はじめに
2021年10月8日初版のマキノ出版から発刊された本です。15人の名医・専門家が極意を伝授ということで、腎臓の基礎的なことから最近は運動療法が推奨されるようになってきたことを中心にしました。
腎機能を自力で強化する最強辞典
内容
腎臓は腰のあたりに左右対称に2つある臓器で握りこぶし大で1つ120-160g程度です。
心臓から血液の約4分の1が流れ込み、糸球体でろ過されて尿のもととなる原尿が1日に約150リットル作られます。原尿は尿細管で血液に戻されて、残りの老廃物が尿となって体外へ排出されます。腎臓は尿を作るだけでなく血圧をコントロールし、体液やイオンバランスを調整し、エリスロポエチンを分泌して赤血球の産生を促し、ビタミンDを活性化してカルシムの吸収を促し骨を丈夫にする作用もあります。糸球体と尿細管を合わせてネフロンといい、正常な腎臓には約100万個のネフロンがあります。
慢性腎臓病はCKDと呼ばれ、たくさんの腎臓病を包括してまとめたもので、日本には1330万人のCKD患者がいます。CKDの診断基準はたんぱく尿・血尿、画像診断の結果から腎障害があると判断されるか、腎機能が低下している(糸球体ろ過量が60ml/分/1.73m2未満)の両方もしくはいずれかが3か月以上続く状態です。自覚症状はほとんどなく、知らぬ間に進行して夜間頻尿、むくみ、疲労感などの自覚症状が出てきます。CKDが進行して腎機能が正常の30%未満になると腎不全と呼ばれ、急性腎不全と慢性腎不全があります。急性腎不全は1日以内から数週間のうちに低下し、適切な治療をすれば回復する可能性があります。慢性腎不全は数か月から数十年かけて徐々に悪くなり、腎機能の回復は見込めず末期腎不全へ移行します。末期腎不全になると満足した日常生活が送れなくなるため透析療法や腎移植が必要になります。日本で人工透析を受ける人は増え、2019年には34万人に達しています。腎臓病の中で最も多いのが糖尿病性腎症で、2位の高血圧が原因の腎硬化症と合わせると、透析になる人の6割近くを占めます。慢性腎臓病と心血管疾患は相互に悪影響を及ぼし心腎連関と呼ばれています。CKDは早期発見早期治療が重要で、チェックポイントとして、尿が泡立ちなかなか泡が消えない(たんぱく尿)、尿の色が茶色や赤茶色っぽかったりする(血尿)、水分をたくさん摂ってないのに何度もトイレに行きたくなる、夜間頻尿、水分を摂っているのに尿量が少ない、指輪や靴がきつくなった、起床時に瞼や顔などのむくみが毎日続く、いつも疲れやすく体がだるい、少しの運動で息切れがする、貧血や立ち眩みが増えた、汗をほどんどかかない、などがあれば病院での検査を勧めます。
異常の確認は血液検査と尿検査で、尿たんぱく(+)以上なら日を変えて検査して3か月以上続くとCKDが疑われます。(±)はほぼ正常ですが経過観察が勧められます。尿潜血(+)を陽性と判断します。尿糖や微量アルブミン尿検査もあります。1日尿をためて正確な尿蛋白量を測定する畜尿検査もあります。激しい運動後、高熱がある時、生理中は通常の状態と異なりますので、そうした場合は検査を避けるのが原則です。腎臓の病気があると安静時も異常が確認できることが多いので、学校検診などでは早朝尿で検査をします。血液検査で最も重要なのは血清クレアチニン値で、正常値は男性0.65-1.09mg/dl、女性0.46-0.82mg/dlです。糸球体ろ過量(GFR)は糸球体が1分間にどれくらいの血液をろ過し尿を作れるか示す値で、健康な人は100ml/分/1.73m2程度です。GFRを正確に検査するには試薬の点滴や畜尿が必要ですが、性別、年齢、クレアチニン値からおおよそ推定できます。15ml/分/1.73m2未満になると末期慢性腎不全として透析治療を検討することになります。CKDの疑いがある場合は腎生検やCT・超音波検査・血管造影・MRI検査などの画像検査が行われることがあります。尿たんぱくとGFRの数値でステージ(進行度)は決まります。
食事療法のポイントは減塩、摂取不足にならないようたんぱく質制限、適切なエネルギー量の確保です。減塩は1日6g未満が理想的です。だし、香辛料、香味野菜などの利用や減塩調味料を使用し、加工食品を頻繁に利用せず、味付けは調理後にするようにします。たんぱく質は糸球体に負担がかかるため進行度に応じて制限します。軽度の障害で標準体重50kgの方なら1日40-50gです。小児は成長のこともあるので制限はしません。たんぱく質は身体に必要ですので必要量の確保をし、良質なタンパク質を選ぶことも大事です。病状が進行するとカリウムやリンの摂取制限も必要で、バナナ、メロン、キウイフルーツ、かんきつ類にはカリウムが多いので注意が必要です。リンは、リン多いレバー、小魚、卵黄、乳製品、練り物は避け、リン吸着薬の服用も考慮して基準値内にコントロールする必要があります。お酒は適量であれば問題ありません。アルコールの適量はアルコール換算で20g程度で、適量ならむしろ腎機能によい働きかけをします。進行すると水分制限が必要になる場合があります。水がたまりやすい人は体重の増減が目立ち、朝の体重を毎日図っていて急に1kg以上増えているときは身体に水が溜まっている可能性が考えられます。
昔は運動は禁止されていましたが、今は運動したほうがいいことがわかってきました。タバコは腎機能障害を促し禁煙してください。入浴は食事の前に済ませ、脱水を避けるため入浴前のコップ1-2杯の水を飲んでおきます。熱い湯に入ると心臓に負担になるためぬるめの湯に胸から上を出してゆっくり入りましょう。NSAIDという薬で腎障害をおこすことがあります。他科を受診するときはCKDと診断されていることを伝えましょう。
心筋梗塞を起こしたCKDの患者さんを対象とした研究で、1日4100歩程度歩くと腎機能がアップすることがわかりました。CKDの人に短距離走や重量挙げなどの無酸素運動はお勧めできず有酸素運動のウォーキングが推奨されます。病状が明らかに悪化している人は控えた方がよく、運動を始める際は必ず担当医と相談しましょう。
CKDと便秘の関連性が明らかとなり、便秘の人は腎機能が速く低下し、便秘が重都になると末期腎不全になるリスクが高まります。
睡眠との関係は睡眠時間が短いほどたんぱく尿を発症するリスクが高く、6時間以上の適切な睡眠が必要です。8時間を超す長時間睡眠も人工透析のリスクを上げます。
糖尿病の薬にSGLT2阻害薬があり、この薬によって糖尿病人証の発症が抑制されることが明らかとなりました。この薬の特徴は原尿から糖の再吸収を抑え血糖値を下げる薬で、インスリンに関係なく血糖値を下げ、従来のインスリンを増やす治療法とは併用できません。クレアチニン値が2までであればSGLT2阻害薬に変えることで腎機能が維持できるでしょう。ただし尿に糖が多く出るため、特に女性は尿路感染症にかかりやすくなります。
CKDの代表的な病気の一つが慢性糸球体腎炎で、その半数以上を占めるIgA腎症は、糸球体の毛細血管にIgAという物質が沈着して炎症を起こす病気ですが、根本原因はのどの扁桃や上咽頭など腎臓から離れた別のところの炎症にあることがわかってきて、扁摘パルス療法という扁桃という組織を切除した後ステロイド剤を点滴投与する方法を開発しました。タンパク尿が増える前の段階でこの治療をすると8割以上が寛解に至りました。口の中の根尖性歯周炎がIgA腎症の原因になることもあります。歯周病からなることもあり歯科できちんと治療する必要があります。
人間は二足歩行して重力の影響を受け、血液やリンパ液が下肢に溜まりやすくなりました。ふくらはぎの筋肉で心臓に送り返すのですが、足をあまり動かさないなどでふくらはぎの筋力が落ちた高齢者はこのポンプ機能が働かず手足の末端の血流が滞ってしまいます。それを改善するためにゴキブリ体操という、あおむけに寝て手足を上げ手足をぶるぶる揺らすことで、毛細血管が刺激されて血流が促進され全身の血液循環が良くなります。
感想
腎臓というといったん悪くなったらよくならない臓器で、腎不全に対する食事は高カロリー低タンパク食というイメージでした。これに運動療法はむしろした方がいいということで、生活習慣の改善が大事ということですね。