医師から「痩せなさい」と言われたら最初に読む本

著者紹介・はじめに

2020年1月20日初版の扶桑社から発刊された本で、著者は土山智也・奈央美氏夫妻です。土山智也氏は1970年生まれで1996年に金沢大学医学部を卒業され、土山奈央美氏は1973年生まれで1999年に新潟大学医学部を卒業され、それぞれ消化器内科、内分泌内科を専攻され、2009年から夫婦で開業されメタボ外来を開設され、その人の生活スタイルを崩さずに、ご自身ができる範囲で挑戦・継続できるダイエットをアドバイスするのをモットーにされているとのことです。

医師から「痩せなさい」と言われたら最初に読む本

内容

人はなぜ太るのか、それは必要なエネルギーを体内に蓄えようとする力が人の身体に脂肪をつけさせるからで、要は消費する以上に食べているから太るのです。エネルギーとカロリーは別物です。炭水化物、脂質、タンパク質が人のエネルギーになり、基礎代謝、活動代謝、DIT(食事誘導性耐熱産生)の3つに使われます。比率は6:3:1程度です。基礎代謝は骨格筋が約22%、肝臓は約21%、脳が約20%です。基礎代謝は加齢とともに減少しますが、内臓の代謝量は病気にならない限りさほど低下せず、骨格筋の減少が考えられます。活動代謝とは日常生活で身体を動かすことに消費されるエネルギーで、活動によって多い少ないはありますが、基礎代謝の方が多いのが現実です。DITは食事の際に起こるエネルギーの消費で、何を摂取するかによって異なり、炭水化物は約6%、脂質は約4%、タンパク質は約30%となっています。ダイエットを成功させるためには自分の基礎代謝量を知る必要があり、基礎代謝量を下回る食生活を続けると、身体は生命の危機に瀕していると判断し、消費エネルギーを極力抑えて脂肪をなるべくため込むようにします。基礎代謝量は厚労省発表の基礎代謝基準値から体重をかけての計算や、ハリス・ベネディクトの計算式で算出します。
人の身体は子供で約70%、成人では55-60%程度が水分で、この増減で1日の内でも1-2kgはすぐに変動します。ダイエットの目的は体脂肪を減らすことですが、体脂肪もある程度は必要で、女性の場合は体脂肪率が17%を下回るとホルモン異常が起こって生理不順や無月経のリスクが高まり、安全に出産するには22%以上が必要になります。体脂肪率の平均値は明確な基準は定められていませんが、男性20-25%、女性25-30%です。
脂肪細胞には白色と褐色があり、褐色脂肪細胞は脂肪細胞を燃焼させる細胞ですがほとんどは白色脂肪細胞です。成人の細胞うち250-300億個が白色脂肪細胞で、胎児期・乳児期・思春期に脂肪細胞は増えて数が決定します。食事によって中性脂肪が増えると白色脂肪細胞内の脂肪滴に取り込まれ風船のように膨らみ丸く太ります。大きくなるだけでは対処できないと判断されると分裂して数が増え、減ることはなくなります。身体にエネルギーが必要になったとき脂肪滴から遊離脂肪酸とグリセロールに分解されて全身に放出され、脂肪細胞は縮んで小さくなります。褐色脂肪細胞は内部にミトコンドリアがあり褐色に見え首の周りや腎臓など一部に存在します。生まれた時が最も多く、大人になるにつれて徐々に減少して増えることはありません。最近発表されたベージュ細胞という脂肪細胞は、イリシンが分泌されると白色脂肪細胞が変化して生じ、白色細胞内の脂肪を分解してエネルギーに変えます。運動や筋肉トレーニングでイリシンは増えるとされています。運動をやめると筋肉は脂肪に変わるといわれていますがそんなことはなく、筋肉と脂肪は隣り合って混在しているので、筋肉が萎縮すると筋肉の周りの脂肪が目立つようになります。

炭水化物は糖質と食物繊維に分けられます。人は食物繊維を分解する酵素を持たず糖質のみエネルギー源となります。糖質はブドウ糖に分解され小腸で吸収され、一部はグリコーゲンに変わり肝臓と筋肉に貯蔵されます。糖質の摂取量が多くグリコーゲンが過剰になると中性脂肪に変化して白色脂肪細胞に蓄えられます。脂肪になるとエネルギーの変換が難しくなりそのまま定着しやすくなります。ブドウ糖が脂肪に変わる8-12時間以内にエネルギーに変えることが重要で、食べ過ぎたら食後8-12時間以内に運動するか糖質を控える必要があります。
脂質は脂肪酸とグリセロールに分解され吸収され、小腸壁で中性脂肪に合成されます。コレステロールなどと結合して肝臓に運ばれ、脂肪酸の合成・分解、コレステロールやリン脂質の合成が行われます。血液中の脂質はリポタンパク質と結合して脂肪細胞に送られ中性脂肪になり貯蔵されます。
タンパク質はアミノ酸に分解され、小腸で吸収され肝臓に送られ、全身に必要となるタンパク質、酵素、ホルモン、神経伝達物質など毎日約50gが合成されます。過剰となったアミノ酸は肝臓のアミノ酸プールにため込まれ、エネルギー源のグルコースや脂肪酸が不足したときのみグルコースに変化してエネルギーとして使われ、余ったアミノ酸は有害なアンモニアから無毒な尿素にされて排泄されます。
インスリンとは膵臓から分泌されるホルモンで、糖質をたくさん摂るとインスリンが多く分泌されます。インスリンは過剰になった糖を脂肪へと変換し、脂質から肝臓で合成された中性脂肪を脂肪に変え肥満につながります。

ダイエットや糖尿病の血糖値改善には、血糖値が上がりにくくインスリンをなるべく出さない食事の糖質制限食が有効と多くの臨床研究で効果が認められてきました。2014年にWHOが1日の砂糖摂取量を従来の10%から5%未満に引き下げ、2017年に炭水化物の摂取比率の多さは全死亡のリスクを上昇させ、脂質を摂ると全死亡リスクが低下し、心血管性疾患や心筋梗塞の発症とは因果関係がないという論文が掲載されました。糖質制限ダイエットは甘いものや米飯・パン・麺類といった糖質を控えれば肉類や揚げ物を制限しなくてもいい魅力的なダイエット法ですが、結論から言うと低糖質ダイエットは確実に痩せますが、安全面や健康面ではまだ議論の余地があります。
最近の研究では食品に含まれるコレステロールが必ずしも血液中のコレステロールを上げるわけではないことが明らかになっています。コレステロールは食事から多く摂取すると肝臓でコレステロール合成が減少して体内のコレステロールが一定に補給されるようになっているからです。しかし高い血中コレステロール値を放置すると血管の内壁の老化が進行し脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高くなります。代謝をアップさせてくれる油があり、オリーブオイル、キャノーラ油、ナッツ類などに多く含まれるオレイン酸と、亜麻仁油、エゴマ油、EPAやDHA豊富な魚に多く含まれるαリノレン酸です。バターやラードなどの飽和脂肪酸はたくさん摂っても大丈夫とは言い難いと思っています。避けたい油はトランス脂肪酸で、人工的に作り出され体内で分解されにくいため心筋梗塞などを増加させる可能性が高く、血流が悪くなり代謝が下がり太りやすくなります。
タンパク質は動物性タンパク質と植物性タンパク質に分かれ、必須アミノ酸の種類と割合が異なります。ダイエットに効果的なのは栄養価の高い動物性タンパク質の肉・魚や植物性たんぱく質の大豆を食べることですが、量については検討が必要です。たんぱく質を過剰に摂取すると、合成と分解が活発になって肝臓や腎臓に負担がかかる可能性があります。腎機能が低下した人は低タンパク質が推奨されています。腎機能正常な人が高タンパク食を摂ると腎機能が悪化するのか議論が分かれるところです。人工的なプロテインは保存剤や安定剤が含まれ飲みすぎに気を付けてください。動物性タンパク質は複雑な構造をしているため体内に入って分解されるまで時間がかかり、吸収されずに残ったタンパク質はそのまま腸に送られ、悪玉腸内細菌が増えて腸内環境が乱れて腸の働きが弱まり便秘になります。感染の危険性が高まり、発がん性物質ができてしまう可能性があります。植物性タンパク質は分解が速く、体内に吸収しやすく腸内に残りにくいため腸内環境を乱さないとされています。動物性タンパク質には多くのプリン体が含まれ尿酸値の上昇から痛風・尿管結石の原因となり、植物性タンパク質の摂りすぎは問題なさそうですが、動物性たんぱく質の摂りすぎは気を付けるべきです。
糖質制限食は確実に痩せる効果が期待できますが、長期間にわたって続けることの安全性はまだ確認されてなく、1日の糖質摂取量60g以下のスーパー糖質制限食は死亡率を高める可能性が示唆されています。アメリカの45-64歳の追跡調査では、炭水化物の占める割合が50-55%の人が死亡リスクが最も低いと発表されました。
結局のダイエットの黄金ルールは、腎臓に問題がなければ下記のとおりです。
・1日の総エネルギー摂取量のうち炭水化物が占める割合を40-50%にする
・植物性タンパク質を多めにしたタンパク質と、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸を控えた脂質で残りの総エネルギー摂取量を補う

腸内フローラが最近よく特集されますが、フローラとはお花畑を意味し、腸内細菌が種類ごとにグループを作り腸内に広がっていることからそう呼ばれています。腸内フローラの理想的な割合は善玉菌2割、悪玉菌1割、日和見筋7割とされ、腸内フローラがいいと摂取した栄養素をバランスよく吸収し、少ない食事でも満足感が得られ食べ過ぎを抑えられます。便秘やむくみも改善し痩せやすい体質になります。善玉菌が好むヨーグルトなどの発酵食品、難消化性オリゴ糖、食物繊維も腸内細菌を整える助けとなります。ヨーグルトは市販品でもいいですが自分に合った菌かどうかが大事で、2週間同じヨーグルトを食べ便通や肌の状態に変化がなければ別のものに変えて何種類か試してみましょう。ヨーグルトは胃酸で分解されるため、食中・食後の摂取が効果的ですが、死んだ状態でも善玉菌のえさにはなるので効果がないわけではありません。便秘は腸内環境を悪くさせるのでダイエットの敵となり、人工甘味料も腸内細菌を介して便秘や糖尿病の発症に影響を与えるといわれています。

夜遅くに食べると体重が増えやすい、朝食を抜くと太りやすい説はありますが、食事量が同じならいつ食べても体重は変わりません。夜遅く食べると、空腹でお腹がすきすぎや、満腹中枢に働きかけて食べすぎを抑えるレプチンの作用が低下して食べ過ぎる可能性があり、また吸収が高まって肥満になる可能性もあります。食事に回数について、頻回食は糖尿病の人が一度にたくさんの糖質を代謝できないための食事法で、健康な人には当てはまらず、一日の摂取エネルギー量が大事になります。GI値の低い食事をするダイエット法は、インスリンの分泌は緩やかになりますが、摂取した糖質やエネルギーは時間をかけて代謝されてしっかり脂肪に変わるので、有効かは確証がなく、食べ過ぎればダイエットにはなりません。野菜など食物繊維の多い食品から摂取するダイエット法は、糖質や脂質は多少吸収が緩やかになってもしっかり取り込まれてエネルギーや脂肪に変わるため痩せるとは言い難いですが、食欲抑制効果のある消化管ホルモンが出るので食べ過ぎを防止する可能性はあります。
脂肪の燃焼をサプリで促進させるダイエット法もあります。L-カルニチン、α-リポ酸、コエンザイムQ10です。L-カルニチンはリジンとメチオニンから合成され、赤身肉に多く特に羊肉に多く含まれます。現在のところカルニチンに減量につながるデータはありません。α-リポ酸は魚や肉を摂取していれば不足することはありません。α-リポ酸が体重減少に効果があった論文もありますが、α-リポ酸にはインスリン自己免疫症候群の副作用があり、インスリン注射歴がなくてもインスリンに対する自己抗体ができてしまい、インスリンの働きで低血糖を引き起こすものです。コエンザイムQ10はフェニルアラニンから合成され、疲労回復効果や歯周病の改善効果もあるようですが体重減少に効果があるかはわかっていません。以上のことからサプリメントの摂取は勧めず食事で摂取すれば十分と考えます。

運動について、運動だけでは体重は減りません。運動をするとインスリン抵抗性が改善して血糖値が下がり、善玉コレステロールを増やして中性脂肪を減らし、交感神経の働きを弱めて血流が良くなり血圧が下がり、骨が丈夫になり筋肉も強くなるので骨折しにくくなり、心肺機能を高め疲れにくい身体になり、精神が安定しうつや認知症の予防効果があります。軽い運動をするとエネルギー消費量は増えますが、ある一定以上運動してもそれ以上は増加しません。20分以内の運動ではグリコーゲンが優先的に使用され脂肪燃焼はされません。ただし運動を継続的に行えば体重を増やさないようにはでき、食事制限が加わると威力が発揮されます。食事制限の強化や運動を強くしようとすると脱落する可能性が高く、両者をほどほどにして継続するのがダイエット成功の秘訣となります。筋トレをするとアドレナリンが分泌され最中はお腹がすきませんが運動中止後すぐに通常の状態となります。筋トレ中は成長ホルモンも分泌され4-6時間ほど効果が持続し、どちらもエネルギー消費量を増やします。筋トレは筋繊維を損傷させ、壊れた筋繊維を回復させることで筋肉を以前よりも強く太くしますが、その回復にはタンパク質が必要で、タンパク質の分解と合成にたくさんのエネルギーが必要となり、筋肉量が多いほどエネルギー代謝量も増えますが、タンパク質の補給や休息をとって回復させることも大切です。大きな筋肉を鍛えることが効果的で、下半身の筋肉を鍛えることが効率いいです。

肥満になりやすい遺伝子もあります。FTO遺伝子、β3AR遺伝子、UCP-1遺伝子、β2AR遺伝子です。FTO遺伝子に変異があると基礎代謝が抑えられ、食欲を抑える機能が悪くなり、日本人の18-20%に認めます。β3AR遺伝子の変異ではお腹周りに脂肪がつきやすく、日本人の約34%が保持し、漢方薬の防風通聖散が劇的に効きます。UCP-1遺伝子の変異では下半身に脂肪がつきやすく、日本人の約25%が保持し、脂質を分解してエネルギーに変えるのが苦手で、冷え性で冷やさないようにすることが大事です。β2AR遺伝子に変異があるとタンパク質が不足して筋肉がつきにくくなり、日本人の約16%が保持し、太りだすとやせにくいのが特徴で、タンパク質を多く摂取する必要があります。しかしこれらの遺伝子異常も必ず太るわけではなく、FTO遺伝子が肥満に影響するのは1%以下と報告されています。

レコーディングダイエットという毎日体重を測り、食べたものを記録するもので、書く内容よりも毎日すると効果が高いとされていて、最近は「マイフィットネスパル」のような入力してアプリもありますので活用してみるのもいいでしょう。

薬ではSGLT-2阻害薬や食欲抑制するマジンドールがありますが、医師の指示に従ってください。BMIが40以上、35以上で糖尿病などある場合は、胃の下側を切除するスリーブ状胃切除術などの手術がされることがあります。

感想

題名からはもっと大雑把な内容かと思っていましたが、肥満に関する遺伝子のことなど最初に知らなくてもいいような細かいことも記載されていて、非常に勉強になりました。いかに続けられるかが大事だということもよくわかりました。

 

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