著者紹介
2023年2月18日初版の河出書房新社から発刊された本で、著者はジュリー・スミス氏です。スミス氏は英国心理学会所属の心理学者で、300万人以上のSNSフォロワーがいます。
メンタルマネジメント大全
内容
・気分が落ち込むとき
誰にでも気分が落ち込む日があります。内外のさまざまな要因が影響します。気分は変えられないものでなく一時的に経験する感覚に過ぎません。しかし落ち込みや憂うつな気分を容易に解消できるわけではなく、常に心身の健康に反映されます。ツールによって感情はコントロールでき、ツールを使う練習をすればするほど使い方はうまくなります。
気分が悪いのは原因が常に脳にあるわけではありません。どう考えるかによって感じ方は変わるといいますが、どう感じるかによって考え方は変わり、常にポジティブに考えるのは、ネガティブな思考がネガティブな感情の原因ではなく結果かもしれず、難しい場合もあります。気分が落ち込むとさらに気分を落ち込ませる行動を招く悪循環に陥るのは、経験のさまざまな側面が互いに影響しあうからです。
気分の落ち込みを理解するための最初の一歩は、経験のひとつひとつの側面に気づくことです。どのような形で不調を感じるか気づき、周囲の環境や人間関係に何が起きているのか、それが自分の感情や思考や行動にどのような影響を与えているかに目を向けられるようになります。気分が落ち込む瞬間の前には何が起きたのでしょう。その時体のどこで感じどのような身体的感覚、衝動が起こり、どのように行動したのでしょう。そしてそれは感情にどのように影響したのでしょう。
気分が落ち込むと明るい気分を取り戻したくなり、アルコール・薬物・食べ物やテレビやSNSをします。それは短期的には効果がありますがすぐに消え、気分は再び落ち込み、長期的にみると事態を悪化させると認めなくてはいけません。長期的に効果がある方法は総じて即効性はありません。
気分が落ち込んでいる時は思考バイアスになりやすく、それは普通の現象で誰にでもおきます。他人が何を考え感じているかを多くの時間推測し、自分の推測を真実だと思い込みやすいのです。落ち込んでいる時は周囲の人に励ましや安心感を求めますが、それが得られないと相手は自分のことをよく思っていないと決めつけ、最悪の自己批判につながります。〜すべきである、といった期待は完璧主義と強く結びついています。白か黒かの思考も極端な思考パターンで、グレーゾーンを受け入れる余地がなく、感情の激しい反応を導きますあらゆるハードルを高くします。
気分を落ち込ませるネガティブな考えを止めることは出来ませんが、それにはどんなバイアスがかかっているのかを知って自分の反応をコントロールすることは出来ます。今の考えは多くの考えの一つにすぎず、他の考えに心を開いて、最初に抱いた感情に支配されにくくなります。感情が高ぶっている時に明瞭に考えるのは難しいので落ち着いてから思考を振り返りましょう。日記をつけてその時の思考・感情・身体的感覚を区別してみましょう。書く時は客観的視点にたった表現を用います。信頼できる人に思考バイアスを指摘してもらってもいいでしょう。
別の考えを探すときに、正解を見つけるのではなく、ある考えを真実と信じる前に立ち止まって他の考えを検討することが大事なのです。必要なだけ迷っても構いません。
メタ認知とは頭に浮かぶ思考から一歩離れて、その思考がどんなものであるかを思考する能力です。それができれば思考が気持ちや行動に影響を及ぼしにくくなります。思考は真実ではなく脳が提示するアイデアなのです。思考するときに、意図的にスポットライトの向きを変えて特定の側面に光を当てることは出来ます。私たちは望むことより望んでいないことにスポットライトを当てがちです。自分が本当に何を望んでいるかにも目を向ける必要があります。
落ち込んだ脳はさらに落ち込ませる思考バイアスに焦点を合わせがちになり、反芻思考と結びついてうつ状態を長引かせる主な要因となります。辛い考えや記憶を繰り返し思い出していると、神経経路は強化されますますあたまに浮かびやすくなります。反芻思考を止めるには体を動かすことで気持ちをうまく切り替えられる人をたくさん見てきました。ひとりでいると反芻思考がぐるぐる回りやすくなり、それを追い出すには人とのつながりが最強です。友人やセラピストは話しを丁寧に聞いてくれるでしょう。
マインドフルネスとは今の心に集中し、頭に浮かぶ考え・感情・身体的感覚に注意を払い、批判したり目をそらさずあるがままに受け入れることです。すぐには問題が解決するわけではありませんが、経験の細部に意識を向けて自分の反応を注意深く選べるようになります。
注意を向けることに慣れるために感謝することも一つの方法です。感謝していることを1日1回3個書き出してみましょう。感謝するたびに脳は心を明るくするものに注意を向ける練習になります。
落ち込んでいると決断することが難しく思えます。どんな決定にも不確実な部分があり、自分をさらに落ち込ませるとわかっていることをしなければならない気分になるからです。したがって完璧な決断ではなくより良い決断を下すことをめざしましょう。どれほど小さくてもいいので決断し続けることが肝心です。日々実行出来る小さな目標を一つ選びそれを実行することを自分に誓いましょう。積み重ねていけばやがて習慣になります。
落ち込みについて話す時、往々にして自己を批判します。自己批判は真実ではなく感情に誘導されたものなのです。心から愛している人を思い浮かべ、彼らが自己批判しているところを想像しましょう。その時にどのようにを語りかけるでしょう。他者に見せる感情を自分に見せてみましょう。自分を思いやることは甘やかすことではありません。自分にも暖かな言葉をかけることは気分をコントロールするための協力なツールとなります。
運動をするとドーパミンの血中濃度が高まり、脳内のドーパミン受容体も増えます。そうなると喜びを感じる能力が高まるのです、楽しめる運動を見つけると、運動だけでなく人生のあらゆる場面で喜びを見いだす感度が高まります。運動を生活に取り入れるために、小さなことからでも始めましょう。激しいのが無理ならヨガでもいいです。ささやかでも喜びが感じられれば継続しやすくなります。
睡眠が足りないとほぼ確実に気分が落ち込み立ち直る自信が失われます。長く不眠に悩まされているなら専門家への相談を勧めますが、良い睡眠を取れるかは日中の行動で決まるので、日中に問題を解決し、寝てから脳が心配し始める人は、ベッドサイドにペンと紙を用意し、心配ごとが頭に浮かんだら書き留めましょう。数文字でも十分です。このリストは翌日のやることリストになります。睡眠は強制出来ないので、眠ることに集中せず、リラックスして心を穏やかにすることに集中して、あとは脳にまかせましょう。
栄養も大事で、メンタルヘルスを守る唯一の正しい食事法は見つかっていないが、自然のままのホールフード、健康的な油脂、全粒粉が含まれる料理はメンタルヘルスに良い効果をもたらします。
・やる気が出ないとき
多くの人は何をすべきかわかっていてもすぐにやる気になれません。モチベーションの変動は人間であることの一部です。先延ばしはストレス反応や嫌な気分を引き起こすためです。アンヘドニア(快感消失)は以前楽しめたことが楽しめなくなることで、うつ病などのメンタルヘルスと関連があります。何もしないでいるとめんどうくさいという気持ちがいっそう強くなります。何をする気にもなれないと思っていても、何かを始めることで変化が起こり、脳が刺激され喜びやモチベーションが湧きやすくなります。気分が乗らなくても自分にとって大切なことをコツコツとこなしていきましょう。
モチベーションを上げるに体を動かすことがあります。モチベーションが低くても始められる運動を見つけることがカギになります。
目標を達成するための日記をつけで目標達成のためすべきことを一つか二つリストアップすることもモチベーションを上げることにつながります。意志の力を高めるにはストレスの解消が必要で、運動量を増やすことや睡眠が大事です。
失敗への恐れがモチベーションをくじくことになります。途中で失敗したときにどう対処するか慎重に考えておく必要があります。失敗した自分に優しさ・敬意・正直さ・励ましをもって接するセルフコンパッションはいい結果につながります。
衝動に逆らい正しい方向に向かう行動を選ぶスキルは、マインドフルネスで感情ではなく価値観に基づいた行動ができるようになります。生活の一部となっている朝歯を磨くように、モチベーションの有無を自問せずに毎日できるのが最善です。
長期的目標を掲げて自分を変えようとする時は、努力と休息のバランスが肝心です。大きな目標の時は、節目に達した時に自分への小さな報酬を用意しましょう。事前に脱線させかねないハードルを全て書き出し、それを乗り越えるための行動計画を立てましょう。自意識とアイデンティティがはっきりしていれば、歯磨きのようにモチベーションが低くても目標に沿った行動をとることが出来ます。自分の未来を想像すると、未来の自分のためになる選択をしやすくなります。望ましくない未来を想像することも有益です。
・辛い感情にとらわれているとき
たいていの人は辛い感情が消えることを望みますが、セラピーでは感情を消し去るのではなく、感情との関係を変え、ありのままの感情を知り、受け入れ、それに影響を及ぼして強さをコントロールすることを学びます。
望み通りの感情を引き出せないですが、影響を与えることはできます。感情は脳の推測で事実ではなく、思考も事実ではありません。認知行動療法が有益なのもそのためです。思考や感情が事実でないのに苦悩をもたらすならば、別の思考や感情の方が有益か検討することは理にかなっています。感情を事実と誤認することをやめるには、自分の内面と外の世界での経験に対して好奇心を持つことを練習します。行動や感情が自らにどのような影響を与えるか、より広い視野に立って考察します。自己攻撃が目的ではありません。辛くて認めがたい過ちも、好奇心を持てば直視して学べます。
あらゆる感情をありのまま受け入れることを考えると最初は不安になります。しかしあらゆる感情を受け入れるようにすると、それが波のように表れて消えることがわかります。それに気づくことで、感情にそのまま反応するのではなく、価値観に基づく選択ができるようになります。感情には利点があり、わたしたちが何を必要としているかを教えてくれます。感情から学べるのです。何を感じるか、体のどこでそれを感じるかに気づき、ラベル付けをします。感情を表現する語彙が増えると、感情の微妙な違いを識別し、感情をコントロールして有益な反応を選択できるようになります。
辛い感情は耐え難く、少しでも早くその感情から解放されようと衝動的に不健全なことや危険なのもさえやりかねません。辛い気持ちをなだめる苦悩耐性スキルにセルフスージング(自己鎮静)があります。脅威反応が起きると脳は異常事態のメッセージを受け取るのて、自分は安全だという新しい情報を脳と体に与えなければいけません。温かな飲み物の摂取、信頼できる人との話し、体を動かすことなどがあります。最も簡単な手段は匂いで、安全や安らぎを感じる香りを嗅ぐことは体を落ち着かせます。中に安心出来るものを入れたセルフスージング箱を、必要な時にすぐ見つけられる場所に置いておくことです。
感情を区別する言葉が増えると脳がさまざまな気持ちや感情を理解するための選択肢が増えます。言葉は重要なツールとなります。何かを感じたら具体的に表現しましょう。他にどのような言葉で表現出来るのか、いくつかの感情の組み合わせかもしれません。本、音楽、映画などにも感情を表現する新たな言葉に出会えます。ネガティブだけでなくポジティブな感情も日記に書き留めて表現しましょう。大切な人がメンタルヘルスの問題に苦しんでいたら、そこにいてあげることです。具体的に診断されていたなら具体的なアドバイスもできます。気持ちを尊重します。自分の健康を守るために基本的な生活にも気を配り、誰かにサポートしてもらい、気晴らしもしましょう。危機管理計画を立てておいて、安全が心配になったら専門家に相談しましょう。、思いやりを持って話を聞いて孤独ではないと感じさせ、求められるまでは助言してはいけません。相手の改善や回復を期待してはいけません。
・大切なものを失ったとき
悲嘆にくれるのは人生の敗北者で自分の性格が弱いからだと決めつける人もいますが、悲嘆は人間の経験の正常な要素です。愛する人を失うことは大きな心理的・身体的脅威で体も悲嘆します。悲嘆に耐え難くなると遮断することが自然な反応ですが、そうすると往々にして他の感情も遮断され、人生に意味を見出すことをできなくなります。悲嘆を隠しても、ちょっとしたことで苦悩の世界が爆発し、打ちのめされてどつしていいかわからなくなります。悲嘆には段階があり、それを知れば悲嘆の正体が健全な一部なのだとわかります。否認とは直面する状況と否応なく待ち受ける新たな現実をどのように受け止めるか徐々に変化していく意味で、圧倒的な痛みを乗り越えるのを助け、やがて否認は消えて新たな感情の波が現れます。怒りをありのままに感じ表現できれば対処出来ますが、隠そうとすると別の時に怒りが湧き上がります。怒りを覚えたら体を動かしましょう。怒りのエネルギーを発散させると、しばらくは落ち着きを取り戻して頭も冷静になり、問題がはっきりしてくるので、信頼できる友人とともに作業したり書き留めることは有効です。もし○○だったら、○○しておけばという思いにふける取引は自責に行き着きやすいです。抑うつは死別のあとに訪れる深い喪失感、激しい悲しみ、虚しさを意味します。それは正常な反応で精神疾患ではありません。再び前進して人生に積極的に関わろうと思えるようになる受容は、決して悲嘆は終わったわけではなく、取引に引き戻されることもあり、感情が行ったり来たりするのも正常なことです。悲嘆は常に訪れ予測できません。
悲嘆を乗り越えるには、痛みを感じることと気晴らしや慰めによって心身を休めることを行ったり来たりします。苦痛に圧倒されそうになればセルフスージングが役に立ちます。人によって異なるので型にはまった処方箋はありません。重要なのは短くても回復するための時間を過ごせる安全な場所を見つけることです。頑張って乗り越えるのは心を休める暇がなく、痛みを距離を取ろうとすると心が休まりません。一つの感情を断つと全ての感情とのつながりも断たれます。悲嘆の最中は自分の感情を全て許します。束の間の喜びも許し、人生との関わりを取り戻しても忘却を意味しないことを理解します。小さな一歩を踏み出し、どのくらいで回復するとか、こうあるべきとは期待せず、他者とのつながりを育み、安全な場所で自分の感情を表現することです。感情は信頼できる人に語ったり、書き留めましょう。喪失が残した傷は治すべきものでも癒すべきものでもありません。故人は変わらずに大切だから喪失の痛みは続き、そのうち悲嘆を抱えながら故人の人生を認め、意味と目的のある人生を創造し成長し始めます。カウンセラーやセラピストを訪れるのは間違ってなく、ありのままの感情を安全に解放出来ます。
・自信をなくしているとき
批判や反対意見は誰もが経験します。わたしたちは他人からどう思われているのか気にするようにできているのです。脳は集団の中で安全に生きることを重視します。他者にどう思われているかが次の行動に影響するのは理にかなっているので、他人からどう思われても気にしなくていいといっても長続きしません。
ビープルプリージングとは自分の健康に不利益が生じても常に他人を優先させる行動パターンで、大人になった時にそのパターンは人間関係に害をもたらします。人は反対意見を持っていても口に出すとは限らず、他者が何を言ってなくても批判されているように感じることがあります。スポットライト効果で他者から批判的にみられていると感じやすいのです。社会的な不安を感じる人は周囲にどう思われているのか人並み以上に気にかけ、自信のある人は外に注意を向ける傾向にあります。人を厳しく批判する人の多くは自分に対してもそうしがちで、そういう流儀なのです。人間は自己中心的に考えがちなので、他の人も自分と同じ価値観で生きていると思い込みやすいです。人は独自の考えや意見を持っているので、全ての人を喜ばせるのは不可能です。批判は一個人の経験に包まれたその人独自の考え似すぎません。特定の行動に焦点を絞ったものなら反省して過ちを正して関係を修復しようとしますが、人格や自尊心を批判されると恥を感じます。恥は他の感情と混ざることもあり、衝撃は体中で感じられ立ち直るのは難しいです。恥を経験しても自尊心を損なうことなく立ち直れるには、自分にとって何が恥を引き起こすかを知ること、批判やこれに基づく評価が本当に正しいのかチェックすることです。悪意のある無益の批判を反芻するたびにストレス反応が起きて自分を傷つけるので、批判されたら正しい方法で自分に語りかけましょう。自分の味方になり大いに同情すれば、自分のためになる批判と単に自尊心や自信を打ち砕くだけの批判を見分けられるようになります。恥の経験を信頼できる人に明かすと、それを終わったことにして前進できます。
自分にとって誰のどの意見が真に重要なのかはっきり理解しましょう。わたしたちが最も必要とするのは自分自身からの賛辞で、自分がどのような人間になりたいか理解する必要があります。馴染みのある批判はどこから来ていて、正当で有益なのか、自分にとって有害なのかはっきりさせましょう。
自信は快適さとは別物で、重要な行動を起こすときは恐れを恐れとして感じることです。自信が持てると気分がいいですが、そこに留まると自信はそれ以上大きく育ちません。新しいことや未知に対する恐れが膨らみます。自信を育てるには自信を持てない領域にあえて踏み込む必要があります。未知の自らの恐れに向き合おうとする勇気が自信を育てるのです。ただし精神的に圧倒されるほどのリスクに飛び込む必要はありません。恐れは最善を尽くす助けになり、恐れと共存することを学ぶのです。
わたしたちは成功を富・勝利・目立つこと・他者から認められることと結びつけます。ネットユーザーで探すと必ず自分よりも成功した人を見つけ、自分を敗者とみなして自尊心は打撃を受けます。友人や家族と比べたらもうでしょうか。そんなことをすると健全な人間関係を築けなくなります。自尊心を高める介入は有益とはならないのです。
自尊心の低い人はアファーメーション(ポジティブな自己暗示の言葉)は最善な戦略ではなさそうですが言葉は重要です。
緊張しそうなことに自信を持てるようにするには、恐怖心を無理やり退けず受け入れて共存する練習をすればいいです。強い恐怖やパニックを起こす状況は避けるべきで、少しだけコンフォートゾーンから出て軽いストレスを経験するのです。
失敗に対する他者の反応は、人格や人間としての価値を正確に評価したものではなく、その人の失敗に対する見方を示しているにすぎません。失敗には痛みがつきもので、失敗を避けようとして安全な選択肢に切り替えようとします。これを繰り返しているとコンフォートゾーンに居座り何をする気にも起きなくなります。成長の学びとして失敗を受け入れるには、失敗しても大丈夫と言いきかせるだけでは駄目で、精一杯自分で自分を助けることです。失敗から立ち直るには他人は当てにできません。
自分に思いやりを持つことは、失敗を恐れにくく、失敗しても再挑戦し次第に自信を付けていきます。自己受容を積極的に深めていかなければ、常に安心を渇望し、嫌いな仕事や有害な人間関係にとらわれ、怒りを蓄積させたりします。自己受容するには、自分が何者でどんな人でありたいかを理解する必要があります。それは自己認識から始まります。自己認識は内省により得られます。重要なのは自分の誇りに思える部分だけでなく、できれば考えたくない部分にも注意を向けることです。マイナスの側面について考えるときは慈愛に満ちた客観的態度で臨むことが重要です。
自己批判について、内なる批判者を具体的な人物として想像しましょう。その批判者と毎日朝から晩まで過ごしたらどんな影響があるでしょう。人生の大半を通じて自分中に批判者かいるならでていってもらうのはほぼ不可能です。この批判者は自己批判がダメージを引き起こす事はよく知っていて、わたしたちが成長し達成することを願っています。
・不安を感じているとき
安全を確保したいという強い衝動を感じるのは悪いことではなく、脳が全力を尽くしてくれている結果なのです。不安を感じると体はそれから逃れようとして精一杯働くので疲弊します。人は命の危険がない状況でも同様の衝動を感じます。それを恐怖と感じて避けるといつまでたっても克服できないでしょう。恐怖から逃れようとすると長期的には人生の選択肢を恐怖に支配させることになります。
怖いことを避けてばかりいると脳はそれを乗り越えられるという証拠を蓄積できません。脳に確信させるには行動をできるだけ繰り返さなくてはいけません。不安に思うものに直面して学ぶと、より強くなれ成長を実感できます。
今不安に苦しんでいるのであれば、ほんの数分で不安を和らげるスキルとは呼吸法です。過度の不安では呼吸が速くなり、息ができないように感じさらに浅く速い呼吸になります。この時に呼吸を遅くしたら体は落ち着き呼吸はいっそうゆっくりになります。吸う息より吐く息を長く強くできれば不安な気持ちも落ち着きます。その練習方法はスクエアブリージングで、四角いものを見て、4秒かけて息を吸い、4秒間息を止め、4秒かけて息を吐き、4秒間息を止めるのです。運動も練習しなくても出来るツールです。運動が不安を解消するツールになるのは不安反応の自然な流れに沿うものだからです。ストレスの多い日にジョギングをするなどです。運動は不安の予防策にもなるので、不安を感じない日も運動しましょう。 ある思考がわたしたちを苦しめるのであれば、それがフェイクニュースかどうか、不安を感じる価値があるかどうか分析するのは理にかなっています。まず不安の内容を書き留め、1つ目の欄に不安が事実である証拠を書き出します。もう1つの欄に不安が事実ではない証拠を書き出します。以上で自分が思い込んでいたほど事実に基づいていないとわかったら、不安を感じた状況について別の見方を検討し始めましょう。
破滅的な思考を頭から追い出そうとすると、ますます頭に浮かぶようになります。その思考にスポットライトを当ててしまうのです。注意のスポットライトをどこに向けるかで経験をどう理解するかが違ってきます。スポットライトのコントロールの仕方を学ぶのは将来にとって大切です。不安を抱えると脅威反応が強くなります。優しさやコンパッションが得られるとその目盛りを下がり、自分は安全だと思えるようになります。優しさやコンパッションは自ら与えたものでも同じ効果があります。セルフコンパッションは長期的に絶え間なく行う必要があります。リフレーミングとは困難な状況を解釈し直すことによって乗り越えやすくすることで、ある経験を挑戦としてリフレーミングすれば、逃走衝動を闘争衝動に変えることができます。生命が危険にさらされていたら恐怖という思考にスポットライトを当てる必要がありますが、そうでないときは、自分の価値観と自分にとって大切なものにスポットライトを当てましょう。価値観はアイデンティティの一部になり得ます。
死の恐怖はメンタルヘルスの根底にあるとされてきましたが、死がすべてを終わらせるからこそ、どう生きるべきかを考えるきっかけにもなるのです。どう生きるべきかという問いは混乱させますが、同時に変化を導き、選択する力が養われます。わたしたちが求められるのは、死の確実性と、ほれがいつどのように訪れるかがわからないという不確実性を受け入れることです。
・ストレスを感じているとき
ストレスと不安はどちらも多様な経験の包括的表現として用いられます。ストレスと不安のメカニズムは同じですが、わたしたちは両者を異なる意味で捉えています。脳が何かをするための準備をさせる時にストレスを感じます。ストレスを感じるとアドレナリンとコルチゾールが分泌され、燃料となるグリコースを血流に素早く放出されるようにし、筋肉に作用してエネルギーを効率よく利用出来るようにさせます。脳はこの見返りに休息や栄養を期待しますが、見返りが得られないと不足を感じ、体の資源が補充されなくなります。それほど差し迫った脅威ではないストレスを感じる状況では、頑張って乗り越えようとするチャレンジ反応が起きるかもしれません。何かストレスとなるものが近づいて、乗り越えるには努力が必要と予想される場合に予期ストレスが起きます。不安になりそのストレスのせいで生理的・心理的な不快感を覚えます。心理的なストレスが起きた場合、生理的な混乱は短時間では終わらず、心身の健康が害されたり、行動に悪影響が出たりします。
ストレス軽減はストレス対処法として勧められますが、漠然としていて実際にどうしたらいいのか分かりませんし、ストレス要因の大半は軽減出来ません。ストレスは往々にして自分で選択したものではないのです。ストレスが少なすぎる人生は退屈で適度なストレスを好みます。しかし多過ぎると恩恵はすべて失われる可能性があります。ストレスは短期的にはプラスの効果があり、ストレス反応はゴールに到達するための主要なツールで、ストレスを感じても障害や健康問題の前兆ではありません。しかし環境が絶え間ないストレスをもたらし、自分ではその状況を変えることも軽減することもできない場合、体はエネルギーを使い果たしてしまいます。ストレスが長く続くと、脳はエネルギーをあまり必要としない習慣的な行動を好むようになり、衝動を抑え、情報の記憶や意思決定する能力が弱まります。燃え尽き症候群は過度なストレスや長期的ストレスによりもたらされますが、短期的なストレス反応が長期にわたりたびたび引き起こされ、その間十分な休息屋回復の機会が得られない場合に生じやすいです。
不安のときの呼吸法はストレスにも効果があります。吐く息を吸う息より長く強くすることです。目指すべきはストレスをすべて解消してくつろぐことではなく、ストレス反応の利点を活かし、不都合な点の度合いを下げて、可能な限りベストな状態となることです。ストレスの多い時、他者を気遣うことに心を集中させると脳内の化学物質が変化して希望と勇気が生じることがわかっています。他者を気遣うと回復力が高まるのです。人間関係を充実させるのは短期的にも長期的にもストレスを緩和します。
自己中心的に自分に焦点をあてる人は不安・孤独感に陥りやすく、自分よりも大きな目標に焦点を当てる人は、希望と感謝とインスピレーションに恵まれ、より大きな幸福感と満足感を経験しやすいです。私たちはこの2つの考え方の間を行き来する能力があり、自分の選択や努力がより大きな目標のために役立つかどうか考えるだけでストレスは軽減します。自分の行動が他者の役に立つか注目するだけでストレス反応は減ります。
瞑想は脳と生活の質に強力な影響を及ぼすテクニックだと科学が明らかにしました。瞑想は脳の構造と機能を変えてストレスを軽減し、感情調節能力を向上させます。ヨガニドラはシンプルな瞑想テクニックで、ストレスを軽減し、睡眠を改善し、全般的な幸福感を高めることが示されています。大半は60分ほどですが、11分のヨガニドラでもストレスの軽減に役立つと明らかになりました。なかでもマインドフルネス瞑想は最も広く推奨されています。マインドフルになるとは今この時に意識を集中させ、感情にとらわれたり抗ったりすることなく感情を観察することです。経験で判断を下したり、性急に意味づけせず、心を開き興味を持ち続けることを意味します。マインドフルにウォーキング、シャワー、歯磨きするときにもできます。
畏怖とは理解を超える存在に対峙したときの感覚で、畏怖の念で日常生活の些末なことから気持ちを切り離し、より広い世界、より大きな存在に目を向けるようになります。自分の存在が小さく感じられて何が最も重要なのかが容易に認識できるようになります。その点からストレスに対処するときは、動物と共に過ごす、自然の中で過ごす、素晴らしいパフォーマンスを見る、星を見上げるなどをお勧めします。日記などに記録しておくと、自分への影響を理解して思い出に戻ることができます。
実際に強いプレッシャーを感じる状況では、ストレス反応を問題と捉えるのではなく、役に立つ強みと捉えるようにすると、面前のタスクに全エネルギーを注げるようになります。マインドセットを変えるとストレスによる消耗が軽減される証拠もあります。ストレスを減らすことばかり考えず一緒につれていきましょう。本来人はプレッシャーのもとで成果をあげるようできていて、きっとできるのです。マインドセットを変える方法の一つに言葉を変えることがあります。わたしたちの注意のスポットライトは1つしかないので、してはならないにスポットライトを当てると物事をうまく進めるためにしなければならないことに光が当たらなくなります。漠然としたことや絶対的真理を述べるのではなく、具体的な事実・信じていることに基づき、集中すべきことを明らかにして向かうべき方向を教えるのです。ストレスが強く、集中力が途切れたりパフォーマンスが落ちそうな状況に臨むときは、あらかじめそうした言葉を用意しておくといいでしょう。リフレーミングはここでも有用で、ストレスを決意に、脅威を挑戦にしましょう。ストレスが強い状況では実際の視野も集中するため狭くなりがちです。視野を広げてみると、視覚システムは自律神経システムなので、ストレスや覚醒に関連する脳の回路につながることができます。失敗の認識を変えることも有益です。
完璧主義者は些細な失敗でも敗者と考えますが、人間は本質的に不完全と認識し、失敗しても人格を攻撃せず、その瞬間な具体的な出来事に焦点を当てるようにすると感情は違ってきます。どこで間違ったなを自分に正直に振り返ることができます。失敗はストレス反応を強め悲観的な中核信念が活性化する可能性があります。こうした思考と羞恥心はパワフルで自分は孤立しているように感じ気持ちを隠そうとします。愛する人が苦しんでいた場合には思いやりを示すように、そのようなときは自分に対してもそうすべきです。失敗して恥を感じるときは強い思考バイアスがかかっていることが多いです。たった1つの出来事で自分の人格や人間としての価値を包括的に下そうとします。愛する人にもそのようにするでしょうか。間違いを犯しても人間として切り捨てたいとは思わないでしょう。恥からの回復力を高めるには、言葉の選択に注意し、人格や人間として価値を包括的に攻撃して恥の意識を強めないようにし、間違いだった行動をはっきりさせ、恥はごく普通で一時的なものと認識し、その経験を信頼する人に明かしましょう。
・心が満たされないとき
わたしたちは幸せが標準で、そうでなければメンタルヘルスに問題があり、物質的な豊かさを手に入れれば幸せになれると思い込まされています。人間は常に幸せでいられるようにできてはいません。感情は常に動き天気のようなものです。人生に幸せをもたらすものは、幸せな感情だけをもたらすわけではありません。その最たるものは出会う人々です。
価値観とは人生をどのように生きたいか、どのような人になりたいか、どのような原則を貫きたいかといったことで、目標ではありません。価値観に沿って生きることは、どんな困難も乗り越えようと決心することで、すべての出来事や行動に意味と目的が生まれます。その意志が強いと無謀と思えるほどの挑戦もします。価値観に沿った生き方から遠ざかることもあります。人生を通じて変化して成熟するにつれ価値観も変化するので、自分にとって何が最も重要かを定期的に見直すことが大切です。価値観が定まっていないと義務感や他者の期待の達成で満足することになり、満足と幸福感を今ではなく将来に置くことになります。人生における満足や幸福感は終着点に待っているのではなく、そこまでのプロセスにあると理解しておくことは有益です。
自分の価値観のどこまでが自分の願望で、どこまでが他者の期待なのかは往々にして分かりにくいです。これは重要ではっきりさせる必要があります。どれが押し付けられたものか分かれば、人生のある側面が充実感より疎外感をもたらす理由が分かるでしょう。
自分を変えたいと思ったとき、ただ目標を持つだけでは生活は変わらず、変わったとしても変化は持続しません。わたしたちをその方向へ前進させるのは日々繰り返す具体的な行動なのです。目標のために新たに始めたことから人生は変わり始めます。目標は達成されると意味を失うので、価値観を定期的にチェックすることは有益です。自分がどのようになりたいかじっくり考え、イメージをはっきりさせて具体的で持続可能な行動に移します。そして新しい考え方や行動が定着すると自分に対する信念が変わり始めます。
人間関係を抜きに人生の意義を語ることは出来ません。健全な人間関係は心身の健康を生涯にわたって守ってくれます。自分を大切にする人は人間関係を大切にし、人間関係を大切にする人は自分を大切にします。愛着のスタイルは人生の早い時期に形成され、世話してくれる人に愛着を持つようにできています。子どもは皆、親との親密さを求め、その関係を利用して安全な基盤を築いていきます。愛着のスタイルは人間関係に何を期待し、どう振る舞うべきかという概念を築くためのテンプレートなのでわ大人になってからも他者との関わり方に影響します。脳は適応力はあるので、それとは違う行動を意識的に選択すればやがて新たな行動パターンは定着します。幼少期の経験が大人になってからの人間関係にも強く影響することもありますが、一生続くわけではありません。他者の行動を自己流に解釈するのではなく、その背景を理解して意図的に選択するようにすれば、親密で信頼できる関係を築き互いの人生をより豊かにできるでしょう。行動にはどう移せばいいのでしょう。人間関係を改善する即効性のある解決策はありません。一見小さくみえる日々の選択を意識的・意図的に行うと、自分の価値観に向かい進めます。人間関係の満足度は友情の質とされます。
人間関係は本質的に感情を伴い、人間どうしの交流は必ず互いの感情に影響を与えます。いろいろあっても互いに向き合うことが深い信頼関係を築くための基盤になります。つながりを断つのは人間関係とメンタルヘルスにマイナスとなります。
メンタルヘルスの専門家の助けをいつ求めるべきでしょうとよく尋ねられますが、メンタルヘルスに不安を感じたときはいつでもです。料金の高さや対応可能な機関が少ないことなどありますが、限界が来るまで受けない人は少なくありません。しかしそれは良い戦略ではなく、専門家の助けで人生は好転するかもしれません。専門家の支援を得る方法がない場合は人とのつながりがいっそう重要になります。メンタルの問題を抱えるひとは、かつては孤独に闘っていましたが、いまでは人間にとって正常な現象と理解され、襲ってくる感情の言いなりにはならず、自分の健康に責任を持つため、学べること、変えられることがあります。
感想
生活していくうえでストレス軽減はなかなかできるものではなく、それについても具体的な対応方法についての言及があり、わかりやすく実践しやすいと感じました。マインドフルネスと人とのかかわりが重要ということがよくわかりました。