本当は怖い足のむくみ

著者紹介

2024年3月19日初版の幻冬舎から発刊された本で、著者は吉田尚平氏です。吉田氏は1983年生まれで2009年に久留米大学を卒業され、心臓血管外科を専攻され、2021年5月から足の専門外来もあるクリニックを開業されました。

下肢静脈瘤、深部静脈血栓症、閉塞性動脈硬化症、蜂窩織炎のケースレポートも経過や治療の詳細にありましたがここでは割愛しました。

本当は怖い足のむくみ

内容

2022年にフジ医療器が働く女性600人を対象としたアンケートで、87%の人が足のむくみを感じる、どちらかと言えば感じると回答され、20代は88%、50代で85%となっています。

そもそもむくみとは皮下組織に体内の余分な水分が溜まっている状態です。ずっと同じ姿勢でいると体内の血液は重力によって下の方に溜まり血管が膨張します。膨張にも限界があるため血管は管内の圧力を減らそうと水分を血管の外へ染み出させて排出します。排出される前に歩いたりストレッチをしたりして足を動かしていれば、足の筋肉が血管を収縮させ血液を心臓に戻してくれます。筋肉がポンプのような役割を果たします。女性にむくみが出やすいのは、男性より筋肉が少なく心臓に送り返すポンプの力が弱いことも一因になっています。

むくみのセルフチェックの方法は足のすねを5秒間指で押さえて離してみるだけです。押した部分が10秒経ってもへこんだままの場合足がむくんでいる状態といえます。過食などの理由がないのに体重が大きく増加した、少し動いただけでも息切れや呼吸困難の症状が出る、足だけでなく手や顔もはれぼったく感じるときは医療機関を受診すべきです。

むくみは一過性と慢性的なむくみがあり、一過性なら基本的には病気が原因ではありません。長時間の立ち仕事や座りっぱなしが原因です。塩分の摂りすぎ、アルコールの過剰摂取、睡眠不足、運動不足、生理によるホルモンの変化などが原因の場合もあります。ほとんどの場合原因となっている生活習慣や日頃の行動を改めて、心身をゆっくりと休めることで改善します。慢性的なむくみは1日や2日で治らず、何らかの病気や食事の偏りによる栄養失調が原因であるため、時間をかけて自分の体と向き合った改善していくことが必要です。

むくみの中で特に危険なのが血栓ができているためむくみが起きているケースです。血栓とは血管の中にできてしまう血液の塊のことです。血栓が足の静脈にできた場合、血流が妨げられ足に血液が溜まりむくみが急に起こります。血栓が原因でなくてもむくみを放置して血栓ができることもあります。血栓が足の血管からはがれて移動し、移動した先の血管を詰まらせてしまうこともあります。エコノミークラス症候群も血栓が原因です。

血栓ができているか自己判断することはできませんが、むくんでいる場所の周辺をよく観察し、むくみの程度ひどい、血管がぼこぼこ飛び出して見える、足が急激にだるい・重たいと感じる、強く痛みことがある、皮膚が赤く変色しているなどがあれば血栓ができている可能性が高いといえます。

足以外のむくみの原因は心臓、肝臓、腎臓、内分泌(甲状腺)、貧血、リンパ浮腫があります。リンパ浮腫は原発性と続発性があり、原発性はもともとリンパ管の機能が弱いため生じるパターンで、続発性は、乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がんといった悪性腫瘍にかかって、リンパ節を切除したり放射線治療でリンパの通り道がダメージを受けたりした結果生じるイメージです。9割が続発性にあたり、リンパ節切除や放射線治療をした場合は用心深く体と付き合っていく必要があります。発症時期は人それぞれで手術から10年以上経過した発症することもあります。リンパ浮腫は片足のみ、片腕のみにむくみが見られます。リンパ浮腫を完全に治す方法はありませんが、症状の悪化を抑えることはできます。軽度なら弾性ストッキングの着用や用手的リンパドレナージでリンパ液を適切な場所に誘導します。また皮膚の効果を防ぐためスキンケアも欠かせません。むくみの度合いによっては静脈とリンパ管をつなぐ外科的手術をすすめられる場合もありますが、手術でも完治することはなく術後も治療を続ける必要があります。

足のみに症状が出る病気は深部静脈血栓症があり、足の静脈に血栓ができて詰まってしまう病気です。静脈の内壁が損傷された場合、薬やがんや脱水などにより血液が凝固しやすくなっている場合、長期臥床などで血液速度が低下している場合に発症します。深部静脈血栓症は肺の血液を詰まらせる肺塞栓症、慢性静脈不全症、虚血(血流不足)から壊疽の合併症を起こす場合があります。肺塞栓症はの併発は危険のため、その予防を目的とした治療をします。抗凝固薬、血栓溶解薬、下大静脈フィルターなどで、手術で血栓を直接取り除くこともあります。

閉塞性動脈硬化症は足の血管が詰まり足の血の巡りが悪くなることから足がむくむことがあります。多くは50歳以上男性で生活習慣病があることが多く、症状が軽度なら薬物療法や運動療法で経過観察しますが、痛みが強い場合は症状が悪化した場合は血管内のカテーテル治療やバイパス手術を行うことになります。

蜂窩織炎は皮膚とその直下の組織に細菌が感染して炎症が起きる病気です。ごくありふれた細菌が原因になりやすいので常に清潔を保つように心がけることが予防になります。アトピーや水虫がある人は罹りやすく、抗がん剤治療中、糖尿病、透析中なども人も注意が必要です。皮膚のどこにでも発症しますが、特に足のすねや甲に発生することが多いとされています。治療は抗菌薬です。途中で中断すると完治しにくくなることがあります。

近年増加しているのが下肢静脈瘤です。足の皮膚に近い静脈が太くこぶのようにぼこぼこと浮き出てきたり、浮き上がった血管が蜘蛛の巣や網の目のように見えたりします。静脈には血液が逆流しないように弁がありますが、弁が壊れてきちんと閉まらなくなると体の下流の静脈に溜まってしまうというわけです。便が壊れる原因は遺伝、長時間立ち仕事、妊娠・出産があります。症状が軽度なら治療機関で治療しなくても、長時間の立ち仕事は避ける、休憩時間は足を上げて休むようにする、弾性ストッキングを使用するなどで改善がみられる場合もあります。悪化したら皮膚硬結、血栓性静脈炎、皮膚潰瘍などを発症する場合もあり、そうなると血管内焼灼術(レーザー治療)、血管内塞栓術(グルー治療)があり、静脈を除去するストリッピング術、血管を縛って血流の流れを止める高位結紮術があります。テニスやサッカーなどで足を激しく使うような競技やスポーツをしていると若い人でも罹患することがあります。女性に多い病気ですが男性も発症します。

下肢静脈瘤は静脈がある場所に出る症状ですので、おしりと足の境目、膝の裏側、ふくらはぎの内側などに出ますので、定期的なチェックが望ましいです。病気が疑われたら(心臓)血管外科の受診となりますが、どの医療機関でも治療可能かはわからないため問い合わせが確実です。

むくみだけなら何科を受診するか迷いますが、痛みを伴っていたり色が変わっているようなら速やかに救急病院の受診が必要です。片足だけのむくみ、足がつる、黄疸が出ている、動悸がする、起床時からむくんでいる、足がだるく重く疲れやすいなどの症状がる場合も医療機関の受診が必要です。

足のむくみの改善にはセルフケアが大事で、肝心なのはそれを続けることです。ストレッチや体操を習慣化する、セルフマッサージで足の主だるさを解消する、塩分を摂りすぎない、アルコール・水分を摂りすぎない、ポリフェノールを含む食品を積極的に摂取する、太りすぎない、入浴の習慣をつける、弾性ストッキングを着用する、きつい靴や洋服は避ける、できるだけ星座をしない・足を組まない、などがあげられます。ポリフェノールは直接むくみを改善させませんが、血管を強くして血流を促す作用があります。弾性ストッキングには圧迫圧が20mmHg未満から50mmHg以上のものまであり、治療目的により圧迫圧が異なります。またはき方を学ぶ必要があり、結構な値段もします(3足10000円超)。感染症や潰瘍がある時などはいてはいけない場合があります。椅子に座っているときに足を組むと膝の裏や鼠径部の静脈が圧迫されて血行が悪くなるので、そういう癖がある人は治すべきです。

感想

足のむくみの訴える人は多く、ほとんどは放置しても問題とならないような血行等が原因ですが、むくみが出現してもこういう知識を得て慌てずに対応できるようになればいいと思います。

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