著者紹介
2024年2月5日初版のメディカ出版から発刊された本で著者は吉田貞夫氏です。吉田氏は1991年に筑波大学医学専門学群を卒業され、外科の専門医でがんの研究もされ、日本臨床栄養代謝学会の指導医でもあり、現職はちゅうざん病院副院長です。骨格筋量推定システムなどでの特許も取得されています。
患者に話したくなる「たんぱく質」のすべて
内容
皮膚の約60%は水分、約30%がたんぱく質で、残りは脂質やミネラルです。皮膚のたんぱく質の代表はコラーゲンで、ペプチド鎖が3本集まり、3重のらせん構造を作る大きな分子です。ペプチドとは2-数十個のアミノ酸がつながったもので、数百から数千のアミノ酸がつながったたんぱく質とはその数が違います。コラーゲンが束となってコラーゲン線維となり、皮膚のかたちを維持する骨組みを形成します。
筋肉は体重の30-40%を占め、筋肉の約75%は水分で約20%はたんぱく質です。体内のたんぱく質の3分の1は筋肉内に分布しています。筋肉内のたんぱく質はアクチン・ミオシンなどの筋原線維たんぱく質、ミオグロビンなどの筋漿たんぱく質、コラーゲン・エラスチンなどの筋肉基質たんぱく質です。血管にはⅢ型コラーゲンが必要で、骨はコラーゲンを主体とした基質にカルシウムやリンなどの骨塩が沈着してつくられます。人体の約60%は水分、約20%はたんぱく質となっています。
体の機能を調整するたんぱく質を機能性たんぱく質といい、赤血球に含まれて酸素を運ぶヘモグロビン、血漿中に多く含まれる血管内膠質浸透圧の保持・物資の運搬をするアルブミン、免疫に必要なグロブリン、脂質を輸送くるアポリポたんぱく、鉄を輸送するトランスフェリン、細胞外からシグナルを受け取り細胞内に伝達する受容体、インスリンなどのペプチドホルモン、酵素、血液を固まらせる血液凝固たんぱくがあります。
アルブミンは低栄養で合成が低下し低栄養の指標としていましたが、肝硬変や炎症でも低下するため適切でないと考えられています。
たんぱく質は胃でペプシン、十二指腸でトリプシン・キモトリプシンによって短い鎖のペプチドとなり、小腸粘膜上皮のアミノペプチダーゼによりアミノ酸やアミノ酸2つの結合したジペプチドなどに分解されます。ジペプチドはアミノ酸と異なる経路で上皮細胞内に取り込まれて、吸収効率はよく血液中のアミノ酸濃度を速く上昇させます。それを利用して、乳清(ホエイ)ペプチドを用いた経腸栄養剤や、コラーゲンペプチドが褥瘡の治療に使われたりしています。
アミノ酸が過剰になった場合やエネルギー摂取不足でアミノ酸をエネルギー源として利用する場合、アミノトランスフェラーゼによりアミノ基を取り外す反応が起こります。分子鎖アミノ酸(BCAA)のアミノトランスフェラーゼは肝細胞の中にはあまり含まれず筋肉内に多く存在します。
グルタミンやグルタミン酸は分解されるとアンモニアが生成され、毒性も強く体内から排泄する必要があります。この仕組みが尿素回路で肝臓内で行われます。肝機能が著しく低下すると高アンモニア血症を発症することがあります。
アミノ酸か、アミノ基を取り外した残りの部分のαケト酸はクエン酸回路(TCA回路)に取り込まれエネルギー産生に利用されます。アミノ酸からはプリン環・ピリミジン環、ヘム、クレアチン、グルタチオン、タウリン、カテコールアミン・インドールアミン、GABA、ヒスタミン、メラニンなどが生成されます。
飢餓時には予備量のたんぱく質が分解され、貯蔵していた筋肉量が減少してサルコペニアなどを発症する原因となります。遊離したアミノ酸を利用してブドウ糖が産生される糖新生が肝臓で行われます。筋肉の活動でブドウ糖が分解されATPを産生を産生したあと乳酸が産生されます。乳酸は肝臓に運ばれ再びブドウ糖やグリコーゲンとなります。これがCori回路です。筋肉のたんぱく質が分解されるとアラニンが放出され、肝臓に運ばれピルビン酸を経てブドウ糖となりエネルギーとして利用されます。これがグルコース・アラニン回路です。
たんぱく質が不足すると筋肉量は減少し、除脂肪体重(LBM)が減少します。LBMが減少するとアルブミン産生が低下し、γグロブリンが減少し、ヘモグロビンが低下して貧血になるかもしれません。皮膚のコラーゲン合成も低下し、創傷治癒の遷延化や寝たきりの人では褥瘡を形成したりします。
栄養が不足すると、オートファジーが発動されます。オートファジーとは細胞内の機能の低下した小器官などをかき集めて分解し、アミノ酸を再利用することで、栄養が摂取できなくなって数時間で活発化します。アミノ酸20種のうち9種は合成できないので、食事で摂る必要があります。
健康な人が多量にたんぱく質を摂取する悪影響は明らかなエビデンスはありません。筋肉を鍛えるためのもっとも効率の高い摂取量は1日体重あたり1.6g程度だという報告があります。腎機能が問題ない人で1日体重あたり2.0gたんぱく質を摂取すると心血管疾患系合併症のリスクが増加した報告もありますが、動物性たんぱく質の摂取が高いと、心血管疾患やすべての原因による死亡リスクはともに低かったとの報告もあります。日本人の報告は少なく今後に期待です。
たんぱく質を朝に摂取すると血圧が低下してHDLコレステロールが上昇しましたが、夕食が多いほどインスリン抵抗性が上がりました。女性では朝摂ると筋肉量は増加しましたが、男性では変わりありませんでした。アミノ酸スコアが小さいと認知機能低下のリスクが高くなりました。
筋トレの効果を上げるには運動前後でたんぱく質の摂取がいいかとの問題は、運動前の方がいいとする報告もありますが、運動前後に関係なく筋肉量の増加が認められたという報告もあります。よくわかってないということです。
就寝前のグリシン摂取は、就寝から徐波睡眠までの時間を短縮し睡眠の質を改善することが報告されています。お茶などに含まれるテアニンは、中途覚醒を減少させ睡眠の質を改善したと報告されました。
低糖質ダイエットはやせて死亡率を低下すると報告されましたが、適切に継続することは難しく、動物性たんぱく質・脂質を摂取すると死亡率は低下せず、植物性たんぱく質・脂質を摂取すると死亡率は低下したとの報告もあります。
サルコペニアの診断基準に骨格筋量の低下が必要ですが、どこでも測定できるわけではなく、その代替としてふくらはぎの周囲長が推奨されました。男性33cm未満、女性32cm未満で、BMI25-30では測定値から3を引いて、30以上なら測定値から7引くとなっています。
サルコペニアの進行を防ぐためには、高齢者は約12-15gのたんぱく質を摂取しないと筋たんぱく合成が効率よく開始されません。摂取できない人は1.5-2gのロイシン(BCAA 3-4g)の摂取で筋たんぱくの合成がサポートできる可能性があります。1日にどのくらいたんぱく質を摂ったらいいかについてコンセンサスはありませんが、海外の知見も合わせると、体重あたり1日1.2-1.5g程度は必要と考えられています。1日2g以上の摂取で心血管系合併症のリスクが増加したとの報告もありますが、脂質摂取の影響も考えられはっきりしません。ビタミンDの不足もサルコペニアを進行させるためその補充も必要で、運動も必須のため、有酸素運動やダンスの指導も忘れないようにしましょう。
慢性腎臓病(CKD)ではたんぱく質の制限で腎機能の低下を防ぐことが出来る可能性があります。高齢者では10日間の体重あたり1日1.8g摂取で腎機能が低下したとの報告があります。日本の2022年に発表されたデータでは、たんぱく質摂取量と腎機能の変化には関連が認められませんでした。たんぱく質摂取量が少ないと有意に体重減少がみられました。CKDの人ではたんぱく質摂取の過剰で血中尿素窒素(BUN)が上昇することがあります。
肝硬変の人には、以前は肝性脳症の発症を防ぐためたんぱく質摂取を低目に設定しましたが、最近はたんぱく質制限は推奨されていません。肝性脳症を繰り返す人はたんぱく質を制限し、体重あたり0.5-0.7gとしてBCAA含有の経腸栄養剤を併用することが推奨されています。肝硬変の人は肝細胞内への糖の取り込みが減少し、高血糖のリスクが高まります。飢餓時には糖新生も減少するため深夜に低血糖になることがあります。そのため就寝前にエネルギー投与を行います。BCAAを含有した補助食品が使用されています。サルコペニアになりやすくBCAAの補充などで予防に努めます。食塩の過剰な摂取で浮腫や腹水の増加につながります。ビブリオバトルによる食中毒のリスクが高く、刺身や生ガキは摂取を控えます。非アルコール性脂肪肝炎(NASH)では肝臓に脂質が蓄積しないように脂の摂取を控え、調理は揚げたり炒めたりせずに蒸したり煮たりします。NASHやC型肝炎では肝臓に鉄が沈着して肝機能を悪化させることがあり鉄分を制限します。便秘は血清アンモニア値を上昇させるのでやわらかい便になるようにします。
褥瘡には高エネルギー・高たんぱくの栄養補給が提案され、日本褥瘡学会では1日体重あたり1.0g以上のたんぱく質摂取が推奨されましたが、海外のガイドラインでは1.2-1.5g/日が推奨されています。たんぱく質摂取に加えて、ロイシンの代謝産物のHMBを摂取してたんぱく質全体の量を抑えられる可能性があります。
ICU入室者に対するたんぱく質の投与は、米国静脈経腸栄養学会の2016年ガイドラインでは、1日体重あたり1.2-2.0gの摂取が弱く推奨されました。CKDではたんぱく質を制限しますが、急性腎不全にはたんぱく質制限は必要ないと考えられていますが、高用量で死亡率の上昇につながることも危惧されています。
BCAAとは必須アミノ酸でロイシン、イソロイシン、バリンがあります。その中でもロイシンが注目を集め、mTORという細胞内シグナル伝達系を介してたんぱく質の合成を開始させるはたらきがあります。ロイシンの代謝産物のHMBはロイシンよりも強力といわれています。ロイシンは卵や牛乳などに多く含まれ、卵1個に約0.5g、牛乳100mlに約0.3g含まれています。HMBを摂取した高齢者は、上肢・下肢の筋力が増加することがメタ解析で報告されました。運動やビタミンDの補充を行わずにロイシンを摂取しても、骨格筋量や筋力の増加は認められない当報告もあります。
イソロイシンはブドウ糖の代謝をコントロールする機能があると明らかになっています。
肝硬変の人ではアンモニアの解毒のためBCAAが利用されて減少していることが知られています。BCAAの投与で血清アルブミンが改善し、死亡を含む合併症の発生率が低下することが報告されています。
アルギニンは必須アミノ酸ではありませんが、褥瘡や2型糖尿病などの疾患で体内で不足し、食事での摂取が必要になります。小児では体内の合成のみでは不足するため必須アミノ酸です。NOはアルギニンから生成され、CKDにおいて腎血流量を増やし、輸入細動脈を拡張し、糸球体内圧を低下させると考えられています。非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)はNOシンターゼを競合阻害してNOの産生を阻害し、ADMAが高い日本人高齢者女性ではサルコペニアの有病率が高かったとの報告があります。ADMAの蓄積に対してアルギニンを多く摂取するとNOシンターゼの作用が回復できると考えられています。アルギニンはインスリン抵抗性を改善させて血糖値を低下させるとの報告があります。アルギニンには成長ホルモンの分泌を促進するといわれていまさが、通常の食事1食で摂取する10倍近い量の点滴投与でのことであり、毎日継続可能な量では効果は明らかではありません。筋トレ前に毎日5gのアルギニン摂取を6ヶ月継続すると、摂取しなかった人と比べて有意に筋肉が増加したとの報告があります。
免疫に関与するアミノ酸の代表はアルギニンとグルタミンです。腹膜炎や敗血症のような重篤な感染症の場合、複雑な免疫機構が関与するため、アルギニンによる効果が望めず、むしろ死亡率が増加するとの結果も認めました。以前は炎症を助長するため禁忌でしたが、緩徐に投与するとたんぱく質分解を抑制したとの報告もあり禁忌ではなくなりました。重症COVID-19では炎症性サイトカイン濃度を低下させ、実際に人工呼吸器装着の日数や在院日数を短縮できました。
グルタミンは免疫を賦活すると考えられています。グルタミン酸を経てグルタチオンの合成にも利用され、重症時の酸化ストレスを軽減する働きもあります。術後患者と重症患者にグルタミンの投与で、死亡と感染症合併のリスクを低下させ入院日数を短縮させました。人工呼吸器を装着した多臓器不全の症例などには死亡率を上昇させ、きわめて重症や腎機能の低下した症例には投与を避ける方がよいと考えられています。グルタミンの効果を得るには1日20-30g投与する必要があるといわれています。
感想
医師で栄養学に詳しい人はあまりいないと思われ、私もそうでありいろいろと勉強になりました。細かい知識も多く、誰かに言いたくなるような内容で、医療本には珍しく本の題名に納得しました。