たんぱく質の新常識

著者紹介

2023年2月11日初版の宝島社から発刊された本で、監修は藤田聡氏です。藤田氏は1970年生まれで、ノースカロライナ州ファイファー大学スポーツ医学・マネジメント学部を卒業さら、現在は立命館大学スポーツ健康科学部教授で、運動生理学を専門とされて、著書も多数あります。

 

たんぱく質の新常識

内容

タンパク質は体重の30-40%を占め、筋肉・血管・皮膚など体を形作ったり、機能を維持したり、熱を生み出す重要な栄養素です。筋肉は80%がたんぱく質ならできています。たんぱく質の摂取不足や運動不足による筋肉量の低下が問題視されています。高齢者では転倒・骨折リスクを高め、若い人でも無理なダイエットや活動量の減少で、やせていても肥満者のように生活習慣病のリスクが高まる可能性があるという報告もあります。たんぱく質不足で筋肉量が減ると基礎代謝が下がりやせにくく太りやすくなります。

2022年に握力が強い人ほど生物学的年齢が低いという論文が発表され、握力に代表される全身の筋力の低下が生物学的加齢に関連するというものです。

有酸素運動ではエネルギーは消費しますがやせることはできません。筋トレは唯一基礎代謝を上げる運動です。健康体を維持したいのなら筋トレとたんぱく質の十分な摂取で筋肉を維持することが大切です。1日3食毎食20-30gのたんぱく質を摂ることを心がけましょう。運動や筋トレの習慣がある人の1日の摂取量の目安は(体重(kg)×1.62)gで、分割して摂るのがポイントです。入浴で40-42℃のお湯に約20分つかって体が温まると、HSPが増えて筋肉の合成力が高まり傷んだ細胞が修復されます。

2020年に厚労省は、50-64歳は1日のエネルギー量の14-20%、65歳以上は15-20%をたんぱく質で摂ることを摂取目標量としました。

運動不足が2週間続くと若者は筋力の3分の1、高齢者は4分の1を失うことが明らかとなり、失った筋肉量を取り戻すには運動不足だった時間の3倍以上の時間が必要で、高齢者は容易ではないとされました。筋肉量のセルフチェックとして、ふくらはぎの一番太い部分を親指と人差し指で囲みましょう。囲めない人は筋肉が衰えている可能性は低く、隙間ができるようでは衰えている可能性は高くなります。

通常はWWP1がKLF15の分解を促しますが、血糖値が上昇するとKLF15の分解が抑制され筋肉内に蓄積して筋肉が減少することがわかりました。たんぱく質は朝食で摂取すると吸収がよく筋肉の肥大率が上がることがわかっています。

エネルギー代謝には基礎代謝、生活活動代謝、食事誘導性熱産生(DIT)があり、割合は約60%、30%、10%です。DITはたんぱく質を食べることで増やせ、脂質は約4%、糖質は約6%でたんぱく質は約30%がDITで消費され、筋肉量が多いほどDITは高くなることも明らかになっています。食べ物をよく噛むことでもDITは高まります。

空腹時、エネルギー不足時は筋肉のたんぱく質が分解されエネルギー源となり、食事で十分なたんぱく質が補給されないと、筋肉は分解され続けみるみるうちに減ります。1日推奨量のたんぱく質を摂れていても、3食に偏りがあると筋肉量は低下することがわかっていて、少量なたんぱく質を小分けに食べても筋肉維持にはあまり効果がなく、朝・昼・夕の毎食たんぱく質を十分摂取しましょう。たんぱく質20gは肉や魚の場合およそ100gです。

アルコールは筋肉の合成を阻害することがわかり、トレーニング当日の飲酒は控えて、翌日以降のトレーニングしない日にジョッキ1杯程度のお酒を楽しむようにしましょう。

うつ病の原因の一つとして脳の栄養不足があります。神経伝達物質の主な材料はたんぱく質で、物質の合成にはナイアシン・ビタミンB6・鉄などのビタミン・ミネラルも必要ですが、たんぱく質を十分にとって心の健康を保ちましょう。

免疫機能の主役は白血球で、自然免疫ではがん細胞の撃退を担うNK細胞やマクロファージ・好中球があり、獲得免疫にはT細胞と抗体を作るB細胞がありますが、免疫細胞・抗体から補体・インターフェロンも含めて全てたんぱく質から作られます。ワクチン接種もたんぱく質が不足していると効果は最大でなくなります。

うつ病の手前のうつ状態を改善するためには質の高い睡眠が必要です。それには牛乳を毎朝1杯飲む習慣かいいでしょう。牛乳にはトリプトファンが含まれ、幸せホルモンのセロトニンに変わり、夜になると睡眠ホルモンのメラトニンに変換されます。トリプトファンがメラトニンになるまでに14-15時間必要となるので朝起きて飲むのが良いです。

たんぱく質は10万種類以上あり、50-数百万個のアミノ酸からできています。人間のたんぱく質を構成するアミノ酸は20種類で、食べ物から摂取しなければならない必須アミノ酸は9種で、ほかは体内で合成することができます。たんぱく質の仲間にはアミノ酸が2-49個つながったペプチドという物質もあります。

たんぱく質は摂取されると胃に送られペプシンによりある程度の大きさに分解されます。その後十二指腸に送られトリプシンによりさらに細かくされ、小腸に到達してペプチダーゼによってアミノ酸レベルに分解されて小腸の粘膜から吸収されます。アミノ酸は肝臓を経由して全身の細胞に運ばれ、そこでアミノ酸同士がつながってたんぱく質に再合成されます。

たんぱく質は圧倒的に脂肪になりにくく、一方で脂肪を燃焼させます。たんぱく質は食欲を抑えるホルモンの分泌にも関わっているので、肉類を控えるのは逆効果です。糖質制限中にはたんぱく質が重要になりますが、一定の糖質は必要で、不足するとたんぱく質や脂肪を分解してエネルギーにしようとします。

筋肉は必要ないと考える人もいますが、日常的な動作にも筋肉は使われ、筋肉量が減れば基礎代謝は落ち、筋肉から分泌されるマイオカインは、肥満・糖尿病・動脈硬化・がんなどを予防する効果があるとわかっています。カゼインとソイは吸収は遅いものの腹持ちがいいメリットがあります。

脂肪の合成を促し脂肪細胞を生み出す働きを持つたんぱく質にBMAL1があります。BMAL1は午後10時〜午前2時に最も活性化し脂肪が溜まりやすくなりますので、遅い時間に夕食を食べると効率よく体脂肪になります。代謝を促し脂肪を燃焼させる成長ホルモンは、午後10時〜午前2時に多く分泌され、胃の中に食べ物が残っていると分泌が少なくなります。

質のよいたんぱく質をとる基準にアミノ酸スコアが以前は使われていましたが、最近は吸収率をより正確に評価するDIAAS(消化性必須アミノ酸スコア) が使われるようになっています。

高たんぱく質では脂質が少ないほど消化吸収スピードが早く効率よく筋肉が作られます。栄養面をみると卵は完璧な食品で、9種の必須アミノ酸をバランスよく含み、筋肉の合成スイッチを入れるロイシンが豊富で、ミネラル・ビタミンもビタミンC以外はほぼすべて入っています。

動物性たんぱく質は必須アミノ酸をバランスよく含み、体内への吸収率95%以上ですが、脂質も多く含みます。大豆や穀類に含まれる植物性タンパク質は、吸収率80-85%で必須アミノ酸が不足しているものもあります。大豆は必須アミノ酸のバランスはよく、脂肪燃焼効果は動物性たんぱく質より高いといわれますが、たんぱく質の含有量は動物性より低めです。動物性たんぱく質と植物性たんぱく質は1:1でとるようにし、動物性たんぱく質が30%以下になると必須アミノ酸のバランスが崩れやすくなります。

ビタミンとミネラルも大事で、筋肉の合成をサポートする役割を果たすのがビタミンDです。カルシウムの吸収を助け、骨や歯の材料とし、筋肉の合成にも関わります。ビタミンDは日光を浴びることで体内合成出来ますが、食品からも積極的に摂取したいです。筋肉疲労の回復に効果を発揮するのがビタミンB群です。ビタミンB1は体にたまった疲労物質をエネルギーに変えるサポートをするビタミンです。ミネラルでは亜鉛や鉄が筋肉の合成を助け、カルシウムは筋肉の収縮をスムーズにする働きから疲労回復に役立ちます。糖質も控えすぎるとエネルギー不足に陥り、筋肉が分解されてしまいます。筋肉合成のスイッチを入れる成分として積極的に摂りたいのが、分岐鎖アミノ酸のバリン、ロイシン、イソロイシンです。ロイシンはmTORを活性化します。

加齢に伴い筋肉の合成率は低下するため、筋肉量を維持するにはたんぱく質の摂取量を増やさなくてはいけません。たんぱく質分解酵素を豊富に含む大根・玉ねぎ・ニンニク・しょうが・パイナップルと組み合わせて調理すると消化がスムーズになります。脂質を減らすために赤身の部位にしたり、揚げる・炒めるから茹でる・蒸す・煮るなどで脂質をカット出来ます。フィッシュプロテインバーで摂取するのも一つの方法です。

筋トレやランニングなどの運動はたんぱく質摂取とセットで行うことが前提です。運動中は筋肉が分解されたアミノ酸がエネルギー源になるからで、運動の1〜2時間後に分解された分を補うための筋肉の合成が始まります。このタイミングでたんぱく質が補給されなければ筋肉の分解が進み筋肉は強化されません。運動前でも後でもどちらも効果はありました。ランニングなどの有酸素運動では運動前にしっかりたんぱく質を補っておくと筋肉の分解を抑制することができるという報告があります。

骨を強くして骨粗鬆症を予防するには、骨の主成分のカルシウムが第一で、体内では作れないので食事から摂るほかありません。実際カルシウムの摂取推奨量の7割程度しかとれていません。カルシウム以外にもたんぱく質、ビタミンD、ビタミンK、マグネシウム、亜鉛、カロテノイドも重要とされています。ビタミンB6、12、葉酸も必要です。カルシウムやマグネシウムは不足している時間が長いと骨から溶け出してしまうので注意が必要です。

耳鳴りや加齢性難聴といった耳の不調がある人は、ビタミンB12 とたんぱく質と亜鉛・鉄などの栄養素です。耳の不調は脱水ま原因となり、こまめな水分補給を心がけ、利尿作用のあるカフェインやアルコールのとりすぎに注意しましょう。

肉類や乳製品など脂質の多い動物性たんぱく質を摂りすぎると、カロリーオーバーし肥満の原因になり、たんぱく質や脂質中心の食事が続くと腸内細菌が乱れ便秘などが引き起こされます。たんぱく質の摂りすぎは腎臓に負担をかけるともいわれますが、科学的根拠はなく、高齢者のたんぱく質摂取量による腎機能の差はありませんでした。

過度な負荷をかけた筋トレをした場合、トレーニング終了後24-48時間までは筋肉の合成率が高まっています。このタイミングではしっかりたんぱく質を補給しましょう。筋肉は何歳からでもよみがえります。

筋肉を増やすためには無酸素運動が必要で、有酸素運動では増えません。鍛えておきたいのは下半身です。おすすめの筋トレはスクワットです。ポイントはゆっくり動作を繰り返すことです。筋肉痛が出るのは筋肉が増え始めている証拠です。スクワットに抵抗がある人は、エスカレーターやエレベーターは使わずに階段を使うなどして1日の活動量を増やすことから始めます。有酸素運動で消費カロリーを増やすことも大切で、無理のない範囲で始めていきましょう。

一度つけた筋肉には落ちても筋トレをすれば短期間で昔の状態まで戻るマッスルメモリーという性質があります。筋トレをすると筋肉の細胞は核を増やし、核を中心に大きくなり、筋トレを休止すると細胞はやせますが増えた核は減らず、その後は効率的に筋肉を作れます。

感想

たんぱく質の新常識ということですが、蛋白の摂取で筋肉をつけることがこの本の主題と感じました。筋肉には様々な健康効果があると最近特に言われており、たんぱく質を有効に摂取し用と感じました。実感としても筋肉のない方は早く亡くなられる方も多く、若いうちからしっかりと筋肉をつけるべきだと思います。

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