はじめに
2023年9月1日初版の晋遊舎ムックから発刊された本で、自治医科大学教授の黒尾誠氏と神奈川歯科大学特任教授の川嶋朗氏が監修されています。
腎機能を自分で高める本
内容
腎臓は沈黙の臓器と呼ばれます。なんの不調も感じないのに腎臓関係の数値が悪く、再検査したらすでに慢性腎臓病が進行するケースは珍しくありません。FGF23という体内でリンが増えたときに分泌されるホルモンで、リン摂取量だけでなく腎機能低下の指標ともなりますが、これを45歳以上の健康な男女300人で測定したところ、4分の1もの人が基準期の53pg/mlを超えていました。FGFは血液検査でわかりますが保険で認められてないため、測定できるとしても自費診療となり、尿中リン、尿中クレアチニン、血中クレアチニンの3つを調べ、3.33×血中クレアチニン濃度(mg/dl)×尿中リン濃度(mg/dl)/尿中クレアチニン濃度(mg/dl)が2.3mg/dlより高いと、血中FGFが53pg/dlを越えている可能性が高いといえます。
血中のリン濃度を測ると、リン濃度が低い動物ほど寿命が長く、体内にリンをためずに排出できる能力が高いほど長生きし、クロトー遺伝子の動物実験からも明らかとなりました。リンは丈夫な骨を作るためには必要な物質でもありますが、摂りすぎやうまく排出できずにため込むと病気や老化を引き起こしてしまいます。リンは野菜、肉、魚にも含まれますが、ファストフードや食品添加物に特に多く含まれることがわかっています。現代の日本人はリンを摂りすぎの傾向にあるといわれます。
体内にリンが増えるとカルシウムと結合してリン酸カルシウムに変化します。リン酸カルシウムは極めて高い毒性を持ち腎臓を傷めます。リンを減らすために欠かせないのが運動です。運動不足や加齢で骨量が低下すると骨粗鬆症となり、骨の中のリンやカルシウムが血液中に溶け出し、体内にリンが増えてしまいます。
私たちの骨は大人の場合3-5年で全身すべての骨が入れ替わり、骨の中の古くなったカルシウムやリンを血液中に放出して新しいものと入れ替えて新しい骨を作っています。リンとカルシムはセメントのような存在です。リンとカルシウムのペアが骨以外の血液中や臓器に出現するとリン酸カルシウムのコロイド粒子(CPP)という危険物質になり、尿中にCPPが増えると慢性腎臓病を進行させ、血液中に増えると血管にダメージを与え動脈硬化を引き起こしかねません。
日本で普通に生活をしていると、必要量の3倍くらいのリンを摂取していると考えた方がいいでしょう。酸味料やpH調整剤などの食品添加物にも含まれ、食品添加物が多いと5倍以上摂取している可能性もあります。リンには納豆、豆腐など大豆製品の有機リンと、肉類、牛乳、卵などの有機リン、加工肉や添加物の無機リンの3種類があり、大豆の有機リンは体内に吸収されないまま便と一緒に排出されてしまうので食べてもOKで、無機リンは90%以上が吸収されてしまうので減らすべきリンとなります。肉類の有機リンも吸収されやすいことがわかっています。小魚、魚卵、ナッツ類もリンの含有量が多い食品で、毎日たくさん摂取するのは控えましょう。そばにも含まれますが、植物由来で吸収率は低く、ラーメンにはかんすいという無機リンが入っているので食べ過ぎに注意です。
今の日本ではすべての食品添加物をカットするのは物理的に無理があり、カットできそうなものから減らしていくようにし、食品の表示ラベルを見るクセをつけましょう。どうしても食べたいというときは、熱湯で10秒ほど下ゆでするだけでだいぶリンを減らすこともできます。加工食品を減らして元の素材や形を残したものをとる習慣を身につけましょう。チーズはプロセスチーズではなくナチュラルチーズを、不自然すぎる色や香りのものは避け、インスタント食品は控え、練り物もたまに摂る程度にしましょう。スナック菓子は大袋はNGで個別包装されたものを少し食べる程度にし、ファストフードはたまに行く程度に、リンとは書いていなくても添加物の多いものや、値段の安すぎるものは疑ってかかることも大切で、家で手作りのものを食べる機会を増やしましょう。
CPPを阻害する物資としてマグネシウムがあり、マグネシウムは血管の石灰化を予防できる可能性がありますが、多くの日本人にとって不足しがちな栄養素です。マグネシウムは大豆製品、ナッツ、海藻類に多く、成人男性で320-370mg、成人女性で260-290mgが1日の推奨摂取量です。
腎臓は高血圧、糖尿病、メタボリックシンドロームからも影響を受けます。腎臓にいい栄養は野菜から摂取し、1日350g以上を目指し、緑黄色野菜と淡色野菜は1:2で。血糖値の上昇を抑えるため三角食べはやめて野菜の副菜、主菜、主食の順で食べ、GI値に注目して低いものを選びましょう。食物繊維の中では水溶性が最強で、ぬめりの有無で見分け積極的に摂りましょう。糖の吸収抑制作用が期待される酢と緑茶の成分も強い味方になります。肉類には脂質が含まれていることが多く、脂質の中でも飽和脂肪酸が多いので脂質の少ない部位を選ぶようにしましょう。料理の際に皮を取り除くだけで大幅に脂質が減ります。こんにゃくとキノコはローカロリーで不溶性食物繊維が多く、便秘にも有効のため食卓の常連にしたいです。脂肪のうち亜麻仁油やエゴマ油はよく、マーガリンなどに含まれるリノール酸は動脈硬化の原因になるので摂りすぎに注意です。中性脂肪は身体には必要ですが、増えると肥満のもとで動脈硬化の原因となります。減塩は1食でなく1日の総量で考えましょう。香味野菜や香辛料をアクセントにすることもいいです。卓上の調味料はかけるよりも都度つけるようにしましょう。市販のドレッシングには塩・油・糖が入っているため、自家製ドレッシングも常備しましょう。酢は1日スプーン1-2杯摂ると血圧が下がって内臓脂肪の減少も期待出来ます。酸化の予防にポリフェノールを摂取し、糖化産物を摂取しないため高温調理は避けて蒸す・ゆでる調理をした食品を選ぶことです。発酵食を毎日食べると腸と腎臓から毒をどんどん体外へ排出します。
かつては腎臓が悪い人はあまり運動はしない方がいいというのが定説でしたが、慢性腎臓病の人も積極的に体を動かした方がいいということになっています。骨は運動などによるストレス刺激を受けると、それに負けないようにリンとカルシウムを蓄えて丈夫になっていきます。骨からリンの流出を防ぐには運動を習慣づけることが大切です。さらに運動習慣は心臓の機能が高まる、睡眠の質が良くなる、ADLが改善する効果もあります。無理なく持続できる運動として、座りっぱなしの時間を短くして体を伸ばしたり歩いたりすること、自分のレベルにあった筋トレ、日常生活の中で歩くように心がけることが挙げられます。座りっぱなしは死亡率や心疾患を増やすため、30分か1時間に1回程度は席を立って体を伸ばしたり歩くのがおすすめです。脱水症や熱中症に注意し、ぬるめのお風呂に入って全身の血流をよくしましょう。有酸素運動の中で誰でも簡単にできるウォーキングは、腎機能の回復に大変有効です。ふくらはぎの筋肉のポンプ作用により全身の血流が促され、腎臓にも酸素や栄養が十分にいきわたるからです。多少汗ばみながらも会話ができる程度で、1日20-50分、週3-5回行うといいでしょう。1日数回に分けてもいいので、日常生活の中でこまめに歩く習慣をつけましょう。慢性腎臓病があれば主治医と相談して適切な運動量を決めてから始めましょう。喫煙は腎臓にも害を及ぼします。肥満の人は腎機能の低下を招きやすいです。トイレの我慢は膀胱炎や腎盂腎炎になるリスクを高め、腎機能低下の原因にもなります。腎臓の健康を守るため身体を冷やさないのが鉄則で、夏の冷房対策も必要です。休日をごろ寝すると、1日で2%も筋肉量が減少するので、なんでもいいから体を動かす機会を積極的に増やしていきましょう。寝る前の柔軟体操やスクワットでの筋トレもおすすめです。
感想
リンは健康診断の項目には入っていないため、健康な人は測定する機会がありませんが、腎機能が悪くない人でも、時々測定する機会を作って腎機能が悪化しないような生活習慣を心掛ける必要があると感じました。