著者紹介
2024年4月30日初版の幻冬舎から発刊された本で著者は三上信久氏です。三上氏は1954年生まれで、工学部の大学に入学して金属産業に就職されましたが、1979年に弘前大学医学部に入学されました。大学時代から漢方も学ばれ、勤務医を経て1994年に開業されました。
血流劇的改善法
内容
慢性的な不調の一つにむくみが挙げられますが、心臓病、腎臓病、深部静脈血栓症などの疾患が隠れている場合や、女性の場合はホルモンが影響していることもあります。もう一つの大きな要因は血流の悪さです。腕や足のむくみが神経や血管に圧迫をかけることでしびれが引き起こされることがあります。しびれは何らかの理由で神経に圧力がかかり、その部分の感覚が一部失われるのが原因です。血流の悪さもしびれの発症に大きく関係しています。肩こりや腰痛の主な原因は筋肉の緊張や関節内組織の炎症が考えられています。疲れで筋肉が硬くなり、血管を圧迫することで血流が悪化し、組織に乳酸などの痛み物質と呼ばれる物質が溜まり、血流が悪いと余分なものがいつまでもとどまり痛みがいつまでも引かないのです。
人間の体には毛細血管も含めると10万kmの血管が張り巡らされていて、4-5Lの血液がわずか1分足らずで体をひとまわりするとされています。その間に酸素や栄養素を全身の細胞に供給し、老廃物や二酸化炭素を回収します。血流が悪くなると組織や臓器の酸素不足があります。酸素不足で頭痛・めまい・倦怠感の症状があらわれることもあります。老廃物が貯留しやすくなり、皮膚トラブル・疲労感・むくみがあらわれることもあります。体温調節が困難となり冷え性になったり熱中症が引き起こされる可能性もあります。免疫が低下することもあります。
血流の悪い状態をあらわす言葉が、東洋医学では瘀血(おけつ)です。瘀血による体調不良は全身さまざまなところにあらわれますが、最も気づきやすいのは肌と思われます。東洋医学では舌の状態を診る舌診で変化があらわれます。明らかな怪我がなく出血したりあざができたりします。瘀血では月経周期の乱れや、月経痛・経血過多などにもなります。瘀血は高齢者によく見られます。
血液の流れが悪いことは西洋医学では病気とみなされていません。これに近い病態に深部静脈血栓症があり、これは治療の対象になります。一般的に深部静脈血栓症は足に起こる病気と広く知れ渡っていますが、足に限らず全身のさまざまな場所にでき得ると考えるのが自然です。瘀血が背景にある疾患として、網膜静脈閉塞症、腎不全、潰瘍性大腸炎、ネフローゼ症候群があり、瘀血の考え方のアプローチで寛解に導いた実績を多数有しています。
瘀血は漢方独特の概念のため、調べる手立ても確立されていません。瘀血治療には漢方薬が最も適していると考えていましたが、漢方薬でなかなか治らない現実に直面しました。漢方薬は即効性は期待できず徐々に効いてくると世間には思われているふしもありますが、急性疾患にもよく効きますし、即効性も得られます。1-2週間続けても症状に変化が見られなければ、すぱっと変えていくのが漢方薬のセオリーといっていいと思います。
ある症例から、漢方的な診察では瘀血はみられなくても、トロンボテストでは凝固能が高くそれにより瘀血であることがわかることもありました。それに対して漢方薬では効果は乏しくワーファリンが著効しました。
最近はトロンボテストではなくPT-INR検査をして瘀血を調べています。少量の採血ですんで10分程度で調べられます。数値が小さいほど凝固能が亢進していることを示します。血栓の検査にDダイマーがありますが、これは主に大静脈の血栓を調べるために用いられ、毛細血管〜中小血管の凝固能を調べるPT-INRとはみている場所が違います。私見ですが血液凝固能亢進状態の場合、いきなり大血管に血栓が生じるとは考えにくく、まずは毛細血管や毛細血管レベルの微小血管に血栓ができ、その一部がより太い中小の血管に移動し、そこでも血栓を作るという段階を経て、肺動脈などの大血管にとんで塞いでしまい肺動脈塞栓症を起こすと考えられます。
PT-INRが1未満の人を対象とし、1.0を目標とします。これなら出血などの副作用の心配はまずいりません。注意点は、ワーファリンはビタミンK依存因子に作用するため納豆等のビタミンKを含む食品は控える必要があります。漢方薬よりもワーファリンの方が切れ味がよく早期の改善が期待できます。難治性とされる症例も、瘀血を改善したあとなら漢方薬も著効することが多いです。
瘀血で血液凝固能が亢進していると、血栓は頭の先から爪先の全身のどこにつくられてもおかしくなく、頭痛に限らず原因不明の体の痛みやしびれは全般的に見られることがあります。その場合はワーファリンでほとんどのケースで改善がみられます。血液凝固能の亢進を引き起こしやすいリスクは、同じ姿勢を長時間続けること、高齢者、女性、糖尿病、手術歴、がんの存在が考えられます。男女比は1:7-10くらいで、中でも糖尿病でコントロールの悪い人では瘀血がない人はいないというのが私の考えです。また瘀血の治療をしても予後は悪く再発もしやすい傾向にあります。糖尿病をひとたび発症すると生涯にわたり血糖コントロールが必要になり、まず完治は見込めません。健診等で糖尿病が疑われる段階ですでに瘀血になっていると考えられ、糖尿病に対して一刻も早く適切な治療を受けることが瘀血による悪影響をできるだけ少なくとどめるには重要です。
ワーファリンは安価でわずかな量で奏功するため副作用や依存性も出ません。1日1回で不調や病気の種類は問わずに使えます。生活習慣が改善すればPT-INRが正常化することもあります。
血流を悪くする生活習慣に長時間座っていることが挙げられますが、1日8時間以上座っている人は3時間未満の人より死亡リスクは1.2倍になるという研究もありますので、とにかく足を動かしましょう。入浴も瘀血の予防や改善にいいですが、15分前後は湯に浸かるようにしましょう。食事は体を温める温熱性の食材が良く、玉ねぎ、ニラ、ニンニク、山椒、シナモンなどがあります。凝固とは直接関係ありませんが、発酵食品は長寿が証明され、よく摂りましょう。肉やバターなどの動物性脂肪には注意が必要で、摂りすぎはよくありません。ただし青魚の脂は良いとされています。タバコには血管を収縮させるニコチンや、酸素運搬能力を低下させる一酸化炭素などが含まれていて、瘀血の改善には好ましくなく、喫煙はやめましょう。血流の調整には自律神経が深く関わっており、ストレスにより不安定となりますので、ストレスはできるだけためこまず、軽いうちに発散・解消が望まれます。深呼吸するだけでも血管が拡張しやすくなり血流が促されます。冷えはお腹と足元からやってきますので、冷やさないようにしましょう。夏はエアコンによる夏冷えに注意しましょう。
感想
医学の薬で素早く治すという、従来ではあまり考えられないことをされていて、いいとこどりでうまく対応されていると思いました。愁訴の方に凝固系検査をすることはこれまではなく、保険の問題はありますが、今後積極的に検査してみようと思いました。