持っている人はがんもオートファジー効果で生き延びてしまい、がんを守るように働きます。
運動もがんのリスクを下げますが理由は十分に解明されていません。適度な運動はNK細胞活性を上げ、ミトコンドリアも活性させると考えられます。
睡眠も大事で、睡眠を8時間から4時間に減らすとNK細胞が70%減ったと報告があります。
ストレスは交感神経緊張状態になるので、血管が収縮し血流が悪くなり、低体温、低酸素に傾きミトコンドリアが十分働けずアポトーシスが働かなくなります。
日光浴でビタミンDを増やすことも大事で、日射量の少ない地域は消化器がんの発生が高いです。ビタミンDを皮膚で生成するのは紫外線B波だけで、普通のガラスはB波をすべて吸収するので、ガラス越しに日光浴してもビタミンDは作られません。
感想
ハイパーサーミアは保険適用のある治療で、そういった治療法があることは知っていましたが具体的なことはあまり知らず、読んで新しい発見が多かったです。副作用もほぼないこと、費用も保険がきくため高額にならないこと、標準治療と併用が可能でむしろ効果を増強することが期待できることから、もう少し皆に知ってもらって広まったらいい治療法とおもいました。余談になりますが、私が大阪大学在学中、当時大阪大学の放射線講座の教授だった中村先生には個人的に大変お世話になりました。