著者紹介
2024年3月18日初版の講談社から発刊された本で、著者は永田宏氏です。永田氏は1959年生まれで、1985年に筑波大学理工学研究科修士課程を終了され、長浜バイオ大学バイオデータサイエンス学科教授で、専門は医療情報学・医療経済学で、東京医科歯科大学から医学博士を授与されています。
健診の読み方以外にコラムとしてちょっとした医療情報もあります。
健診結果の読み方
内容
体重について異常値はありませんが、ほとんどの人は中年太りを経験し、還暦を過ぎる頃から食が細くなり、揚げ物などで胸やけするようになるため避けるようになり、必然的に摂取カロリーが減って痩せていきます。
身長は40歳前後までほとんど変わりませんが、それを超えると10年で1cm縮みます。背骨と背骨を繋ぐ軟骨が加齢によって薄くなるからです。骨粗鬆症になって圧迫骨折するとさらに低くなります。
BMI 22を理想として25以上がメタボと呼ばれるようになりました。男性で全年齢の3割以上、50代では4割近くがメタボに属しています。BMI 30以上の2度の肥満は太り過ぎという印象がありますが、30未満なら普通と思っていいでしょう。65歳以上の高齢者はBMIの下限を21.5にしましたが、これより低いとフレイルなどのリスクが上がります。男性でBMI 25.0-26.9が最も死亡リスクは低く、女性は23.0-24.9が最も低くなっていて、BMIが低くなると死亡リスクは上昇します。
腹囲の基準値は男性85cm未満、女性90cm未満です。腹囲が基準を超えると内蔵脂肪が溜まっており、将来的な生活習慣病のリスクが高まるとしています。年齢が上がるにつれて、基準値オーバーの人が増えますが、加齢による筋肉の衰えで内蔵をしっかり支えることが難しくなり自然と腹が出てきます。いまや腹囲を気にする人はほとんどいませんし死語に近づいていて見直しが入ってもいい頃かもしれません。
血圧は心臓の収縮期と拡張期により上の血圧と下の血圧がありますが、上が140以上になると高血圧と診断され、159まではⅠ度でまずは食事や生活習慣の見直しからとなることが多いです。130-139は高値血圧といって様子見の段階です。男女とも年齢に伴い血圧は上昇し、年齢に応じた基準を作るべきという意見もありますが、変更しようという動きはありません。健診では低血圧の基準値はありません。日本高血圧学会では家で計る家庭血圧の基準値も示し、最近は家庭血圧のほうが重視されるようになっています。WHOでは上100以下、下60以下の状態が継続しているものを低血圧としています。低血圧の主な症状はめまい、たちくらみ、朝起きられないなどです。低血圧は人口の約1-2%とする説があり、男女比1:2とされています。中年期は高血圧が認知症のリスクですが、老年期では低血圧がリスクを高めるらしいとわかり始めてきました。
健診の心電図検査は普通 20-30秒でせいぜい60秒までです。いつ出るかわからない不整脈をみるにはホルダー心電図を24時間から1週間以上装着する必要があります。結果は自動解析され、判定基準が厳しく設定されてすぐに異常と判定されます。ただし健診結果をみると大半の人は経過観察と記載され、医師の診察が鍵となります。
胸部レントゲン写真はもともと結核の早期発見を目指して戦後始まりましたが、現在は肺がんの早期発見を目的としています。被ばく量少ないといわれていますが、小中学生の健診では省略可となっています。職場健診で医師が必要でないと認める時は、40歳未満なら5の倍数の年齢時のみ実施でもよくなっています。健診のレントゲンは受けたくない人もいるかもしれませんが、労働安全衛生法では会社に義務付けられていて、拒否する場合は最悪懲戒処分ということも有り得ます。肺がん以外にも心臓肥大や大動脈瘤やCOPDや非結核性抗酸菌症がみつかることもありますので、仕事のうちと思って受けて下さい。
貧血の項目には赤血球数、ヘマトクリット、ヘモグロビン量があります。これらが低いと貧血の可能性があり、多くは無症状ですがひどくなると顔色が悪くなる、息切れ、めまい、立ち眩み、頭痛などの低血圧と似た症状がでます。多くは鉄の不足が原因で、生理のある女性の3割が該当すると言われています。赤血球恒数と呼ばれるMCV、MCH、MCHCのいずれも基準値より低い場合は鉄欠乏性貧血の可能性が高いです。MCVが高い時はビタミンB12欠乏性貧血かもしれません。胃炎でビタミンB12の吸収が悪くなると貧血を起こしやすくなります。貧血とは逆に多すぎる時は多血(赤血球増加症)といわれますが、ヘマトクリットが50%を超えると多血の可能性が高まるとされています。ヘビースモーカー、睡眠時無呼吸症候群、高地トレーニングしたアスリートなどは酸欠で多血となる二次性多血症ですが、真性多血症という骨髄の異常で血液腫瘍の一種の可能性もあります。
白血球が増えている場合、風邪などの感染症や、内蔵が慢性的に炎症を起こしていることがあります。タバコで増えることもあります。厄介な病気の代表に慢性骨髄性白血病があります。この場合は赤血球や血小板も増えます。自覚症状はほとんどありません。急性の白血病は体調も急激に悪化するので健診でみつかることはほとんどありません。慢性骨髄性白血病は放っておくと急性転化しめ命に関わることがあり、血液内科を受診すべきです。
血小板は止血の中心的な役割を担う細胞で、低過ぎる場合、特発性血小板減少性紫斑病、再生不良性貧血、急性白血病など怖い病気の可能性もありますが、健診でみつかることは滅多になく、飲んでいる薬のせいかもしれません。多すぎる場合は、風邪などの感染症に罹っていたり、関節リウマチでも増えることがあります。本態性血小板血症という骨髄細胞の異常の厄介な病気も有り得ます。100万以上になることもありますが、初期には症状はありません。重症化すると脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まると言われています。
空腹時血糖値の基準値は70-109で100-109を正常高値と呼んで糖尿病予備軍が含まれるとしています。110-125は境界領域で、126以上は糖尿病の疑いが強くなり、69以下は低血糖です。特定健診の基準値は100未満なので、40歳になると基準がかわります。血糖値が前年よりも急に上がっていたら膵臓がんの可能性もあり、専門医を受診するのが賢明です。
HBA1cは過去1-2ヶ月の血糖値の平均を反映しているとされています。単位はパーセンテージで、全ヘモグロビンに対する糖化ヘモグロビンの割合を示しています。HBA1cが6.5以上で糖尿病の疑いが強いとしていて、7.0以下を保っていれば糖尿病の合併症のリスクがだいぶ減ると言われています。
中性脂肪は普通に口にする動物性脂肪や植物性脂肪と同じものと考えて差し支えありません。筋肉や内蔵に運ばれ消費され、余ると肝臓や皮下脂肪や内蔵脂肪として蓄えられます。基準値は30-149ですが、200や300あったとしてもあまり心配する必要がないかもしれません。食後に跳ね上がる人もいて、500以上に上がるケースもあり、食後10時間以上たってから採血に臨んだほうがいいでしょう。
HDLコレステロールとLDLコレステロールがあり、前者は善玉 後者は悪玉と言われますが、どちらも同じコレステロールで、比重によって分けています。HDLとLDLのバランスが崩れると脳梗塞や心筋梗塞の問題が生じてきます。LDLが多くHDLが少ないと動脈硬化を起こしやすく、それが脳梗塞の主な原因となります。LDLコレステロールは男性は年齢とともに下がり、女性は年齢とともに上がる傾向があります。LDLコレステロールの基準値は60-119で、基準範囲を超える人の割合が4割〜6割いるため、異常であってもさほど心配する必要はなさそうと言えると思います。HDLコレステロールの基準値は40以上で、男女ともに9割以上基準範囲以上になっています。
総コレステロールの基準範囲は140-199で、脂質異常症以外に甲状腺機能や下垂体機能の低下でも上昇します。低すぎる時は栄養不足か甲状腺機能亢進症の可能性が出てきます。総コレステロール値が高い方であれば、LH比(LDLコレステロール/HDLコレステロール)に注目し、2.0以下なら正常で1.5以下が理想的と言われています。
肝機能のASTとALTの基準値は30以下になっています。ただし100以下なら多くの医者はあまりうるさいことは言わないでしょう。大抵は経過観察・食事指導・飲酒制限などで済むはずです。100を超えると肝臓に問題ありという判断になり、ALTがASTより高ければアルコール性肝炎かもしれません。300を超えると入院となりそうで、500を超えると危険な状況といえます。ASTのみ高いと心臓が悪い可能性が出てきます。肝臓を酷使しなければASTは10-20時間、ALTは40-50時間で半減するため、飲酒が原因なら健診の3日前から断酒すれば良い結果になるかもしれません。
γ-GTPは飲酒量のバロメーターと目され、基準値は50以下です。臨床的には500を超えると完全に危険水域です。飲酒だけでなく、慢性肝炎・肝硬変・薬物による肝障害でも上昇します。γ-GTPの半減期は約2週間と言われています。正常値に近づけるためには2週間、できれば4週間禁酒に励むべきです。
総ビリルビン(T-Bil)は肝臓と胆道のスクリーニング検査となります。ビリルビンは赤血球ヘモグロビンの老廃物で、肝臓で処理されて胆汁の一部として十二指腸に放出されて便と一緒に排泄されますが、一部は尿としても排泄されます。尿にビリルビンが増えると尿は茶色っぽくなるので、そうなったら肝臓からの警告かもしれません。基準値は0.4-1.5ですが、体質的に高い人もいて、AST、ALT、γ-GTPが正常で総ビリルビンだけ高い場合は体質の可能性大です。胆道の場合は胆石・胆管がん・膵臓がんなどで胆道が詰まると血中のビリルビン濃度は上昇します。3.0を超えると黄疸が出てきますが、人種的に日本人は初期の黄疸は分かりにくいです。総ビリルビンが高い人は腹部超音波検査を受けてみるといいでしょう。
B型肝炎ウイルス感染のスクリーニング検査にHBs抗原検査があります。抗体検査もあり、過去に感染していれば陽性となりますが、現在感染しているのか特定できません。またワクチンを打っていると感染の有無にかかわらず陽性になります。母親が陽性の場合出産時に感染する母子感染、1988年までは集団予防接種での注射器の使い回しで感染することもあります。感染していても安定していればASTやALT値に影響がありません。B型肝炎ウイルスに感染していたら専門医を受診しましょう。完全に排除する薬はありませんが、ウイルスの数を減らす薬は実用化されています。
C型肝炎ウイルスのスクリーニング検査はHCV抗体検査です。ワクチンはなく陽性者は感染経験者となります。母子感染の可能性は5%程度とされています。消毒不十分な器具で入れ墨やボディーピアスを入れると感染することがあります。感染すると潜伏期間は2週間から半年で、約2割に風邪に似た症状が出て、残りの8割は無症状です。感染者の3割は自身の免疫で排除されますが、残りの7割はウイルスが体内に棲みつき軽い慢性肝炎に移行して、肝硬変や肝臓がんになっていきます。今は効果が高く副作用の少ない薬が開発され、完全排除が可能になりつつありますので、陽性の人は専門医を受診しましょう。
尿糖は腎臓で回収しきれなかった血糖のことです。一般に空腹時血糖値が160-180を超えると検出されると言われています。検査方法は試験紙法で、尿中の糖濃度により試験紙の色が変化するため、それで5段階に評価します。尿糖が+以上の人は、食後の血糖が上がりやすく下がりにくいか、すでに糖尿病に罹っていてずっと血糖値が高い状態にある可能性があります。
尿潜血は肉眼では確認できない微量の血液が混ざってないかをみる方法で試験紙法です。2+以上が陽性で、陽性率は年齢とともに上昇し、中高年の男性で約10%、女性で約20%が陽性となりますが、陽性でも病気とは限りません。尿道炎、膀胱炎、痔や生理、激しいスポーツのあとでも陽性となり、思い当たる原因があればあまり気にする必要はないかもしれませんが、3+の時はさすがに病院に行くべきです。尿蛋白も陽性なら糸球体腎炎など厄介な病気の可能性も出てきます。尿路結石で陽性になることもあります。最大級の痛みを伴うものからあまり痛くない場合もあります。腎臓がんや膀胱がんの可能性も少し考えられ、心配なら精密検査を受けたほうがいいでしょう。
尿蛋白は腎臓病のスクリーニング検査となっています。±が擬陽性で+以上が陽性です。血液中に溶けているタンパク質が腎臓で十分回収されず尿に出てきたものです。病気として、慢性腎臓病、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、高血圧性腎症などの可能性があり、尿路感染症でも陽性となることがあります。健康な人でも疲労や水分摂取量が少なくて、±や+になることもあります。激しい運動後も陽性になりやすく、感染症などの高熱が出たあとや女性の生理前後に陽性となることもあります。±や+が出てもあまり心配はいらないかもしれませんが、尿糖や尿潜血が陽性だったり、血液中のクレアチニン値が高値の場合は腎臓病の可能性があり、腎臓内科で診てもらうと安心です。
クレアチニン(CRE)は慢性糸球体腎炎などの慢性腎臓病のスクリーニング検査です。クレアチニンはクレアチンの最終代謝産物で、クレアチンは筋肉のエネルギー源の一種です。血液中のクレアチニン濃度は供給量と排泄量で変化しますが、供給量は筋肉量、排泄量は腎機能で決まります。男性の方が筋肉量が多いため、正常範囲は男性のほうが高くなり、男性0.61-1.04、女性0.47-0.79となっています。供給量は筋肉量だけでなく運動量によっても変わり、筋トレなど無酸素運動で大量に作られることが知られています。採血前の数日間は筋トレは控えたほうがいいでしょう。
換算糸球体濾過量(eGFR)は血液中の老廃物を腎臓がどれだけ尿に排泄できるかを表す指標で、慢性腎臓病のスクリーニングに用います。慢性腎臓病の初期はほとんど自覚症状はありません。進行すると夜間尿で何度も起きる、足がむくむ、貧血、倦怠感、息切れなどの症状が出てきます。60以上が正常で、44.9以下が異常となります。eGFRはクレアチニン値がわかっていればインターネットのサイトで簡単に計算できます。
痛風の項目といったら尿酸値(UA)です。尿酸の主な供給源はプリン体を含む食品です。尿酸の排泄量は血液のpHによって大きく左右されます。pHが少しでも酸性に傾くと、尿酸が血液に溶けにくくなるため腎臓からの排泄量が減ってしまいます。血液のpHは主に食事内容によって変化し、野菜・果物・海藻・キノコが弱アルカリ性を保つのに良いとされています。仕事のストレスや過度のダイエットでpHバランスが崩れることがあり、筋トレすると筋肉で尿酸が大量に作られることがあります。大量に汗をかくと濃縮されて、一時的に尿酸値が上昇することがあります。尿酸値が高い状態が続くと痛風発作のリスクが上がってきます。腎臓で排泄しきれない余分な尿酸は、血液中のカルシウムと結合して尿酸カルシウムとなり結晶を作り始めます。結晶は比重の関係から下半身に沈んでいき、足の先端特に親指の付け根、踵、膝などの関節に沈着します。それがある程度溜まると白血球が外敵とみなし攻撃を開始して激しい炎症が生じて激痛を引き起こす痛風発作というわけです。患者の95%は男性で、以前は中高年者の病気でしたが、最近は20代でも発症する人が増えてきました。尿酸カルシウムが腎臓に沈着すると腎機能の低下が起こり、尿路に沈着すれば尿路結石となります。尿路結石は痛風患者さんの数%〜10%以上で合併します。尿酸の基準範囲は2.1−7.0で、2.0以下と7.1-8.9が要注意、9.0以上が異常となっています。痛風発作が起きるかどうかは個人の体質などもあり、7を超えてなる人もいれば、10でも大丈夫な人もいます。7.1-8.9でも痛風発作を経験していなければ生活指導で経過観察、経験があれば尿酸値を下げる薬を処方するのが一般的です。尿酸値2.0以下は低尿酸血症といい、遺伝的に腎臓から尿酸の排泄が活発な人で、男性の0.2%、女性の0.4%が該当し、とくに自覚症状はなく、普通に暮らしても不都合なく、通常の人より尿路結石になりやすいと言われています。
尿酸値が高いとアルツハイマー病を含む認知症のリスクが低くなることが知られています。尿酸には抗酸化作用があるのです。パーキンソン病などの神経難病にも罹りにくく、がんの予防効果を示唆する研究結果もあります。しかしむしろがんに罹りやすいという結果もあり、心臓病や脳卒中のリスクもあるため、ほどほどに高いのが理想的と言えそうです。
リウマチ因子(RF)は関節リウマチのスクリーニングの指標になります。関節リウマチは膠原病と呼ばれる自己免疫疾患の一種で、自分自身の関節や骨を攻撃する病気です。基準値は病院等により多少異なりますが、だいたい15以下で、それ以上が陽性となります。リウマチに罹っていても陽性にならない人は20-30%いて、リウマチでないのに陽性になる人が10%前後います。関節リウマチは男性よりも女性が3倍以上なりやすく、40-60代に多いのが特徴です。最近は高齢での発症も増えてきています。現在完治は困難ですが、早めの治療で寛解を目指して炎症や症状がほとんどなくなることを目指せるようになっていますので早期発見が大事です。
視力検査はCの字のランドルト環で静止視力を測っています。最近の眼科ではオートレフラクトメーターという、覗き込むだけで近視、乱視、遠視を数十秒で判定できるものが普及してきましたので、今後は健診や人間ドックにも取り入れられることでしょう。
眼底検査は眼の奥の網膜を撮影して眼の病気をスクリーニングする検査です。病院では散瞳薬を使用して、診断精度を高めてしますが、しばらく眼がまぶしく感じます。健診では散瞳薬を使わないのが一般的です。失明の原因は40%程度が緑内障で、それに次ぐのが網膜色素変性症で、遺伝病の一種のため、家族や親戚にこの患者がいたら、若いうちから5年に1回くらい眼底検査を受けておいたほうがいいかもしれません。
聴力検査は難聴のスクリーニング検査です。普通は1000hzの低音域と4000hzの高音域の2音で、平均85デシベル以上の騒音作業の職場の人は6音の検査が義務付けられています。最近は高齢者だけでなく、コンサートやライブハウスで爆音を聴き続けたため音響外傷の難聴ななる若者や、ヘッドフォンやイヤホンで聴いていて難聴になるリスクが高くなっている人もいます。音響外傷では耳鳴りや聴覚過敏になり、多くは一過性ですが本物の難聴に進行することもあります。聴力検査にひっかかったら耳鼻科に行って診てもらったほうがいいでしょう。
がん検診のうち市町村が行うのは、肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、子宮がんの5つに限られています。
大腸がんは便潜血検査と大腸内視鏡検査の2段階になっていて、まず便潜血して陽性者には大腸内視鏡検査が勧められます。対象は40歳以上で毎年受診が推奨されています。便潜血は2日プラスチック棒で大便をつついて便を付けて容器に入れて提出します。痔や女性の生理で血が混ざっても陽性となります。便潜血陽性なら大腸内視鏡検査を受けましょう。健康保険で4000-5000円で済みます。大腸がん検診1万人あたり要精密検査は592人、実際に大腸がんが見つかるのは17人ということです。
胃がん検診は50歳以上を対象に原則2年に1度のタイミングで受けることが推奨されています。検査はバリウムと内視鏡から選べるようになっています。個人負担はバリウム1500円で、内視鏡は4000円です。受診者1万人あたり要精密検査は652人、実際に胃がんが見つかるのは12人ということです。バリウム検査は放射線被ばくも少なからずあります。胃がん検診を受けるとしたら内視鏡のほうが得という結論です。
胃がんの最大原因はピロリ菌なのでピロリ菌の有無を調べておいたほうがいいでしょう。ピロリ菌は不潔な水を飲むことや、感染者の唾液から感染する説も有力です。感染は乳幼児期に限られ、小学校高学年ぐらいになると免疫の働きで大抵は排除されます。ピロリ菌は侵入すると胃壁のひだに取り付き一生住み続けます。ピロリ菌に感染するとほとんどの人が慢性胃炎になります。痛みはある人とない人がいます。胃潰瘍になる人もいます。慢性胃炎が続くと胃粘膜が変性してやがて胃がんになると考えられていますが、全感染者の0.3%くらいです。ピロリ菌に感染しているかは血液中にピロリ菌抗体があるかで判定されます。
血液中のペプシノゲンというタンパク質の濃度は胃粘膜の劣化の状態を反映します。AからDまでの4段階に分け、これをABC検査と呼びます。A群は胃がん健診を受けなくても大丈夫でしょう。B群は数年に1回内視鏡検査を受けたほうが良さそうです。C群は1-2年に1回は内視鏡検査を受けるべきです。D群は内視鏡検査を毎年受けたほうが良さそうです。
肺がん検診は40歳以上が対象で毎年1回受けることが推奨されています。内容は胸部レントゲン撮影です。1日の喫煙本数×年数の喫煙指数が600以上の人は喀痰検査が追加されます。受診者1万人あたり要精密検査は160人、実際に肺がんが見つかるのは3人ということです。検診での肺がんの早期発見はかなり難しく、低線量肺がんCT検査を行う病院が増えてきて、実際早期発見率が普通のレントゲン写真よりも高いと言われています。被ばく量は通常のCTの10分の1で、評価はまだ定まってないとのことですが、ヨーロッパやアメリカの研究では肺がん死亡率を20-30%減らす効果があったとする論文もあります。料金の相場は1万〜1.5万程度です。
乳がん検診の対象は40歳以上で2年に1回の受診が推奨されています。項目は問診とマンモグラフィー(乳房X線検査)です。乳腺密度が高い人は見落とす可能性が高くなると言われ、超音波検査を追加することがあります。受診者1万人あたり要精密検査は630人、実際に乳がんが見つかるのは30人ということです。乳がんは早期発見できればほとんどの人は治るとされています。20-30代の乳がん検診は個人で受ける必要があり、全額自己負担になりますが、だいたい1万円となります。何かしら自覚症状があれば健康保険の対象になるので、検診を待たずに病院に行くべきです。
乳がんの5-10%は遺伝性と言われ、BRACA1遺伝子とBRACA2遺伝子のいずれかに病的変異があると、乳がんだけでなく卵巣がんにもなりやすいことが知られ、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)と呼び、遺伝性乳がんの6割程度はHBOCと考えられています。HBOCの人は70歳までに50%以上の確率で乳がんや卵巣がんになることがわかっています。条件を満たせば健康保険でBRACA遺伝子を調べられますが、そうでない人は全額自費で20万円程度かかる場合もあります。BRACAの異常は子どもにも受け継がれます。遺伝子変異のある人は予防的手術で乳房や卵巣・卵管を切除することもあります。
子宮がんは女性の第5位のがんで、子宮頸がんと子宮体がんがあります。子宮体がんは女性ホルモンが関係し、出産経験なし、閉経が遅いなどがリスク因子になります。約5%は家族性・遺伝性と言われます。50-60代がビークとなります。子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)感染が主な原因で、性交によって感染しますが、大半は免疫で排除されます。HPVワクチンで発症リスクを6-7割減らせます。20歳過ぎから急増し、40-50代でピークに至ります。子宮がん検診は子宮頸がんが対象で、20歳以上で2年に1回受けることが推奨されています。内容は問診と子宮頸部に専用器具を入れて表面の細胞を採取して顕微鏡でしらべます。受診者1万人あたり要精密検査は240人、実際に子宮頸がんが見つかるのは2人ということです。
前立腺がんは職場健診にPSA検査を加えている会社もあります。PSAの基準値は4以下で、4-10はグレーゾーンと呼ばれています。グレーゾーンの25-40%にがんが発見され、100以上だと前立腺がんが強く疑われ転移も疑われます。4以下でも前立腺がんの人はいますし、10以上でも発見できないこともあります。前立腺がんは死亡率の低いがんで、5年生存率は99.1%で、ステージⅠとⅡは100%です。そのためPSAでスクリーニングする意味があるのかという議論があり、精密検査を受けた結果勃起不全などになる人もいて、デメリットの方が大きいという意見もあります。アメリカ予防医学協会は前立腺がんを疑う症状のない男性にPSAを用いた検診を行わないように勧告を出しました。日本でも死亡率減少効果ははっきりしないとして勧めていません。しかしPSA検査により死亡率が下がったという研究結果もあり、日本泌尿器学会は普及すべきという姿勢です。
糖質フリー、糖質ゼロと謳ったビールもありますが、100ml当たり2.5g未満なら糖質フリー・オフ、0.5g未満なら糖質ゼロと表示できることになっています。またアルコールは1g当たり7kcalです。ですので糖質ゼロにしても減らせるカロリーはたかが知れているということになります。
タマゴは1日何個までという議論があります。2厚生労働省から発表された日本人の食事摂取基準の2005年版〜タマゴは1日1個までという結論でしたが、それにはエビデンスがなくタマゴの上限量はなくなりましたが、2020年版ではコレステロール200mg/日未満に留めることが望ましいとされ、これに則ればタマゴ1個にコレステロールは250-300mg含まれるため食べられないことになります。あまり気にせずタマゴは食べたいだけ食べていればいいです。
ペットボトルのお茶にはビタミンC(アスコルビン酸)が添加されています。ビタミンCには強い抗酸化作用があり、尿中の糖分や赤血球を分解してしまい、本来陽性の人が陰性と判定されることがあります。尿中のビタミンC濃度が50ml/dl以下ならほとんど影響を受けませんが、それ以上になると徐々に影響が大きくなります。ビタミンCのサプリメント1000mgを摂取すると10時間以上尿中濃度が50mg/dlを超えることが確認されています。最近は腸内でゆっくり溶けるビタミンCも売られています。健診の前日や当日はビタミンCを控えるよう注意しましょう。
感想
健康診断からがん検診までわかりやすく書かれていますが、一般に人にとってはいい本と思われます。こういう本を読んで検診をするかどうかを考えて、実際受けてみたらいいと思いました。