著者紹介
2021年9月20日初版の祥伝社から発刊された本で、著者は本間良子・本間龍介氏です。お二人とも聖マリアンナ大学医学部を卒業され、現在スクエアクリニックをされ、日本で初めて副腎疲労外来を開設されました。
副腎疲労は自分で治す!
内容
副腎疲労とは文字通り副腎という臓器を使いすぎてその機能を正常に果たせなくなるほど疲労させてしまうことで、強くしつこし全身の疲労感を始めうつ病のような諸症状や不眠症など、様々な症状を患ってしまう副腎疲労症候群のことをいいます。副腎はあらゆるストレスに対して人体への悪影響を抑えるように働くコルチゾールなどのホルモンを分泌する作用が挙げられ、ストレス要素が多すぎればコルチゾールを浪費して副腎は働きっぱなしになり、疲れて機能が低下します。ストレスとは仕事上の悩みなどの精神的なもの以外に、暑さ寒さ、騒音、PM2.5などの空気中に漂うもの、食品添加物、重金属などの化学的なもの、すでに罹患している持病や感染症なども該当します。副腎の能力には個人差があります。副腎疲労は日本においてまだほとんど知られておらずほぼ9割の医者は知りません。病院に行って検査をしても結果の数値は問題がなく、原因不明・精神的なものとして心療内科や精神科を紹介され、十中八九うつ病と診断されてしまうのです。副腎疲労にうつ症状はありますがうつ病ではありませんので、抗うつ病を飲んでも治ることはありません。副腎は異変があっても自覚症状があらわれにくい無言の臓器で、副腎疲労を患っていても健康診断では正常として判定されます。ホルモンの分泌量は多くても少なくてもだめで、ドーパミンは多すぎるとイライラや不眠となり、パニック発作やむずむず脚症候群を引き起こします。逆に足りないと分泌量を上げようとして依存症の原因となります。
本書の主役のコルチゾールは日内変動がありますが、すでに副腎疲労を患って分泌する力がほとんどなくなると、ずっと少ない状態が続き、正常の人がピークを迎える朝になってもあまり出ないため、目覚めても起き上がれないような激しい疲労感に苛まれてしまうのです。夜は正常な人でもコルチゾールの分泌は少ないため、副腎疲労を患っていても体が動くように感じますが、睡眠中は正常な人は副腎を休ませるのに対し、副腎疲労の人は副腎を休ませられず負のスパイラルに陥ります。米国アンチエイジング医学界では様々な病気や症状を診察するときに副腎が疲労していないかを疑い、副腎の状態を診察してみることが大前提とされています。副腎疲労の進行の度合いは唾液・尿からのホルモン検査を行い、3段階のステージと機能不全に分類して判断しますが、がんと同様に早期発見・早期治療が重要になります。副腎疲労が起こす症状は、うつ症状・疲労感、不眠症、鼻炎・花粉症・気管支ぜんそくなどのアレルギー性疾患関連、橋本病・バセドウ病・関節リウマチなど自己免疫関連疾患、性欲低下・更年期障害の重症化、糖尿病・高血圧などの生活習慣病、がん、が挙げられます。
副腎疲労に至るプロセスは患者さんそれぞれですが、共通するのはたいてい腸に問題があるということです。腸のマネジメントは食生活の見直しですが、副腎ケアはまず腸の炎症を抑えることから始めます。最初の検査で尿の成分を分析する有機酸検査というものがあり、アラビノースという糖の一種が高い方がとても多いです。アラビノースはカンジタなどのカビ類が代謝してできるもので、尿中に多量にあるということは腸内にカビがたくさんいることになります。免疫機能がカビをやっつけようとしますが、その時に腸の壁にある粘膜も一緒に壊されてしまいます。副腎のケアには大腸よりも小腸をきちんとケアすることが大事と考えています。ほとんどの栄養素は小腸で吸収されてから大腸に行き、そこでミネラルと水分を吸収した後大便として排出されるため、小腸でしっかり栄養素を吸収できることがとても大切です。健康な人は小腸にはほとんど菌がいないで大腸にたくさん住んでいますが、食事するとおなかがポッコリ突き出てしまう方がとても増えていますが、これはSIBO(小腸内細菌増殖症)の可能性があります。小腸にいる菌がガスを発生させるからです。そういう場合にヨーグルトや食物繊維を摂取すると、さらに菌が増えてしまうため逆効果になります。食物繊維が腸を掃除してくれるといいますがそれは健康な人の話で、便秘などの腸のトラブルをかかえていると逆に詰まってしまう原因となります。カンジタは口の中や皮膚などに存在している常在菌で、副腎疲労の80-90%の人は小腸の中でこれが増殖し、特に女性の患者さんではほぼ100%該当します。カンジタがお腹にいるほど甘いものや炭水化物を欲しがる傾向があります。カンジタが脳に働きかけるのです。カンジタが引き起こす重大な疾患が腸もれ症候群と呼ばれるリーキー・ガットです。リーキー・ガットは腸管壁に隙間が空いてそこから腸内の細菌、毒素、未消化の食べ物などが漏れ出す症状です。カンジタ以外にも様々なストレス、痛み止めなどの薬、毒素、加工食品の添加物などがあります。リーキー・ガットになると大量のコルチゾールが四六時中使われることになり、副腎が疲労してしまうので一刻も治療しなければなりません。リーキー・ガットによる諸症状は大変多く、関節炎・喘息・湿疹・アレルギー疾患・子どもの発達障害・記銘力障害などあり、副腎疲労と重なる部分も多いです。リーキー・ガットを予防するためにはカンジタのえさになる糖分や炭水化物、特に小麦をなるべく摂らないようにすることが第一です。
小腸には大腸菌・カンピロバクターなどの菌が住んでいて、細菌のえさとなる糖や炭水化物を頻繁に摂ると菌が増殖して小腸の粘膜を傷つけ、腸の蠕動運動や栄養の吸収が上手にできなくなり、栄養が残った状態で大腸に送ってしまうことになります。そうなると大腸の中にいる菌が大増殖をおこし、その中のカンジタも増えることになります。あまりに増殖すると大腸の菌が小腸にも入り込んでSIBOになります。症状としてはお腹が張る、おなかが痛む、チクチクする、便秘や下痢を引き起こします。逆流性食道炎の多くもSIBOであるといわれます。過敏性腸症候群は最終的に心の病といわれ心療内科や精神科を紹介されることもしばしばですが、約60%はSIBOではないかといわれ、SIBOの治療で過敏性腸症候群が完治する人が複数報告されています。リーキー・ガットとSIBOは副腎の天敵的な症状で、副腎疲労を患っている人の大部分はどちらか、もしくは両方患っています。
三大栄養素のうち、たんぱく質が最も吸収されにくく、たんぱく質が吸収されないとセロトニンが不足してうつ症状が出ます。セロトニンから作られるメラトニンも不足して不眠になりがちです。
1日1000kcalしかとっていないのに痩せない人がいますがそれはコルチゾールの過剰分泌が起こっているからです。副腎疲労の方は血糖値が下がりやすく、血糖が下がるたびにコルチゾールが分泌されて血糖が上がり、その後また下がるを繰り返します。この時体は飢餓状態を想定してためられるだけ脂肪を蓄えようとします。副腎疲労が回復すると瘦せるようにもなります。
便秘・下痢・胃炎と副腎疲労はどちらが原因で結果か定かではなく、どちらもあり得ます。胃炎については胃薬を飲むことでビタミンBの吸収が悪くなり、様々な粘膜に障害が出ることがあります。
日本とアメリカの違いについて、アメリカでは空腹を覚えたらナッツを食べなさいと教えますが、日本人の場合ナッツはアレルギーが出やすく、ナッツに含まれる油は生成過程で酸化していて腸に炎症を起こす可能性があり、ほどほどにする必要があります。夜中の低血糖を抑えるため寝る前にピーナッツバターを摂るよう指導されますが、日本人には合わない可能性もあります。大豆について、アメリカでは遺伝子組み換えやアレルギーの問題もありあまり食べられませんが、摂取後不快な体調がなければあまり気に過ぎなくてもいいでしょう。
NG習慣について、おなかが空いたときにパンを食べるのはカンジタの最高のエサとなるグルテンが入っているためNGです。パスタにもグルテンは多く含まれます。コーヒーに入っているカフェインも副腎には良くありません。白いご飯にはグルテンは含まれませんが、糖質を多く含み血糖値を急激に上げるため毎食食べるのは避けましょう。ヨーグルト・チーズ・牛乳・バターなどの乳製品にはカゼインというたんぱく質が含まれ、アレルギーを誘発する可能性が高く常食向きではありません。豆乳や豆乳製品で代用するのもおすすめです。魚には良質なたんぱく質が含まれおすすめですが、たんぱく質の吸収が落ちている人は少量ずつ食べるなどの工夫が必要です。フィッシュオイルもω3に含まれる良質な油で副腎疲労の治療に用いられるサプリメントにもなっています。魚の中でもマグロなどの大型魚には有害な重金属が含まれている可能性も否定できず、たまの楽しみ程度にしましょう。日本人の菜食主義、ベジタリアンは危険があると考えます。日本人には葉酸やビタミンB12などのビタミンB群の吸収障害のある人が多いからです。ベジタリアンはインドで肉を食べるとアンモニアが上がる体質の人が起こりといわれ、副腎疲労の人には肉や魚を上手に摂って栄養素をしっかり吸収してもらいたいです。野菜にもビタミンBは豊富に含まれているという反論があるかもしれませんが、現在の野菜に含まれる栄養素の割合はどんどん減っていますので欠乏する可能性があります。カット野菜やスーパーやコンビニで売られているサラダは過剰に洗浄されていると思われ、栄養素が頼りなくNGです。ドライフルーツは果糖ですが糖分が圧縮されているため血糖が跳ね上がりNGですが、選ぶなら甘さ控えめのものにしてください。減塩は高血圧の人には必要かもしれませんが、副腎疲労の人にはNGであり、高血圧の人も本当に必要なのは4人に1人程度で、ミネラル豊富な海水塩や岩塩ならば過敏に減塩する必要はないでしょう。海水塩に含まれるマグネシウムは血圧を下げる作用もあります。飲酒は否定はしませんが毎日の晩酌はNGで、アルコールを分解するときにビタミンB12をたくさん消費し、飲酒で神経に炎症が生じてコルチゾールを消費するからです。お酒を飲むなら糖質を含まない焼酎、ジン・ウォッカ・ラム酒などの蒸留酒にすべきです。糖質ゼロのビールは脳が混乱して糖分を欲するようになり、人工甘味料は遺伝子組み換えの問題もあり勧められません。もともと日本人は胃酸が少ない民族ですが、胃酸を抑える薬を多くの人が飲んでいて、胃酸が少ないとカンジタなどの悪い菌を殺すことができなくなり、未消化なものが増えてSIBOの原因にもなります。痛み止めの薬にも小腸の粘膜を傷つける作用があり注意が必要です。市販の消臭・芳香剤には化学物質が多く含まれ、体に毒を入れてしまう危険があります。強力な化学物質を用いた合成洗剤やシャンプーもあり、不自然にきれいになりすぎることも人間にとって過剰な負担となります。几帳面でまじめな性格も度が過ぎるとNGです。シフト制の職業の方は副腎疲労が治りにくく、昼夜を入れ替えて不規則に働くことは多大なストレスを受けることになります。
副腎ケアの習慣として、腸からの吸収が悪いことを前提に食生活を再構築します。理想的は1日3食で、4.5食に分けて少量ずつ摂るのもいいです。朝食を食べるのがつらい方は野菜ジュースでも構いませんが、市販のではなく自分で野菜を切ってミキサーかジューサーで作りましょう。ミキサーは食物繊維が残りますが、スロージューサーは食物繊維を取り除くため副腎疲労の人にはいいかもしれません。空腹を感じたら血糖値が上がりにくいものを少量つまむことで、梅干し・漬物・ピクルス・野菜スティックなどです。午後3-4時頃にコルチゾール濃度が低下しがちで、果物をカットして摂るのもよく、プロテインバーもおすすめです。いろいろな野菜の持つファイトケミカルを摂取することも副腎にいい影響があり、色とりどりの野菜を摂取すれば十分効果が望めます。ナトリウムとカリウムはシーソーのようなバランス関係にあり、ナトリウムが不足することのないようにバランスよく摂取しましょう。油はω3系がおすすめで、魚の脂肪、亜麻仁油・エゴマ油・シソ油が該当し、腸の炎症を抑え癒してくれます。中性脂肪やLDLコレステロールを下げてダイエット効果もあり、1日10-20g摂取で効果を上げている報告もあります。加熱料理にはオリーブオイルやココナッツオイルがおすすめです。トランス脂肪酸は避けましょう。乳酸菌は乳製品からでなく発酵食品から取ることをお勧めします。植物性乳酸菌は醤油・味噌・納豆・甘酒・糠漬けに豊富に含まれています。血糖値を急激に上げないため玄米や十割そばもおすすめですが、食物繊維が豊富のためSIBOがある場合は体調を見ながら自分に見合う摂取量にしましょう。水分は1日1.5-2L飲みましょう。水道水には塩素が入っているため浄水器などを使いましょう。ビタミンB、葉酸、カルシウム、マグネシウム、亜鉛を積極的に摂り、できる限り空腹に近い状態で就寝しましょう。完璧主義は副腎疲労の元で、60点を目標にすることです。
感想
副腎疲労は医学生の時から習ったことはなく、検査をしても特に異常はないものの体の不調を訴えられる人は少なからずいて、こういう病態に罹っている人もいるのかと思いました。医療者も患者さんもまずこういう病態があることを考慮しながら検査や治療、生活習慣の改善をしていくことが必要と思いました。