著者紹介
2024年3月10日初版のサンマーク出版から発刊された本で、著者は山田悟氏です。山田氏は著名な糖尿病内科医で、1994年に慶應大学医学部を卒業され、現在は北里大学北里研究所病院副院長、糖尿病センター長で、ロカボという言葉の生みの親です。
糖質疲労
内容
糖質疲労とは食後高血糖薬血糖値スパイクで感じる食後の体調不良のことです。検診で測定されるのは空腹時血糖ですが、空腹時高血糖になる10年ほど前から食後高血糖が生じていると報告されています。食後高血糖になると遅れて分泌されるインスリンの影響で血糖値が下がりますが、血糖値が急激に上がってその後急峻に降下する様を血糖値スパイクといいます。
具体的には食後に眠い、だるい、食べた量の割にはすぐに小腹が減る、集中力がもたない、イライラしていると自覚、もしくは周囲から指摘され、食後血糖値が140mg/dl以上になっている状態です。
糖質疲労を解消するには食べ方を変えることで、ロカボと呼ばれる食べ方です。糖質をとる量を控え、その分たんぱく質と脂質をお腹いっぱい食べ、食べる順番を意識する食べ方です。
ロカボとは低糖質を意味するローカーボハイドレートからの造語で、ゆるやかな糖質制限のみを指し、糖質疲労を感じることの多い日本人に適正糖質です。ルールは、1日にとる糖質の量は70-130g以内、お腹いっぱいまで食べる、カロリーはいっさい気にしない、たんぱく質・脂質・食物繊維をしっかりとる、糖質・たんぱく質・脂質のバランスも気にしない、糖質ぬきをめざしてストイックにならない、早食いせずにカーボラストにする、です。
果物はGIが低く血糖値を上げにくいのですが、果糖は10-20%はブドウ糖に変換され、80-90%は果糖のままで処理されますが、利用しきれないと中性脂肪に変換されて血液に放出されたり肝臓にこびりついたりして、脂質異常症や脂肪肝の原因となり、やがて肝臓のブドウ糖放出が高ぶって血糖値を悪くします。果糖はブドウ糖以上にたんぱく質と糖化反応を起こしやすく、心臓病など健康上のトラブルにつながる可能性があります。
早朝は血糖値が上昇しやすいタイミングで、より糖質を控えてたんぱく質と脂質を十分に摂ることを意識します。
一食の糖質量は20-40gですが、朝食は20gにし、その分たんぱく質と脂質を十分に摂ると、消費エネルギーが増えて一日中血糖値が上がりにくくなります。満腹感が続いて昼食を中心にカロリー摂取も少なくなります。
グルテンフリーにする人もいますが、グルテンアレルギーがない人がグルテンフリーにしてもメリットは特にありません。小麦粉を全粒粉にする人もいますが、低糖質ではなく、食後高血糖を招くかについて、小麦粉、米粉、そば粉、全粒粉に何ら差異はないと考えてください。
おにぎりと野菜ジュース(スープ春雨)、ラーメンと炒飯などの組合わせは糖質かぶせで糖質疲労の原因となります。そばはGI値が低いのですが、高糖質低GIよりもGIにかかわらず低糖質の方が食後高血糖をきたしにくいです。とろろそばもとろろ芋は糖質豊富なので糖質かぶせとなります。
たんぱく質と脂質は独立した機序で食後高血糖を予防・是正してくれますが、サラダチキンでは脂質が足りません。脂質を控えると糖質を控える場合に比較して、カロリー消費が1日約300kcal減少して減量に無利益という論文があります。
ヨーグルトはもともと牛乳の時点から100mlあたり5gほどの乳糖などの糖質が含まれ、砂糖や果物を加えると食後高血糖で腸内環境を悪くさせるかもしれません。
朝食を抜くと次の食事の後の血糖値が急激に上昇するため、昼食後の糖質疲労を招きます。
嗜好品の糖質量は1日10gまでで、リンゴ4分の1個、イチゴ6粒、ミカン1個程度は大丈夫です。
和食はヘルシーのイメージがありますが、糖質量に意識を向ける必要があります。上白糖大さじ1杯で7.9g、みりん大さじ1杯で7.8gの糖質量になります。おにぎり1個が糖質量約40gですので、味付けと主食で糖質過多になりかねません。
とんかつの場合、衣のパン粉で1枚あたりの糖質20-30g、とんかつソース大さじ1杯で5.6gとなります。油脂は血糖値上昇を抑制しますので、脂の多いロースの方がいいです。カレーライスはライスと具材のじゃがいもとルーの小麦粉で、トリプル糖質となり要注意です。片栗粉や葛粉も糖質そのものなので糖質量としてカウントしてください。
三角食べが行儀よく消化よく栄誉バランスもとりやすいとされていたそうですが、血糖値の吸収をゆるやかにするためベジファーストを実行する人も増えています。それよりも糖質を最後に食べるカーボラストで、一口目を食べ始めてから20分後に糖質を手につけることを推奨します。たんぱく質や脂質をとることにより分泌されるインクレチンというホルモンが、血糖値の上昇を抑制する作用を持っていることが関係しています。インクレチンの分泌が始まるのは食事開始20-30分後と考えられています。
たとえオーガニックであっても果汁100%ジュースには果糖がたっぷり含まれ、動物実験では不安行動が増えることが知られています。
高齢者が熱中症予防にスポーツドリンを飲むと、ペットボトル症候群という高血糖から脱水状態になることがあります。
エナジードリンクも250mlあたり糖質27gあり、飲んだ直後は少し興奮感もあるでしょうが、やがて糖質疲労を招くことでしょう。睡眠の質を良くするとうたっている乳酸菌飲料は1本あたり糖質14-27g程度で、栄養成分表示の糖質量をみるようにしましょう。
血糖値が高くなるとタンパク質が反応してブドウ糖と結合する糖化反応が起こり、AGEsという物質をうんで肌のしわが増えたりして見た目が老化してしまいます。
ファスティングという食事法がありますが、ファスティング後の食事では糖質を厳しく控える必要があります。食べる量を制限するダイエットは、我慢するので数週間でつらくなりリバウンドはほぼ必至という欠点があります。
ランニングする際にカーボローディングという食事法があります。試合前に大量の糖質を摂取して筋肉内のグリコーゲン量を上げて持久力の最大化をねらうという概念です。普段から糖質を控えて脂肪をエネルギーとして使える体をつくって、試合でも脂肪を燃やして持久力を高めるファットアダプテーションという食事法もあり、こちらの方が合理的という考えもあります。
疲労困憊までの運動可能時間と筋肉内グリコーゲン量は無関係で、低血糖こそが疲労困憊を決定しているという論文も出ました。
日本人は欧米人よりもインスリンの分泌能力が遅く、カーボローディングは向いてないと思われます。
ボディビルダーの中には筋肉をたくさんつけるために、インスリンをたくさん分泌させるためにたんぱく質に加えて糖質をかなり摂取する人もいます。そうすると脂肪細胞にも糖質が取り込まれて中性脂肪に変わり太ります。
日本では、炭水化物50-65%、脂質20-30%、たんぱく質13-20%がよいバランスとされていますが、欧米では万人にとってベストの栄養比率は存在しないと明記されています。
日本の根拠は、必須アミノ酸が不足しないようにたんぱく質下限の13%が決まり、上限は根拠がなく20% とされました。たんぱく質は35%でも問題がないとされる論文もあります。
脂質は飽和脂肪酸を7%以下にすることを考慮し、上限を30%に設定し、必須脂肪酸が不足しないように下限の20%が決まりました。しかし飽和脂肪酸を7%以下にすることは根拠がなく、脂質全体を30%以下にならなければいけない根拠も存在しません。炭水化物は100%からたんぱく質と脂質を引いたにすぎません。
日本人の平均は1食90-100g、1日270-300gの糖質を摂っています。米国糖尿病学会の糖質制限は1日130g以下です。食の欧米化と言われていますが、脂質のエネルギー摂取比率はわずかに落ちているかほぼフラットです。
和食には塩分が多く、脂質に乏しいことがあり、それが高血圧症や脳出血に脆弱で、肥満もないのに糖尿病を発症する一因になっていると思っています。
糖質疲労には自覚症状がない人もいて、血糖値がよくなってから、かつては疲労感があったと気づきます。無料血糖測定イベントに参加すると、3分の2程度で食後血糖値が140mg/dlを超えています。中国人では食後高血糖が成人の2人に1人いると報告され、東アジア人は欧米人よりインスリン分泌が少ない(遅い)ことがあります。欧米人は太りやすく日本人は糖質疲労となりやすく、肥満がメタボリックシンドロームの必須項目なのは日本だけです。
糖質疲労に端を発し、種々の疾患になりやすくなるのを加速させるのは糖化ストレスと酸化ストレスです。糖化ストレスは高血糖で生じ、酸化ストレスは血糖値の変動の大きさで生じると考えてください。
食後高血糖が続いて糖尿病になるのは高血糖自体がインスリン分泌を低下させ、インスリンの働きを弱めるからです。長期になると不可逆的になります。肝臓が生産するブドウ糖量も、通常1日150gから250gに増えて高血糖が常態化してしまいます。ゆるい糖質制限の食費は糖質に比べたら費用はかかりますが、糖尿病の人の一人あたりの治療費は、3割負担で年間4-13万円、合併症が加わるとさらに高額になります。
これまで油脂を控える食事法は健康によいと信じられてきましたが、2008年に意味のない食事法だったとわかりました。脂質制限食は動脈硬化の予防効果はなく、むしろ心臓病の機能あった人の再発率が上昇しました。さらに元来糖尿病だった人の血糖を上げてしまいました。
動物性脂肪=飽和脂肪酸が問題とする方もいますが、2013年に動物性脂肪を控えることでかえって死亡率を上昇させてしまう論文が発表され、日本人は動物性脂肪の摂取量が多いほど脳卒中の発症率は低いという論文も出ました。
以前はコレステロール摂取を制限すべきとされていましたが、コレステロール摂取を控えても肝臓がコレステロールを合成して血中に放出することもあり、現在はコレステロール量の上限設定はなくなりました。
米を食べないと腹持ちが悪いと刷り込まれている人もいますが、科学的には肉やバターの方が腹持ちがいいとわかっています。脂質やたんぱく質をしっかり食べるとGLP-1やPYYなどの分泌が高まり、満腹中枢が刺激されもう食べられなくなります。また空腹感をもたらすグレリンの分泌を抑制するので満腹感が長続きします。逆に糖質はグレリンを抑える作用が弱いので、お腹いっぱい食べても小腹が空きやすいです。油脂を摂取するとGIPの分泌が増えましたが、GLP-1とGIPを合わせてインクレチンホルモンといいます。このホルモンはインスリン分泌を高めますが、低血糖を起こさず、満腹感を高めて肥満治療にもなります。
全身の細胞の中で油脂をエネルギーにできずほぼ糖質しか利用できないのは脳と赤血球だけで、その必要量は1日あたり130gで、これを上限にすることにしました。なので1日3食40gずつで、嗜好品10gと合算して130gを上まわらないようにします肝臓でも糖質は150g生産されますが、1日糖質摂取量が50g以下になると皮下脂肪を分解し、それを材料として肝臓でケトン体を作り、全身・脳でエネルギーとして利用し始める仕組みが備わっています。ケトン体はブドウ糖以上に優れたエネルギー源で、てんかんの治療にもケトン食が用いられます。しかしまれに先天的にケトン体をうまく利用できない人もいるらしく、ケトン食で高ケトン血症から意識障害を呈した症例報告も数多くされています。ずっとケトン食にした方がいいてんかんの人でも、数年でドロップアウトしてしまうとの報告もあります。そのためケトン体の合成が行われない程度の糖質を摂ることを勧めます。1日50gを下回らないように、毎食20gを最低限の量として設定しました。
糖質40gはおにぎり1個、白米100gです。主食を減らす分必ずおかずを増やしてお腹いっぱいにすることです。
糖質は炭水化物から食物繊維を除外した栄養素ですが、食物繊維の表示義務はありません。また血糖値を上げない甘味料も糖質としてカウントするルールになっています。
ファストフードも利用可能です。通常のバンズで糖質量は約30gです。パテやチーズは2倍にし、ポテトはパスしてナゲットもソースの糖質量に気をつければ食後高血糖を招くことに通常なりません。ドリンクは無糖でサラダの追加も可能です。お酒は楽しむべしで、蒸留酒は糖質ゼロで全く問題ありません。醸造酒は糖質を含み、日本酒は1合あたり糖質8-9gなので、2合までは楽しめます。糖質ゼロビールは全く問題なく、ワインは辛口ならグラス1杯で糖質量1gもありません。ただしアルコールは発がん性物質なので、1日20g程度までがよしとされています。梅酒薬甘いジュースで割ったカクテルは糖質が多くなります。
甘いものには癒しがあるから食べたい人も多いと思いますが、人工甘味料で楽しむことを提案いたします。WHOは人工甘味料は体重減量に推奨できない、国際がん研究機関はアスパルテームは発がん性の可能性があるとの見解を出しました。しかしアスパルテームを漬物と同じ程度のリスクとしたにすぎず、これまで人工甘味料とがんの因果関係を証明した論文は存在しません。エリスリトールは糖アルコールに分類され、FDAは上限値を設定する必要はないとし、安全な食品といえます。アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムカリウムなどは上限量はありますが、普通の食生活では摂取しない量で、注意する必要はありません。
エネルギー不足にならないように満腹を感じるまで食べてください。ロカボに加えて意識いただくのに勧めるのは減塩です。ロカボでは塩分でなくマヨネーズ・無塩バター・オリーブオイルで味付けするよう勧めています。ごま油、ラー油、ホイップしていない生クリームもいいです。
たんぱく質は摂取するだけで筋合成のスイッチを入れ、食事ことに摂取する方が筋合成の効率がいいと報告されています。筋トレも毎日でないほうが筋合成の効率がよいとされます。ロカボ実践者の平均的なたんぱく質摂取量は体重1kgあたり1.6gで、たんぱく質が筋肉の材料として使われるのにもっとも効率のいい量です。
母体が高血糖になると生まれた赤ちゃんが将来的に肥満・糖尿病・脂質代謝異常・高血圧を起こすリスクが高くなるので、母体のカロリー制限が推奨されるのですが、カロリー制限では食後高血糖を管理できず、出生体重の少ない赤ちゃんが多くなります。出生体重の少ない赤ちゃんは将来の肥満や糖尿病の確率が高くなることが知られています。血糖異常の妊婦さんにはロカボよりも糖質摂取量を増やして1日175g程度の糖質摂取を勧めています。ケトン体産生を避けるためです。母体のケトン体の赤ちゃんへの影響はわかってはいないからです。
母体がジュースを多飲していると、果糖が母乳にも入り、高濃度の果糖が赤ちゃんに供給されます。果糖には依存性がありやめられなくなる説もあります。
アルツハイマー病の発症リスクは血糖異常の人は1.6倍高いことがわかっています。原因はインスリンの働きの低下と考えられています。アミロイドβの除去にはインスリン分解酵素が必要なのです。
高血糖や肥満状態になると、過剰な免疫反応を抑制する免疫チェックポイントが出現する仮説があり、免疫が低下する可能性があります。
おにぎり2個と野菜ジュース1本のランチをとり、一口目から1時間後の血液で血糖値を測定してみましょう。200mg/dl以上なら糖尿病の基準を満たします。140mg/dl以上なら糖質疲労をきたしていますので、ロカボに励んで糖質疲労を解消しましょう。
感想
有名な糖尿病の先生で、理論もわかりやすく説得力があります。甘味料は摂って構わないというスタンスですけど、甘味料は満腹中枢を混乱させて糖尿病の発症リスクが上がることや、腸内細菌叢への悪影響を指摘されているため、長期的にはあまりよくないと考えます。細かい点は除くとロカボでカーボラストを実践すれば身体にはいいと思います。