著者紹介
2021年6月8日初版の文響社から発刊された本で、著者はジェイソン・ファンとジミー・ムーアです。ジェイソン・ファンは1973年生まれのカナダ・トロント大学医学部を卒業された医師で、ジミー・ムーアは作家で2004年からヘルスケアの世界に飛び込みました。
24時間より長い長期のファスティングについては省略しています。
健康断食
内容
ファスティング(断食)が飢餓と異なるのは自分で管理できるところです。食事をすると一度に消費できる以上の食物エネルギーを摂取します。この貯蔵と消費にインスリンが関与します。インスリンは炭水化物とタンパク質によって刺激され、身体がすぐに食物エネルギーを使えるようにし、余分なエネルギーをグリコーゲンとして肝臓にため、限界に達するとグルコースを脂肪に変え始めます。
ファスティングすると蓄えられた脂肪が燃焼し、脂肪の貯えが使い果たされるまではエネルギーを得るために筋肉を燃やすことはありません。これは人間の体に備わった自然かつ正常なメカニズムです。インスリン値を最も上昇させるのは精製された炭水化物です。インスリンの分泌を減らす一番効果的な方法はすべての食物を完全に避けることです。定期的にインスリン値を下げるとインスリン感受性が向上します。インスリン値を下げると余分な塩分と水分が除去されます。ファスティング中に電解質のバランスが崩れるというエビデンスはなく、電解質を安定させるメカニズムが体には備わっています。ファスティング中は活力が得られますが、脂肪を燃やしてエネルギーを得て、脂肪燃焼を促進するためアドレナリンが使われるからで、ファスティングでは代謝は落ちずに改善されます。
食事は成長ホルモンの分泌を強く抑制するため、1日3食摂ると日中は成長ホルモンが分泌されなくなります。食べ過ぎると80%も抑制され、分泌を自然に刺激するのがファスティングです。インスリンを下げる簡単な食べ方のルールは、未加工の食品を丸ごと食べる、砂糖と精製された穀物は避ける、天然脂肪を多く含む食事を摂る、脂肪代替品を減らすことです。
基礎代謝率(BMR)は固定値ではなく多くの変数に応じて最大40%まで増減します。毎日のカロリーを減らすことがBMRの劇的な低下につながります。過食では増加が確認されました。しかしファスティングでは代謝は低下せずに上昇します。4日間ファスティングするとBMRは12%増加し、血液中の脂肪酸は370%以上増加しました。飢餓状態モードに入ったりしません。筋肉は体脂肪率が4%未満と非常に低くなって筋肉に頼るしか選択肢がない状態まで保持されます。70日間にわたる1日おきのファスティングは体重を6%減少させ、脂肪量は11.4%減、除脂肪量(骨と筋肉の量)は全く変化ありませんでした。ファスティング中はタンパク質の酸化は減少し、筋肉の節約を始めます。食事では筋肉は増加しないので運動をしましょう。ファスティング中も肝臓のグリコーゲンの分解、次いで脂肪分解の副産物であるグリセロールを使い血糖値は正常です。脳はケトン体もエネルギー源として使え、ケトン体では血糖値の変動がないため思考が冴えるともいわれています。
ファスティング後はわずかにカロリー摂取が増えるとされますが、ファスティング中の不足分を越えず、ファスティング期間が長くなるにつれて食欲が減退する傾向が見られます。
必須脂肪酸と必須アミノ酸は食事から摂る必要があり、長期のファスティングではマルチビタミンの服用が勧められます。ファスティング中は腸の動きが不活発となり、便中のタンパク喪失を防ぎ、タンパク質の代謝が低下すると尿中の窒素は大幅に低下するので、必須栄養素を排泄せずに体内に保持して多くの栄養素をリサイクルしています。
インスリンを下げる簡単な食べ方のルールでは適切に指示を守れない人が多く、シンプルなファスティングが最も適していると考えました。コストもゼロで上限なしにできます。ちなみにファスティング世界記録は382日ですが、健康上何の問題もなく終了しました。
過去のダイエット法で、穀物・果物・野菜を多く食べ、低脂肪・低カロリー食事を摂って運動量が14%増加したところ、平均で体重が149.2kgから91.6kgに減量し、体脂肪率は平均で49%から28%に低下しました。しかし14人中13人で6年後リバウンドをしていました。リバウンドの主な理由は代謝が大幅に低下したことでした。身体にはすぐに利用できるグリコーゲンと脂肪がエネルギー源として貯蔵されますが、脂肪をエネルギー源として使う場合インスリン値が低くないと使えません。インスリン値が高いと脂肪が温存され、身体は代謝を下げて対応します。代謝が下がると寒さを感じ無気力になり疲れやすくなります。そうしてしばらくすると我慢ができなくなり食べたくなりリバウンドすることになり、カロリーを減らす戦略の失敗率は99%ともいわれます。
低炭水化物ダイエットもインスリン値を下げることができます。ファスティングとの違いは効き目の違いです。超低炭水化物ダイエット(炭水化物が総カロリーの3%未満)はファスティングの71%の効果が得られますが、十分でない場合もありやはりファスティングです。定期的に食事を摂っている限りカロリーを減らしてもファスティング中のようなホルモン変化は得られないからです。ファスティングで長い間インスリン値を下げると、高インスリン値とインスリン抵抗性のサイクルを壊してくれます。
胃の縮小手術をする肥満外科手術があります。ある研究で2型糖尿病患者の95%が回復し、3年後には74%が高血圧が自然治癒し、66%が脂質の異常が自然治癒しました。その理由は手術によって強制的にファスティングすることになったからです。手術は合併症もあるため手術をしない肥満外科手術のファスティングがいいと思います。
ファスティング中にコルチゾールが増えるのではと心配する人がいます。2週間の間欠的ファスティングならコルチゾールは上がりませんでした。個人差はありますがファスティング時にコルチゾールは問題にならないといえます。
2型糖尿病やその他の疾患の治療をしている人は、ファスティングをする前に主治医に相談しましょう。血糖と無関係の薬のほとんどはファスティング中も使用できますが、糖尿病治療薬は非常に危険です。ファスティング中は血糖値の薬を減らすかやめて血糖値が高くなった時だけ服用するかです。最適な血糖値は144-180mg/dlです。
一般的に哺乳類は厳しいカロリー不足が起きると臓器のサイズを小さくして生き残ろうとします。例外は脳と睾丸です。認知機能と生殖機能は大切に保持されます。食後の眠気は単純に摂取した食物の量なのです。消化器系に送られる血液が増えて脳に送られる血液が減るからです。動物実験では間欠的ファスティングで運動協調性、認知能力、学習力、記憶力が著しく改善し、脳の接続性と幹細胞から新しいニューロンの成長が増加しました。インスリン値は記憶力と反比例することもわかっていて、低いほど記憶力が向上します。
細胞浄化の一種であるオートファジーはグルコース、インスリン、タンパク質の値が上昇すると機能がオフになります。オートファジーを最も促すのはファスティングで、単なるカロリー制限やダイエットだけでは不十分です。オートファジーはアルツハイマー病の予防にも重要な役割を果たし、がんの発病にもオートファジーの関連が言われています。
高TG(中性脂肪)血症は食事療法に反応しますが、高コレステロールは食事の問題ではありません。ナッツ、アボガド、オリーブオイルといった健康的な高脂肪食品はコレステロール値を上げません。コレステロールを自然に下げる簡単な方法はファスティングです。炭水化物の摂取が減少すると肝臓はTGの合成を減らします。TGは肝臓から悪玉コレステロールの前駆体である超低密度リポタンパク質として放出されますので、ファスティングで悪玉コレステロール値が低下するといえるのです。
間欠的ファスティングの間はほとんどの場合空腹感が増すのではなく減ることがわかっています。空腹を感じ始めるのは最後の食事から約4時間後です。朝起きた時は最後の食事から12-14時間経っていますが空腹感は低いことがわかっていて、胃の中の食べ物の量には左右されません。学習の結果として空腹が引き起こされます。おなかがすくのは時間のせいで、本質的に空腹を感じていません。食事の場所をテーブルだけに限定して意識的に食べないようにすると、食べ物がキッチンとテーブルだけに関連付けられます。断食中の空腹感に対処するコツは、人工甘味料を避ける、食べ物や食べ物を連想させるものを避ける、コーヒーやお茶を大量に飲む、忙しくする、空腹感には波がありそれを乗りこなすよう理解することです。長期にわたるファスティングも、一般的には2日目に空腹感が強く出ますが、その後ケトンが食欲を積極的に抑制するため空腹感は消えます。24時間を超えるファスティングができないと感じる人には3-7日間のファスティングを試すように勧めることもあります。長期にファスティングすることで空腹感が消える感覚が体感できるからです。最初の1-2日を乗り越えると空腹感が消え始めます。
重度の栄養失調・体重減少の人で具体的にはBMIが20未満の人、18歳未満の人、妊娠中の女性、母乳育児中の女性はファスティングをしてはいけません。痛風の人、薬を服用中の人、1・2型糖尿病の人、逆流所食道炎の人は慎重にすべきで、主治医に相談する必要があります。男女で効力に違いはありません。
ファスティングで摂取していい飲み物はノンカロリーのみで、水・お茶・ブラックコーヒーです。コーヒーにグラスフェッドバター、ココナッツオイル、MCTオイルを入れて脂肪のみのカロリーを許容するものもあります。骨付き鶏もも肉から作った自家製スープはファスティングの日にお勧めで、野菜や調味料と一緒に煮て、ブイヨンキューブや市販の缶詰スープは使用しません。長期の場合海塩一つまみを加えるといいかもしれません。
ファスティングを行う期間は12時間から3か月以上と色々です。頻度は週に1回、月に1回、年に1回でもいいです。短めなら毎日やる人も多いです。
1950-60年代のほとんどのアメリカ人は大量の白パンとジャムを食べる習慣がありましたが、毎日12時間のファスティングと未加工の食品を丸ごと食べ、低炭水化物、少ない糖質で十分肥満が予防できていました。毎日12時間では減量効果はないかもしれません。
16時間ファスティングは日常生活に組み込みやすく簡単にできますが、低炭水化物と組み合わせないと減量は難しいです。
夕食の方が朝食よりインスリンの増加が多く太りやすいです。空腹ホルモンのグレリンは概日リズムに合わせて変動し、午前8時が最低、午後8時が最高になりますが、長期間ファスティングをすると最初の2日でピークに達し、その後着実に低下します。賢い食事戦略は正午から午後3時までにメインの食事を摂り、夕方は少量食べることといえます。これは伝統的な地中海の食事パターンです。
24時間のファスティングは1日1食で薬の服用も可能で、日常生活にも簡単に組み込めます。毎日でもできますが、週2-3回だけでも効果はでます。週2日ファスティングする5:2ダイエットもあります。ファスティングの日は女性500kcal、男性600kcalまでの摂取とします。
長期のファスティングはリフィーディング症候群が稀に発症することがあり、栄養失調によって電解質特にリンが枯渇したときに発症しますが頻度は0.43%といわれ、ファスティング中は水だけの摂取は避けて、ボーンブロスなどでタンパク質や電解質も得ていると避けられることが多いです。リフィーディング時にインスリン値が高いと腎臓が塩分と水分を貯えようとして足首などがむくむ可能性があります。
ファスティング終了後はナッツ類少量、サラダ少量、野菜スープなど少量で時間をかけてしっかり噛むことです。水分補給も忘れないように。
エネルギーがなくなっても筋肉は動くのでファスティング中も運動は可能です。3日間のファスティングでは筋力・有酸素能力・有酸素性持久力などの運動能力に影響しませんでした。糖燃焼から脂肪燃焼への変化に適応する期間に運動能力の低下に気づく場合があり、およそ2週間続きますが回復します。ファスティング中の運動はアドレナリンが増加するため激しいトレーニングができ、成長ホルモンが出るため回復力が早く、脂肪酸酸化が増えるためより多くの脂肪が燃焼されます。
感想
本文にもあるようにファスティングのダイエットは誰も儲からないので、意図的に流行が拡散されることは難しいでしょうが、本当にいいのならSNSなどを通じて拡がっていくのでしょうか。