著者紹介
2020年5月30日初版の幻冬舎から発刊された本で、著者は江田証氏です。江田氏は1971年生まれで、消化器病の専門医で、クリニックを開業されておなかの不調をかかえた人の診療をされていて著書も多数です。
腸内細菌の逆襲
内容
小腸で起こっている細菌異常増殖によって1700万人もの日本人のお腹の不調が起こっていることが想定されています。人間の不摂生や食べ過ぎにより小腸内に過剰な栄養分が入ってくると最初は吸収する量を増やして対応します。吸収する以上の栄養分が入ってくると、吸収されない糖は小腸内に漂うになり、糖をエサとする腸内細菌が小腸内で増えることになります。それにより糖の吸収は抑えられ血糖の上昇は緩やかになり、腸内細菌は血糖上昇から守ってくれていました。しかし細菌が代償する以上に栄養分が過剰となり病的なまでの形相となったのがSIBO(小腸内細菌増殖)という病気なのです。
最近の研究では腸内細菌は脳に強いストレスを与えメンタルのバランスを崩すことがわかってきました。動物実験では自閉症は腸内細菌の異常が関係していると判明し、腸の細胞と細胞の間に隙間がありウイルスや細菌の作り出す毒素の侵入を許してしまう腸であるとわかりました。腸内細菌によって作られる4ESPという毒素が、自閉症マウスでは血液中に80倍に増えていました。前もって善玉菌のプロバイオティクスを与えておくと、ストレスを与えてもストレスホルモンが分泌されにくくなることも判明しています。脳の海馬などに存在するBDNFという神経細胞を活性化してその増殖を促す物質は、腸内細菌をなくしたマウスでは発現しなくなりました。
もともと小腸の動きは非常に激しく素早いもので、小腸には細菌は定着せずに増えすぎないようになっています。しかし乱れた腸内細菌により脳はCRHを分泌させられ小腸の動きを鈍くし、小腸内に腸内細菌がコロニーを作りやすくなりSIBOを引き起こす原因にもなります。
人の腸内細菌は、バクテロイデス門、ファーミキューティス門の2つで90%、プロテオバクテリア門、アクチノバクテリア門をあわせた4つでほぼ100%を占めています。ニボルマブというがんの治療に使われる免疫チェックポイント阻害剤は、腸の中にアッカーマンシア・ムシニフィラという腸内細菌がいない患者では効かないのです。この菌は腸のバリア機能を高め肥満を防ぐ効果もあります。増やすには茶カテキンやブドウやクランベリーのポリフェノールであることが発表されています。大腸がんの患者の腸の中には、フソバクテリウム・ヌクレアタムという腸内細菌が増えていることがわかりました。食道がんや膵臓がんでもフゾバクテリウム陽性の人は予後が悪いといわれています。虫歯などで歯を失っている人は胃がんのリスクが2倍になり、膵臓がんや食道がんのリスクを高めます。肉や卵に含まれるコリンを摂取すると、腸内細菌がTMAOを作り出して動脈硬化を強力に進行させ、心筋梗塞を引き起こすことがわかってきました。
正常な腸内細菌のバランスとは、なるべく多種類の腸内細菌がバランスを保って存在することで、なるべくたくさんの種類の食べ物を食べることが必要となります。腸内細菌が腸の中で作る代謝物で代表的なものが短鎖脂肪酸です。短鎖脂肪の代表が、酢酸、プロピオン酸、酪酸です。短鎖脂肪酸は大腸の粘膜上皮の栄養源となります。酢を飲んでも上部消化管で吸収されて丁まで届かないため、腸内細菌に酢酸を作らせるしかないです。短鎖脂肪酸は血液中に吸収され全身を巡り、代謝を高めて温度を上げやすい体質にし、身体に脂肪がつきづらくなって肥満を防ぎます。腸活などといって発酵食品や水溶性食物繊維を積極的に摂取するような特集もみられますが、ふだんからお腹の調子が悪い過敏性腸症候群の患者さんの糞便中には、短鎖脂肪酸量が過剰に増加していて、その量が多いほど重症であることが報告されました。短鎖脂肪酸によって増えるインクレチンは、過剰になると消化管運動を鈍らせて過敏性腸症候群の症状を悪化させ、下部食道括約筋をゆるめ逆流性食道炎をおこす側面もあります。強い抗生物質の点滴によって、腸を整えてくれる良い腸内細菌が死んでしまい、ある種類の細菌だけ生き残り偽膜性腸炎が起こることがあります。毒素を産生してひどい血便、下痢、腹痛で苦しみ、重症化すると死亡することもあります。治療には毒素を産生する原因菌を殺す抗生物質をさらに投与しますが、抗生物質の効かない耐性菌が増えてきています。そういった場合は糞便移植という腸内細菌を丸ごと総とっかえする治療法も出てきました。
小腸内は健常人では、細菌は1mlあたり10の2乗~3乗個検出されますが、過敏性腸症候群や機能性ディスペプシアの人では3乗~7乗個で、SIBOでは5乗個まで増えます。SIBOは、おなかの張り、ガス、腹痛、下痢、便秘の症状があっても内視鏡、CT、超音波検査では異常がなく原因は精神的なストレスと説明されます。ストレスの少ない休暇中でも症状の苦しみ、過敏性腸症候群と診断されて投薬されますがよくなりません。過敏性腸症候群と考えられてきた患者さんの84%はSIBOだったという論文があります。SIBOはここ数年で強く認識されるようになったもので、医師に認識がなくても驚くことではありません。
お腹の不調な人の腸内細菌は正常の人の約5倍のガスを産生させていることがわかり、このガスを調べることでSIBOの原因や治療法も解明されてきました。糞便移植以外に腸内細菌叢を変える薬に、メトホルモン、防風通聖散、コレスチミド、パンクレリパーゼがあり、(間欠的)断食、肥満外科手術でも変わります。
過敏性腸症候群と診断された人の中でかなりの割合で日常的な疲労も経験し、慢性疲労症候群と診断される方もいます。疲労の原因として甲状腺機能の低下や、ビタミンB12不足による貧血の場合もあります。ブレインフォグというぼーっとしたり集中力がなくなることがあり、原因の一つとして低血糖があります。過敏性腸腸症候群の人の多くは、炭水化物を食べた後に軽度の低血糖症に見舞われることがわかってきました。SIBOの合併症に肝性脳症があり、増えすぎた腸内細菌が尿素やタンパク質を分解してアンモニアという毒素を産生するからです。精神錯乱や昏睡状態になることもありますが、軽症では睡眠と覚醒のリズムが逆転したり、抑うつ状態になります。この治療にはネオマイシンという抗生剤の治療になります。腸内細菌のエサとなる炭水化物の制限でも改善します。
線維筋痛症という筋肉を包み込む筋膜という膜に拘縮と肥大が起こって広範に筋肉痛が起こることです。根本の原因が不明で診断と治療が難しい病気です。血液検査でリウマチや膠原病を疑う所見がなければ異常なしと診断される可能性があります。線維筋痛症の診断には、身体の筋肉領域内に存在する18個の圧痛点のうち、11か所以上で圧痛や痛みが感じられて3か月以上続く場合は線維筋痛症と診断されます。標準治療法は存在しませんが、SIBOの患者さんに線維筋痛症と診断される患者さんが多いのは事実で、関連性が疑われています。SIBOでは呼気検査で水素とメタンの上昇する2つのタイプに分けられますが、線維筋痛症では水素が上昇することが特徴で、その水素濃度も線維筋痛症を合併しない人より著しく高い結果でした。水素濃度の上昇はエンドトキシンの生産量が増えたことを意味し、エンドトキシンは肝臓で解毒されますが、解毒能力を超えると全身に毒物が広がる状態に陥る可能性があります。エンドトキシンは痛みを引き起こすことが知られています。実際ネオマイシンで水素濃度が正常になると線維筋痛症の症状も緩和されました。女性では慢性骨盤痛を訴える方もいますが、その診断と治療は難しいものです。慢性骨盤痛を患う方が、健康的な便通を取り戻した後に症状が緩和することがわかっています。痛みが排便により楽になる場合は過敏性腸症候群の可能性の方がより高くなります。経口避妊薬は消化管の運動機能に影響を及ぼしている可能性があります。エストロゲンというホルモンは痛みに対して保護的に働くため、生理前に腹痛がひどくなる方はたくさんいます。もともと女性の方が男性より過敏性腸症候群になりやすいのですが、女性は消化管の運動の圧力が弱く、消化管通過時間が長いために便秘になりやすいのと、胃腸の痛みを感じる脳の前部帯状回と島皮質の活動性が女性の方が高いためです。また日本人の腸内細菌の特徴で男女差が非常にあることもあります。膀胱の痛みを訴える間質性膀胱炎も原因がわかっていません。症状は排尿痛、排尿困難、頻尿があります。間質性膀胱炎の患者は過敏性腸症候群とも診断される方は多く、SIBOとの関係性を疑わす研究もあります。排尿のタイミングの前に小腸の蠕動運動が起きることが観察され、蠕動メカニズムの機能障害と膀胱機能障害の関係が考えられます。
過敏性腸症候群はストレスとの関連から抗不安薬や抗うつ薬を処方されることがあり、実際抗うつ薬はいくらか期待の持てる結果が出ました。アミトリプチリンは不安やうつを解消する手助けだけでなく、腸に由来する痛みの軽減にも役立つ性質を持っていると判明しましたが、アミトリプチリンの副作用に便秘があり、それで症状を緩和しえます。
ジメチコン(商品名ガスコン)はガスの症状を軽減できると宣伝されていますが、実際には効果はわずかで症状の緩和を実感できない患者がほとんどです。
過敏性腸炎はローマ基準という診断ツールでしますが、下痢・腹痛・腹痛症状に注目して腹部不快感は除かれました。しかし実際には腹部膨満感やガスの問題にこそ過敏性腸症候群の病気の本質はあったのです。健康な人は毎日何リットルものガスを生成しますが、ほとんどの人はすべてのガスを肛門から外に出すだけでなく、再び腸から吸収して呼吸するときに口から吐き出しています。腸管の中で生成されるガスのほとんどは腸内細菌が発酵によって作り出す水素ガス、メタンガス、二酸化炭素です。水素ガス、メタンガス、二酸化炭素は無臭で便秘になると臭い息が出るというのもウソです。1980年代までは過敏性腸症候群の人と正常な人に直腸からガスの排出量に目立った違いは見出せませんでしたが、通常の呼吸として出るガス及び直腸を通じて出るガスのすべてを測定しなおすと、過敏性腸症候群の患者さんは細菌起源のガスを約5倍多く生成していることがわかりました。過敏性腸症候群の人は抗生剤使用中に症状が改善しており、その後の研究で細菌異常増殖が過敏性腸症候群の大きな原因で、抗生物質が症状を改善すると証明されました。過敏性腸症候群の人の中では下痢を頻繁にする方と便秘が主な主症状の方がいて、どちらも出る方もいますが、細菌が腸の中で作り出すガスの種類によって決定されると判明しています。SIBOの患者さんでは呼気検査でメタンまたは水素の濃度が高いです。メタンの濃度だけが高いと便秘になり、水素が多いと下痢が多くなります。メタンガスは腸の動きを活発にさせるのですが、小腸から大腸ではなく反対方向への動きであるため便秘を引き起こしていました。メタンガスが多い人は便秘が多く、メタボ体型の人が多く、糖尿病の程度がひどく、狭心症や心筋梗塞が多いという報告もあります。便秘は予後を短くすることもわかっています。水素ガスが多いとやせ型の体型が多く、心不全患者は死亡率が高いことも近年報告されました。最近は硫酸還元菌によって匂いの強い硫化水素が発生するSIBOが報告され、便秘になりやすく腹痛が生じやすいことがわかっています。
小腸が健康を保つと、細胞の中のミトコンドリアが活性化して元気が湧いてきます。エネルギーが作られないと睡眠の質が落ちて朝起きても疲れが取れなくなってしまいます。SIBOにかかるとほんのちょっとしか食べてないのにすぐにおなかがパンパンに張ってしまい、頑固な下痢や便秘、腹痛、おなら、お腹のゴロゴロした違和感などに悩まされるようになります。SIBOの患者さんにカプセル内視鏡検査で小腸内を観察すると、小腸液が混濁し、小腸のびらんや潰瘍が多いことが報告されました。SIBOではプロテオバクテリア門の細菌が増えて炎症が起こることが多く、長寿者ではプロテオバクテリアが少ないことがわかっています。現在の医学では体のどこかに慢性的な炎症が起きていると老化を早めるといわれています。逆流性食道炎に胃酸を抑える薬が山ほど処方されていますが、胃酸を抑える薬がかえって症状が悪化する人もいます。薬で胃酸が不足してしまい雑菌を殺すことが出来なくなり、小腸の中で細菌が爆発的に増えて過剰なガスを産生して、小腸から胃まで逆流して胃を圧迫して胃酸を食道に逆流させたりするのです。
小腸はガスが生まれるのに慣れていない臓器で、小腸に過剰なガスが生まれると風船のように膨らませられてしまいます。食後はガスが増えて風船のように膨らみ、ガスが小腸を通り過ぎるとしぼみます。これを繰り返すと小腸は傷つき、本来持っている栄養分の吸収や免疫力が落ちてしまいます。50%のSIBOの患者さんでは腸の粘膜の通りがよくなりすぎて、本来は通してはいけないものまで腸の粘膜を通過させてしまうようになり、リーキーガット(漏れる腸)症候群となります。正常では増殖が抑えられているカンジダアルビカンスやカンジダグラブラーラ等のカビ(真菌)の増加がみられるのが特徴です。
小腸には細菌異常増殖を防ぐために蠕動運動の仕組みがあり、食事をしてない時90分ごとに発生するようになっています。体が食べ物を消化して栄養分を吸収する食事中だけは動きが停止するようにできています。間食すると蠕動運動が止まってしまいます。理想的には蠕動が毎日およそ9回発生しますが、これらが悪くなるとSIBOになってしまいます。
SIBOには口の中にいるべき口腔内細菌が小腸の中に棲みついて増えるタイプと、大腸にいるべき菌が小腸で増えるタイプがあります。大腸型の方がビタミン欠乏を生じたりしてより重篤という報告があります。SIBOを引き起こす原因は、回盲弁(バウヒン弁)の機能不全で大腸から小腸に菌が逆流すること、膵酵素の分泌障害や慢性膵炎、胆嚢摘出で胆汁酸の抗菌作用が減弱すること、腸まで広がる子宮内膜症、クローン病(特に狭窄を伴う場合)、薬や胃切除などによる胃酸の不足、過去の腹部手術による腸の癒着、小腸の憩室・腸管アミロイドーシス・慢性特発性偽性腸閉塞などの紹介疾患、エイズやHIV関連の腸疾患、糖尿病パーキンソン病などの全身疾患、老化・加齢、食生活の乱れなどがあります。胃下垂とは胃が骨盤の方まで下がってしまう状態ですが、様々な腹部症状に対して抑制的に働き、胃部不快感が少なく、肥満がほとんどなく、血糖値・血圧・中性脂肪が低く、HDLコレステロールが高いことが多く健康に有利に働きます。胃がむかむかむかしたりもたれるのは、胃下垂ではなく機能性ディスペプシアという別の病気だったのです。
腸を守っている粘液層は、高脂肪食の西洋食ではペラペラになります。糖尿病やメタボの人は粘液層が薄くなっていて、糖尿病患者の約24%に菌血症が起こっています。西洋食は細菌のエサの食物繊維が少なく、腸内細菌は粘液に含まれるムチンを食べるようになり薄くなるのです。それによりリーキーガットが起きます。様々な有害物質が侵入すると腸に慢性的な炎症を起こします。腸のバリア機能を高めるのが地中海食で、腸を守る酪酸を増やします。リーキーガットを悪化させるものに、果糖、アルコール、痛み止め、歯周病菌、ストレス、激しい運動、食中毒、があります。
腸にはカハール細胞とビンキュリンタンパクがあり小腸の動きを調整しています。カンピロバクター菌、サルモネラ菌、病原性大腸菌、赤痢菌などの食中毒菌が小腸に感染すると、毒素に対する抗体を産生しますが、その際に毒素に構造が似ているビンキュリンに対する抗体も産生してビンキュリンタンパクが破壊され小腸の動きが低下してしまいます。メトホルミンやルビプロストン(商品名アミティーザ)や亜鉛がリーキーガットを改善することが証明されています。小腸の炎症を抑えて腸を強くする食事にフィッシュオイル EPA・DHAのω3系不飽和脂肪酸があります。地中海食ですくぁられるオリーブオイルや、ココナッツオイル、ギーもおすすめです。カフェイン、グルテン、高FODMAP食、加工された糖、加工食品は避けましょう。リーキガットになると肝臓に負担がかかるため、水分をよくとりブロッコリーなどの抗酸化作用のある低FODMAPの緑黄色野菜を摂りましょう。傷ついた丁をいやすには骨のスープ(ボーンブロス)が良いことが知られています。ゼラチンが多く含まれるからです。FODMAP成分の多い膝部などの軟骨性の骨は除きます。SIBOではビタミンA、D、Eが不足しがちになるので、毛髪ミネラル検査で調べてもらうようにした方がいいでしょう。毛髪の方が血液検査より長期間の状態がよく把握できます。不足していたら経口ではうまく吸収できないため筋肉注射をします。腸管粘膜の再生にはL-グルタミンが必須なので服用することも有用です。プロバイオティクスで最もよく知られている2つの種類はアシドフィルス菌とビフィズス菌でしょう。過敏性腸症候群の人では健康な人と比べると少なめであろうということが判明しました。しかしそれらを補っても改善に役立たず、副作用に見舞われたケースもありました。SIBOではただでさえ細菌が増えているため、火に油を注ぐような場合もあります。ブレインフォグはD-乳酸アシドーシスという状態で、腸内細菌が作り出したD-乳酸が血液中で増えすぎるためで、ビフィズス菌や乳酸菌のサプリメントの長期間摂取者やヨーグルトの摂取者でみられました。リファキシミンなどの抗生物質でSIBOの治療を行い、サプリメントの中止で約70%は腹部症状改善し、約85%でブレインフォグの症状は消失しました。乳酸菌はD-乳酸アシドーシスを作り出しやすいとされています。納豆やヨーグルトは高FODMAP食で、小腸で吸収されやすいため細菌のエサとなりやすく、人によってはガスや腹痛、下痢や便秘になる可能性があります。
SIBOの有無を調べるのは現在は呼気検査です。ラクツロース呼気検査が有用で、ラクツロースは体に吸収されない唯一の糖で、5-6mの小腸の最後まで到達することができます。方法はラクツロースのシロップを飲んで、3時間にわたり20分ごとに吐いた息のサンプルを採取します。小腸内の細菌はラクツロースをエサに消化発酵させて二酸化炭素、水素、メタンガス、硫化水素を生成します。呼気から検出可能なのは水素とメタンだけで、これを測定して判断します。大腸の細菌の影響はおよそ2時間かかり、90分もしくはそれより早い時間で水素ガスがベースラインより20ppm以上増加していると判明した場合、メタンガスでは10ppm以上増加しているとSIBOと診断するという北米のコンセンサスがあります。SIBO陽性ならリファキシミンかネオマイシンを10-14日服用してもらいます。この抗生物質はごく微量しか血流に吸収されません。SIBOの治療にはエレンタールという成分栄養剤もあります。エレンタールに含まれる成分は消化管の最初の60cmで吸収され細菌が異常増殖している領域に到達する前に吸収されます。エレンタールはクローン病にも使用され、好酸球性食道炎・胃腸炎にも効果があります。好酸球性食道炎・胃腸炎は主に小麦やミルクに対する遅延型アレルギー反応であることもわかっています。
食物繊維を多く含む食事を1日5-6回摂るように指導されたケースもありますが、これらはどちらも逆効果です。人工甘味料も摂らないことを勧めます。低FODMAP食で1日3食、間食はしないことです。
1日につきコップ8杯の水を飲むこと、タンパク質は制限不要ですが、高脂肪はリーキーガットの原因となるため脂身の少ないものがおすすめです。ご飯は大丈夫ですが、冷やすと難治性でんぷん(レジスタントスターチ)となり腸内で発酵してガスを発生させるため温めて食べることが重要です。コーヒーは豆から出来ていてガラクトオリゴ糖に似た成分がわずかに入っていて腸内で発酵するため1日1杯程度にしましょう。
日本人の便秘の女性ほどビフィズス菌が多いことが判明しました。ビフィズス菌は便の水分を吸収して便を硬くします。ビフィズス菌入のヨーグルトで便秘が改善する人がいますが、ヨーグルトの中の乳糖のせいです。
海外の研究でデブ菌、やせ菌などの存在が報告されましたが、日本人にはそれはまったく当てはまらないことがわかってきました。デブ菌とされたファーミキューテス門の菌は腸管の免疫力を高め、長寿に関係していることがわかりました。やせ菌のプロテオバクテリア門は長寿の人には少ない結果も出ました。日本人の腸内細菌は非常に独特で、オーストリア人やフランス人と似ているものの重なりは少ないです。中国人とアメリカ人は酷似しています。日本人は男女差が顕著で、男性にはプレボテラが多く、軟便の男性にはフソバクテリウムとビロフィラが極端に多くいいとは言えず、脂肪は避けたほうがいいでしょう。ビロフィラは硫化水素を産生し脂肪肝炎を悪化させる好ましくない菌です。日本人女性はビフィズス菌、ルミノコッカスという発酵を起こす菌、アッカーマンシア・ムシニフィラという善玉菌が多くなっています。
人間の免疫力を高めてちょっとの粘膜を健康に保つ細胞が発見されました。免疫力を高める細胞はTreg細胞です。Treg細胞は腸内細菌の刺激によって生まれ、動物実験で17種類のクロストリジウム属の菌を投与するとTreg細胞がたくさんうまれましたが、単一の細菌を飲んでも増えませんでした。
SIBOの代替療法として存在するのがハーブです。がんを予防しうる食品のトップはニンニクです。ニンニクとレモンの組み合わせはよく、にんにくの成分のアリシン、ココナッツオイル、フコイダン、ベルベリン、ニーム、バイオフィルム抑制剤、腸管運動促進剤のサプリメントなどもあります。
お腹の不調にはおならがあります。男性なら14回程度、女性なら7回程度が普通です。普通の倍以上出ると多いと言えます。お腹に細菌を入れないことが大事で、食前の歯磨きが有効です。入れ歯があればよく洗うようにしましょう。飛行機中は気圧が下がりお腹の空気が膨張してガスが出やすくなったり腹痛が起きたりします。
腸内フローラ検査がありますが、便に出てきた細菌がどこに棲んでいた細菌なのかがわからないことが弱点です。SIBOに対する糞便移植はまだ研究段階で、現時点では有効性は高くありません。逆に悪化するケースも報告されています。
感想
ちょっと題名には違和感はありますが、医師でもSIBOを知らない人は多いと思われ、病態を考えるとわかりやすいため、それに応じた対応をして、症状の改善ができれば、免疫力も上がって健康な生活が長く続けられると思いました。